都道府県の統治による医療・介護費の抑制はアウトカム志向をさらに加速させる

2017年4月12日 日本経済新聞に 「医療・介護費の抑制 都道府県が司令塔」という記事が掲載された。

医療や介護にかかわる費用の抑制は、小泉政権以来の政府の命題になっており、診療報酬改定・介護報酬改定にて費用の抑制を図ってきた。

しかし、急性期病床や通所介護の増加、リハビリテーション医療費の高騰、モラルハザードによる不正請求など様々な事象は止まることはなく、診療報酬改定と介護報酬改定による政策誘導だけでは限界があることは否めない状況である。

そこで、政府は都道府県の権限を強化し、財政的インセンティブを用いて各地域の医療・介護費の抑制を実現する施策に打って出る。

都道府県の権限により行われる施策は次のようなものが挙げられる。

地域医療構想に基づく病床削減
生活習慣病予防の成果に基づく、財政的インセンティブ
介護度の改善に基づく、財政的インセンティブ

2018年度診療報酬改定・介護報酬改定はこの都道府県の権限強化の影響を強く受けたものになる。

医療提供量の少ない急性期病床や療養病床
稼働率の低い回復期リハビリテーション病棟
サブアキュートの機能の乏しい地域包括ケア病棟
お預かり型漫然サービスの通所リハビリテーション等は
都道府県から嫌われる医療機関、事業所になるため、診療報酬・介護報酬において、評価が下がるのは必至である。

一方で、都道府県にも課題は多い。

行政には、医療や介護分野の現場に長けた人が少ないのが実情である。

医療・介護制度には長けていても、現場のことはよくわからないという行政担当者が多い。

したがって、行政担当者のレベルによって、都道府県ごとの施策にも大きな差が生まれるのは容易に想像ができる。

2017年4月より始まった通所介護と訪問介護の「介護予防・日常生活支援総合事業」は、都道府県ごとの質の差が露呈しており、行政担当者の能力が重要であることを示している。

都道府県の権限が強化されることにより、地域包括ケアシステムはより難しい次元に突入したと言える。

行政が求めるアウトカムが市場の評価の一つなるため、医療や介護の現場にはより一層のアウトカム志向が求められる。

 

 

リハビリテーションマネジメント加算Ⅱの算定は精神論だけでどうにかなるものではない

2017年3月13日 介護給付分科会にて「通所リハビリテーション、訪問リハビリテーション等の中重度者等へのリハビリテーション内容等の実態把握調査事業(結果概要)案」が発表された。

この調査は、2015年度介護報酬改定で導入された通所リハビリテーション、訪問リハビリテーションにおけるリハビリテーションマネジメント加算Ⅱ、生活行為向上リハビリテーション実施加算、社会参加支援加算と訪問看護ステーションにおけるリハビリテーションの実態を調査するために行われた。

詳細は
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000154605.pdf
をよりダウンロードしてご確認をいただきたい。

本ブログでは、通所リハビリテーションにおけるリハビリテーションマネジメント加算Ⅱの実態について言及したい(下図)。

リハビリテーションマネジメント加算Ⅱの届け出をしている事業所は全体の37%前後となっている。

届け出をしていない事業所が6割ほどある訳だが、その理由は次の通りである。

医師のリハ会議への参加が困難 65.6%
医師からの説明時間が確保できない 60.8%

また、届け出をしている事業所で算定していない利用者がいる場合の理由は次の通りである。

利用者の経済的な負担が大きくなる 56.5%
本人・家族が意義・必要性を理解できない/毎月のリハ会議が負担である 46.1%

つまり、リハビリテーションマネジメント加算Ⅱの算定が難しい理由は
医師が業務に関与できない
利用者の理解が得られない
というものである。

しかし、これはある意味「嘘」である。

医師の業務も利用者の理解もすべてマネジメントの問題である。

何かができないという現象の裏には、真の原因がある。

医師が業務に関与できないのは、「医師が関与できるような理念や人員体制が欠落している」からであり、利用者の理解が得られないのは「顧客のターゲッティングのミス」である。

世間には、リハビリテーションマネジメント加算Ⅱを算定できないのは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の情熱が乏しいからだ!ICFを理解していないからだ!心身機能ばかり見ているからだ!と声高に叫ぶ業界人が多いが、私は全くそうは思わない。

なぜならば、医療・介護業界において、施設基準が取得できなかったり、加算が算定できない理由は、人材不足、人員不足、顧客ターゲッティングや技術力の不備、理念の欠落が殆どであり、その責任は医療機関であれば理事長、院長、事務長、介護事業所では経営者や運営者にあることが殆どである。

リハビリテーションマネジメント加算Ⅱや生活行為向上リハビリテーション実施加算の算定が難しい現状は、回復期リハビリテーション病棟創成期と非常に似ている。

回復期リハビリテーション病棟の創成期においても
医師のリハビリテーションへの関与
カンファレンスや患者家族への説明
家屋評価
多職種連携
などに大きな課題があった。

その大きな課題を乗り越えた施設は一様に、「理念、人事体制、教育体制、顧客マーケティング」というマネジメントのハンドリングができた医療機関である。

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の努力や思いが足りないという精神論に終始しても、経営や運営は変わらない。

マネジメントを第一優先に考えることが今後の通所リハビリテーション、訪問リハビリテーションの役割を強化し、さらに経営を安定させることにつながる。

 

混合介護の完全解禁は介護保険制度のパンドラの箱を開ける

混合介護
介護保険の対象となるサービスと介護保険外のサービスを組み合わせて提供する。

原則1割負担の介護保険サービスと全額自己負担となる介護保険外サービスを行うことで今までは提供できなかったことも同時に提供できるため、要介護者にとっても介護者にとってもメリットが多いと考えられている。

さらに、介護事業所にとっても介護保険外サービスにより収益の向上を図り介護職員の処遇改善にもつながる可能性があるとされている。

実は現行制度でも混合介護は一部で認められている。

ただし、保険内サービスと保険外サービスを明確に分けて提供しなければならないという明確なルールがある

また、現行、認められている混合介護には、上乗せサービスと横出しサービスがある。

<上乗せサービス>
上乗せサービスとは、介護保険の限度額を超えたサービスを市町村が独自に介護保険に給付するものである。
市区町村が独自の判断によって、利用できる時間や回数を増やしたものである。
上乗せ対象となるのは、居宅サービス(居宅療養管理指導、痴呆対応型共同生活介護、特定施設入所者生活介護を除く)、福祉用具購入、住宅改修で定められている支給限度基準額などである。

上乗せサービスの例
・訪問介護のサービスの回数増加
・訪問リハビリテーションにおける1回の訪問リハビリテーションの延長
・支給限度額を超えての福祉用具の購入

<横出しサービス>
横出しサービスとは、介護保険に無いサービスを市町村が第1号被保険者の保険料を財源とし、独自に給付するものである。しかし、一般的には利用者が全額自己負担により行うことが多い。
介護保険給付対象外サービスである。

横出しサービスの例
・自宅等の清掃
・洗濯サービス
・過疎地の移送
・おむつの支給
・配食サービス
・送迎サービス
・買い物支援
・家族向けの健康管理

特に、現行制度では横出しサービスに関して非常に厳しいルールが存在している。

多くの自治体では、家族より横出しサービスを求められた時に、一度事業所に帰社してから、再び訪問しサービスをすることや、別の担当者が訪問しなければならないルールが設定されており、利便性に欠ける制度になっている。

内閣府の規制改革推進介護は、現行の横出しサービスの厳格なルールが保険外サービスの推進を妨げていると考えており、今後の見直しの必要性を訴えている。

その後、2016年9月に公正取引委員会より、混合介護の規制緩和が提唱され、新たな混合介護の実現性が高まっている。

また、厚生労働省も「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集」を2016年3月31日に発刊し、混合介護の実現を後押ししている。

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さて、混合介護に関して前向きな議論が進む中、一方で慎重な意見も散見する。

ケアプランにおいて混合介護のサービスをどのように位置づけるのか?という問題がある。

何のための保険内サービス?何のための保険外サービス?という理解が利用者本人や介護支援専門員にも必要とされる。

保険外サービスをたくさん利用したことで、自立していたことが出来なくなる可能性がある。

また、保険外サービスが優先され、保険内サービスが乏しくなり、介護事業者のビジネスの視点が強くなる可能性もある。

保険内サービスが主体か?
保険外サービスが主体か?

いよいよ、触れてはならない領域の議論が必要となる時期が来た。

保険外サービスが、日本の介護保険制度のパンドラの箱を開ける可能性は高い。

 

地域包括ケアシステムは後発優位性を高めている

地域包括ケアシステムの概念を用いたヘルスケアシステムの改革は、急速に進行している。

特に、地域包括ケアシステムの概念が政策として明確に打ち出された2010年以降、
診療報酬改定
介護報酬改定
医療計画
介護保険事業計画
などの政策は2000年から2010年の間に行われた政策と比較して、遥かにハードルの高い内容となっている。

筆者は、リハビリテーション事業のコンサルタントを専門としているが、最近、ある一つのことに気づいた。

それは、2010年以降に開業した介護事業所のほうが、2010年以前に開業した介護事業所よりも経営や運営が安定している傾向があるということだ。

2000年当初より介護保険事業に参入した介護事業所は、介護報酬が緩かった時代に参入しており、また、地域に競合企業も少なく、ブルーオーシャンな状況で事業運営が可能であった。

しかし、2010年以降の政策により、介護事業所を取り巻く環境は激変している。

軽度者の介護報酬低下
基本報酬の低額化
重症対応・看取り対応などの加算要件が増加
行政処分の増加
ライバル事業所の増加
などの環境変化が起こり、その環境への適応が大きく遅れている事業所が多い。

しかし、2010年以降に開業した介護事業所は、開業した瞬間より地域包括ケアシステムの荒波に遭遇している。

つまり、彼らにとっては、加算要件を取得することや、看取りなどの特定の領域に力を入れることや、人材教育を行うことなどが最初から当たり前のことである。

つまり、後発優位性が発揮されていると言える。

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ビジネスは先発優位性と後発優勢がある。

先発優位とは、新しい市場に早期参入することで持つことができる優位性のことでメリットとしては、次のようなものがある。

発企業は最も有利なポジションへと自社の製品を位置づける
もっともうまみのある市場を獲得する
市場における製品価格を決定する
質の高い商品やサービスを生み出すことで参入障壁を高くする

しかし、果たして市場に早期に参入した介護事業所は参入障壁を築くことができただろうか?

むしろ、政府が用意した参入障壁の壁を上ることができずに、業績の悪化や倒産に至っていると言える。

つまり、今の状況では後発優位性が増しているのだ。

市場の後発組は先発企業の失敗事例を観察できるので、技術開発について無駄な投資が抑えられ、また、独自の改良をすることで別の新しさ、価値を訴えることで先発の市場を奪い取れる。

介護保険に早期に参入した介護事業所が、介護保険の役割である地域包括ケアシステムによって、淘汰されるという本末転倒な事態が起こっている。

先発組が意地を見せるか?
それとも
後発組が市場シェアーを拡大させるか?

今後も、市場では厳しい戦いが予想される。

 

2025年に向けた高齢者向けジム開設ラッシュはリハビリテーション自助時代の扉を開ける

2017年1月19日の日本経済新聞にて「イオンが高齢者向けに小型の簡易フィットネスジムの多店舗展開を始める」と報道された。

記事によると、健康機器大手のタニタと提携し、同社の健康プログラムを活用するとのことである。

また、本格的な筋力トレーニング等の機器を配置するのではなく、交流を重視し、店舗の大半は飲食や休憩スペースに充てるとのことである。

セントラルスポーツ、東急スポーツオアシス、ルネサンスなどのフィットネスクラブ大手もシニア向けジムのサービスを拡充させており、フィットネス市場はシニアの取り込みに本格的に取り組んでいる。

フィットネス業界が高齢者向けサービスを拡充していることには、それ相応の理由がある。

大きな理由は、「地域包括ケアシステムにおける自助の推進」である。

現在、軽度者向けサービスとして、日常生活支援総合事業(以下、総合事業)が推進されている。

現在のところ、通所介護と訪問介護を利用している要支援1.2の方は、介護保険を用いたサービスから、2017年4月以降は市町村が運営・管理する総合事業が提供するサービスに移行することになる。

この総合事業は要支援者の受け皿として考えられているが、実は厚労省はもう一段高い次元の介護予防に関する仕組みを実現したいと考えている。

厚生労働省が出した「介護予防・日常生活支援総合事業のガイドライン」には次のように記載されている(下図)。

総合事業は市場において提供されるサービスでは満たされないニーズに対応するものであることから、市場における民間サービス(総合事業の枠外のサービス)を積極的に活用していくことが重要である。

総合事業資料つまり、総合事業は民間サービスを補完するものであり、民間サービスを利用した自助活動が前提条件ということである。

特に、民間サービスが潤沢な都会においては総合事業ありきではなく、民間サービスありきと厚生労働省は考えている。

総合事業は民間サービスではフォローできないサービスを受けたい人や民間サービスを購入することが出来ない人の受け皿として機能する可能性が高い。

しかし、総合事業は事業として成立することが難しい料金設定であることを考えると、質の高いサービスを成立させることが難しいかもしれない。

民間サービスが潤沢な地域と、潤沢ではない地域では、市町村の判断で総合事業の在り方も大きく変わる。

いずれにせよ、民間の高齢者向けサービスは国を挙げて推進されていく。

公的保険に頼っていた予防医学や介護予防、生活支援が民間サービスにシフトしていくのは間違いないだろう。

民間サービスの開発や提供に携わる医療・介護関係者の活躍も今後期待される。