運動器疾患リハビリ 査定・返戻が多い問題

近年、中小病院や診療所における外来の運動器疾患リハビリの査定や返戻が増えています。

査定とは
医療機関の請求に対し、審査側が不適当と判断した項目の内容を修正(減額・減点など)し、調整された額で支払いが行われること

返戻
医療行為の適否が判断し難い場合に、審査側が一方的にレセプト自体を差し戻すこと

特に以下にようなケースで、査定や返戻が行われることが目立っています。

①運動器リハビリの2単位以上
術後や外傷の病名ではない場合に2単位以上の請求が査定・返戻される。
特に変形性膝関節症などの変性疾患では2単位以上の請求が査定・返戻される。

②85歳以上の方への運動器リハビリ
85歳以上の方への運動器リハビリは単位数が増えれば増えるほど、査定・返戻される傾向がある。
4単位以上は特に認められにくいことが多いが、術後であれば6単位の請求は通ることが多い。

③腱鞘炎、ばね指、テニス肘・アキレス腱炎などの過用や炎症性疾患
炎症性疾患にてADLの低下が著しくないと判断された場合、消炎鎮痛処置が適当が判断されることが多い。

④消炎鎮痛処置と疾患別リハビリを併用している場合
一つの医療機関で消炎鎮痛処置と疾患別リハビリを併用している場合、「消炎鎮痛処置のみで充分である」と判断され、疾患別リハビリが返戻される傾向がある。

⑤病名転がしをしている場合
算定上限日数の150日を迎えるタイミングで病名を変更している場合、個別指導にて相当数の人数のレセプトが返戻された事例が全国各地で認められている。
安易な病名変更は、審査機関で捕捉されていることを認識するべきである。

適正な保険診療(公平性・信頼性)を確保していくことが、公的医療保険制度の機能を守るために極めて重要であることから、医療機関における疾患別リハビリの請求は診療報酬ルールに則り正確に行うできしょう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

リハビリ部門に必ず存在する評論家セラピストへの対応

リハビリテーション部門には必ずと言っていいほど、自ら行動や提案をすることなく、人の提案を批判する評論家セラピストがいる。

組織が大きくなればなるほど、評論家セラピストが増える確率が高くなる。

評論家セラピストは組織に害を与えることが多く、組織運営の停滞や士気の低下につながる。

そのため、評論家セラピストに対するマネジメントは極めて重要と言える。

では、なぜ、自ら行動をすることなく相手を論評するだけのセラピストがいるのだろうか?

それには次のような理由が考えられる。

①セラピストや社会人としての知識やスキルが低い
そもそも、コミュニケーション能力などのヒューマンスキルやリハビリテーションに関する知識が低いために、組織の課題に気づくことや他人に提案するだけの力量がない。
知識やスキルがない人ほど、一定の手順や原理原則に従うことで仕事をこなすため、組織の課題解決のための臨機応変な対応を苦手とする。
そのため、臨機応変な業務変更や行動を批判しやすい。

②相手に意見することで存在意義を高めようとする
セラピストや社会人として知識やスキルが低い人間が自分の存在意義を高めるために「人や組織に意見すること」で自分を誇示する。
あるいは、自分より能力の低い新人や消極的な人に対して、助言をすることで周囲のからの信頼を得ようとする。
しかし、普段から定型的な業務しかできないセラピストなので、色々な意見を言ったとしても周りからすると「お前が言うな」と思われているため、決して存在意義が上がることはない。

③保身の気持ちが強い
保身の気持ちが強いと「自ら行動し、失敗した時の周囲からの批判を恐れる」ため、行動や提案を控える気持ちが強くなる。
プライドの高い人ほど、周囲からの批判に耐えられないため、保身の気持ちが高い。

それでは社内評論家に対してはどのように対応をすればよいのだろうか?

以下のようなマネジメントを意識することが社内評論家の行動変容を流したり、評論活動を抑止することになる。

①組織が求めるのは自ら提案し、行動する人であることを明示し、そのような人を高く評価することを宣言すること。

②組織は自ら行動するギバーを必要とし、利益を甘受するだけのテイカーは不要であることを宣言すること。

③研修で得た内容を組織に対してアウトプットできる人材を育成すること。

これらの3点を組織内にて徹底することが社内評論家抑止につながる。

投稿者
高木綾一

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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

皆さんが勤めている医療機関・介護事業所は「組織は戦略に従う」経営をできていますか?

米国の経営学者であるアルフレッド・チャンドラーは「組織は戦略に従う」と述べた。

「組織は戦略に従う」の意味は、次のようなものである。

外部環境の変化により、戦略の変更が迫られる。

外部環境変化により新しい課題が生まれ、その課題を解決するための戦略が必要である。

その次には、戦略の実現に適した組織を創らねばならない。

この場合、組織の創りとは組織編制などのハード面だけではなく、採用、評価、報酬、配置と異動、昇進、退職・解雇能力開発のソフト面も含むものである。

医療や介護を取り巻く環境は長期的にも短期的にも大きく変化している。

経営を存立させるためには、一定の利益を生み出し続けなければならない。

マネジメントが弱く、意思決定の知遅延や意思決定の実行能力の低い医療機関や介護事業所は、「一定の利益」を確保するための戦略を社内に打ち出すが、全く組織が反応することが出来ない状況に陥ることが多い。

どれほど戦略が正しくてもそれが実行できないのであれば経営的には何の意味もないと言える。

戦略は思いつくが、それを実行させる方法は思いつかない医療機関や介護事業所は確実に数年後、利益がじり貧となっていく。

以上のようなことから、医療や介護のマネジメントで大切なことは、「平素から戦略実行させる組織作り」だと言える。

ワンマンオーナーや指示命令しか出せないボス型の経営者や管理者は「戦略実行の指示・命令」は得意であるが、組織作りの中核であるソフト面への介入が乏しいため、「笛吹けど踊らず」の状況となる。

診療報酬改定・介護報酬改定は定期的に行われる。

そして、日本の人口動態も10年単位で大きく変わる。

このような状況で、「戦略実行の指示・命令」しかできない経営者や管理者はむしろ経営を悪化させるために存在していると言える。

「戦略は実行してなんぼ」

「実行できないないのは平素からの組織作りが乏しいか」

を意識して経営に臨む姿勢が求められている。

投稿者
高木綾一

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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

リハビリ部門マネジメントの課題 ワークライフバランスの誤解

ワークライフバランスの概念が医療機関や介護事業所のマネジメントに浸透して久しい。

なんとなく、「働きやすい職場=ワークライフバランスを実現している出来る職場」という考えが定着している。

しかし、経営者、管理者そして従業員も「ワークライフバランスとは何者なのか?」について明確に理解していることは少ない。

現実的にはワークライフバランスを導入したことにより
単位数減少等の生産性が低下した
セラピストの人手不足が生じた
セラピストの質が低下した
などの問題が全国各地のリハビリ部門で生じている。

具体的には以下のような問題が多い。

①多様な価値観を受け入れているとそれぞれの職員の考えがばらついてしまい、組織として同じ方向性を向くことが出来ない

②残業等を削減するため、セラピストの技術や知識を高めるための教育が乏しくなり、質の低いセラピストが増えた

③家庭の事情を最優先させ、組織に協力的ではない職員が増えた。

これらの問題が生じる根本的な原因は、「ワークライフバランスの誤解」である。

ワークライフバランスの真の意味を理解せずに組織のマネジメントに導入した結果、多くの問題を抱えることになっているのである。

ワークライフバランスの誤解には以下のようなものがある。

誤解①
仕事も生活も「そこそこに」で行う

最も多い誤解に、「ワーク・ライフ・バランスは仕事も生活もほどほどにして両立する」がある。

仕事や生活に手を抜いたり、妥協することがワークライフバランスではない。

「仕事や生活の双方が自分にとって充実したものにする」ために、「仕事や生活を含む人生を良くするために自分らしい働き方をする」を前提とするものである。

誤解②
ワークライフバランスは女性のための取り組みである。

出産や子育てといったライフイベントが多い女性が組織内で活躍するためにワークライフバランスは必要である。

しかし、子どもが生まれて親となるのは男性も同じであり、また、親の介護は性別や年齢に関係なく生じるライフイベントである。

よって、ワークライフバランスは年齢や性別を問わず全ての働く人を対象にした取り組みである。

誤解③
ワーク・ライフ・バランスは、会社が実現させるもの

働きやすさや自分の思い描く働き方の実現は会社や組織が提供してくれるという姿勢ではワークライフバランスは実現できない。

ワークライフバランスは、組織の制度を活用して働く一人ひとりが実現させるべき極めて主体的なものである。

そのためには、「会社が求めている仕事の結果」と「自分がどのように生きていきたいのかという価値観」を知り、その実現のために主体的に行動する必要がある。

誤解④
残業のない会社=ワークライフバランスを実現している会社

残業のない会社は定時時間内に成果を出すことが要求される。

時間内でリハビリテーションのサービス、書類作成、業務連絡などをすべて完了させなければならない。

したがって、ワークライフバランスを導入している会社は高い生産性が必須条件となる職場である。

投稿者
高木綾一

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2024年度介護報酬改定に通所リハビリは対応できるだろうか?

2024年度は診療報酬・介護報酬の同時改定が行われる。

今回は、介護報酬改定の中でも通所リハビリの改定内容を予想してみたい。

居宅サービスの中でも、通所リハビリの収支差率は低い。
※収支差率・・利益がどれだけ出ているかを測る指標

令和元年のデータでは
訪問介護 2.6%
訪問看護 4.4%
訪問リハ 2.4%
通所リハ 1.8%
となっており、通所リハビリが特に厳しい経営状態であることが伺える。

介護保険制度開始以来、通所リハビリの「通所介護化」は一般化しており、通所リハビリと通所介護の区別がつかない人も多いのではないだろうか。

そのため、厚生労働省は通所介護とは異なる機能を持つ通所リハビリを実現するために、近年、様々な加算が新設している。

しかし、設定された加算に対応できない通所リハビリが多いため、通所リハビリの収支差率が低下していると考えられる。

このような背景を受けて、2021年度介護報酬改定の議論では厚生労働省は通所リハを「月単位の包括基本報酬」に移行することを提案した(図1)。


図1 月単位の包括基本報酬(案)

加算算定を極めて積極的に行う【強化型】
加算算定を相当程度行う【加算型】
加算算定をしない【通常型】
の3類型を設け、強化型>加算型>通常型の順で基本報酬に差をつけることが検討されている。

これは、現在、介護老人保健施設に導入されている5区分の基本報酬制度と考え方は全く同じである。

介護老人保健施設の5類型の機能分化は非常にうまくいっており、厚生労働省もこの成功体験より通所リハビリにも積極的に機能分化を推進すると考えられる。

通所リハビリの機能分化の類型は加算算定の有無が大きく影響すると考えられる。

リハビリテーションマネジメント加算
移行支援加算
生活行為リハビリテーション実施加算
短期集中リハビリテーション加算
入浴介助加算2
科学的介護推進体制加算
などの算定は上位区分に必須となるだろう。

また、これ以外にADL維持向上・病院との連携・セラピストの配置数なども上位区分の評価となる可能性がある。

このように機能分化の類型が定められることにより、通所リハビリは間違いなく二極化すると考えられる。

二極化することで通所リハビリ事業の撤退を考える事業所も出てくると考えられる。

2024年度介護報酬改定では通所リハビリに修羅場が訪れることだろう。

投稿者
高木綾一

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