2024年度診療報酬改定・介護報酬改定は2040年問題を見据えたもの

2024年度診療報酬・介護報酬改定の全貌が明らかになった。

今回の改定では2040年問題への対処が目白押しであった。

2040年問題
1)団塊ジュニアが65歳を超え、日本全体の高齢化が35%に達する。
2)社会保障費が190兆円に達する。
3)人口が1億を切る。
4)全自治体の50%前後が消滅する可能性がある。
5)現役世代が6000万人程度となり労働力が著しく低下する。

このように2040年は現在とは比較にならい程の深刻な課題が顕在化する。

特に労働者の低下により労働力と税収の低下の深刻さは増してくる

そのため、医療や介護は今以上に「メリハリの効いた政策」が必要となる。

「メリハリの効いた政策」とは簡単に言えば「必要な人に必要なだけの医療や介護を提供する政策」である。

よって、今後は費用対効果が低い、手間がかからない、効率的ではない医療や介護のサービスは単価が下げられるか、サービスそのものがなくなるなどの大胆な政策が増える。

2024年度診療報酬・介護報酬改定のメリハリの効いた政策の代表例は次のようなものがある。

①訪問看護からのリハビリ職種の訪問リハビリの減算額拡大
②地域包括ケア病棟の41日により入院料の逓減性
③訪問リハビリ・通所リハビリの要支援者の減算額拡大
④回復期リハビリ病棟の運動器疾患の7単位以上の包括化

また、2040年に向けて高齢者の増加が著しいことから、高齢者を地域で支える医療や介護が必要となってくる。

近年、厚生労働省は「治し支える医療」を提唱している。

「治し支える医療」とは今後、急増する複合的な慢性疾患を有する高齢患者の増加などの疾病構造の変化を受け、2016年度診療報酬改定の基本方針などで登場した言葉である。

治す医療を促進するためには高度急性期(急性期一般入院料1)の機能強化、支える医療を促進するためには医療と介護の両方を必要とする人へ対応の強化が必要となる。

特に在宅医療や介護の分野では、今までの生活者としての視点のみならず、医療的対応を強化するために「医療の視点」をより求めていく可能性が高い。

在宅医療や介護に医療の視点を入れることにより、疾患の増悪やADLの変化を早期に把握し、初期対応能力を高めることが期待される。

さらに、在宅におけるリハビリテーションの機能を高め、運動・口腔・栄養に総合的に取り組むことで在宅療養患者の廃用症候群やフレイルを予防することが期待されている。

これらの取り組みにより、在宅からの入院が抑制され、在宅生活の維持が可能となる。

また、治す医療を促進するためには、急性期患者の状態に応じた病棟機能の絞り込みが重要となる。

重症患者に対応する病棟と軽症・中等症に対応する病棟を分けることで、それぞれの医療資源の有効活用を図る取り組みが行われる。

2024年度診療報酬改定では次のように急性期機能が整理された。

一般急性期入院料1の重症度、医療・看護必要度を厳格化し、より手術症例や濃厚な内科的な処置を行うことを求めた。

一方で、重症ではない尿路感染症・誤嚥性肺炎、皮膚疾患、圧迫骨折等の軽症・中等症に対して治療とリハビリテーションを実施する地域包括医療病棟が新設された(図1)。

図1 地域包括医療病棟の要件

団塊の世代が75歳に突入する2025年問題に対しては地域包括ケアシステムを導入したことで、急性期、回復期、生活期の流れは完成し、一定の成果を得たと言える。

今後は2040年問題に向けて、経営者や管理者は自分たちの医療や介護の在り方を見直さなければ今後の診療報酬・介護報酬改定に対応できずに、経営はじり貧になっていくだろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

2024年度介護報酬改定で通所リハビリは2極化する

2024年度介護報酬改定では、通所リハビリに大きな改定が行われた。

通所リハビリは月間利用者の延べ人数により、通常規模・大規模Ⅰ・大規模Ⅱと区分されそれぞれに基本報酬が定められていた。

介護保険発足当時より、時間単位の報酬は通常規模が最も高く、大規模Ⅱが最も低く設定をされている。

これは利用者の人数が多い大規模では、通常規模と比較して、スタッフの数が増加し、効率よくケアができることから人件費の圧縮が可能であることや、通常規模の方が利用者人数が少ないことから、個別ケアが出来ていると言う考えより、大規模より通常規模の基本報酬が高い設定になっていた。

しかし、近年、介護報酬改定において大規模事業所を優遇する政策が行われている。

介護保険事業所のスタッフの数が多い方が
①スタッフの急な休みや退職が生じてもサービスを継続することができる
②様々な加算の算定に必要な取り組みが行いやすい
③スタッフの負担軽減が可能となるためワークライフバランスが実現しやすい
と考えられている。

大規模化が優遇される近年の介護報酬改定において、通所リハビリは通常規模が大規模より報酬において優遇されると言う矛盾が生じてた。

このため、今回の改定では、大規模型が一定の要件を満たせば、通常規模の報酬算定が出来るというウルトラCのような改定が行われた(図1)。

図1 大規模型の報酬見直し

要件は以下の通りである。
1)リハビリテーションマネジメント加算の算定率が、利用者全体の80%を超えていること。
2)利用者に対するリハビリテーション専門職の配置が10:1以上であること。

この2つ要件は、リハビリ機能に強くこだわったものであることから、通所リハビリの本来の機能を求めていると言えよう。

別の味方をすれば、大規模でありながら、リハビリ機能を充分に果たすことが出来ない通所リハビリには未来がないと言っても過言ではない。

2009年に通所リハビリの短時間(1~2時間)が認められた時より、通所リハビリは在宅回復期に位置付けられたと筆者は考えている。

しかし、現在もリハビリ機能が低いため、在宅回復期の役割が果たせない通所リハビリは存在する。

レスパイトの受け入れが中心
要支援者の利用者が大半を占める
リハビリ職種が1名しか配属されていない
リハマネ加算の算定率が低い
などはその典型例である。

今回の改定は通所リハビリの報酬にダイレクトに影響する内容であるため、一定数の通所リハビリがリハビリ機能の強化に動き出すインセンティブとなる。

しかし、このような状況でも改革ができない通所リハビリは今後の介護報酬改定でさらに厳しい状況に陥るだろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

2024年度診療報酬改定 急性期病院と老人保健施設の連携が強化された!

2024年度診療報酬改定では、老人保健施設の機能がさらに強化されている。

特に、老人保健施設と医療機関の密接な連携が強化される改定項目が新設されている。

その一つが、老人保健施設の初期加算の改変である。

以前の初期加算の算定項目は以下の通りである。

初期加算 30単位
1)入所日から30日間に限って,初期加算として1日につき30単位を加算する。
2)当該入所者が過去3月間(日常生活自立度のランクⅢ、Ⅳ又はMに該当する者の場合は過去1月間の間)に入所したことがない場合に限り算定できる。

このように初期加算は老人保健施設に入所してから1か月間のケアやリハビリテーションに生じる手間を評価するものであった。

今回の改定では従来の初期加算が初期加算(Ⅰ)となり、新設の初期加算(Ⅱ)が設定された(図1)。

図1 初期加算Ⅰ・Ⅱの改定内容

初期加算(Ⅰ)算定要件
1)次の基準のいずれかに適合する介護老人保健施設で、急性期医療を担う医療機関の一般病棟への入院後30日以内に退院し、施設に入所した者について、1日につき所定単位数を加算する。ただし、初期加算(Ⅱ)を算定している場合は、算定しない。
2)施設の空床情報について、地域医療情報連携ネットワーク等を通じ、地域の医療機関と定期的に情報共有している。
3)空床情報について、施設のウェブサイトに定期的に公表し、急性期医療を担う複数医療機関の入退院支援部門に対し、定期的に情報共有を行っている。

初期加算(Ⅰ)の算定要件は、老人保健施設と急性期病院の関係性を高める項目となっている。

実は、急性期病院には中等症・軽症の高齢者の患者が急増しており、本来の急性期医療の対象者である重症患者の受け入れができない事例が増えている。

そこで、急性期病院からの退院を早期に促すために出口戦略として老人保健施設がその対象となった。

現在、老人保健施設には所定疾患施設療養費が認められている。

所定疾患施設療養費とは
肺炎等により治療を必要とする状態となった入所者様に対し、治療管理として投薬、検査、注射、処置等が行われた場合に、1回に連続する10日を限度とし、月1回に限り算定する。対象疾患は肺炎・尿路感染症・帯状疱疹・蜂窩織炎・慢性心不全の増悪(2024年度追加)である。

所定疾患施設療養費により老人保健施設の医療対応の機能が向上していることから、急性期からの患者の受け入れが促されている状況と言える。

今後、老人保健施設には急性期後の所謂、亜急性期患者が入所してくるケースが増えてくると予想される。

老人保健施設に勤務する理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は亜急性期の利用者への対応という新しいステージを迎えていると言っても過言ではない。

亜急性期患者に対するリスク管理を徹底したリハビリテーションの介入が求められる機会が増えると予想される。

投稿者
高木綾一

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2024年度 診療報酬・介護報酬同時改定のキーワード 「水平連携」

2011年前後より地域包括ケアシステムが導入され、早10年以上が経過した。

この間、地域包括ケアシステムの構築が積極的に進められた。

特に、急性期―回復期―慢性期に患者が流れていく「垂直連携」が確立し、医療の機能分化は目覚ましく発展した。

医療の機能分化により、「急性期の在院日数低下や重度化」・「回復期におけるの早期の患者受け入れとADL改善後の在宅復帰」などは明確に効果が表れたといえる。

後期高齢者が爆発的に増加する2025年を前に、早期在宅復帰に向けた患者の流れが確立できたことは、地域包括ケアシステムの大きな成果と言えるだろう。

それでは2025年を目前にした2024年の診療報酬・介護報酬の同時改定では、何に重点が置かれた改定が行われるだろうか?

厚生労働省が新たに出してきたキーワードが「水平連携」である(図1)。


図1 水平連携

これは医療において患者が急性期ー回復期―慢性期に流れていく「垂直連携」とは異なる概念である。

水平連携とは
患者の住まいの圏域の医療機関や介護事業者等が、疾患やADLの状態に応じたサービスを提供し、可能な限り入院をせずに在宅で生活を継続することである。

「垂直連携」の仕組みが完成したこと、2025年以降、後期高齢者が急増することを踏まえると在宅療養を行う高齢者の数が必然的に増加する。

そのため、厚生労働省は2024年度診療報酬・介護報酬同時改定では「水平連携」に力を入れた制度改定を実施する。

「水平連携」に関して予想される改定の項目は診療報酬の「かかりつけ医機能の強化」と介護報酬の「新たな複合サービス」である。

かかりつけ医機能の強化は、近年の診療報酬改定で継続的に行われてきた。

2022年度の診療報酬改定ではかかりつけ医機能を評価する「機能強化加算」の要件の見直しが行われた(図2)。

図2 機能強化加算の見直し内容

かかりつけ医が行うべき項目を加算の要件にしていることが伺える。

2024年度の診療委報酬改定では、「かかりつけ医機能を患者に書面にて説明すること」、「かかりつけ医機能を発揮している医療機関としての情報を詳細に公開する」などをさらに求めていくことが予想される。

かかりつけ医機能を強化することで、「慢性疾患を有する患者が入院することなく、在宅にて長期間療養できること」を狙う。

新たな複合サービスでは介護保険における「通所サービスと訪問サービスの複合化」について規制緩和が行われる。

通所介護と訪問介護

通所リハと訪問リハ

療養介護と訪問看護

などを一つの介護保険事業所にて複合的に運営できる規制緩和となる。

次のような状態を複合的に満たす利用者は通所サービスと訪問サービスを組み合わせることで質の高いケアが実現できると考えられている。

医療的ニーズが強い

在宅での生活の希望が強いが24時間の介護が必要である

介護者の介護負担軽減のためのレスパイトが必要である

このような状態の方は今後右肩上がりで増えていくと考えられ、新たな複合サービス導入が検討されている。

2023年度の改定では水平連携に関する改定項目がどんどん出てくると思われる。

各医療機関、介護事業所においては今より最新情報をキャッチアップして、改定に備えてほしい。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

2024年度介護報酬改定に通所リハビリは対応できるだろうか?

2024年度は診療報酬・介護報酬の同時改定が行われる。

今回は、介護報酬改定の中でも通所リハビリの改定内容を予想してみたい。

居宅サービスの中でも、通所リハビリの収支差率は低い。
※収支差率・・利益がどれだけ出ているかを測る指標

令和元年のデータでは
訪問介護 2.6%
訪問看護 4.4%
訪問リハ 2.4%
通所リハ 1.8%
となっており、通所リハビリが特に厳しい経営状態であることが伺える。

介護保険制度開始以来、通所リハビリの「通所介護化」は一般化しており、通所リハビリと通所介護の区別がつかない人も多いのではないだろうか。

そのため、厚生労働省は通所介護とは異なる機能を持つ通所リハビリを実現するために、近年、様々な加算が新設している。

しかし、設定された加算に対応できない通所リハビリが多いため、通所リハビリの収支差率が低下していると考えられる。

このような背景を受けて、2021年度介護報酬改定の議論では厚生労働省は通所リハを「月単位の包括基本報酬」に移行することを提案した(図1)。


図1 月単位の包括基本報酬(案)

加算算定を極めて積極的に行う【強化型】
加算算定を相当程度行う【加算型】
加算算定をしない【通常型】
の3類型を設け、強化型>加算型>通常型の順で基本報酬に差をつけることが検討されている。

これは、現在、介護老人保健施設に導入されている5区分の基本報酬制度と考え方は全く同じである。

介護老人保健施設の5類型の機能分化は非常にうまくいっており、厚生労働省もこの成功体験より通所リハビリにも積極的に機能分化を推進すると考えられる。

通所リハビリの機能分化の類型は加算算定の有無が大きく影響すると考えられる。

リハビリテーションマネジメント加算
移行支援加算
生活行為リハビリテーション実施加算
短期集中リハビリテーション加算
入浴介助加算2
科学的介護推進体制加算
などの算定は上位区分に必須となるだろう。

また、これ以外にADL維持向上・病院との連携・セラピストの配置数なども上位区分の評価となる可能性がある。

このように機能分化の類型が定められることにより、通所リハビリは間違いなく二極化すると考えられる。

二極化することで通所リハビリ事業の撤退を考える事業所も出てくると考えられる。

2024年度介護報酬改定では通所リハビリに修羅場が訪れることだろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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