訪問看護ステーションVS在宅医療専門診療所

2016年4月の診療報酬改定まで、残り6ヶ月となった。2018年の診療報酬・介護報酬のダブル改定の前哨戦である2016年度診療報酬改定ではリハビリテーションの各算定項目や施設基準等には大幅な変更は少ないと言われているが、マーケティングの視点から分析するとリハビリテーションに関係する内容が目白押しである。

その中でも、次期改定では、注目するべき規制緩和が行われる。
2015年7月10日に日本経済新聞に下記の内容が報道された。
「厚生労働省は来年4月をめどに、医師が高齢者らの自宅を定期的に訪れて診察する「訪問診療」の専門診療所を認める方針だ。外来患者に対応する診察室や医療機器がなくても開設を認める。政府は高齢者が病院ではなく自宅で治療する地域包括ケアを推し進めている。訪問診療に専念する 医師を増やし、退院した患者の受け皿をつくる。」

つまり、在宅医療を専門的に行いたい医師にとって、診療所開設のハードルを下がったと言える。今までは、診療所は、建前上、外来を行っていることになっていたため、外来に対応できるハードを揃えなければならなかったが、その必要が無くなった。2016年4月以降、在宅医療を専門に行う診療所が増加すると予想される。

医療や地域包括ケアの質の向上を考えた場合、診療所が持つ機能として訪問看護と訪問リハビリテーションは必須となる。そのため、今後は看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が在宅医療専門診療所に勤務することが、ごく普通のことになっていくだろう。
現在、訪問看護と訪問リハビリは訪問看護ステーションからの提供が多いが、2016年以降在宅医療専門診療所が台頭した場合、訪問看護ステーションにとって、驚異となる可能性がある。しかしながら、在宅医療専門診療所と戦略的に提携関係を結ぶことができれば、双方の事業所や地域にとって大きな利益をもたらす可能性もある。

2016年度診療報酬改定でリハビリテーションの各診療点数には大きな変化がなくとも、ビジネスモデルや地域連携モデルには大きな影響が生じる。今回の改定は、マーケティングの感覚がなければ、経営環境の変化に対応できない可能性がある。

訪問看護ステーションとしての生き残り方
診療所としての生き残り方
看護師やセラピストとしての生き残り方
これらのヒントはすべて診療報酬改定・介護報酬改定の中に散りばめられている。

独居老人・老老夫婦増加✖貧困層増加=退院調整困難・在宅生活困難 

独居老人・老老夫婦は年々、着実に増加している(図1)。そのため、急性期病院・回復期リハビリテーション病院・老人保健施設から、自宅へ戻ることが困難なケースは年々増加している。

毎月15万円~20万円程度の費用を負担できる人は、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームに退院することができる。しかし、費用を負担できない人はやむなく自宅に帰らざるえない状況になっている。増加する独居老人と老老夫婦の世帯の中には、一定率で低所得者層が存在する。また、今後、高齢者の貧困層は激増すると予想されている。

現在、急性期病院・回復期リハビリテーション病院・老人保健施設の在宅復帰率の計算対象として、自宅だけではなく有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅が含まれている。しかし、自宅と有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅では、生活の状況は全く違う。

有料老人ホームなどの居住系住宅は、施設内にスタッフが常駐していることや、訪問介護ステーションなどが併設している。そのため、介護や生活支援のサービスを適宜受けることが可能である。しかし、自宅ではそのような環境がないために、生活を継続していくためには、家族や親類といった関係者の協力が不可欠となる。

本来、ご自宅で生活することはQOLの観点や本人の希望を考えると望ましい一面があるが、家族や親類の協力がなければ、ご自宅での生活が悲惨な状況となりかねない。

つまり、ご自宅で生活をすることになった場合、ADL動作や認知症などの心身機能が改善していたとしても、家族や親戚の協力が得られない場合、ご自宅への復帰や質の高い生活を送ることが困難となる可能性が高い。

現在、7:1急性病院、回復期リハビリテーション病棟、老人保健施設は、施設基準や加算取得のために在宅復帰の取り組みが求められている。医療モデルで考えた場合、在宅復帰のアプローチには病状の改善、ADL動作の改善、認知症の緩和などを目的とした治療や指導などが行われる。しかし、今後、独居老人、老老夫婦や貧困層の増加すると、心身機機能が改善しても、ご自宅に復帰できない事例が増加してく。

在宅復帰率は病院や老健にとって、施設基準を維持や地域貢献のために、死守すべき指数である。したがって、心身機能の改善への取り組みだけでなく、家族や親戚の協力体制やケアが継続的に提供できる連携体制の構築能力が、今後より必要となっていく。

急性期病院や老人保健施設から、自宅復帰が困難となり、在院、在所期間が延長している症例が増えていることや、ご自宅に帰ったものの、ケアが不十分となり、すぐに肺炎、転倒などを生じ、再入院になるケースが増えている。

在宅復帰の中でも、「自宅復帰は特別な意味を持つこと」、そして、「心身機能のリハビリテーションや医療的対応のみではご自宅に復帰するには不十分」であること認識し、患者、利用者を取り巻く環境をマネジメントする能力が必要であることを強く自覚した経営や運営が求められる。

koureiizinkou図1 厚生労働省「今後の高齢者人口の見通しについて」

2015年9月17日 日本経済新聞報道の「理学療法士の供給過剰問題」の本質を考える

2015年9月17日の日本経済新聞に主題「医出づる国」、副題「削りしろ」探せというテーマで下記の記事が掲載された。記事の中段には「供給過剰 無駄な治療も」と掲載されている。記事は歯科医師の供給過剰問題に併せて、増え続ける理学療法士について言及されている。

養成校が乱立していること、年間1万人の理学療法士が誕生していること、一つの病院に求職者が殺到していることが記事には掲載されている。そして、記事の締めくくりには「日常生活に支障がない、老化に伴う骨の変形なのに長期間リハビリをするような弊害も指摘される」と、記載されている。

さて、まずこの日本経済新聞とはどのような新聞だろうか?
日本経済新聞は経済業界の広報誌に近く、経済情報を中心に報道している新聞である。また、政府が国民の反応を探索するために、様々な政策や情報を流している新聞であるとの噂も耐えない。いわゆる、極めて経済界や政府寄りの新聞であると考えても良い。
そのような新聞が今回の「理学療法士の過剰供給問題」に言及したのである。

現在、日本は慢性的な財政悪化状態が継続している。財政悪化の大きな原因の一つとして、「社会保障費の増大」が挙げられている。社会保障費抑制政策は、小泉政権より継続的に今日まで進められている。しかし、一方で増加し続ける高齢者の対応に必要な人材の確保のため、医療職や介護職の養成校や大学の設置が、国の規制緩和の下に積極的に進められた。
財政面から考えると社会保障費の圧縮と医療・介護職の増加という二律背反する政策がこの15年間に渡って、行われてきた。

しかし、近年、医療・介護職数や介護事業所数が国の整備目標に近づいてきた。歯科医師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士の数は国の整備目標数に到達していると言っても過言ではない。現在でも不足と言われている医師や看護師でさえも、2025年までには十分な数に到達すると言われている。

このような背景の中、日本経済新聞から「理学療法士過剰供給問題」が報道された。つまり、国や経済界は「理学療法士の増加に対して何らかの懸念を抱いている」ということが、明らかになったと言える。

記事の文脈から、「理学療法士の増加は不要な医療を生む」というメッセージが読み取れる。
このメッセージがから何を読み取るか。そこに、理学療法士が生き残る道があり、新しい価値を社会に創出する鍵が隠されている。

医療というインフラだけに、仕事を求めるのではなく、医療以外の領域や社会課題に対して理学療法士が対峙していく姿勢も今後、求められる。ピンチはチャンスである。このような報道がされた時に、具体的に行動を起こせる人が10年後は選ばれる理学療法士になっているだろう。


理学療法士過剰

 

経営の素人が介護事業でうまくいく時代は終わった

2015年度介護報酬改定から6ヶ月が経過した。マイナス改定の影響が徐々に顕在化しており、筆者の元にも「事業所の閉鎖が決定した」、「買収先を探している」、「親会社からの売り上げ増加命令が日増しに強くなっている」との声が届く。

今後の介護報酬改定でも、より特徴のあるサービスを有機的に提供できる事業所が生き残れる仕組みが導入される。看取り、認知症、中重度者、リハビリテーション、活動と参加へのアプローチなどを、事業所内や地域で統合的に提供できる事業者が生き残る。
これからは、どんどん今まで与えられていた「はしご」が、外される。「はしご」に甘えて参入した経営の素人は、「はしご」に対して過度に依存している。しかし、よく考えてみて欲しい。「はしご」が外されたあとに、かならず「別のはしご」が用意されている。その「別のはしご」に、乗り移れる経営者や事業者はかならず生き残れるようになっているのが、診療報酬改定であり、介護報酬改定である。
「別のはしご」を特定して、そこにアプローチをする能力こそが、マーケティング能力である。

経営の素人は、マーケティング能力が低い。目先の利益だけを考えると、将来の利益について考える時間が圧倒的に少なくなり、遺失利益の機会を被る事になる。
先述した看取り、認知症、中重度者、リハビリテーション、活動と参加に関しては、厚労省管轄の会議、専門誌、新聞にて様々な情報がリークされている。例えば、今後の在宅医療においては、診療が受けられる対象に制限が加わる可能性が指摘されている。もし、それが実現すれば、訪問看護ステーション、訪問リハビリテーションの事業戦略は大きく変わる。また、診療所やデイサービスの戦略も変わってくる。

このように未来に起こる出来事の芽は、すでに現れている。これらの情報を有機的に統合し、どの方向性で進んでいくのかについて、判断し、財務や人材を考慮して、事業方針を決断していくことが、今後の経営者に必要なリーダーシップである。

介護保険制度が始まって15年。多くの事業が政府の整備目標数に追いついてきている。整備目標数に追いついた瞬間、経営の素人は市場から撤退を余儀なくされる。国はサービスを受ける国民は守っても、経営者は守らない。経営の素人は今こそ、経営の玄人になる時である。

医療機関・介護事業所の経営は目的ではなく、単なる手段である

多くの医療機関・介護事業所は経営が目的化してしまい利益獲得の成否の有無に一喜一憂している。
果たして、医療機関・介護事業所の経営は目的であるか?
否である。
医療機関・介護事業所の経営は目的ではなく、単なる手段である。
医療機関・介護事業所が存在する真の目的はミッションであり理念である。
そのミッションや理念を達成するために、医療機関・介護事業所が存在する。
従業員のモチベーションが低い、職場が楽しくない、利益優先主義の雰囲気が蔓延している医療機関や介護事業所は、経営が目的化して、自分たちの社会における役割を忘れている。

現在の日本は超先進国の代償の結果、数多くの社会課題を抱えている。
その社会課題を解決するために、国より様々な事業が許可されている。
医療機関や介護事業所は社会課題解決のために存在すると言っても全く過言ではない。
診療報酬改定や介護報酬改定の単価や収入増のテクニックに固執する経営者や管理者は、改訂項目の先にある真の社会課題に気づいていない。
経営を保証する利益と社会課題解決の視点をバランス良く持つことが、医療保険・介護保険ビジネスで成功する鉄則であるが、その視点を忘れている人が多い。

飽く無き利益追求は、人件費カット、過重労働、人材育成の軽視、労働環境の悪化、撤退を前提とした運営が行われやすい。医療・介護は人材が最大の経営資源であるため、利益追求による人材資源の劣化は、即、経営不振に繋がる。この単純な理論を理解できずにいる経営者や運営者は多い。

社会保障の財源はますます厳しくなるばかりである。このような時代だからこそ、常に、事業の根本的な目的を確認し、社会貢献をできる事業所作りを怠ってはならない。そして、それが利益の確保に繋がる。