この20年間、PT・OTの給与水準が上がっていない事実

1995年から2016年までの約20年間、理学療法士、作業療法士の給与水準は全く上がっていない(下図)。

理学療法士に至っては2.42%のダウンである。

医師、歯科医師、薬剤師、看護師の給与水準が軒並み上昇する中、理学療法士・作業療法士の冷遇は顕著である。

給与水準は、各職種の需要と供給や診療報酬、介護報酬により決定されることから、理学療法士、作業療法士の社会的立場は決して高いものではないことが明白である。

しかし、理学療法士、作業療法士は、「自らが給与水準が上がりにくい職種」であることの認識が乏しい。

認識の乏しさは危機感の低下を招く。

危機感のない人間には必ずと言っていいほど「ゆでがえる現象」が認められる。

ゆでガエル現象
環境の変化には気がつきにくく、何もしないでぼーっと過ごすことで最終的に致命的な状況に至る

危機感がなければ、当然、何もしないでぼーっと過ごす時間が増える。

その間にも、社会はどんどん変化していく。

気づいたら、社会から評価されないという致命的な状況に至る。

地域包括ケアシステムの導入
在宅リハビリテーションの推進
AIやロボットテクノロジーの進展
労働人口減少
など、社会環境の変化はどんどん進む。

いま、理学療法士、作業療法士はちゃんと自分たちの置かれている状況を真正面から受け止め、ポジティブな危機感をいただくべきである。

執筆者 高木綾一 セミナー講師 株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士 認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士 修士(学術)
関西医療大学保健医療学部 助教
関西学院大学大学院 経営戦略研究科

 

回復期は成熟期へ、通所リハビリ・訪問リハビリは成長期へ

サービスはずっと売れ続けることは難しい。

サービスには人の一生のように寿命がある。 それを、製品ライフサイクルと呼ぶ(下図)。 1076812

リハビリテーション業界では 回復期は成熟期、通所リハビリ・訪問リハビリは成長期と言える。

回復期は整備目標をこえ,診療報酬上の評価も厳しくなっている。

そのため、競争が激化し、シェアーを奪いづらくなっている。

しかし、通所リハビリ・訪問リハビリは普及段階であり、これから急速に市場が拡大していくと考えられる。

当然、市場が拡大していくためライバル事業者も増えてくる。

そのため、いずれはシェアーの確保も厳しくなるため、成長期であってもマーケティングの努力を怠ってはいけない。

成長期では、競合に対して自社サービスの特徴をアピールするマーケティングコミュニケーション戦略を展開することが大切である。

つまり、徹底して自社サービスのブランド力を高めていくことが重要となる。

これにより、いち早く市場シェアの獲得を目指すのだ。

現在、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の80%以上は医療機関に勤めているが、2025年以降には60%程度になると考えられる。

セラピストはリハビリテーション業界の変化を察知し、働き方や自己研鑽の在り方を考えていかなければならない時代になったと言えるだろう。

執筆者 高木綾一 セミナー講師 株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士 認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士 修士(学術)
関西医療大学保健医療学部 助教
関西学院大学大学院 経営戦略研究科

多死社会がPT・OT・STの役割を変える

近い将来、年間160万人が死亡する時代となる。

高齢化ではなく、超高齢化の日本では状態が悪い高齢者の方が必然的に増えてくる。

在宅サービスや施設サービスの介護度は年々高まっており、医療や介護の質の向上は必須となっている。

このような背景から施設や在宅におけるリハビリテーションにも変化が生じている。

右肩上がりのADLの支援だけではなく、看取りを前提とした右肩下がりのADLの支援が必要となってきている。

重傷者や看取り患者では、ADL改善を目指したリハビリテーションではなく、QOLの改善を目指したリハビリテーションが必要となる。

しかし、PT・OT・STは終末期リハビリテーションの知識や経験は乏しく、多くのセラピストは終末期患者を前に悩みながらリハビリテーションを行っている(下図)。

(無断転載禁止)

終末期リハビリテーションでは
身体的苦痛
社会的苦痛
実存的苦痛
精神的苦痛
に対して適時対処しなければならない。

しかし、PT・OT・STはこれらの分野について包括的に学ぶ機会は少ない。

2000年から2020年までは急性期・回復期リハビリテーションの制度設計が行われたが、2021年以降は終末期リハビリテーションの制度設計が一気に進むだろう。

このことは、現職で働くPT・OT・STのキャリア設計にも大きな課題となってくる。

終末期リハビリテーションの展開に目が離せない。

 

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士
修士(学術)
関西医療大学保健医療学部 助教
関西学院大学大学院 経営戦略研究科

イラスト提供
福山真樹

理学療法士×イラストレーター
医療・介護等の現場を、医療職種の胸の内まで分かりやすくイラストで伝える。
臨床で勤務する理学療法士だからこそ描ける作品を医療関係者等へ提供し、書籍・学会・福祉機器紹介PV等、様々な場面で用いられている。
問い合わせ先
Facebook https://www.facebook.com/Masaki.Fukuyama.PT
メール  big.tree.of.truth@gmail.com
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信頼資産と言う武器のないセラピストは永遠に多職種連携はできない

「信頼資産」
信頼を積み上げることにより形成される資産

「不信負債」
信頼を失い続けることで形成される負債

この二つの要素は、多職種連携に大きな影響を与える。

多職種連携では、「他の職種に何かをお願いすること」が多い。

家族の方に患者の自主トレーニングの付き添いをお願いする
訪問ヘルパーの方に利用者の座位保持への誘導をお願いする
看護師の方にポジショニングをお願いする
など他者への依頼は多職種連携では必須である。

依頼をされた側が、依頼された事項を実行するか否かは、依頼元のに対する信頼資産に依存する。

簡単に言えば 信頼している人からの依頼には対応する
不信を持っている相手からの依頼は対応しない
ということである。

ホランダーは信頼を積み重ねることで信頼資産が形成し、相手へのリーダーシップが作用するという信頼蓄積理論を提唱している。 0db55d33ac41de4a79ea5ade13faded2_s 地域包括ケアシステムが推進される世の中では、理学療法、作業療法、言語聴覚療法の技術に長けているだけでは、十分なリハビリテーションの効果が得られない。

なぜならば、リハビリテーション専門職が関わるサービス提供時間はどんどん短くなっていくからである。

したがって、セラピストは専門的知識を磨くと共に、多職種連携の源泉となる他職種に対する信頼資産を形成することが重要である。

どれだけ理学療法、作業療法、言語聴覚療法ができても 挨拶 電話対応 書類作成 接遇 説明 などを適切にできないセラピストは地域包括ケアシステムの時代は不要となる。

執筆者
高木綾一 セミナー講師 株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士 修士(学術)
関西医療大学保健医療学部 助教
関西学院大学大学院 経営戦略研究科

セラピストも学び直しが必要な時代

セラピストの過剰供給
社会保障費の圧縮
医療機関や介護事業所の飽和
などにより、セラピストの労働市場はどんどん厳しくなっている。

そのため、セラピストには労働市場を生き抜くだけの知性や能力が必要となっている。

現在、政府は社会人の学びなおしに関する支援を強化している。

そもそも日本人は、一度、社会人になると専門学校や大学などの教育機関で「学び直し」を受ける習慣がない(図1)。

「学び直し」が習慣化されていない理由は次のようなことが考えられる。

終身雇用の神話を信じている人が多い
国家資格取得者は永遠に雇用があると信じている
好きなことを仕事にしていくと言うマインドが少ない
我慢して仕事をすることを美徳と考えている

これらの理由から、あえて違う世界に飛び出して勉強をするインセンティブが作用しないと考えられる。

学び直し図1 2018年7月30日 日本経済新聞より抜粋

しかし、現実は次の通りである。

既に終身雇用制は崩壊している
国家資格取得者も余りつつある
我慢して仕事をしていると鬱になる

よって、セラピストの学び直しの必要性は高い。

大学院でより専門性を高める勉強を行う
専門学校で他の医療資格を取得する
社会福祉士や臨床心理士などのリハビリテーションと関連する資格を取得する
財務会計やマネジメントに関する学びを深める
などは、現実的な学び直しの選択肢である。

日本人の働き方改革は、学び方改革の一面を持つ。

働きながら自分を成長させ、どんどん新しい自分になるために、どんどん学びを深めていく。

そんな時代に突入している。

執筆者
高木綾一 セミナー講師 株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士 修士(学術)
関西医療大学保健医療学部 助教
関西学院大学大学院 経営戦略研究科