今こそ、リハビリテーション部門はコンプライアンスを見直せ!

近年、リハビリテーション分野におけるコンプライアンス違反が続発している。

ブログを作成している日の直近においてメディアの報道されただけでも次のようなものがある。

三重県某医療センター
リハビリテーション実施計画書の未作成による4から5億の返還
ソース:
https://news.yahoo.co.jp/articles/6a7518a1ffa650784e93e5ece2e3aea44d34f901

京都府某医療センター
リハビリテーションの提供時間を偽りカルテに記載した
ソース:https://nordot.app/1137319380058570921?c=768367547562557440

兵庫県某子ども発達支援センター
障害児のリハビリテーション計画書の未作成
ソース:https://www.kobe-np.co.jp/news/hanshin/202103/0014165302.shtml

その他、理学療法士による性的暴行、作業療法士によるひき逃げなどリハビリテーション部門やリハビリテーション職種の不祥事が絶えない。

近年、コンプライアンスは競争優位性を高める要素として再評価されている。

なぜならば、コンプライアンス違反をすると一発で企業経営が破壊される可能性があるからである。

医療や介護の事業は地域や患者との信頼関係が前提となっている。

あの病院が不正請求をしている
あの理学療法士が飲酒運転をして捕まった
あの介護事業所が虐待をしている
などが「ある」と最初から疑っている患者・家族・紹介元病院などはいない。

もし、皆さんはコンプライアンス違反がある医療機関や介護事業所と知っていれば、そこのサービスを積極的に受けようと思うだろうか?

普通は、サービスを受けたいとは思わない。

つまり、医療や介護事業は性善説に基づいてサービスが提供されているため、もし、甚大なコンプライアンス違反があった場合は、一瞬で地域や患者から見放される。

近年、リハビリテーション部門のコンプライアンス違反で多いのは不正な単位請求である(図)。

図 コンプライアンス違反が著しいリハビリテーション部門

リハビリテーション部門の不正請求の原因は、売上重視の運営であることが多い

単位数の過剰なノルマ設定や単位数を人事考課の材料として重視している場合、不正請求が起こりやすい。

単位数のノルマ設定や人事考課で単位数を評価すること自体に問題があるのではなく、本来のリハビリテーション医療の在り方が欠如しているという倫理観の欠如が問題である。

いわゆる、モラルハザードである。

モラルハザード
組織が利益追求に走るあまり、本来踏むべき手続きを無視したり、自己責任原則を欠くなどの状態

診療報酬・介護報酬には算定ルールが明確に定められている。

そして、何よりもリハビリテーションの本質は、患者の全人間的復権の支援である。

リハビリテーションの本質を忘れ、利益重視に走る姿勢がこびりついている体質のリハビリテーション部門は、いつの日かその体質が世間に露呈し、組織が瓦解する可能性高い。

今日においては、コンプライアンスは重要な経営戦略の一部であることを認識するべきである。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

2025年/2040年/2055年問題に医療機関・介護事業所・リハビリテーション部門は対応できるか?

日本の医療・介護を取り巻く環境はかなり厳しい・・・。

そんな、話を聞いたことはないだろうか?

日本の医療・介護を取り巻く環境は厳しくなるのは事実であり、環境変化を乗り越えなければ医療機関・介護事業所・リハビリテーション部門は廃業や事業縮小が現実的なものとなる。

それでは、具体的に「何が」厳しくなるのだろうか?

2025年問題
2025年に「団塊の世代」800万人全員が75歳以上の後期高齢者となる。

つまり、2025年は超高齢社会に完全突入する年である。

超高齢社会なることにより次のことが懸念される。

医療費・介護費の増大
社会保険料の増加
高齢経営者による事業継承問題
少子高齢化による医療体制の変化

2000年当初から今日まで行われてきた政府の政策や診療報酬・介護報酬改定は2025年問題の解決を目指して行ってきたものである。

介護保険の創設
地域包括ケアシステムの導入
医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士等の医療従事者の増加
高齢者向け住まいの推進
在宅復帰/在宅療養/在宅看取りの推進
医療・介護サービスのアウトカム志向

今日、リハビリテーションが社会における重要なインフラとして機能しているので2025年問題の存在が大きかったと言える。

同時に、リハビリテーション分野や急拡大をしたため、リハビリテーション職種の人材育成、診療報酬・介護報酬におけるアウトカムの達成、売上確保などの課題が山積である。

2040年問題
1970年代に生まれた団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者となることで起きる問題である。

団塊ジュニアは800万人を超える人口である。

2025年から続いた高齢者の増加は2040年ピークを迎える。

そのため、2040年以降は次のような問題が生じる。

現役世代の労働者が急減し、介護、医療、保育、運送の分野で著しい人手不足となる
高齢者の死亡者数が増えてくるため、終末期におけるリハビリテーション職種の役割が増す
地域によっては高齢者が急減するため、医療・介護事業の継続が困難となる
公共施設・水道管・電柱・道路・橋などの老朽化が進む

特に、2040年以降は高齢者が減少していくため、地域によっては医療・介護事業は深刻な影響を受ける。

2025年問題の解決のために、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の増加させてきたが、2040年以降は本格名的な人余りの状況になる可能性がある。

2055年問題
日本の総人口が9000万人を下回り、高齢者率が40%になる。

現役の労働者1.3人で高齢者1人を支える状況となる。

そのため、社会保障費のひっ迫は確実で、医療・介護はより中・重度者向けの取り組みが強化され、軽症者の医療・介護はコストカットが行われると考えられる。

また、2055年には人工知能(AI)が進化しており、遠隔医療とセットでAIによる診察・診断が行われるだろう。

また、医療・介護の中・重度者へのシフトにより、リハビリテーション職種の終末期リハビリテーションの重要性が増す。

地域包括ケアシステムにより2025年問題に対しては一定の成果が出たと言える。

今後は、リハビリテーション職種は2040年/2055年問題を意識し、キャリアの在り方や人生の方向性を考える必要性があるだろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

これからのリハビリ部門運営のキーワードは「生産性向上」!

リハビリテーション部門は出来高部門である。

そのため、医療機関や介護事業所の経営者や管理者はリハビリテーション部門にできるだけ多くのレセプト算定につながる行動を求める。

医療機関であれば、一日18単位
訪問リハビリなら一日6件
通所リハビリならハマネ加算算定80%以上
などのノルマが課せられることが多い。

確かに、売上確保のためのノルマの設置は、組織運営にとって重要であり、安定的な売り上げなしに組織を持続させることはできない。

しかし、売上を維持・向上させていくときに、留意しなければならない点がある。

それは、仕事における生産性を高め、最小の努力で最大の効果を出す組織作りである。

毎日の業務を疲労困憊・忙殺の状態で続けることは困難である。

よって、事務作業、情報収集、患者対応などを効率的に行い、臨床にあてる時間を増やしていくことが重要となる。

経営者や管理者が生産性向上のための取り組みを怠ると、現場で働くリハビリ職種のモチベーションは確実に低下する(図1)。

図1 生産性の向上の取り組みが乏しいため忙殺されるリハビリ部門

国は、医療や介護の生産性向上を国策としている。

患者の高齢化が進んでいること
高齢者の数が急増していること
社会保障費の財源が厳しいこと
認知症患者が増えていること
多職種連携の必要性が増していること
などの理由から生産性向上が必須と考えられている。

このような背景より2024年度介護報酬改定において生産性向上推進体制加算が新設された。

生産性向上に資する取り組みを行い、その効果判定を行えば算定できる加算である(図2)。

図2 生産性向上推進体制加算の概要

この加算は非常に画期的なもので、生産性の向上に関するコストを加算算定により回収できる仕組みになっている。

生産性向上推進体制加算が組織運営にとって良い影響を与えることができれば、今後、診療報酬改定にも導入される可能性がある。

リハビリ部門の生産性向上に次のような取り組みが報告されている。

1)電子カルテの導入
2)業務連絡ツールの導入
3)看護部門とリハ部門のスケジュールの可視化
4)リハビリテーション計画書のテンプレート化
5)研修のオンライン化
6)トランスファー技術の獲得
7)評価ツールの電子化

今後、こういったことに取り組まずに売上目標だけを追いかけるリハビリ部門は疲弊し、リハビリ職種の不満が鬱積し、離職など取り返しのつかない事態が生じるだろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
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認定理学療法士(管理・運営)
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修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

2026年度診療報酬/2027年度介護報酬改定の強化ポイント 医療機関退院後の早期リハビリの実現

地域包括ケアシステムの構築が進み、日本のヘルスケアシステムは大きく変化した。

その代表的なものが、「病院から在宅へ流れ」が市民権を得たことではないだろうか?

2010年以降に始まった地域包括ケアシステム推進の政策によって、「医療機関に長期間入院すること」や「看取りを病院で行うこと」が当たり前であった時代に終止符が打たれ、原則、全ての患者は在宅に復帰することを前提とする仕組みが導入された。

急性期・回復期・慢性期医療の機能を持つ医療機関に対しては在宅復帰を用いたアウトカム報酬が設定され、また、在宅復帰後の患者を受け入れる介護保険事業所や高齢者向けの住宅の整備も一気に進んだ。

このように在宅復帰のインフラの整備は進んだが、在宅復帰や在宅復帰後の生活を支えるプロセスには大きな課題が山積している。

その一つが、医療機関退院後のリハビリテーションサービスの遅延である。

急性期病院や回復期リハ病院を退院後、在宅リハビリテーションが必要な患者は多い。

しかし、退院後に在宅リハビリテーションの開始が遅れたために、入院中に獲得したADLが在宅復帰後に低下する例は多い。

介護給付分科会においても、同様の指摘されており2024年度診療報酬・介護報酬における課題として位置づけられている(図1)。

図1 訪問リハビリ・通所リハビリの利用開始が遅れるとADLの回復は乏しくなる

2024年度診療報酬・介護報酬改定では医療機関退院後の早期リハビリの実現の施策として次の項目が新設された。

①訪問リハビリ・通所リハビリの参加による退院時共同指導加算
訪問リハビリ・通所リハビリにおいて、「医療機関からの退院後に介護保険リハビリを行う際、リハビリ事業所の理学療法士等が医療機関の『退院前カンファレンス』に参加し、共同指導を行う」ことを新たに設ける【退院時共同指導加算】(1回600単位)で評価する。

②医療機関と介護保険リハビリ事業所のリハビリテーション計画書の共有
訪問リハビリ・通所リハビリにおいて、「入院中にリハビリを受けていた利用者に対し退院後の介護保険リハビリ計画を作成するに当たり、入院中に医療機関が作成したリハビリ実施計画書を入手し、内容を把握する」ことを義務付ける。

③入院中の主治医の意見をケアプランに反映をさせる
居宅介護支援、介護予防支援(訪問リハビリ、通所リハビリ)について、ケアマネジャーがケアプランに通所・訪問リハビリを位置づける際に意見を求める「主治の医師等」の中に「入院中の医療機関の医師」を含むことを明確化する。

④入院中の主治医から訪問リハビリの指示が出た場合は、診療未実施減算を適用しない
医療機関に入院し、リハビリテーションの提供を受けた利用者であって、当該医療機関から、当該利用者に関する情報の提供が行われている者においては、退院後一ヶ月以内に提供される訪問リハビリテーションに限り、診療未実施減算は適用されない。

これらの項目によってどれほど早期リハビリに効果があるかについて、今後、調査が行われ、次回の診療報酬・介護報酬改定に反映されることになる。

筆者は次回の診療報酬・介護報酬改定において早期リハビリを促進するために次のような改定が行われると推測する。

①機能強化型訪問リハビリの創設が検討されており、その運営基準の中に退院退所後の早期リハビリの開始が要件化される。

②回復期リハビリテーション病棟の運営基準に退院後の早期リハビリの開始が要件化される。

③通所リハビリの大規模が通常算定するための要件に退院退所後の早期リハビリの開始が追加される。

また、ケアプラン作成における課題も大きい。

ケアプラン作成時には看護と介護サービスの導入が第一に検討される傾向が強い。

これは疾患の予防や生活再建が第一に考えている介護支援専門員が多いことが原因と考える。

逆に言えば、リハビリテーションが軽視されていると言っても過言ではない。

様々な加算要件に早期リハビリを導入しても、ケアプラン作成におけるリハビリテーション前置主義が浸透しなければ、早期リハビリの実現は困難とみる。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
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たまに現場に来て、現場を混乱させる経営者は嫌われる

先日、私のクライアントより「うちの経営者は現場に顔を出さないんですよね。そのくせ、リハビリや介護の業務や仕組みも全く知らないのに思いつきで色んな命令をしてくるので、みんなやる気を失っています」と聞いた(図1)。

このように医療や介護の現場において上司と部下の信頼関係が破綻している事例は多い。

このような職場は、離職率が高い、従業員のモチベーションが上がらない、良いサービスが提供できずに経営が行き詰まるなど何一つ良いことが起こらない。

図1 たまに現場に来て、現場を混乱させる経営者

上の立場にいる人が部下に影響力を与えるために必要な要素に信頼がある。

Edwin.P.Hollanderが提唱した信頼蓄積論は
「リーダーシップの有効性は、フォロワーから獲得した信頼の獲得の有無によって決まる」と説明している。

この理論は、肌感覚でもわかりやすい。

どれだけ言っていることが正論でも信頼できない人からの意見は受け入れがたい。

そもそも、信頼していない人から意見されると、多くの人は「お前が言うな」という感情を持つ。

信頼を獲得するためには
同調性

有能性
が必要である1)。

同調性
リーダーがフォロワーから認められるために集団の規範を守ること

集団の規範に対して忠実であることをフォロワーに示すことで信頼を獲得できる。

有能性
リーダーは,集団に課題達成できるような能力を示す

集団もつ課業の達成に積極的に貢献することで,さらなる信頼を蓄積していくことができる。

つまり、現場に全く顔を出さない人が現場における業務のルールを全く知らずにとんちんかんな指示を命令し、現場を混乱させることは同調性と有能性の要素を全く満たしていないため、信頼が全くない状況と言える。

経営者や管理職が部下に対して影響力を発揮するためには
1)現場の業務内容、課題、ルールを把握し、従業員と共通言語を用いて話せるようになる。これにより同調性を発揮することができる。

2)現場の課題に対して、従業員が納得や感心したりするような提案や行動を取る。これにより、有用性を発揮することができる。

経営者や管理者は
指示命令を出すことが仕事であるが
その前提条件として、現場を知ろうとする努力や現場に寄り添う姿勢が満たさなければ、とことん現場から嫌われると肝に銘じなければならない。

1)小野善生:リーダーシップ論における相互作用アプローチの展開,関西大学商学論集 第56巻第3号.p40-53(2011年12月)

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
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