リハビリ部門の運営において、「利益重視の経営者」と「現場重視の管理者」の間にギャップが生じることは少なくない。
経営者は事業の持続可能性を考え、利益を重視するのに対し、管理者は患者への質の高いサービス提供を最優先とする傾向がある。
この対立が解消されなければ、組織の方向性がぶれ、リハビリ部門の運営がうまくいかなくなる。
では、どのような関係を築けば、リハビリ部門が健全に運営できるのか。
①互いの立場と目的を理解する
経営者と管理者が協力するためには、まず相手の視点を理解することが不可欠である。
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経営者の視点
1.リハビリ部門が利益を生み出さなければ、事業自体が継続できない
2.適切な経営戦略をとることで、より多くの患者に質の高いリハビリを提供できる
3.人件費や運営コストを抑えることで、組織全体の安定性が増す -
管理者の視点
1.質の高いリハビリを提供しなければ、患者満足度やリピート率が低下する
2.スタッフの働きやすさを確保しないと、離職率が上がり、結果的に部門運営が不安定になる
3.現場の負担が大きくなりすぎると、サービスの質が低下し、長期的に収益にも悪影響が出る
お互いの視点を理解しないまま話し合っても、対立するだけである。
「利益重視」と「現場重視」はどちらかが正しい・間違っているわけではなく、両者のバランスが取れたときに初めて事業が成功すると認識することが重要である。
②共通の目標を設定する
経営者と管理者が協力するには、「利益」と「現場」のバランスを取る明確な目標」を持つことが求められる。
例えば、以下のような目標設定が考えられる。
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売上向上 × サービスの質向上の両立
✔ 「〇ヶ月後に〇%の利益増加を目指すが、患者満足度も〇点以上を維持する」
✔ 「リピート率を〇%向上させることを売上目標の一つとする」 -
コスト削減 × スタッフの負担軽減
✔ 「業務の効率化を進めて残業時間を〇時間削減する」
✔ 「適切なリソース配分で、1人あたりの負担を軽減しつつ利益を確保する」
このように、経営者と管理者が一緒に目標を作り、それを定期的に見直すことで、お互いの意識のズレを防ぐことができる。
③現場のデータを活用して合理的な意思決定をする
「感情的な対立」ではなく、「データに基づいた合理的な判断」を行うことで、両者の歩み寄りがスムーズになる。
例えば、
✔ 業務負担のデータ化:スタッフの稼働率や業務負担を可視化し、過剰な業務負担がある場合は調整する
✔ 患者満足度の調査:定期的に患者満足度を数値化し、改善点を明確にする
✔ 利益率の分析:リハビリ科の収益性を分析し、単位数を検討する
こうしたデータをもとに経営者と管理者が議論することで、感情論ではなく客観的な視点から判断ができるようになる。
④管理者が経営視点を持ち、経営者が現場を理解する
リハビリ部門が成功するためには、管理者が経営視点を持つことと、経営者が現場を理解することが不可欠である。
✔ 管理者の経営視点
1.単なる「現場の代表」ではなく、利益を意識した部門運営を行う
2.コスト管理や収益向上の手段を理解し、経営に貢献する提案をする
3.「質の向上=経営の成功」につながる方法を考える
✔ 経営者の現場理解
1.現場を知らずにコスト削減や効率化を求めるのではなく、現場の負担を考慮する
2.短期的な利益だけでなく、長期的な安定運営を意識する
3.スタッフの意見を取り入れ、働きやすい環境づくりに配慮する
このように、お互いが相手の立場を学び、歩み寄ることが重要である。
✅ リハビリ部門の成功のために大切なこと
- お互いの立場を理解する
- 共通の目標を持つ
- データを活用して合理的に判断する
- 管理者は経営視点を持ち、経営者は現場を理解する
「経営者と管理者が協力するリハビリ部門」は、利益を確保しながら、質の高いサービスを提供できる理想的な組織となる。
筆者
高木綾一
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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