2012年度介護報酬改定において老人保健施設は強化型(在宅機能強化型)/加算型(在宅復帰・在宅療養支援機能加算)/従来型―の3類型に区分された。
この時の改定は、「老人保健施設の本来の機能である在宅復帰」に取り組む老人保健施設を今後は高く評価することを明言するものであった。
当時、在宅復帰に取り組む老人保健施設は稀で、多くの老人保健施設は長期滞在型のモデルで事業を行っており、ほとんどの利用者は6か月ほど施設を利用し、その後、特養、死亡、他の老人保健施設へに退所していた。
2012年度の改定を受けて、在宅復帰に取り組む施設と従前の長期滞在型施設に二極化した。
その後も老人保健施設の改定が続き、2018年度介護報酬改定では「在宅復帰・在宅療養支援等指標」(10項目計90点)が導入され、合計点数で類型が5種類に区分された。
2018年度に「在宅復帰・在宅療養支援等指標」が導入されたことにより、老人保健施設のモチベーションの差がより経営や運営に反映されやすくなった。
その後も、老人保健施設の二極化は進み、2023年に行われた全老健の調査において次のことがわかった。
黒字施設は40.9%、赤字施設は59.1%で6割が赤字となった。
赤字施設割合
超強化型 53.7%
在宅強化型 57.3%
加算型 63.6%
基本型 61.5%
その他型 66.7%
この結果は、改めて在宅復帰に取り組む老人保健施設の方が赤字になりにくいことを示している。
しかも、2024年度介護報酬改定では超強化型老健のプラス改定の幅が他の老健より高いため、さらに在宅復帰に取り組む老人保健施設が優遇されている状況である(図1)。
図1 2024年度介護報酬改定 老人保健施設 基本報酬
また、次のような老人保健施設のマネジメントに大きな影響を及ぼす改定も行われた。
1)所定疾患施設療養費の対象疾患に心不全が追加された
毎回の改定で、対象疾患が追加されており老人保健施設の医療施設化が進んでいる。医師・看護師の質が問われる状況となっている。
2)協力医療機関との連携体制の構築
新型コロナウイルス発生時の介護保険施設と医療連携の不備が指摘されていた。また、緊急入院の必要性の判断について協力医療機関の医師の協力を得ることで、場合によっては入院をしなくて良い事例も増えるのではないかと考えられている。
3)ターミナルケア加算の見直し
死亡日直前の加算の単価が高くなり、改めて老人保健施設におけるターミナルケアが評価された。老人保健施設の役割としてターミナルケアが期待されている証拠である。
4)口腔衛生管理の強化
口腔衛生管理の取り組みが要件化された。口腔衛生に関する評価および外部の歯科医師、歯科衛生士との連携が標準化され、遵守されていなければ運営基準違反となる。
5)訪問リハビリテーションのみなし指定
老人保健施設からの訪問リハビリテーションを促進している改定である。老人保健施設がより地域に根差した施設になるためにぜひとも訪問リハビリテーションには取り組みたいものである。
老人保健施設の質の変化は非常に目覚ましく、介護報酬改定の政策誘導が成功している事例と言える。
一方で、介護報酬改定に全くついていけない老人保健施設も多く。
物価高・賃金増加・人材不足と今後も介護事業の経営環境は厳しい。
今まさに、老人保健施設は自分たちの経営や運営を見直さなければ本当に施設運営が持続できない事態に陥る。
投稿者
高木綾一
株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授