リハビリ部門マネジメントの課題 ワークライフバランスの誤解

ワークライフバランスの概念が医療機関や介護事業所のマネジメントに浸透して久しい。

なんとなく、「働きやすい職場=ワークライフバランスを実現している出来る職場」という考えが定着している。

しかし、経営者、管理者そして従業員も「ワークライフバランスとは何者なのか?」について明確に理解していることは少ない。

現実的にはワークライフバランスを導入したことにより
単位数減少等の生産性が低下した
セラピストの人手不足が生じた
セラピストの質が低下した
などの問題が全国各地のリハビリ部門で生じている。

具体的には以下のような問題が多い。

①多様な価値観を受け入れているとそれぞれの職員の考えがばらついてしまい、組織として同じ方向性を向くことが出来ない

②残業等を削減するため、セラピストの技術や知識を高めるための教育が乏しくなり、質の低いセラピストが増えた

③家庭の事情を最優先させ、組織に協力的ではない職員が増えた。

これらの問題が生じる根本的な原因は、「ワークライフバランスの誤解」である。

ワークライフバランスの真の意味を理解せずに組織のマネジメントに導入した結果、多くの問題を抱えることになっているのである。

ワークライフバランスの誤解には以下のようなものがある。

誤解①
仕事も生活も「そこそこに」で行う

最も多い誤解に、「ワーク・ライフ・バランスは仕事も生活もほどほどにして両立する」がある。

仕事や生活に手を抜いたり、妥協することがワークライフバランスではない。

「仕事や生活の双方が自分にとって充実したものにする」ために、「仕事や生活を含む人生を良くするために自分らしい働き方をする」を前提とするものである。

誤解②
ワークライフバランスは女性のための取り組みである。

出産や子育てといったライフイベントが多い女性が組織内で活躍するためにワークライフバランスは必要である。

しかし、子どもが生まれて親となるのは男性も同じであり、また、親の介護は性別や年齢に関係なく生じるライフイベントである。

よって、ワークライフバランスは年齢や性別を問わず全ての働く人を対象にした取り組みである。

誤解③
ワーク・ライフ・バランスは、会社が実現させるもの

働きやすさや自分の思い描く働き方の実現は会社や組織が提供してくれるという姿勢ではワークライフバランスは実現できない。

ワークライフバランスは、組織の制度を活用して働く一人ひとりが実現させるべき極めて主体的なものである。

そのためには、「会社が求めている仕事の結果」と「自分がどのように生きていきたいのかという価値観」を知り、その実現のために主体的に行動する必要がある。

誤解④
残業のない会社=ワークライフバランスを実現している会社

残業のない会社は定時時間内に成果を出すことが要求される。

時間内でリハビリテーションのサービス、書類作成、業務連絡などをすべて完了させなければならない。

したがって、ワークライフバランスを導入している会社は高い生産性が必須条件となる職場である。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

PT・OTの過剰供給が進む時代ではプロティアン・キャリアが益々重要となる

「プロティアン・キャリア」
環境の変化に応じて自分自身も変化させていく、柔軟なキャリア形成を示す。

「プロティアン(Protean)」はギリシア神話に出てくる、思いのままに姿を変えられる神プロテウスを指し、「変幻自在な」「多方面の」と訳される。

アメリカの心理学者ダグラス・ホールによって提唱されたキャリア理論である。

「変幻自在なキャリア」と言われても、ピンとこない人も多いだろう。

簡単に、プロティアンキャリアを説明すれば、「キャリア形成を企業に依存させずに、キャリア形成を自分事と捉え、自らキャリアを育てていくこと」と言える。

日本における戦後から続くキャリア形成の特徴は、「個人のキャリア形成を企業に依存させること」である。

これは一つの企業に長期間勤めることを前提にしていたため、企業側から提供される仕事の役割や人事配置などの重要性が高いため生じた現象である。

しかし、2000年以降の経済情勢、自然災害、新興感染症、国際情勢、少子高齢化などにより企業寿命が短命化しており、終身雇用が約束される状況ではなくなっている。

そのため、「一つの企業に長期間勤める」という前提が完全に崩れている。

さらに、日本人の長寿化も進んでおり、人生を80年以上全うする人も増えている。

そのため、定年退職後の人生が20年以上もあるため、定年後のキャリア形成の重要性が高まっている。

以上のようなことから、キャリア形成を企業に依存させずに、キャリア形成を自分事と捉え、自らキャリアを育てていくプロティアンキャリアが注目されている。

理学療法士・作業療法士の業界においてもプロティアンキャリアの重要性は益々高まっている。

診療報酬・介護報酬による急激な政策誘導
ロボットテクノロジーやAIなどの技術浸透
新型コロナウイルスなどの新興感染症
理学療法士・作業療法士の過剰供給
などにより理学療法士・作業療法士の雇用環境や市場における競争環境は2000年当初より厳しくなっている。

そのため、環境変化に強い生き方・働き方が理学療法士・作業療法士に求められている。

決して、勘違いしてはならないのは、「転職を繰り返すこと」がプロティアンキャリアではないと言うことである。

プロティアンキャリアを実践するカギは、「環境適応のための準備行動」である。

具体的な準備行動として
①専門性かつ多分野にまたがる知識・技術を習得しておくこと
②ネットワークの質と量を高めるためオンライン・オフライン問わず人脈を広げる
③お金に関する知識(資産把握・資産形成等)を学ぶこと
が挙げられる。

プロティアンキャリアを難しく考える必要なく、「今までやってきたことがない分野」に挑戦をしていくことがプロティアンキャリアの第一歩である。

理学療法士・作業療法士の皆さんの中には、数年以上同じ環境で、毎日同じような病態や状態の利用者さんにリハビリテーションを提供したり、同じような仲間と過ごしている人がいるのではないだろうか?

長年、同じ組織・環境で仕事していると新しい知識や技術を学ぶ機会が少なくなりやすい。

新しい知識や技術が蓄積されなければ、新しい分野への転身や非定型的な状況への対処が難しくなる。

そのため、環境変化への対応が難しくなり、結果的に「今と同じ状況」にいることを選択することになる。

「今と同じ状況」にいるのみを選択肢にしてしまうと、「組織の評価」に一喜一憂することになり、自分の仕事や人生を自分でハンドリングすることが難しくなる。

理学療法士・作業療法士がキャリア形成を自分事として捉え、今の環境や立場にこだわることなく、自分自身の成長や環境変化への適応を目的としたキャリアの視点を持つことが、今後の理学療法士・作業療法士の過剰供給時代を乗り切る秘訣である。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

中年セラピストのキャリアが深刻化させるキャリアプラトー問題

「キャリア・プラトー」
組織内で昇進・昇格の可能性がなくなる、又は、本人がキャリアが停滞したと感じ、仕事に対するモチベーションが低下や今後の人生の展望が描くなくなることを言う。

キャリアデザインは20代から30代のセラピストに必要だと考えられがちであるが、キャリアプラトー問題に直面する40代以降の中年セラピストにとってもキャリアデザインは必要である。

中年セラピストのキャリアプラトーには次のような事例が多い。

①若い頃は知識や技術が乏しいため、自己研鑽や仕事に向き合えば、自己の成長を感じる。しかし、中年になると一定の知識や技術があるため、新たな学びや経験に対する動機づけが乏しくなってくる。

②長く勤めている医療機関や介護事業所であれば何らかの役職が与えられる。しかし、役職は無尽蔵にあるわけではないため、昇進や昇格と言う機会が中年では少なくなり、後は、ひたすら定年まで働くだけの状態となり、仕事における目標を失う。

キャリアプラトーに対する対策として以下のようなものがある。

コミュケーション
①組織や上司と自身のキャリアの方向性、今後の希望、自身の仕事における価値観などについて常にコミュケーションを取っておく。そのことにより、組織や上司より自身にマッチした仕事が提供される可能性を高めておく。

危機感
②危機感は人間の行動を生じさせる重要な因子である。そのため、今後の仕事や自身の人生におけるリスク分析を行い、リスク回避のためにどのような行動が必要であるかを明確にしておく。

アンラーニング
③アンラーニングを進める。アンラーニングとは「学習棄却ともよばれ、持てる知識・スキルのレパートリーのうち有効でなくなったものを捨て、代わりに新しい知識・スキルを取り込むこと」である。情報化が進んでいる社会では5年前の知識や経験は役に立たないことが多く、知識や経験のアップデートが必須である。

現在、40代、50代のセラピストはセラピスト不足時代に就職しており、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の資格さえ持っていれば、就職にも困らずに、比較的安定した給与をもらえた世代である。

つまり、強い競争社会にいなかった世代であるため、キャリアについて考える必要性が低かったとも言える世代である。

それゆえに、キャリアプラトーを解決するための信念や知識に乏しいと言えるだろう。

中年セラピストこそキャリアデザインが必要である理由はそこにある。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

医療機関・介護事業所の企業寿命が短くなっている現代ではPT・OT・STのセルフマーケティングが必要である

日本企業の寿命は平均23年と言われている。

一方で日本人が働く期間は50年前後と言われている。

つまり、働く期間より企業寿命の方が短い。

さらに、診療報酬改定・介護報酬改定が厳しくなっている現代では、医療機関・介護事業所の企業寿命は徐々に短くなっており、加えて2019年以降新型コロナウイルスの蔓延により小規模の医療機関や介護事業所の倒産や買収が増加している。

これらのことから言えることは、これからの時代において「所属先企業に依存した働きは明らかに危険である」と言うことである。

自分の能力を高めずに、所属先企業に依存した働き方をしていると、突然の倒産や買収などが生じた時に、転職等の対応を円滑に行うことが出来ず、厳しい労働環境に追い込まれる可能性が高い。

所属先に依存しない働き方を実現する手段として、セルフマーケティングが有効である。

セルフマーケティングとは、「自分の価値を構築し、市場と取引する能力」である。

簡単に言えば、「誰に何を供給するか?」と言うことである。

この場合、「誰」というのは、企業、個人、地域、自社組織、行政等である。

これらの対象者はニーズやウォンツを顕在的にも潜在的にも有している。

ニーズとは、不足している状態から渇望される欲求である。

ウォンツとは、ニーズから渇望された欲求を満たすものである。

つまり、セルフマーケティングを実施するためには「企業、個人、地域、自社組織、行政等がどのようなニーズやウォンツを有しているのかを知る」意識が絶対条件である。

ニーズやウォンツを知ることが出来れば、そこに提供するべき「サービス」があるはずである。

その「サービス」を、無形・有形として生み出すことを「価値」と言う。

「自分の価値を構築し、市場と取引する能力」を磨くことによって、個人の市場価値が向上し、組織や市場から必要とされる能力(エンプロイアビリティー)が格段に高まり、転職が容易となる。

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの医療系の国家資格を有する人には、国家資格を取得することで「市場からの価値が得られたと勘違いする人」が多い。

毎年、国家資格の有資格者が大量に出現する現代では、国家資格自体の価値は低下している。

現に、理学療法士、作業療法士の年収はこの20年間、上がっていない。

今の時代ほど「セルフマーケティングが必要な時代はない」と言えよう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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キャリアデザインの重大課題!行動できない症候群!

医療・介護の職種にキャリアデザインの必要性が叫ばれて久しい。

診療報酬や介護報酬にて優遇されにくい分野や過剰供給が予測される分野で働く職種は戦略的なキャリアデザインが必要である。

特に、上記の理由から理学療法士、作業療法士、准看護師、放射線技師等の職種は今後、キャリアデザインは必須と言えよう。

しかし、キャリアデザインが必要性を頭ではわかっていても、行動に移せない人は非常に多い。

それでは、なぜ、行動に移すことができないのだろうか?

筆者の数多くのキャリアカウンセリングの経験から、行動に移せない人の特徴は以下のようなものがあると感じている。

①非常に優秀な人であるため、自分の行動の結果を先読みし、少しでもリスクがあると行動に移さない。

②失敗を悪と捉え、一度失敗すると立ち直れないと勘違いをしている。

③キャリアデザインの重要性を心底理解していないため、結果的に行動が中途半端になる。

簡単に言うと以下のような方が行動に移せない人である。
①はインテリの方
②は失敗したらどうしようが先立つ方
③自分の人生に向き合わない方

筆者はキャリアカウンセリングにおいてはこのようなクライアントに次のようなアドバイスを実施している。

インテリの方
リスクを取らないことの方がリスクになることが多い。
人生では正解だけを求めて行動すると不正解に出会った時の対処法を学ぶことができない。
リスクがある場合、リスクを管理しながら人生を前に進める方が前向きな人生になり、人生も好転しやすい。

失敗したらどうしようが先立つ方
そもそも、失敗しない人間に成功はない。
失敗しないと成功の方法が理解できない。
人生はトライ&エラーであり、トライしない人間にエラーはないし、エラーのない人間に成功はない。

自分の人生に向き合わない方
あなたはいつまで他人の人生の脇役を演じるかの?
自分の人生の主役は自分である。
自分の興味、関心、価値観を満たさない人生では永遠に環境の奴隷になる。
本当にそんな生き方でいいのか?

キャリアデザインには様々な理論があるが、上記のような問題がある人にどれだけキャリア理論を提供しても行動に移すことはない。

まずは、行動に移すため前提条件としてのキャリアデザインに必要な価値観を確立する必要があるだろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
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関西医療大学保健医療学部 客員准教授