リハビリの現場では家族から「もっと頻繁にリハビリをしてほしい」「歩けるようにしてほしい」「他の患者さんよりも優先してほしい」など、無理な依頼を受けることがある(図1)。
家族の気持ちを考えれば、できる限り応えたいと思うかもしれないが、現実的には難しいことも多い。
では、こうした無理な要求に対して、どのように対応すればよいのだろうか。
① 家族の気持ちに寄り添う
まず大切なのは、家族の不安や焦りを理解し、それを受け止めることである。
家族が強く要望を伝える背景には、「早く回復してほしい」「もっと良くなるのではないか」という期待がある。
それを無下に否定するのではなく、「お気持ちはよく分かります」「ご家族として心配になりますよね」と、共感を示すことが重要である。
まずは家族の感情に寄り添いながら、落ち着いて話を進める土台を作る。
② 専門的な視点で説明する
共感を示した後は、リハビリの専門的な視点から現実的な対応を説明する。
例
「歩けるようにしてほしい」と言われた場合、「歩行能力の回復には、筋力やバランスの向上だけでなく、本人の意欲や体力も重要です」と伝え、単純なリハビリ回数の増加だけでは解決しないことを説明する。
医学的根拠を交えて説明することで、家族も納得しやすくなる。
③ 病院や施設の方針を明確に伝える
「特別に多くリハビリをしてほしい」といった要望には、施設の方針を明確に伝えることが必要である。
「リハビリの回数や時間は、医学的な判断や施設のルールに基づいて決められています」と説明し、公平性を保つための基準があることを理解してもらう。
特定の患者だけを特別扱いするわけにはいかないことを、冷静かつ丁寧に伝えることが大切である。
④ できる範囲の提案をする
無理な要求をそのまま拒否すると、家族の不満が募ることがある。
そのため、「できる範囲で対応する」姿勢を示すことも重要である。
例
「リハビリの回数は増やせませんが、ご自宅でできる簡単な運動をご案内できます」「リハビリの進捗をご家族に定期的にお伝えすることは可能です」
といった提案をすることで、家族の納得を得やすくなる。
⑤ 他職種と連携して対応する
リハビリスタッフだけで対応しきれない場合は、看護師や医師、ソーシャルワーカーと連携することも有効である。
特に、家族が感情的になりやすい場合や、無理な要求が繰り返される場合は、チームで対応することで、より適切な説明やサポートが可能になる。
例
「医師と相談しながらリハビリの計画を進めています」と伝えることで、リハビリスタッフだけで判断しているわけではないことを理解してもらえる。
⑥ 家族との良好な関係を維持する
無理な要求に対して毅然とした対応をすることは必要だが、関係が悪化してしまうと、リハビリの進行にも悪影響を及ぼす可能性がある。
家族との信頼関係を築くために、「リハビリの状況をこまめに共有する」「本人の頑張りを家族に伝える」「家族の意見を聞く姿勢を持つ」といった工夫をすることで、良好な関係を維持しやすくなる。
無理な要求をする家族に対して、リハビリスタッフは冷静かつ専門的な姿勢を保つことが重要である。
まず、家族の不安や期待に共感を示しながら、現実的なリハビリの目標や限界を丁寧に説明することが求められる。
感情的にならず、科学的根拠に基づいた対応を心掛け、チームで情報を共有し、一貫した対応を徹底することが大切だ。
投稿者
高木綾一
株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授