家族文化のリハビリテーション部門が陥る末路

これまで筆者は多くのリハビリテーション部門のコンサルティングを実施してきた。

ご相談内容として多いものの一つに
「リハビリテーション部門の雰囲気が緩くて、規律が守られず、人材も育っていない」というものがある。

このようなリハビリテーション部門は、いわゆる家族文化を有している。

組織文化は次の4類型に分けられる。

家族文化
和気あいあいとした空気の中でお互いを尊重することを重要視する。
仲の良さ・気遣い・一体感が求められる。

革新文化
開放的な雰囲気の中で、チャンスを求めて変化に対応する。
新規性・挑戦・革新が求められる。

官僚文化
秩序やルールを重要視し、手順を大切にする。
規律・共有・監理が求められる。

成果文化
競争意識を持ちながら、目標に向かって進むことを重要視する。
利益・採算性・効率性・アウトカムが求められる。

リハビリテーション部門は家族文化が多い傾向が一般的であるが、一方で経営難に陥っている医療機関や買収された医療機関は成果文化が多い。

家族文化のリハビリテーション部門ではドロドロした人間関係やパワーハラスメントなどはないため、一見すると良い職場に見える。

しかし、最大の欠点は「チーム全体がの調和が求められる余り、チーム全体と異なる意見を言いにくいことや、個人の突出した行動が評価されにくいため、個人が育ちにくい」ことである(図1)。

図1 家族文化を有するリハビリテーション部門

近年、リハビリテーション医療では
リハビリ職種の複数担当制
リハビリ職種の他職種連携
リハビリ部門における感染管理・安全管理
リハビリ部門の収益改善
リハビリ医療のアウトカム改善
などの重要性が増している。

これらの取り組みを成功させるためには、組織の課題に率直向き合い、リハビリ職種同士が是々非々の議論を交わす必要がある。

よって、家族文化が強いリハビリテーション部門では、様々な取り組みに失敗している事例が多い。

取り組みを推進させるためには、革新文化や成果文化が望ましい。

家族文化が強すぎることで、組織改革が上手く実行できていない場合、家族文化からの転換を図る必要がある。

筆者の経験上、家族文化が浸透しているリハビリテーション部門は理念が浸透していない場合や理念そのものの設定がなされていない場合が多い。

理念がないため、ビジョンやルールも存在しない。

そのため、特に守るべき行動規範もないために、それぞれのリハビリ職種が「好き勝手に働いている」ことが家族文化を生み出している根源と言える。

また、理念やビジョンは設定するだけでなく、リハビリテーション部門全体に浸透しなければ何の意味もない。

家族文化の打開には理念を活用したマネジメントが重要であると言える。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

兵庫県介護老人保健施設協会様にて「2024年度診療報酬・介護報酬改定が老人保健施設の運営に与える影響」について講演をさせていただきました!

2024年10月18日 金曜日に兵庫県介護老人保健施設協会様にて「2024年度診療報酬・介護報酬改定が老人保健施設の運営に与える影響」について講演をさせていただきました!

会場には50人を超える参加者に方にお越し頂きまして感謝しかございません。

今回の講演では次の点について特に解説をいたしました。

1)老人保健施設の改革は大成功しているため、さらに老人保健施設の改革は加速する
2)ターミナルの受け入れ、所定疾患施設療養費対象疾患の拡大など重症者受け入れの促進
3)超強化型老健の施設運営は入居者確保のマーケティングがカギ
4)在宅復帰の取り組みは家族コミットメントを得るための家族支援である
5)老人保健施設の6割は赤字、黒字転換するには在宅強化型以上&高稼働率がカギ(図1)

図1 老人保健施設の6割は赤字である

2012年に老人保健施設に在宅復帰要件が明確に定められ、在宅復帰に取り組む老人保健施設が介護報酬において優遇されるようになりました。

2024年現在、超強化型老健の算定率は30%を超え、老人保健施設の役割は大きな変容を遂げたと言えます。

今後は、在宅復帰に取り組んでいないその他老健、基本型老健の取り扱いが焦点となります。

平成30年の介護保険法改正において「介護老人保健施設の役割は在宅復帰・在宅療養支援である」と改めて定義しています。

国はその他老健、基本型老健は老人保健施設の役割を果たしていないと考えており、さらなる介護報酬の締め付けを強化すると予想されます。

2024年度介護報酬改定において老人保健施設は在宅復帰機能のみならず、看取り機能、重度者ショートステイ機能を強化しています。

また、介護老人保健施設の開設許可があった場合は、訪問リハビリテーション事業所の指定があったものとみなされるようになりました。

つまり、老人保健施設は、在宅復帰の回復期機能、ターミナルケアの終末期対応、訪問リハビリテーションによる在宅療養支援機能を求められる時代なっており、まさに大規模多機能施設に変容しようとしています。

このように老人保健施設の経営環境は大きく変わっていますので、老人保健施設は経営環境に対する適応が必要となってきます。

経営環境に対する適応で、もっとも大切なものはマネジメントです。

旧態依然としたマネジメントでは老人保健施設の改革は困難です。

老人保健施設の改革に残された時間はまったなしです。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

2024年度診療報酬改定 目玉だった地域包括医療病棟はなぜ苦戦しているのか?

2024年度診療報酬改定にて10年ぶりに新病棟が新設された。

軽度急性期として新しいジャンルの確立を目指して設立された地域包括医療病棟。

口腔・栄養・リハビリテーションを標準化し、365日リハビリテーションを実施する画期的な病棟である

2040年までに高齢者が増加することにより、軽度急性期症状を有する高齢者が激増する。

しかし、軽度者が一様に一般急性期に入院することになれば、一般急性期はパンクする。

また、一般急性期はリハビリテーションの機能が高くないことから、入院した軽度者のADLの回復は乏しく、要介護状態がより進んでしまうリスクがある。

このような課題を解決するために、地域包括医療病棟は新設された。

この病棟は入院基本料も高く、疾患別リハビリテーションや看護補助体制の加算などにより日当点も5000点から6000点の範囲となり、非常に収入が高い。

しかし、2024年10月現在、地域包括医療病棟への参入する医療機関が少なく、新病棟の存在意義が早くも揺らいでいる。

地域包括医療病棟への参入が厳しい理由は、病棟要件に原因があるとされている。

地域包括医療病棟の重症度、医療・看護必要度の要件は以下の通りとなっている。

①既存の入院患者ではA項目2点以上かつB項目3点以上、A項目3点以上、C項目1点以上のいずれかに該当する患者が15%以上(看護必要度I)
②新規入院患者で入棟時B項目3点以上の患者割合が50%

特に、A項目やC項目は整形外科などの手術症例を多く受け入れている医療機関は満たしやすいが、内科系を中心とした医療機関には厳しい。

そもそも、地域包括医療病棟は尿路感染症、誤嚥性肺炎、呼吸器感染症、熱中症、低栄養などの内科系疾患の軽度急性期を受け入れる役割を求めているが、それらの症例にそぐわない重症度、医療・看護必要度が厳しすぎるという矛盾を抱えている。

また、入院時と比較して退院・転棟時にADLが低下した患者の割合が、直近1年で5%未満」の要件も内科系を中心とする医療機関には厳しいものである。

整形外科の手術患者が多い医療機関では入院後から退院までに右肩上がりにADLは回復するが、内科系では廃用症候群の回復に時間かがかかりADLが低下する症例も多い。

逆に言えば、整形外科の救急が多い医療機関であれば地域包括医療病棟への転換は検討の余地があると言える。

一点、留意しなければならないのは、地域包括医療病棟は平均在院日数が21日であるために、地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟と比較して病床の回転率が高いことである。

そのため、高齢者数の増加が高止まりの地域や、他の医療機関が地域包括医療病棟へ転換するなどの環境変化により地域包括医療病棟の稼働率が低下する可能性がある。

また、平均在院日数21日以内を達成するためには、退院調整や退院後の後方連携のマネジメントが重要となる。

訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションなどの退院後の生活をフォローする介護保険事業所との連携は今以上に図る必要があるだろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

今こそ、リハビリテーション部門はコンプライアンスを見直せ!

近年、リハビリテーション分野におけるコンプライアンス違反が続発している。

ブログを作成している日の直近においてメディアの報道されただけでも次のようなものがある。

三重県某医療センター
リハビリテーション実施計画書の未作成による4から5億の返還
ソース:
https://news.yahoo.co.jp/articles/6a7518a1ffa650784e93e5ece2e3aea44d34f901

京都府某医療センター
リハビリテーションの提供時間を偽りカルテに記載した
ソース:https://nordot.app/1137319380058570921?c=768367547562557440

兵庫県某子ども発達支援センター
障害児のリハビリテーション計画書の未作成
ソース:https://www.kobe-np.co.jp/news/hanshin/202103/0014165302.shtml

その他、理学療法士による性的暴行、作業療法士によるひき逃げなどリハビリテーション部門やリハビリテーション職種の不祥事が絶えない。

近年、コンプライアンスは競争優位性を高める要素として再評価されている。

なぜならば、コンプライアンス違反をすると一発で企業経営が破壊される可能性があるからである。

医療や介護の事業は地域や患者との信頼関係が前提となっている。

あの病院が不正請求をしている
あの理学療法士が飲酒運転をして捕まった
あの介護事業所が虐待をしている
などが「ある」と最初から疑っている患者・家族・紹介元病院などはいない。

もし、皆さんはコンプライアンス違反がある医療機関や介護事業所と知っていれば、そこのサービスを積極的に受けようと思うだろうか?

普通は、サービスを受けたいとは思わない。

つまり、医療や介護事業は性善説に基づいてサービスが提供されているため、もし、甚大なコンプライアンス違反があった場合は、一瞬で地域や患者から見放される。

近年、リハビリテーション部門のコンプライアンス違反で多いのは不正な単位請求である(図)。

図 コンプライアンス違反が著しいリハビリテーション部門

リハビリテーション部門の不正請求の原因は、売上重視の運営であることが多い

単位数の過剰なノルマ設定や単位数を人事考課の材料として重視している場合、不正請求が起こりやすい。

単位数のノルマ設定や人事考課で単位数を評価すること自体に問題があるのではなく、本来のリハビリテーション医療の在り方が欠如しているという倫理観の欠如が問題である。

いわゆる、モラルハザードである。

モラルハザード
組織が利益追求に走るあまり、本来踏むべき手続きを無視したり、自己責任原則を欠くなどの状態

診療報酬・介護報酬には算定ルールが明確に定められている。

そして、何よりもリハビリテーションの本質は、患者の全人間的復権の支援である。

リハビリテーションの本質を忘れ、利益重視に走る姿勢がこびりついている体質のリハビリテーション部門は、いつの日かその体質が世間に露呈し、組織が瓦解する可能性高い。

今日においては、コンプライアンスは重要な経営戦略の一部であることを認識するべきである。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

2025年/2040年/2055年問題に医療機関・介護事業所・リハビリテーション部門は対応できるか?

日本の医療・介護を取り巻く環境はかなり厳しい・・・。

そんな、話を聞いたことはないだろうか?

日本の医療・介護を取り巻く環境は厳しくなるのは事実であり、環境変化を乗り越えなければ医療機関・介護事業所・リハビリテーション部門は廃業や事業縮小が現実的なものとなる。

それでは、具体的に「何が」厳しくなるのだろうか?

2025年問題
2025年に「団塊の世代」800万人全員が75歳以上の後期高齢者となる。

つまり、2025年は超高齢社会に完全突入する年である。

超高齢社会なることにより次のことが懸念される。

医療費・介護費の増大
社会保険料の増加
高齢経営者による事業継承問題
少子高齢化による医療体制の変化

2000年当初から今日まで行われてきた政府の政策や診療報酬・介護報酬改定は2025年問題の解決を目指して行ってきたものである。

介護保険の創設
地域包括ケアシステムの導入
医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士等の医療従事者の増加
高齢者向け住まいの推進
在宅復帰/在宅療養/在宅看取りの推進
医療・介護サービスのアウトカム志向

今日、リハビリテーションが社会における重要なインフラとして機能しているので2025年問題の存在が大きかったと言える。

同時に、リハビリテーション分野や急拡大をしたため、リハビリテーション職種の人材育成、診療報酬・介護報酬におけるアウトカムの達成、売上確保などの課題が山積である。

2040年問題
1970年代に生まれた団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者となることで起きる問題である。

団塊ジュニアは800万人を超える人口である。

2025年から続いた高齢者の増加は2040年ピークを迎える。

そのため、2040年以降は次のような問題が生じる。

現役世代の労働者が急減し、介護、医療、保育、運送の分野で著しい人手不足となる
高齢者の死亡者数が増えてくるため、終末期におけるリハビリテーション職種の役割が増す
地域によっては高齢者が急減するため、医療・介護事業の継続が困難となる
公共施設・水道管・電柱・道路・橋などの老朽化が進む

特に、2040年以降は高齢者が減少していくため、地域によっては医療・介護事業は深刻な影響を受ける。

2025年問題の解決のために、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の増加させてきたが、2040年以降は本格名的な人余りの状況になる可能性がある。

2055年問題
日本の総人口が9000万人を下回り、高齢者率が40%になる。

現役の労働者1.3人で高齢者1人を支える状況となる。

そのため、社会保障費のひっ迫は確実で、医療・介護はより中・重度者向けの取り組みが強化され、軽症者の医療・介護はコストカットが行われると考えられる。

また、2055年には人工知能(AI)が進化しており、遠隔医療とセットでAIによる診察・診断が行われるだろう。

また、医療・介護の中・重度者へのシフトにより、リハビリテーション職種の終末期リハビリテーションの重要性が増す。

地域包括ケアシステムにより2025年問題に対しては一定の成果が出たと言える。

今後は、リハビリテーション職種は2040年/2055年問題を意識し、キャリアの在り方や人生の方向性を考える必要性があるだろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授