訪問看護における不正請求の背景とその原因

近年、訪問看護の現場において、難病患者に対する不正請求が頻発している実情は、医療業界のみならず社会全体に衝撃を与えている。

2024年9月にPDハウスの訪問看護不正請求事件は、同施設が実際に提供していない訪問看護サービスについて、虚偽の請求を行った不正行為が報道され、その後、弁護士による特別調査委員会にて総額28億の不正の疑いが報告された。

不正請求の手口は、実施実績の改ざん、架空訪問の記載及びサービス内容の過大な請求であり、その結果、医療保険制度から不正な収益を得る結果なった。

不正請求とは、本来提供されるべき医療サービスの実態を反映しない虚偽の報告や過大な請求を行う行為であり、患者や保険者に経済的損失をもたらすのみならず、医療制度への信頼を著しく損なうものである。

難病患者はコミュニケーションや記憶力が低下している人も多く、訪問看護サービスの中身について把握が不十分である。

そのため、提供実態の確認は訪問記録等に依存するため、虚偽の記録や架空の訪問が行われるリスクが高い。

また、患者の自宅で訪問看護サービスが行われる場合、非管理空間でサービスが提供される点も不正請求の原因となりやすい。

施設内の医療機関と異なり、訪問看護では実際の業務内容や訪問時間の客観的な把握が困難である。

このため、従業員や管理者による記録の改ざんや虚偽報告が見過ごされやすく、不正請求の温床となり得るのである。

また、経営者が不正請求に走る背景には、厳しい財務状況や収益確保のプレッシャーが存在する。

訪問看護事業は、診療報酬の枠内で運営されるため、人件費や運営コストの増大が収益の圧迫要因となる。

経営状態が悪化すると、利益確保のために実態以上の請求を行う誘惑が生じ、結果として不正請求に手を染める事例が散見される。

このような不正行為は、経営の短期的な改善策として選択されることがあるが、長期的には業界全体の信頼性を損なう重大なリスクにしかならない。

さらに、業界内における倫理観の低下や、成果主義の過剰なプレッシャーも一因として考えられる。

訪問看護事業者は、業績向上や数値目標達成が強く求められる状況下では、数字を優先する風潮が助長される。

これにより、本来の患者ケアを軽視し、不正な請求によって数字を水増しする行為が発生するのである。

不正請求の根絶には、事業者内部の統制強化、行政や保険者による厳正な監視、さらには業界全体での倫理意識の向上が不可欠である。

今後、より一層、行政の指導・監査が強化される可能性が高い。

訪問看護の事業所においては内部監査体制や倫理教育の実施が欠かせない。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

リハビリ職種の職人肌キャラに管理職が務まらない理由

リハビリ職種においていわゆる「職人肌」の人が管理職に向かない確率が100%に近い。

臨床は熱心なのに、管理業務は稚拙・無関心である。

なぜ、こんなことになるのか?

次のようなことが原因と考えられる。

1. マネジメントと専門技術の違い
職人肌の人は、自分の技術や知識を極めることに価値を見出しやすく、臨床に強いこだわりを持つ。
しかし、管理職の役割は「組織を運営し、チームをまとめ、成果を最大化すること」であり、個人の技術力とは異なるスキルが求められる。
個人からチームへ関心を向けることが難しいという根本的な問題を抱えている。

2. チームワークの軽視
職人肌の人は、自分のやり方にこだわりが強く、「自分が正しい」という意識が強い。
そのため、チームメンバーの意見を聞かず、一方的に指示を出したり、部下のやり方に不満を持ったりする。
リハビリテーションは多職種が連携して利用者にケア・リハビリテーションを提供する場なので、コミュニケーション不足や協調性の欠如は大きな問題になる。

3. 業務の属人化と育成の難しさ
「自分のやり方がベスト」と考える職人肌の人は、標準化された業務プロセスを作るのが苦手である。
標準化された業務がないため、部下が成長する機会を奪ったり、管理職本人が不在になると業務が滞ったりするリスクが生じる。

4. 視野の狭さと経営視点の欠如
職人肌の人は、臨床の細部にこだわるあまり、組織全体の利益や経営的な視点を持ちにくい。
リハビリテーション部門の管理職には、患者の満足度だけでなく、コスト管理、人材確保、業務効率化などの視点が求められるため、「良い臨床を提供すること」だけは、組織運営が困難となる。

職人肌を管理職にしないためには、専門職と管理職の複線型のキャリアパスを運用することが効果的である。

専門職コースの設置:技術や技能を極める「スペシャリスト」
管理職としてチームを率いる「マネージャー」
の2つキャリアパスを明確にすることが大切である。

管理職に向いていない職人肌の人を無理に昇進させると、本人も周囲も苦しくなる。

「管理職にならないと出世できない」という風潮をなくし、専門職として活躍できる道を整備することも重要である。

投稿者
高木綾一

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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

成果主義が強すぎる医療機関・介護事業所の課題とは?

近年、診療報酬・介護報酬改定にてアウトカム志向が強くなったことや、経営不振の医療機関や介護事業所が増えたため、成果主義を導入するケースが増えている。

成果に応じた評価や報酬制度は、スタッフのモチベーション向上や業務効率化に貢献する一方で、成果主義が過度に強調されると、現場にさまざまな課題をもたらす可能性がありある。

成果主義が強すぎると次のような問題点が生じやすい。

1. 患者・利用者本位のケアが後回しになる
医療や介護の現場では、患者や利用者の満足度が最も重要ですが、成果主義が強くなると、数値目標の達成が優先され、適切なケアが後回しになる危険がある。
例えば、医療機関であれば診療回数や手術件数の増加を求められ、必要以上の治療が行われるリスクがありある。介護事業所では、利用者の満足よりも契約数や稼働率が重視されるケースもある。
実際に、成果主義が原因となる不正請求も頻発しており、地方厚生局の摘発が相次いでいます。

2. チームワークの低下
医療や介護はチームでの連携が欠かせない。
しかし、個人の成果を重視するあまり、職員間の協力が薄れ、情報共有が不十分になる可能性がある。
特に介護現場では、多職種が連携しながらケアプランを立てる必要があるため、成果主義が強すぎるとチームワークが崩れ、結果的に利用者へのサービスの質が低下する。

3. メンタルヘルスへの悪影響
厳しいノルマや数値目標の達成が求められると、現場のスタッフに大きなストレスがかかる。
疾患別リハビリでは一日18単位以上のノルマが課せられていることが多い。
毎日18単以上を算定すると、カンファレンス、家屋評価、多職種連携などの時間が確保できない。
このような環境で働くとリハビリ職員のモチベーションが低下する可能性が高い。

4. 長期的な視点の欠如
医療や介護は、単なる数値目標では測れない「質の高いケア」が求められる分野である。
しかし、成果主義が強くなると、短期的な業績ばかりが評価され、長期的な視点での改善が後回しになる。
例えば、職員の教育やスキルアップの機会が削られ、結果的に組織全体の成長が阻害されるリスクがある。

確かに、成果主義は適切に導入すれば、医療機関や介護事業所の効率化やサービス向上が図れるかもしれない。

しかし、過度な成果主義は、患者・利用者本位のケアの低下、チームワークの崩壊、スタッフの負担増加、長期的な視点の欠如といった問題を引き起こす可能性があり、現場の実情を考慮しながら、バランスの取れた評価制度を導入が望まれる。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

稼働率には興味があるが加算算定に関心のない医療・介護の経営者は提供しているサービスの質を軽視している人である

厳しさを増す医療・介護分野において、財務管理は最も重要な経営管理である。

財務管理を行うことで、経営上の課題が見つかり、取り組むべき医療や介護サービスを検討することができる。

経営の目的は利潤を上げることなので、財務を軽視した経営などあり得ない。

しかし、財務管理の視点が「売上=稼働率」という視点という偏った考えをもつ経営者が多い。

確かに、稼働率は医療・介護経営の売り上げに最大のインパクトを与える要素である。

そのため、稼働率にしか関心がない経営者がいるのも理解できる(図1)。


図1 稼働率に興味があるが加算には興味がない経営者

しかし、稼働率は直接的な医療や介護の質を表すものではない。

稼働率には地域の医療・介護資源の過不足、地域連携室の力量、立地条件なども大きな影響を与え、必ずしも医療や介護の質が高いから稼働率が高いと言うものではない

よって、真に質の高い医療や介護を提供したいと考えるならば、医療や介護の質を表現する加算の算定に関心を持つべきである。

質の低い医療や介護を提供して売上を上げているのであれば、それは企業倫理や職業倫理に抵触する可能性がある。

また、加算を算定せず、稼働率重視の売上の文化が増長すると、不正請求や運営基準違反などのコンプライアンス真っ黒な組織に近づいていく可能性もある。

さらに、加算を算定しない場合、近い将来、経営の危機に陥るリスクが高まる。

なぜならば、診療報酬・介護報酬改定における加算は政府が医療や介護に求めるサービスの水準を明示したものである。

そして、加算が新設されてから、4年から6年ほど経過すると、新設された加算は基本報酬に包括化され、加算によるサービスは標準化されてしまう。

つまり、加算算定に取り組まなければ、いずれ基本報酬を算定することすら難しくなる。

加算は医療や介護のサービスの質をアップデートし、経営を安定させる重要な経営管理の対象である。

リハビリテーション部門としては常に新しい加算に関心を持ち、経営者に加算算定の必要性について説明をしてほしい。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

専門性を極める症候群が逆にキャリアを阻害する

リハビリ職種のキャリアデザインでは、大半の人が自らの専門性を高める取り組みを行うことが多い。

リハビリ職種として「専門性を高めることに重きを置いている価値観」がある人が専門性を高める取り組みを行うことは何ら問題がない。

問題は、「専門性を高めることに重きを置けない価値観」の人が専門性を高める取り組みを行い、そのことにより、ストレスを感じていることである(図1)。

図1 専門性を極める症候群はストレスを生む

リハビリ職種は、専門職であることから一定の専門性を高めることは重要である。

しかし、専門職を高めることに固執をしてしまうと、自身の興味・関心のある分野に取り組むことを躊躇してしまう。

リハビリ職種は、「専門性を高めることが重要である」と学生時代から教育されてきた。

また、PT・OT・STの職能団体も専門性を高めることがリハビリ職種として重要であることを啓蒙し、それに基づいた認定資格の取得を推奨している。

リハビリ職種が「専門性の向上」以外のキャリアを歩むことは、「悪」であるという文脈が作られていると言っても過言ではない。

そのため、リハビリ職種の中には、他の分野に興味はあるが、それがリハビリ職種の専門性とは異なる分野のために、取り組むことが出来ない人がいる。

さらに、「リハビリ職種なのに他の分野に興味を持つ私は最低な人間だ」と自己嫌悪に陥る人までいる。

まさにこれは、専門性を極める症候群がキャリアを阻害している事例である。

リハビリ職種はリハビリの専門性に固執しなければならないというのは典型的なベーシックミステイクと言える。

ベーシックミステイク
人は物事を受け取り方を悪い方向性に解釈し、正しい認知を歪めてしまう

「リハビリ職種=専門性の向上こそがキャリアデザインである」というのは本人が勝手に思い込んでいることであり、リハビリ職種であっても他の分野に興味があるなら、他の分野で自らの才能を伸ばすことの方がよっぽど合理的である。

かく言う私も理学療法士という職種ながら、マネジメントやキャリアデザインといった他の分野でキャリアを構築している。

もし、理学療法だけに固執をしていれば、今の自分はいないと断言できる。

キャリアデザインは、その人らしさを発揮することが目的の一つである。

その人らしさを発揮できない専門性の向上であるならば、専門性の向上はキャリアデザインを阻害する要因にしかならない。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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