皆さんが勤めている医療機関・介護事業所は「組織は戦略に従う」経営をできていますか?

米国の経営学者であるアルフレッド・チャンドラーは「組織は戦略に従う」と述べた。

「組織は戦略に従う」の意味は、次のようなものである。

外部環境の変化により、戦略の変更が迫られる。

外部環境変化により新しい課題が生まれ、その課題を解決するための戦略が必要である。

その次には、戦略の実現に適した組織を創らねばならない。

この場合、組織の創りとは組織編制などのハード面だけではなく、採用、評価、報酬、配置と異動、昇進、退職・解雇能力開発のソフト面も含むものである。

医療や介護を取り巻く環境は長期的にも短期的にも大きく変化している。

経営を存立させるためには、一定の利益を生み出し続けなければならない。

マネジメントが弱く、意思決定の知遅延や意思決定の実行能力の低い医療機関や介護事業所は、「一定の利益」を確保するための戦略を社内に打ち出すが、全く組織が反応することが出来ない状況に陥ることが多い。

どれほど戦略が正しくてもそれが実行できないのであれば経営的には何の意味もないと言える。

戦略は思いつくが、それを実行させる方法は思いつかない医療機関や介護事業所は確実に数年後、利益がじり貧となっていく。

以上のようなことから、医療や介護のマネジメントで大切なことは、「平素から戦略実行させる組織作り」だと言える。

ワンマンオーナーや指示命令しか出せないボス型の経営者や管理者は「戦略実行の指示・命令」は得意であるが、組織作りの中核であるソフト面への介入が乏しいため、「笛吹けど踊らず」の状況となる。

診療報酬改定・介護報酬改定は定期的に行われる。

そして、日本の人口動態も10年単位で大きく変わる。

このような状況で、「戦略実行の指示・命令」しかできない経営者や管理者はむしろ経営を悪化させるために存在していると言える。

「戦略は実行してなんぼ」

「実行できないないのは平素からの組織作りが乏しいか」

を意識して経営に臨む姿勢が求められている。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

リハビリ部門マネジメントの課題 ワークライフバランスの誤解

ワークライフバランスの概念が医療機関や介護事業所のマネジメントに浸透して久しい。

なんとなく、「働きやすい職場=ワークライフバランスを実現している出来る職場」という考えが定着している。

しかし、経営者、管理者そして従業員も「ワークライフバランスとは何者なのか?」について明確に理解していることは少ない。

現実的にはワークライフバランスを導入したことにより
単位数減少等の生産性が低下した
セラピストの人手不足が生じた
セラピストの質が低下した
などの問題が全国各地のリハビリ部門で生じている。

具体的には以下のような問題が多い。

①多様な価値観を受け入れているとそれぞれの職員の考えがばらついてしまい、組織として同じ方向性を向くことが出来ない

②残業等を削減するため、セラピストの技術や知識を高めるための教育が乏しくなり、質の低いセラピストが増えた

③家庭の事情を最優先させ、組織に協力的ではない職員が増えた。

これらの問題が生じる根本的な原因は、「ワークライフバランスの誤解」である。

ワークライフバランスの真の意味を理解せずに組織のマネジメントに導入した結果、多くの問題を抱えることになっているのである。

ワークライフバランスの誤解には以下のようなものがある。

誤解①
仕事も生活も「そこそこに」で行う

最も多い誤解に、「ワーク・ライフ・バランスは仕事も生活もほどほどにして両立する」がある。

仕事や生活に手を抜いたり、妥協することがワークライフバランスではない。

「仕事や生活の双方が自分にとって充実したものにする」ために、「仕事や生活を含む人生を良くするために自分らしい働き方をする」を前提とするものである。

誤解②
ワークライフバランスは女性のための取り組みである。

出産や子育てといったライフイベントが多い女性が組織内で活躍するためにワークライフバランスは必要である。

しかし、子どもが生まれて親となるのは男性も同じであり、また、親の介護は性別や年齢に関係なく生じるライフイベントである。

よって、ワークライフバランスは年齢や性別を問わず全ての働く人を対象にした取り組みである。

誤解③
ワーク・ライフ・バランスは、会社が実現させるもの

働きやすさや自分の思い描く働き方の実現は会社や組織が提供してくれるという姿勢ではワークライフバランスは実現できない。

ワークライフバランスは、組織の制度を活用して働く一人ひとりが実現させるべき極めて主体的なものである。

そのためには、「会社が求めている仕事の結果」と「自分がどのように生きていきたいのかという価値観」を知り、その実現のために主体的に行動する必要がある。

誤解④
残業のない会社=ワークライフバランスを実現している会社

残業のない会社は定時時間内に成果を出すことが要求される。

時間内でリハビリテーションのサービス、書類作成、業務連絡などをすべて完了させなければならない。

したがって、ワークライフバランスを導入している会社は高い生産性が必須条件となる職場である。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

2024年度介護報酬改定に通所リハビリは対応できるだろうか?

2024年度は診療報酬・介護報酬の同時改定が行われる。

今回は、介護報酬改定の中でも通所リハビリの改定内容を予想してみたい。

居宅サービスの中でも、通所リハビリの収支差率は低い。
※収支差率・・利益がどれだけ出ているかを測る指標

令和元年のデータでは
訪問介護 2.6%
訪問看護 4.4%
訪問リハ 2.4%
通所リハ 1.8%
となっており、通所リハビリが特に厳しい経営状態であることが伺える。

介護保険制度開始以来、通所リハビリの「通所介護化」は一般化しており、通所リハビリと通所介護の区別がつかない人も多いのではないだろうか。

そのため、厚生労働省は通所介護とは異なる機能を持つ通所リハビリを実現するために、近年、様々な加算が新設している。

しかし、設定された加算に対応できない通所リハビリが多いため、通所リハビリの収支差率が低下していると考えられる。

このような背景を受けて、2021年度介護報酬改定の議論では厚生労働省は通所リハを「月単位の包括基本報酬」に移行することを提案した(図1)。


図1 月単位の包括基本報酬(案)

加算算定を極めて積極的に行う【強化型】
加算算定を相当程度行う【加算型】
加算算定をしない【通常型】
の3類型を設け、強化型>加算型>通常型の順で基本報酬に差をつけることが検討されている。

これは、現在、介護老人保健施設に導入されている5区分の基本報酬制度と考え方は全く同じである。

介護老人保健施設の5類型の機能分化は非常にうまくいっており、厚生労働省もこの成功体験より通所リハビリにも積極的に機能分化を推進すると考えられる。

通所リハビリの機能分化の類型は加算算定の有無が大きく影響すると考えられる。

リハビリテーションマネジメント加算
移行支援加算
生活行為リハビリテーション実施加算
短期集中リハビリテーション加算
入浴介助加算2
科学的介護推進体制加算
などの算定は上位区分に必須となるだろう。

また、これ以外にADL維持向上・病院との連携・セラピストの配置数なども上位区分の評価となる可能性がある。

このように機能分化の類型が定められることにより、通所リハビリは間違いなく二極化すると考えられる。

二極化することで通所リハビリ事業の撤退を考える事業所も出てくると考えられる。

2024年度介護報酬改定では通所リハビリに修羅場が訪れることだろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

組織の作り方の基本はビジョンを組織に宿らせることである

筆者が医療機関や介護事業所に対してコンサルティングをしていると、経営者や管理者より
「うちの職員はレベルが低いから、質の高いサービスはできませんよ」
「従業員が退職したら困るので、業務に関して強く指導することが出来ない」
などの意見をよく聞くことが多い。

このような発言の背景にあるものは何であるだろうか?

組織の作り方は二つある。

組織の能力から会社のサービスを規定する方法

会社のビジョンから組織を規定する方法
である。

先ほどの事例の会社は「組織の能力から会社のサービスを規定する方法」を選択していることになる。

しかし、この方法ではいつまでたっても会社のビジョンを達成することは出来ない。

それではなぜ、「組織の能力から会社のサービスを規定する方法」を選択してしまうのか?

それは、「今さえよければよい運営」を選択している他ならない。

「毎日がただ平穏無事に終わる」
「離職されたら現場が大変なので辞めないように低負荷の業務を与える」
「新しいことに挑戦すると失敗するかもしれないので、挑戦的なことはしない」
「職員が仲良しこよしで、ぬるま湯の家族的な運営」
「今さえよければよい運営」の代表事例である。

「今さえよければよい運営」は早晩、運営危機をもたらす。

なぜならば、事業を取り囲む外部環境の変化に「今さえよければよい運営」は全く適応できないからである。

例えば、診療報酬改定や介護報酬改定、人口動態の変化などに適応するためには、常に未来予測をした事業運営が必要となる。

そのためには、「会社のあるべき姿=ビジョン」を常に掲げ、「会社のビジョンから組織を規定する方法」の実践を模索する組織でなくてはならない。

あくまでも、「組織は会社の戦略目的を達成するための手段」である。

しかしながら、「組織の能力から会社のサービスを規定する方法」を選択している会社では、組織は存在することが目的になっている。

組織の存在が目的化すると、事業の本質は見えてこない。

また、「会社のビジョンから組織を規定する方法」では、組織に対するアプローチは常に行われる。

その代表格が「人材育成」である。

すなわち「人材育成」も会社の戦略目的を達成するための手段である。

皆さんの会社の人材育成は会社の戦略目的を達成するために存在しているだろうか?

人材育成を通じて会社のビジョンを組織に宿らせることが出来ているだろうか?

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

 

人材マネジメントにおける適材適所を考える

医療機関や介護事業所で人材マネジメントを担当している方は人事を行う上で「適材適所」というキーワードで悩んだことはないだろうか?

適材適所とは
その人の能力・性質によくあてはまる地位や任務を与えること
である。

この適材適所を考える上で重要となる理論が、特性因子理論である。

特性因子理論はいわゆるマッチング理論と呼ばれており、その人の特性と仕事の特徴が合致することを重視している。

特性因子理論は
人はそれぞれ異なる
興味や
能力や
価値観を
一貫性をもって有していることを前提にした理論である。

個人と仕事の特徴が合致しなければ、個人は仕事に対して不適応を起こし、パフォーマンスの低下を起こす。

医療機関や介護事業所でも次のような人は多い。

事務作業は正確に行えるが、患者や家族とのコミュケーションに問題がある。
専門性の高い業務が極端に苦手である。
職人肌であるが周囲との協調性に欠ける。

現場業務では高いパフォーマンスを発揮していたが、管理職になった途端にパフォーマンスが低下する。

このような問題は、人材不足によって個人の特性を無視した人事配置や人事異動が行われやすい職場で起こりやすい。

医療機関や介護事業所などで慢性的に人手不足が生じている組織では、人手不足が生じた時に、人の仕事に対する向き不向きなどを配慮しない強引な人事配置が行われることが多い。

①管理業務に不向きなセラピストを役職に配置する
②学生指導に不向きなセラピストに実習指導者を割り当てる
③コミュケーションが不得意なセラピストに外部とのやり取りが多い訪問リハ業務を担当させる
などはよくみられる光景である。

これらは適材適所ではなく、単なる自転車操業的な人員調整である。

このように人の特性を無視した人事配置や人事異動は「生産性の低下」という非常に深刻な問題を組織にもたらす。

「生産性の低下」とは時間当たりに生み出すことができる仕事の量や質が低下することである。

「生産性の低下」を認める職員がいた場合、「適材適所な人事配置が出来ていない」ことを疑うべきである。

適材適所の人事配置を実現するためには次のような方法が有効である。

①1 on 1 ミーティングを実施する
上司と部下が1対1で行うミーティングを行う。このミーティングは、業務命令や指導を行うのではなく、部下が現在の仕事をどのように感じているか?という興味、関心、価値観を確認することである。これにより今の業務に対する適性やモチベーションなどを評価することができる。

②従業員のパフォーマンス評価
人材配置後は定期的に従業員のパフォーマンスを確認し、パフォーマンスの低下を認めた場合、パフォーマンス低下の原因の考察と人材の再配置を検討する。生産性が低下した人材配置が継続する組織では、人材配置後のパフォーマンスの評価を疎かにしていることが多い。

また、個人としても適材適所の人材配置を得るためには努力が必要である。

「自分に向いている仕事はこれである!」と決めつけると仕事に対する視野や可能性を自ら閉ざしてしまうことになる。

むしろ、多くの仕事を経験することで自分の興味・関心・価値観が広がっていき、仕事に対して複数の選択肢を持つことが可能となる。

複数の選択肢を持つことが出来れば、人事配置における適材適所の可能性を高めることにもつながる。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授