これからのリハビリ部門運営のキーワードは「生産性向上」!

リハビリテーション部門は出来高部門である。

そのため、医療機関や介護事業所の経営者や管理者はリハビリテーション部門にできるだけ多くのレセプト算定につながる行動を求める。

医療機関であれば、一日18単位
訪問リハビリなら一日6件
通所リハビリならハマネ加算算定80%以上
などのノルマが課せられることが多い。

確かに、売上確保のためのノルマの設置は、組織運営にとって重要であり、安定的な売り上げなしに組織を持続させることはできない。

しかし、売上を維持・向上させていくときに、留意しなければならない点がある。

それは、仕事における生産性を高め、最小の努力で最大の効果を出す組織作りである。

毎日の業務を疲労困憊・忙殺の状態で続けることは困難である。

よって、事務作業、情報収集、患者対応などを効率的に行い、臨床にあてる時間を増やしていくことが重要となる。

経営者や管理者が生産性向上のための取り組みを怠ると、現場で働くリハビリ職種のモチベーションは確実に低下する(図1)。

図1 生産性の向上の取り組みが乏しいため忙殺されるリハビリ部門

国は、医療や介護の生産性向上を国策としている。

患者の高齢化が進んでいること
高齢者の数が急増していること
社会保障費の財源が厳しいこと
認知症患者が増えていること
多職種連携の必要性が増していること
などの理由から生産性向上が必須と考えられている。

このような背景より2024年度介護報酬改定において生産性向上推進体制加算が新設された。

生産性向上に資する取り組みを行い、その効果判定を行えば算定できる加算である(図2)。

図2 生産性向上推進体制加算の概要

この加算は非常に画期的なもので、生産性の向上に関するコストを加算算定により回収できる仕組みになっている。

生産性向上推進体制加算が組織運営にとって良い影響を与えることができれば、今後、診療報酬改定にも導入される可能性がある。

リハビリ部門の生産性向上に次のような取り組みが報告されている。

1)電子カルテの導入
2)業務連絡ツールの導入
3)看護部門とリハ部門のスケジュールの可視化
4)リハビリテーション計画書のテンプレート化
5)研修のオンライン化
6)トランスファー技術の獲得
7)評価ツールの電子化

今後、こういったことに取り組まずに売上目標だけを追いかけるリハビリ部門は疲弊し、リハビリ職種の不満が鬱積し、離職など取り返しのつかない事態が生じるだろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

2026年度診療報酬/2027年度介護報酬改定の強化ポイント 医療機関退院後の早期リハビリの実現

地域包括ケアシステムの構築が進み、日本のヘルスケアシステムは大きく変化した。

その代表的なものが、「病院から在宅へ流れ」が市民権を得たことではないだろうか?

2010年以降に始まった地域包括ケアシステム推進の政策によって、「医療機関に長期間入院すること」や「看取りを病院で行うこと」が当たり前であった時代に終止符が打たれ、原則、全ての患者は在宅に復帰することを前提とする仕組みが導入された。

急性期・回復期・慢性期医療の機能を持つ医療機関に対しては在宅復帰を用いたアウトカム報酬が設定され、また、在宅復帰後の患者を受け入れる介護保険事業所や高齢者向けの住宅の整備も一気に進んだ。

このように在宅復帰のインフラの整備は進んだが、在宅復帰や在宅復帰後の生活を支えるプロセスには大きな課題が山積している。

その一つが、医療機関退院後のリハビリテーションサービスの遅延である。

急性期病院や回復期リハ病院を退院後、在宅リハビリテーションが必要な患者は多い。

しかし、退院後に在宅リハビリテーションの開始が遅れたために、入院中に獲得したADLが在宅復帰後に低下する例は多い。

介護給付分科会においても、同様の指摘されており2024年度診療報酬・介護報酬における課題として位置づけられている(図1)。

図1 訪問リハビリ・通所リハビリの利用開始が遅れるとADLの回復は乏しくなる

2024年度診療報酬・介護報酬改定では医療機関退院後の早期リハビリの実現の施策として次の項目が新設された。

①訪問リハビリ・通所リハビリの参加による退院時共同指導加算
訪問リハビリ・通所リハビリにおいて、「医療機関からの退院後に介護保険リハビリを行う際、リハビリ事業所の理学療法士等が医療機関の『退院前カンファレンス』に参加し、共同指導を行う」ことを新たに設ける【退院時共同指導加算】(1回600単位)で評価する。

②医療機関と介護保険リハビリ事業所のリハビリテーション計画書の共有
訪問リハビリ・通所リハビリにおいて、「入院中にリハビリを受けていた利用者に対し退院後の介護保険リハビリ計画を作成するに当たり、入院中に医療機関が作成したリハビリ実施計画書を入手し、内容を把握する」ことを義務付ける。

③入院中の主治医の意見をケアプランに反映をさせる
居宅介護支援、介護予防支援(訪問リハビリ、通所リハビリ)について、ケアマネジャーがケアプランに通所・訪問リハビリを位置づける際に意見を求める「主治の医師等」の中に「入院中の医療機関の医師」を含むことを明確化する。

④入院中の主治医から訪問リハビリの指示が出た場合は、診療未実施減算を適用しない
医療機関に入院し、リハビリテーションの提供を受けた利用者であって、当該医療機関から、当該利用者に関する情報の提供が行われている者においては、退院後一ヶ月以内に提供される訪問リハビリテーションに限り、診療未実施減算は適用されない。

これらの項目によってどれほど早期リハビリに効果があるかについて、今後、調査が行われ、次回の診療報酬・介護報酬改定に反映されることになる。

筆者は次回の診療報酬・介護報酬改定において早期リハビリを促進するために次のような改定が行われると推測する。

①機能強化型訪問リハビリの創設が検討されており、その運営基準の中に退院退所後の早期リハビリの開始が要件化される。

②回復期リハビリテーション病棟の運営基準に退院後の早期リハビリの開始が要件化される。

③通所リハビリの大規模が通常算定するための要件に退院退所後の早期リハビリの開始が追加される。

また、ケアプラン作成における課題も大きい。

ケアプラン作成時には看護と介護サービスの導入が第一に検討される傾向が強い。

これは疾患の予防や生活再建が第一に考えている介護支援専門員が多いことが原因と考える。

逆に言えば、リハビリテーションが軽視されていると言っても過言ではない。

様々な加算要件に早期リハビリを導入しても、ケアプラン作成におけるリハビリテーション前置主義が浸透しなければ、早期リハビリの実現は困難とみる。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
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理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
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修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

たまに現場に来て、現場を混乱させる経営者は嫌われる

先日、私のクライアントより「うちの経営者は現場に顔を出さないんですよね。そのくせ、リハビリや介護の業務や仕組みも全く知らないのに思いつきで色んな命令をしてくるので、みんなやる気を失っています」と聞いた(図1)。

このように医療や介護の現場において上司と部下の信頼関係が破綻している事例は多い。

このような職場は、離職率が高い、従業員のモチベーションが上がらない、良いサービスが提供できずに経営が行き詰まるなど何一つ良いことが起こらない。

図1 たまに現場に来て、現場を混乱させる経営者

上の立場にいる人が部下に影響力を与えるために必要な要素に信頼がある。

Edwin.P.Hollanderが提唱した信頼蓄積論は
「リーダーシップの有効性は、フォロワーから獲得した信頼の獲得の有無によって決まる」と説明している。

この理論は、肌感覚でもわかりやすい。

どれだけ言っていることが正論でも信頼できない人からの意見は受け入れがたい。

そもそも、信頼していない人から意見されると、多くの人は「お前が言うな」という感情を持つ。

信頼を獲得するためには
同調性

有能性
が必要である1)。

同調性
リーダーがフォロワーから認められるために集団の規範を守ること

集団の規範に対して忠実であることをフォロワーに示すことで信頼を獲得できる。

有能性
リーダーは,集団に課題達成できるような能力を示す

集団もつ課業の達成に積極的に貢献することで,さらなる信頼を蓄積していくことができる。

つまり、現場に全く顔を出さない人が現場における業務のルールを全く知らずにとんちんかんな指示を命令し、現場を混乱させることは同調性と有能性の要素を全く満たしていないため、信頼が全くない状況と言える。

経営者や管理職が部下に対して影響力を発揮するためには
1)現場の業務内容、課題、ルールを把握し、従業員と共通言語を用いて話せるようになる。これにより同調性を発揮することができる。

2)現場の課題に対して、従業員が納得や感心したりするような提案や行動を取る。これにより、有用性を発揮することができる。

経営者や管理者は
指示命令を出すことが仕事であるが
その前提条件として、現場を知ろうとする努力や現場に寄り添う姿勢が満たさなければ、とことん現場から嫌われると肝に銘じなければならない。

1)小野善生:リーダーシップ論における相互作用アプローチの展開,関西大学商学論集 第56巻第3号.p40-53(2011年12月)

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

運動器疾患リハビリ 査定・返戻が多い問題

近年、中小病院や診療所における外来の運動器疾患リハビリの査定や返戻が増えています。

査定とは
医療機関の請求に対し、審査側が不適当と判断した項目の内容を修正(減額・減点など)し、調整された額で支払いが行われること

返戻
医療行為の適否が判断し難い場合に、審査側が一方的にレセプト自体を差し戻すこと

特に以下にようなケースで、査定や返戻が行われることが目立っています。

①運動器リハビリの2単位以上
術後や外傷の病名ではない場合に2単位以上の請求が査定・返戻される。
特に変形性膝関節症などの変性疾患では2単位以上の請求が査定・返戻される。

②85歳以上の方への運動器リハビリ
85歳以上の方への運動器リハビリは単位数が増えれば増えるほど、査定・返戻される傾向がある。
4単位以上は特に認められにくいことが多いが、術後であれば6単位の請求は通ることが多い。

③腱鞘炎、ばね指、テニス肘・アキレス腱炎などの過用や炎症性疾患
炎症性疾患にてADLの低下が著しくないと判断された場合、消炎鎮痛処置が適当が判断されることが多い。

④消炎鎮痛処置と疾患別リハビリを併用している場合
一つの医療機関で消炎鎮痛処置と疾患別リハビリを併用している場合、「消炎鎮痛処置のみで充分である」と判断され、疾患別リハビリが返戻される傾向がある。

⑤病名転がしをしている場合
算定上限日数の150日を迎えるタイミングで病名を変更している場合、個別指導にて相当数の人数のレセプトが返戻された事例が全国各地で認められている。
安易な病名変更は、審査機関で捕捉されていることを認識するべきである。

適正な保険診療(公平性・信頼性)を確保していくことが、公的医療保険制度の機能を守るために極めて重要であることから、医療機関における疾患別リハビリの請求は診療報酬ルールに則り正確に行うべきである。

投稿者
高木綾一

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リハビリ部門に必ず存在する評論家セラピストへの対応

リハビリテーション部門には必ずと言っていいほど、自ら行動や提案をすることなく、人の提案を批判する評論家セラピストがいる。

組織が大きくなればなるほど、評論家セラピストが増える確率が高くなる。

評論家セラピストは組織に害を与えることが多く、組織運営の停滞や士気の低下につながる。

そのため、評論家セラピストに対するマネジメントは極めて重要と言える。

では、なぜ、自ら行動をすることなく相手を論評するだけのセラピストがいるのだろうか?

それには次のような理由が考えられる。

①セラピストや社会人としての知識やスキルが低い
そもそも、コミュニケーション能力などのヒューマンスキルやリハビリテーションに関する知識が低いために、組織の課題に気づくことや他人に提案するだけの力量がない。
知識やスキルがない人ほど、一定の手順や原理原則に従うことで仕事をこなすため、組織の課題解決のための臨機応変な対応を苦手とする。
そのため、臨機応変な業務変更や行動を批判しやすい。

②相手に意見することで存在意義を高めようとする
セラピストや社会人として知識やスキルが低い人間が自分の存在意義を高めるために「人や組織に意見すること」で自分を誇示する。
あるいは、自分より能力の低い新人や消極的な人に対して、助言をすることで周囲のからの信頼を得ようとする。
しかし、普段から定型的な業務しかできないセラピストなので、色々な意見を言ったとしても周りからすると「お前が言うな」と思われているため、決して存在意義が上がることはない。

③保身の気持ちが強い
保身の気持ちが強いと「自ら行動し、失敗した時の周囲からの批判を恐れる」ため、行動や提案を控える気持ちが強くなる。
プライドの高い人ほど、周囲からの批判に耐えられないため、保身の気持ちが高い。

それでは社内評論家に対してはどのように対応をすればよいのだろうか?

以下のようなマネジメントを意識することが社内評論家の行動変容を流したり、評論活動を抑止することになる。

①組織が求めるのは自ら提案し、行動する人であることを明示し、そのような人を高く評価することを宣言すること。

②組織は自ら行動するギバーを必要とし、利益を甘受するだけのテイカーは不要であることを宣言すること。

③研修で得た内容を組織に対してアウトプットできる人材を育成すること。

これらの3点を組織内にて徹底することが社内評論家抑止につながる。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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