通所介護の無料体験は実はアウトな件

通所介護の利用を検討するにあたり、介護支援専門員や家族より「無料で体験できませんか?」、「お試し利用できますか?」などを依頼されることが多い。

私の知りうる範囲では、ほとんどの事業所が無料で料金を徴収せずに、通所介護の体験利用を実施していることが多い。

しかし、お試し利用や無料体験は、実際の利用者と相違ない料金を徴収することが多くの自治体での原則とされている。

某市の規定
体験利用の位置づけについて指定通所介護事業所における無料もしくは低額でのサービス提供は、利用者間の公平性の観点等から適正とはいえず、体験利用と称して、指定通所介護と同様のサービスを提供する場合には、利用者からその費用の10割の支払いを受ける必要があります。

しかし、実際は多くの事業所において介護支援専門員や家族の要請に応じて、無料でサービスを提供していることが多く、厳密には実施指導における指導対象となる可能性がある。

適正にお試し利用を実施するためには、有償の保険外サービスとして実施する必要がる。

介護保険サービスと同等の料金を自己負担してもらうことで保険外サービスとして認められる。

また、某市では次のように保険外サービスの規定を設けており、全国各地でも同様の措置が取られている。

1)介護保険のサービス提供に支障が生じないこと。
2)介護保険利用者を優先すること(保険外サービスの利用者がいることにより、介護保険利用者の利用を拒否しないこと。)。
3)定通所介護等において必要となる人員に加えて、余剰人員を1人以上確保すること。この場合、保険外サービスに従事している時間は、指定通所介護等における勤務時間には算入不可であること。
4)指定通所介護等の利用者と保険外サービスの利用者の合計数が、指定通所介護事業所等の定員を超過しないこと。
5)指定通所介護事業所等の職員以外が保険外サービスを提供する場合には、利用者の安全確保の観点から、当該提供主体との間で、事故発生時における対応方法を明確にすること。
6)提供した保険外サービスに関する利用者等からの苦情に対応するため、苦情受付窓口の設置等必要な措置を講じること。
7)なお、指定通所介護事業所等において既に苦情受付窓口の設置等必要な措置を講じている場合、当該措置を保険外サービスに活用することも可。
8)指定通所介護事業者等は、利用者に対して特定の事業者によるサービスを利用させることの対償として、当該事業者から金品その他の財産上の収益を収受してはならないこと。

ここで最大の問題は、「余剰人員の確保」である。

人員確保が難しい通所介護では非常にハードルの高い要件であると言える。

無料体験やお試し利用を実施している通所介護においては、管轄自治体の行政資料を確認し、実施指導の対象になる行為がないかの確認をするべきである。

違法行為をしている場合は、外部のステークホルダーだけなく、従業員にも不信を抱かせてしまう可能性があり、通所介護の運営が阻害される可能性がある。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

2021年度介護報酬改定を振り返る 訪問リハビリ編

訪問リハビリテーションの基本報酬は15単位増え、307単位/回となった。

この単位の増加はリハビリテーションマネジメント加算Ⅰの基本報酬への包括化の影響が大きい。

通所リハビリと同様にリハビリテーションマネジメント加算Ⅰが基本報酬に包括化されたことにより、基本サービスのブラッシュアップが必要な状況となった。

今回、訪問リハビリにさらに影響を与えたのは「診療未実施減算」である。

これまでは減算が20単位/回であったが、2021年度介護報酬改定により50単位/回にさらに引き下げられた。

診療未実施減算の算定率は15%-20%程度であったため、単位の減額による悪影響を受ける事業所が多い。

リハビリテーションマネジメント加算Ⅰの基本報酬への包括化
診療未実施加算の大幅減額
は訪問リハビリにおける医師の関りが乏しいことに対するペナルティーの意味合いが強い。

訪問リハビリを行っている診療所等は小規模の事業所が多く経営資源が乏しいため、事業所の医師のリハビリ会議や患者への説明や事業所全体のマネジメントを行う職員の育成が難しいため、今回の改定への対応が難しい事業所が多い。

また、今回、退院・退所から3か月以内に限り、週12回までの訪問リハビリの利用が可能となる規制緩和が行われた。

これは、在宅回復期としての機能を訪問リハビリに持たせようとするものであるが、患者の金銭的な負担や利用限度額の関係から週12回の利用をする利用者は少ないと考えられる。

12回利用の制度が新設されたことにより、既存の短期集中リハビリテーションの意味合いも薄れており、次回の改定では短期集中リハビリテーションの見直しも見直しが行われる可能性が高い。

さらに、訪問看護と訪問リハビリの機能分化も次回改定では加速する。

訪問看護や訪問リハビリにおけるリハビリテーションのサービスはアウトカムや利用者属性に関して明確になっていくと予測される。

投稿者
高木綾一

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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

2021年度介護報酬改定を振り返る 通所リハビリ編

2021年度介護報酬改定では通所リハビリに新たな方向性を示された。

今回のブログではリハビリテーションマネジメント加算Ⅰの基本報酬への包括化および生活行為向上リハビリテーション実施加算について解説をしたい。

【リハビリテーションマネジメント加算Ⅰの基本報酬への包括化】

通所リハビリはあらゆる時間区分において基本報酬が増加したが、これはリハビリテーションマネジメント加算Ⅰが廃止され、基本報酬に包括化されたことによるものである。

リハビリテーションマネジメント加算の算定率は90%を超えていたことから、加算区分としての意味をなさなくなったため、基本報酬に含まれた。

リハビリテーションマネジメント加算Ⅰの要件は次のようなものであった。

  • リハビリテーション計画を定期的に評価し、適宜計画を見直していること
  • 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が、ケアマネジャーを通じて、ご利用者が利用する他の介護サービスの職員に対して、リハの観点から日常生活の留意点、介護のアドバイス等の情報を伝達すること
  • 新規にリハ計画を作成したご利用者に、医師または医師から指示を受けた理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が、1ヵ月以内に自宅等を訪問し、検査等を実施すること
  • 医師から理学療法士、作業療法士、言語聴覚士に対して、リハの目的とリハ実施に伴う指示があること(開始前・リハ中の注意点、リハ中止の基準、ご利用者にかかる負荷)
  • リハ実施に伴う指示内容がわかるように記録すること

つまりこれらの内容は通所リハビリの業務として標準化されたものとなった。

リハビリテーションマネジメント加算Ⅰの包括化の意味は、通所リハビリの本来の意味をより明確にしたと言え、医師や理学療法士等のリハビリ職種がより協業し、リハビリの質を上げることが必須となったと言える。

通所リハビリは歴史的に老健や診療所のサテライトビジネスとして運営されてきた経緯もあり、経営者や医師の関りが乏しい傾向がある。

そのため、国が求める通所リハビリの機能が向上しない状況が続いていたが2021年度改定により今後は、リハビリ職種にお任せする運営スタイルは通用しなくなった。

【生活行為リハビリテーション実施加算の要件緩和】

生活行為リハビリテーション実施加算は要件が見直された。

この加算は算定率がなんと1%台という極めて危機的な状況にあるものだった。

その理由は、6か月間の算定期間を経過した場合、基本報酬が15%減算されるという条件があったために、ほとんどの事業所が同加算の算定に消極的であったと言える。

今回はこの基本報酬15%減算の条件が撤廃された。

この加算は、ADLレベルや活動参加レベルが疾病や急性増悪等により低下し場合に早期の集中的なリハビリテーションを提供する目的で設置されたものである。

また、この加算は急性期や回復期の退院患者の受け皿となり在宅回復期を実現する切り札と言えるものであった。

しかし、あまりの算定率の低さから、大幅な要件の緩和が行われた。

この変更により算定率は大幅に向上するはずであるが、もし、算定率が上がらない場合、通所リハビリはみずから在宅回復期としての役割を放棄していると判断される。

その場合、2024年度介護報酬改定で同加算は消滅してしまう可能性が高い。

投稿者
高木綾一

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介護保険施設/有料老人ホーム/サービス付き高齢者向け住宅の経営のキーポイント 入居者の入院率の抑制

老人保健施設、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住は全国的に整備されつつあり、近年では稼働率が低下し入居者の確保が厳しい施設が増えている。

人口密集地では競合する施設が多く、人口過疎地では高齢者人口の減少が生じている。

そのため、施設系事業所の入居者確保はより厳しさを増すことは必至である。

入居者確保がより難しくなるため、施設はいかに稼働率を落とさないかの取り組みが必要となる。

その一つが「入居者の入院率の抑制」である。

入居者が入院をしてしまうと空床となる。

たとえ、入院後に施設に戻ってくることがわかっていても、入院の期間中は介護報酬や入居費用を請求することはできない。

それでは、施設の入居者が入院する理由はどのようなものがあるのだろうか?

主に以下のようなものが入院の理由である。

・誤嚥性肺炎
・多剤性の副作用
・脱水
・尿路感染症
・転倒・転落による外傷

これらの予防には医師、看護師、セラピスト、栄養士、看護職の連携が必要となる。

例えば、誤嚥性肺炎の予防においては各職種に次のような役割が求められる。

医師:疾患による誤嚥のリスクや薬剤性の誤嚥の評価
看護師:口腔ケアや誤嚥の評価や支援
栄養士:栄養状態の評価や食事形態の改善
介護職:ポジショニングや食事介助の支援
セラピスト:嚥下機能や呼吸機能の維持・向上

つまり、各職種が利用者支援において共通した目的を達成するためにケアやリハビリテーションを提供することが誤嚥性肺炎等を予防し、その結果、入院を防ぐことになる。

また、各職種が目的をもってケアやリハビリテーションに取り組むことは、従業員のモチベーションアップや施設のブランディングにも好影響を与える。

また、2021年度介護報酬改定では科学的介護推進体制加算が新設され、介護保険のサービスにもアウトカム報酬制度が導入された。

ケアやリハビリテーションの質を高めることは介護報酬でも高く評価される方向にある。

つまり、入院の抑制を図るためのケアやリハビリテーションの取り組みは、稼働率の低下だけでなく、介護報酬としても評価される時代になったのである。

投稿者
高木綾一

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PT・OT・ST管理職あるある 一生懸命仕事をするけど、部下が成長しない件

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の管理職は総じてまじめな人が多い。

そのため、管理職を拝命すると一生懸命に組織のために働く。

毎日、忙しく仕事をしている管理職が大多数である。

しかし、そこに落とし穴がある。

「忙しくする」ことが管理職の仕事ではないということである。

管理職の仕事は「他人を通じて成果を出す」ことである。

つまり、「自分が動いて成果を出す」ことは管理職として不適格と言える。

「自分が動いて成果を出す」ことはたやすい。

しかし、この働き方は長続きしない。

なぜならば、「自分が動く」ことはいつか疲弊するため、持続可能な働き方ではないからである。

管理職の仕事は「組織や事業所の理念、ビジョン、課題を的確に把握し、経営目標の達成のために自分の部下に仕事を与え、その仕事を遂行させること」である。

しかし、部下とのコミュニケーションがうまくできない管理職は、部下に仕事を与えることが苦手なため、すべての仕事を自分で引き受ける。

そのため、周りから仕事をしているようには見えるが、部下の成長が見られないという現象を引き起こす。

部下が成長しないものだから、より仕事を与えにくくなり、さらに管理職が仕事を引き受けることになる。

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士で管理職を拝命する人は、平素からまじめに業務を行っている人が多い。

そのため、自分を忙しくすることがある意味、得意な人が多い。

しかし、この特性が管理職として不適切な行動を生んでしまう原因でもある。

管理職の方は、まず、自分が仕事をするのではなく、部下に仕事を与えることを第一に考えて管理職の責務を全うしてほしい。

投稿者
高木綾一

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