2024年度診療報酬改定 「高度急性期と急性期リハ病院の連携」という新しいシステムの導入

2024年度診療報酬改定では、「下り搬送」という新しい概念が導入されている。

下り搬送
救急外来を受診した患者や救急搬送後に入院した患者に対象として、連携する他の医療機関でも対応可能と判断する患者を転院搬送する。高度な機能を持つ急性期病院から、軽症・中等症の対応をしている急性期病院への患者の搬送を想定したものでる。

2024年度の診療報酬改定において下り搬送の議論が活発になったのは次のような理由からである。

1 高齢者人口の増加に伴い、尿路感染症、肺炎、手術を必要としない外傷(圧迫骨折)、感染症(インフルエンザ・ノロウイルス)などの軽症・中等症患者が増加している。

2 軽症・中等症の患者は高度急性期病院に搬送されることが多く、高度急性期病院のベッドが軽症・中等症の患者で埋まってしまう。

3 高度急性期病院のベッドが軽症・中等症の患者で埋まってしまうと、重症患者の受け入れが困難となる。

4 高度急性期病院にはリハビリテーション機能・介護機能が低いため、軽症・中等症の患者が寝たきりとなる傾向が強くなる。

このような課題を解決するために、2024年度診療報酬改定では下り搬送は「救急患者連携搬送料」として具体的な加算として創設された(図1)。

図1 救急患者連携搬送料(急性期病院から他の急性期への搬送)

救急患者連携搬送料の新設により、地域包括ケア病棟や新設された地域包括医療病棟が軽症・中等症の患者の受け入れを積極的に行い在宅復帰への取り組みを行う機能がより求められる。

また、救急患者連携搬送料の設定は、急性期病院の再定義につながると考えられる。

現在の急性期は一般急性期入院料1-6となっており、6段階で評価されているが、今後は、重症者に対応する一般急性期1のみが急性期扱いとなり、一般急性期2-6は急性期リハビリという位置づけになる可能性が高いと思われる。

2026年度改定では急性期病棟の集約化及び地域包括医療病棟の拡大の政策が行われると想定される。

これまでリハビリ職種の雇用の中心は回復期リハビリ・在宅医療が中心であったが、今回の急性期リハビリ強化に伴い、急性期におけるリハビリ職種の雇用が促進されると考えられる。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

2024年度介護報酬改定で通所リハビリは2極化する

2024年度介護報酬改定では、通所リハビリに大きな改定が行われた。

通所リハビリは月間利用者の延べ人数により、通常規模・大規模Ⅰ・大規模Ⅱと区分されそれぞれに基本報酬が定められていた。

介護保険発足当時より、時間単位の報酬は通常規模が最も高く、大規模Ⅱが最も低く設定をされている。

これは利用者の人数が多い大規模では、通常規模と比較して、スタッフの数が増加し、効率よくケアができることから人件費の圧縮が可能であることや、通常規模の方が利用者人数が少ないことから、個別ケアが出来ていると言う考えより、大規模より通常規模の基本報酬が高い設定になっていた。

しかし、近年、介護報酬改定において大規模事業所を優遇する政策が行われている。

介護保険事業所のスタッフの数が多い方が
①スタッフの急な休みや退職が生じてもサービスを継続することができる
②様々な加算の算定に必要な取り組みが行いやすい
③スタッフの負担軽減が可能となるためワークライフバランスが実現しやすい
と考えられている。

大規模化が優遇される近年の介護報酬改定において、通所リハビリは通常規模が大規模より報酬において優遇されると言う矛盾が生じてた。

このため、今回の改定では、大規模型が一定の要件を満たせば、通常規模の報酬算定が出来るというウルトラCのような改定が行われた(図1)。

図1 大規模型の報酬見直し

要件は以下の通りである。
1)リハビリテーションマネジメント加算の算定率が、利用者全体の80%を超えていること。
2)利用者に対するリハビリテーション専門職の配置が10:1以上であること。

この2つ要件は、リハビリ機能に強くこだわったものであることから、通所リハビリの本来の機能を求めていると言えよう。

別の味方をすれば、大規模でありながら、リハビリ機能を充分に果たすことが出来ない通所リハビリには未来がないと言っても過言ではない。

2009年に通所リハビリの短時間(1~2時間)が認められた時より、通所リハビリは在宅回復期に位置付けられたと筆者は考えている。

しかし、現在もリハビリ機能が低いため、在宅回復期の役割が果たせない通所リハビリは存在する。

レスパイトの受け入れが中心
要支援者の利用者が大半を占める
リハビリ職種が1名しか配属されていない
リハマネ加算の算定率が低い
などはその典型例である。

今回の改定は通所リハビリの報酬にダイレクトに影響する内容であるため、一定数の通所リハビリがリハビリ機能の強化に動き出すインセンティブとなる。

しかし、このような状況でも改革ができない通所リハビリは今後の介護報酬改定でさらに厳しい状況に陥るだろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

2024年度診療報酬改定 急性期病院と老人保健施設の連携が強化された!

2024年度診療報酬改定では、老人保健施設の機能がさらに強化されている。

特に、老人保健施設と医療機関の密接な連携が強化される改定項目が新設されている。

その一つが、老人保健施設の初期加算の改変である。

以前の初期加算の算定項目は以下の通りである。

初期加算 30単位
1)入所日から30日間に限って,初期加算として1日につき30単位を加算する。
2)当該入所者が過去3月間(日常生活自立度のランクⅢ、Ⅳ又はMに該当する者の場合は過去1月間の間)に入所したことがない場合に限り算定できる。

このように初期加算は老人保健施設に入所してから1か月間のケアやリハビリテーションに生じる手間を評価するものであった。

今回の改定では従来の初期加算が初期加算(Ⅰ)となり、新設の初期加算(Ⅱ)が設定された(図1)。

図1 初期加算Ⅰ・Ⅱの改定内容

初期加算(Ⅰ)算定要件
1)次の基準のいずれかに適合する介護老人保健施設で、急性期医療を担う医療機関の一般病棟への入院後30日以内に退院し、施設に入所した者について、1日につき所定単位数を加算する。ただし、初期加算(Ⅱ)を算定している場合は、算定しない。
2)施設の空床情報について、地域医療情報連携ネットワーク等を通じ、地域の医療機関と定期的に情報共有している。
3)空床情報について、施設のウェブサイトに定期的に公表し、急性期医療を担う複数医療機関の入退院支援部門に対し、定期的に情報共有を行っている。

初期加算(Ⅰ)の算定要件は、老人保健施設と急性期病院の関係性を高める項目となっている。

実は、急性期病院には中等症・軽症の高齢者の患者が急増しており、本来の急性期医療の対象者である重症患者の受け入れができない事例が増えている。

そこで、急性期病院からの退院を早期に促すために出口戦略として老人保健施設がその対象となった。

現在、老人保健施設には所定疾患施設療養費が認められている。

所定疾患施設療養費とは
肺炎等により治療を必要とする状態となった入所者様に対し、治療管理として投薬、検査、注射、処置等が行われた場合に、1回に連続する10日を限度とし、月1回に限り算定する。対象疾患は肺炎・尿路感染症・帯状疱疹・蜂窩織炎・慢性心不全の増悪(2024年度追加)である。

所定疾患施設療養費により老人保健施設の医療対応の機能が向上していることから、急性期からの患者の受け入れが促されている状況と言える。

今後、老人保健施設には急性期後の所謂、亜急性期患者が入所してくるケースが増えてくると予想される。

老人保健施設に勤務する理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は亜急性期の利用者への対応という新しいステージを迎えていると言っても過言ではない。

亜急性期患者に対するリスク管理を徹底したリハビリテーションの介入が求められる機会が増えると予想される。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

年末のご挨拶に変えて2023年を振り返ります

株式会社WorkShift代表取締役の高木綾一です。

2023年は新型コロナウイルスの影響も少なくなり、弊社を取り巻くビジネス環境も新型コロナウイルスのパンデミック以前に戻りつつあります。

代表的な事例としては、対面型の研修会が増えてきたことです。

オンラインで実施していた様々な学術大会もほぼ対面型に戻ると同時に様々な研修も対面型に移行しました。

私もありあがいことに2023年は全国10か所ほどの所で、研修会講師を務めさせていただきました。

ただ、以前のように対面セミナーに多くの受講生の方が参加する状況には至っていない印象です。

これは、オンラインセミナーがある社会に容認されたため、オンラインセミナーと対面セミナーに参加者が分散した結果だと思われます。

したがって、対面セミナーは以前より「対面でしか提供できない価値」を提供する必要が増したと言えるでしょう。

今後の教育研修事業の業界は、オンラインセミナーと対面セミナーが共存していく時代におけるコンテンツ作りが大きな課題になったと思われます。

弊社としてはオンラインセミナー・リハビリ部門コンサルティングが堅調に推移した一年でした。

また、理学療法士養成校における「理学療法管理学」「内部障害理学療法」等の非常勤講師のご依頼を多数いただき、学生教育にも忙しかった一年でした。

現在は2024年の夏ごろまでに発売を予定しております新刊の原稿作成に取り組んでおります。

今回もマネジメントに関する内容の力作になると思いますので、発売が決まれば、改めて発表をさせていただきます。

また、2024年は診療報酬・介護報酬改定もあり、コンサルティング会社として様々なコンテンツの提供やコンサルティング案件への対応が忙しくなりそうです。

私ももう少しで47歳になります。

実は2024年は創業10年目のなんです。

なので健康管理を怠らず、元気に10周年を迎えられるようがんばります。

2024年もどうか皆さんよろしくお願いいたします。

第105回全国高等学校野球選手権記念大会で登坂した息子です。
2024年は高校野球最後の年ですので親として精一杯支援します。

 

2024年度 診療報酬・介護報酬同時改定のキーワード 「水平連携」

2011年前後より地域包括ケアシステムが導入され、早10年以上が経過した。

この間、地域包括ケアシステムの構築が積極的に進められた。

特に、急性期―回復期―慢性期に患者が流れていく「垂直連携」が確立し、医療の機能分化は目覚ましく発展した。

医療の機能分化により、「急性期の在院日数低下や重度化」・「回復期におけるの早期の患者受け入れとADL改善後の在宅復帰」などは明確に効果が表れたといえる。

後期高齢者が爆発的に増加する2025年を前に、早期在宅復帰に向けた患者の流れが確立できたことは、地域包括ケアシステムの大きな成果と言えるだろう。

それでは2025年を目前にした2024年の診療報酬・介護報酬の同時改定では、何に重点が置かれた改定が行われるだろうか?

厚生労働省が新たに出してきたキーワードが「水平連携」である(図1)。


図1 水平連携

これは医療において患者が急性期ー回復期―慢性期に流れていく「垂直連携」とは異なる概念である。

水平連携とは
患者の住まいの圏域の医療機関や介護事業者等が、疾患やADLの状態に応じたサービスを提供し、可能な限り入院をせずに在宅で生活を継続することである。

「垂直連携」の仕組みが完成したこと、2025年以降、後期高齢者が急増することを踏まえると在宅療養を行う高齢者の数が必然的に増加する。

そのため、厚生労働省は2024年度診療報酬・介護報酬同時改定では「水平連携」に力を入れた制度改定を実施する。

「水平連携」に関して予想される改定の項目は診療報酬の「かかりつけ医機能の強化」と介護報酬の「新たな複合サービス」である。

かかりつけ医機能の強化は、近年の診療報酬改定で継続的に行われてきた。

2022年度の診療報酬改定ではかかりつけ医機能を評価する「機能強化加算」の要件の見直しが行われた(図2)。

図2 機能強化加算の見直し内容

かかりつけ医が行うべき項目を加算の要件にしていることが伺える。

2024年度の診療委報酬改定では、「かかりつけ医機能を患者に書面にて説明すること」、「かかりつけ医機能を発揮している医療機関としての情報を詳細に公開する」などをさらに求めていくことが予想される。

かかりつけ医機能を強化することで、「慢性疾患を有する患者が入院することなく、在宅にて長期間療養できること」を狙う。

新たな複合サービスでは介護保険における「通所サービスと訪問サービスの複合化」について規制緩和が行われる。

通所介護と訪問介護

通所リハと訪問リハ

療養介護と訪問看護

などを一つの介護保険事業所にて複合的に運営できる規制緩和となる。

次のような状態を複合的に満たす利用者は通所サービスと訪問サービスを組み合わせることで質の高いケアが実現できると考えられている。

医療的ニーズが強い

在宅での生活の希望が強いが24時間の介護が必要である

介護者の介護負担軽減のためのレスパイトが必要である

このような状態の方は今後右肩上がりで増えていくと考えられ、新たな複合サービス導入が検討されている。

2023年度の改定では水平連携に関する改定項目がどんどん出てくると思われる。

各医療機関、介護事業所においては今より最新情報をキャッチアップして、改定に備えてほしい。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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認定理学療法士(管理・運営)
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