「理念先行」「行動不足」セラピストはこのパラダイムシフトを乗り越えられない

地域包括ケアシステムの構築、急性期病床の削減、介護保険制度の変化、理学療法士の過剰供給に関する新聞報道・・・・。リハビリテーション職種を取り巻く環境の変化は著しい。
これらのことを受けて、本ブログだけでなく様々なセラピストが今後の療法士の働き方や生き方について言及している。数多くのセラピストが自らの働き方や生き方に大きなパラダイムシフトが生じることに気づきだしたと言える。

パラダイムシフトとは、「その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化すること 」である。まさに、リハビリテーションを取り巻く環境はパラダイムシフトの真っ只中である。

視点を変えれば、パラダイムシフトに合わせて自らの仕事や生き方を確立することができれば、相当なセラピストとしての充実感を得られる時代になったと言える。セラピストとして、仕事や生き方を確立していくための重要な要素は「理念」と「行動」のバランスである。

多くのセラピストは「理念の罠」にはまり込む。自分の働き方や行き方の「理念」ばかりを考え、素晴らしい理念や行動規範を考え、導き出す。ここまでは良いのだが、それをブログやSNSで披露したり、友人に話すことで満足してしまい、実際の行動は何一つ起こさない。

リハビリテーションやヘルスケア産業にはチャンスが渦巻いている。地域包括ケアシステムの一員として機能すること、高度急性期で活躍できるセラピストになること、高齢労働者の支援サービスを提供すること、二次予防事業に関与できる人材になること、在宅重症患者に対応できる人材になること・・・・・・・・・・など、チャンスに溢れている。

これらのチャンスは、「高承な理念」を振りかざしても、掴むことはできない。「高承な理念」を「具体的な行動」に転換することができた者だけが、チャンスをつかむ。
具体的な行動の方法は沢山ある。情報を持っている人と会う、休みの日を使ってやりたい活動を体験してみる、非常勤で働いてみる、職場で新しい企画を提案してみる、勉強会を開催してみる・・などで、チャンスの芽を掴むことはすぐにでも可能である。チャンスの芽を掴むことができなければ、芽を育てながら、働き方や生き方を確立することは不可能となる。

理念先行・行動不足型セラピストでは、このパラダイムシフトを乗り越えることはできない。

 

2015年9月17日 日本経済新聞報道の「理学療法士の供給過剰問題」の本質を考える

2015年9月17日の日本経済新聞に主題「医出づる国」、副題「削りしろ」探せというテーマで下記の記事が掲載された。記事の中段には「供給過剰 無駄な治療も」と掲載されている。記事は歯科医師の供給過剰問題に併せて、増え続ける理学療法士について言及されている。

養成校が乱立していること、年間1万人の理学療法士が誕生していること、一つの病院に求職者が殺到していることが記事には掲載されている。そして、記事の締めくくりには「日常生活に支障がない、老化に伴う骨の変形なのに長期間リハビリをするような弊害も指摘される」と、記載されている。

さて、まずこの日本経済新聞とはどのような新聞だろうか?
日本経済新聞は経済業界の広報誌に近く、経済情報を中心に報道している新聞である。また、政府が国民の反応を探索するために、様々な政策や情報を流している新聞であるとの噂も耐えない。いわゆる、極めて経済界や政府寄りの新聞であると考えても良い。
そのような新聞が今回の「理学療法士の過剰供給問題」に言及したのである。

現在、日本は慢性的な財政悪化状態が継続している。財政悪化の大きな原因の一つとして、「社会保障費の増大」が挙げられている。社会保障費抑制政策は、小泉政権より継続的に今日まで進められている。しかし、一方で増加し続ける高齢者の対応に必要な人材の確保のため、医療職や介護職の養成校や大学の設置が、国の規制緩和の下に積極的に進められた。
財政面から考えると社会保障費の圧縮と医療・介護職の増加という二律背反する政策がこの15年間に渡って、行われてきた。

しかし、近年、医療・介護職数や介護事業所数が国の整備目標に近づいてきた。歯科医師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士の数は国の整備目標数に到達していると言っても過言ではない。現在でも不足と言われている医師や看護師でさえも、2025年までには十分な数に到達すると言われている。

このような背景の中、日本経済新聞から「理学療法士過剰供給問題」が報道された。つまり、国や経済界は「理学療法士の増加に対して何らかの懸念を抱いている」ということが、明らかになったと言える。

記事の文脈から、「理学療法士の増加は不要な医療を生む」というメッセージが読み取れる。
このメッセージがから何を読み取るか。そこに、理学療法士が生き残る道があり、新しい価値を社会に創出する鍵が隠されている。

医療というインフラだけに、仕事を求めるのではなく、医療以外の領域や社会課題に対して理学療法士が対峙していく姿勢も今後、求められる。ピンチはチャンスである。このような報道がされた時に、具体的に行動を起こせる人が10年後は選ばれる理学療法士になっているだろう。


理学療法士過剰

 

診療報酬改定・介護報酬改定は「働き方改定」である

診療報酬改定、介護報酬改定は、医療機関や介護事業所の経営や運営に大きな影響を与える。改定によって、経営方針、人材教育、マーケティングなどの再考が必要となり、企業体としての革新が求められる。

しかし、地域包括ケアシステムが発表された2011年頃より、診療報酬改定、介護報酬改定の様相が変わってきている。
急性期病院の大編成、訪問看護ステーションの重度化シフト、疾患別リハビリテーションの厳格化、老人保健施設の在宅復帰機能、活動と参加を重視したリハビリテーション、診療所の組織化・・・・・事例を挙げればきりが無い状況である。
これらの変化は、医療機関や介護事業所の経営や運営に大きな影響を与えるものであるが、それ以上にそこで働いている理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等の医療・介護従事者の仕事に対する価値観にも影響を与えている。

例えば、回復期リハビリテーション病棟で働くことにやり甲斐を感じて、熱心に臨床や勉学に励んでいた理学療法士に対して、診療報酬改定の影響により勤め先から訪問リハビリテーション部門への異動を命じられたとする。こういった場合、殆どに人間には防衛機制が作用する。

防衛機制とは、望まない状況になった時に自分が傷つくのを防ぎ、自分自身を防衛しようとする心の作用である。防衛機制では、怒りを外部に向ける発言が多くなったり、いい訳が多くなったり、責任転嫁をしたりする。それにより、心理的に安定しようとする。しかし、この防衛機制が強く出現し過ぎると、身体に病態が出現し、日常生活に活力がなくなったり、仕事への意欲を失う。

現在、リハビリテーションや看護を取り巻く状況は一年ごとに変化している。そのため、仕事内容や求められる能力の変化も激しい。よって、これからの時代は、働き方を肯定的に変化させていく能力が理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師に必要である。
「働き方を肯定的に変えていく」ということは、常に、自らの価値観や興味が社会から求められる領域に位置できるように、キャリアをデザインしていくことである。これは、ビジネスの世界で考えれば、マーケティング活動である。
これからの時代において、医療・介護従事者は個人レベルのキャリアデザインやマーケティング活動ができなければ、防衛機制が強く作用する人生を過ごす事になる。

診療報酬改定・介護報酬改定は「働き方改定」である。組織も個人もこのことを強く意識し、マネジメントを行っていく必要がある。日頃から、働く従業員のキャリアデザインを支援することは、診療報酬・介護報酬改定を乗り切ることにも繋がる。

あなたの会社やあなた自身の「働き方改定」の準備は進んでいますか?

 

セルフマーケティングなき医療・介護従事者の未来は明るくない

マーケティングは1.0から4.0まで存在している。マーケティングの大家であるフィリップ・コトラー氏が下記のようにそれぞれのマーケティングを定義している。

マーケティング1.0
出来るだけ安く、高品質な製品を企業が一方的に広告宣伝を行い販売を強化する

マーケティング2.0
「製品を売ること」から「消費者が何を望んでいるか」という考えに基づき、消費者からの声を反映することを意識し、企業と消費者の総方向性のコミュニケーションを行う

マーケティング3.0
マーケティング2.0の精神である消費者満足を引き継ぎつつ、「どんな社会をつくりたいか」を念頭においた活動を行う。企業には社会課題の解決を目的として、具体的な行動が求められる。

マーケティング4.0
顧客の自己実現を叶えることに主眼をおく。IT社会が加速して、人の存在が薄れる社会であるため、人の存在感をより満たす商品やサービスが求められる。

現在、医療・介護業界においてもマーケティング3.0と4.0が求められている。日本社会は超高齢化・少子化・財政難・地方消滅などの問題を抱えており、それらの問題に対峙するマーケティング3.0の考えが重要視されている。
また、今後10年~20年後に余剰人員が出現する看護師、理学療法士、作業療法士等にとって自分たちの存在確立は極めて重要なテーマである。また、高齢化社会では、高齢者の尊厳や希望を保証することも重要なことである。したがって、マーケティング4.0に基づく商品やサービスが求められる。

現在、多くの看護師、理学療法士、作業療法士等の医療・介護従事者はマーケティング1.0と2.0の範囲で立ち止まっていないだろうか?給料が低いことを受け入れて、ただ、そこで目的もなく働き続けるというマーケティング(1.0)、目の前の患者のニーズを満たすために、一生懸命にサービスを提供するマーケティング(2.0)。現在、これら2つのマーケティングは、一般的に行われており、そこで評価を受けた人は、何らかの形で報酬を得ている。

しかし、これら2つのマーケティングが立ち行かなくなる時代に突入している。医療・介護職が、今後、市場で評価されるためにはマーケティング3.0と4.0を実践するセルフマーケティングを行う必要がある。

自分という商品がマーケティング3.0と4.0を通じて市場で評価される仕組みを自分自身の手によって構築する必要がある。

皆さんは現在どのマーケティングの段階ですか?

 

行動のみが仕事や人生を変える

どれだけの知識や経験を語っても、それは人を説得する材料にはなりえない。
最大の説得力は、行動することである。行動し続けている事実は、周りの人間を納得させるパワーを有する。

理想や夢に向かって動く時、応援してくれる人ばかりが周りにいるわけではない。嫌みを言う人、陰口を叩く人、あなたのことを妬む人、過去の事例を取り上げて失敗を予想する人・・・・。多くの非応援者があなたの周りにもいるだろう。
しかし、理想や夢に向かって行動し続けることで、新しい自分との出会い、素晴らしい人物との出会い、そして、金で買えない経験や感動を得ることができる。これらの素晴らしいことに出会えることを考えれば周囲のあなたへの批判などどうでもよい類の話である。

行動すれば必ず、何らかの結果がフィードバックされる。しかも、行動の大きさや深さによって結果も正比例して跳ね返ってくる。仕事や人生に面白さはここにある。座して待っていても状況は変わらない。それどころか、悪くなるのが今の時代である。自分に変化がなくても、社会情勢が変化しているため、相対的に退化してしまう。

医療・介護業界は2年から3年に一回、大きな制度改定があるため、行動をしない人への風当たりが強い。現在は2025年に向けた地域包括ケア構築プロセスの大改革時代である。そのため、病院、診療所、介護保険事業所への風当たりは戦後以来、もっとも強い時期である。さらに、その風当たりは、そこで働く従業員、すなわち専門職へ向けられる。

このような時代を乗り切り、将来、生き残る理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師等になるためには、今、行動をしなければならない。過去の知識や経験の能書きを垂れるのでなく、新しい未来に向かって新しいキャリアビジョンを描き、それに向かって行動をすることのみが、現状の仕事や人生を変える。

行動のみが仕事や人生を変える。