セルフマーケティングなき医療・介護従事者の未来は明るくない

マーケティングは1.0から4.0まで存在している。マーケティングの大家であるフィリップ・コトラー氏が下記のようにそれぞれのマーケティングを定義している。

マーケティング1.0
出来るだけ安く、高品質な製品を企業が一方的に広告宣伝を行い販売を強化する

マーケティング2.0
「製品を売ること」から「消費者が何を望んでいるか」という考えに基づき、消費者からの声を反映することを意識し、企業と消費者の総方向性のコミュニケーションを行う

マーケティング3.0
マーケティング2.0の精神である消費者満足を引き継ぎつつ、「どんな社会をつくりたいか」を念頭においた活動を行う。企業には社会課題の解決を目的として、具体的な行動が求められる。

マーケティング4.0
顧客の自己実現を叶えることに主眼をおく。IT社会が加速して、人の存在が薄れる社会であるため、人の存在感をより満たす商品やサービスが求められる。

現在、医療・介護業界においてもマーケティング3.0と4.0が求められている。日本社会は超高齢化・少子化・財政難・地方消滅などの問題を抱えており、それらの問題に対峙するマーケティング3.0の考えが重要視されている。
また、今後10年~20年後に余剰人員が出現する看護師、理学療法士、作業療法士等にとって自分たちの存在確立は極めて重要なテーマである。また、高齢化社会では、高齢者の尊厳や希望を保証することも重要なことである。したがって、マーケティング4.0に基づく商品やサービスが求められる。

現在、多くの看護師、理学療法士、作業療法士等の医療・介護従事者はマーケティング1.0と2.0の範囲で立ち止まっていないだろうか?給料が低いことを受け入れて、ただ、そこで目的もなく働き続けるというマーケティング(1.0)、目の前の患者のニーズを満たすために、一生懸命にサービスを提供するマーケティング(2.0)。現在、これら2つのマーケティングは、一般的に行われており、そこで評価を受けた人は、何らかの形で報酬を得ている。

しかし、これら2つのマーケティングが立ち行かなくなる時代に突入している。医療・介護職が、今後、市場で評価されるためにはマーケティング3.0と4.0を実践するセルフマーケティングを行う必要がある。

自分という商品がマーケティング3.0と4.0を通じて市場で評価される仕組みを自分自身の手によって構築する必要がある。

皆さんは現在どのマーケティングの段階ですか?

 

行動のみが仕事や人生を変える

どれだけの知識や経験を語っても、それは人を説得する材料にはなりえない。
最大の説得力は、行動することである。行動し続けている事実は、周りの人間を納得させるパワーを有する。

理想や夢に向かって動く時、応援してくれる人ばかりが周りにいるわけではない。嫌みを言う人、陰口を叩く人、あなたのことを妬む人、過去の事例を取り上げて失敗を予想する人・・・・。多くの非応援者があなたの周りにもいるだろう。
しかし、理想や夢に向かって行動し続けることで、新しい自分との出会い、素晴らしい人物との出会い、そして、金で買えない経験や感動を得ることができる。これらの素晴らしいことに出会えることを考えれば周囲のあなたへの批判などどうでもよい類の話である。

行動すれば必ず、何らかの結果がフィードバックされる。しかも、行動の大きさや深さによって結果も正比例して跳ね返ってくる。仕事や人生に面白さはここにある。座して待っていても状況は変わらない。それどころか、悪くなるのが今の時代である。自分に変化がなくても、社会情勢が変化しているため、相対的に退化してしまう。

医療・介護業界は2年から3年に一回、大きな制度改定があるため、行動をしない人への風当たりが強い。現在は2025年に向けた地域包括ケア構築プロセスの大改革時代である。そのため、病院、診療所、介護保険事業所への風当たりは戦後以来、もっとも強い時期である。さらに、その風当たりは、そこで働く従業員、すなわち専門職へ向けられる。

このような時代を乗り切り、将来、生き残る理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師等になるためには、今、行動をしなければならない。過去の知識や経験の能書きを垂れるのでなく、新しい未来に向かって新しいキャリアビジョンを描き、それに向かって行動をすることのみが、現状の仕事や人生を変える。

行動のみが仕事や人生を変える。

 

 

まず、管理職は自立と自律の獲得を目指せ

自立
他者からの支配・援助に頼ることなく、独立した存在であること
自律
他者からの支配・制約を受けずに自身の規範に従って行動すること

周囲の人を批判したり、自分を保身している管理職には、自立と自律の精神は宿らない。
他責している人は、「自分の人生や仕事は他人によって支配されており、自分は周囲の環境に支配されている奴隷です」と宣言をしているようなものである。

人間は、物事を自分でコントロールする力を失うと強い絶望や無力感を感じる。無力感は防衛機制を作用させ、周囲への責任転嫁を生む。周囲への責任転換は人間関係を悪化させ、さらに自立と自律が難しい状況が作られる。

他責の感情は管理職にとって最大の敵であり、課題である。他責をしたところで、状況は何も変わらず、事態も好転しない。管理職は、自立と自律の精神を持つことで、はじめて自ら状況を打開し、組織に対する責任を負うことができる。
そして、自立と自律ができるようになれば、「自分の人生の主人公を自分自身が演じられる」という感覚が得られ、人生や仕事への推進力が増していく。

管理職として何をすればよいか?と悩んでいる人は、自分自身の考え、自分のやりたいこと、自分が周囲にしてあげたいこと、自分の強みについてまず考えることである。

目の前の仕事を一生懸命にこなすことで、管理職の仕事から逃げている人を多くみる。しかし、管理職の仕事は目の前のルーティン作業を一生懸命にすることではない。管理職の仕事は、組織が多くの成果を出せるようにマネジメントを行うことである。

そのためには、組織に責任を負う姿勢を持つことが重要である。
そして、自立と自律の姿勢を持つことが組織への責任を負うことにつながる。

 

 

2040年以降に大量に余る医療・介護従事者とシニアビジネス企業

2040年代中盤に高齢者の数は減少に転ずる。
今後、日本は大きな局面を迎える。
2040年まで高齢者が増え続け、かつ、医療・介護従事者やシニアビジネス企業の市場が拡大する局面 と 2040年以降高齢者が減少し、医療・介護従事者やシニアビジネス企業の市場が狭小する局面である。

今後、十数年間は医療・介護従事者は2040年までの局面を乗り切るために、量産されていく。
資格制度の規制緩和、養成校や大学の設立や学部変更など2040年までを乗り越える施策が展開される。しかし、2040年以降に関する施策はなんら立案されていない。

現実的に大都市を除く、地方都市では1割~3割の急性期病床の削減や特別養護老人ホーム等の新設も停止している。つまり、今後は2040年以降の情勢に合わせた医療・介護政策の出口戦略も密かに始まっている。

状況はめまぐるしく変化する。一年ごとで、規制緩和、制度改訂が行われ、不要と判断されたビジネスの淘汰が始まる。現在、参入障壁が低いヘルスケアビジネスもどんどん新しい企業が参入し、そして、どんどん淘汰されていく。ヘルスケアビジネスが、安定した市場であると勘違いしている企業が参入しているのが現状である。市場があっても、生き残れるかは別問題である。多くの企業は2040年以降、狭小するシニアビジネス市場を冷静に把握できていない。

現状の市場モデルでは医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、歯科衛生士・・・などの医療・介護従事者が確実に余る時代が迫っている。2040年に確実に引退し、悠々自適に生活できる資産家以外はこの問題を真剣に考えなければならない。

今後は、2040年までを乗り越える地域包括ケアシステムの構築と2040年以降の市場拡大を得るための職域拡大という状況に我々は対峙しなければならない。

所有している知識と技術を100%発揮できる人は少数派である

医師・看護師・理学療法士・作業療法士等の専門職は、文字通り専門分野を有する職能人である。したがって、特定の分野に関する知識や技術を高めることが重要であることに疑問の余地はない。実際に特定の分野に造詣の深い医師や理学療法士、作業療法士が存在する。

しかし、知識や技術の高さと仕事の生産性や社会貢献度は正比例しない。
なぜならば、知識や技術はコミュニケーションやマーケティングにより、発揮されるものである。知識や技術を相手に伝えるコミュニケーション能力や知識や技術が活かせる市場や場所を選定するマーケティング能力が低ければ、どれだけ博学でも仕事の生産性は低い。

つまり、100の知識や技術を持っていても上記した能力が低下していると、20の知識や技術しか市場で発揮できない人もいれば、50の知識や技術しか持っていなくても、高いコミュニケーション能力やマーケティング能力で50発揮できる人もいる。このケースでは後者のほうが市場価値が高いことになる。

医療・介護の市場は地域包括ケア、ロボットテクノロジー、脳科学、バイオメカニクス・・・などの知見が混在している。よって、博学な知識や高い技術スキルに加え、コミュニケーション能力、マーケティング能力を高めなければ、市場で生き残りにくい状況になっており、今後もこの状況はさらに続く。

高いレベルの知識・技術・コミュニケーション・マーケティングの獲得では容易ではない。そのため、所有している知識と技術を100%発揮できる人は少数派である。しかし、少数派だからこそ、市場から高評価が得られるのである。したがって、今後の人材育成においては、100%の知識と技術を発揮できるための教育的介入がますます重要となる。