地域包括ケアシステムは新しい商品・サービスを生み出す

地域包括ケアシステムでは、医療・介護・生活支援の有機的な連携を推進している。

医療や介護の連携に関しては、診療報酬・介護報酬改定・医療計画・介護保険事業計画という公的な力により推進されていく。

しかし、生活支援分野に関しては、法的に推進することは難しく民間企業の創意工夫が求められる。

生活支援の範囲は膨大であり、また、あらゆる業種が関わることが可能である。

高齢者の生活を効果的に支援する商品・サービスの開発することができれば、こぞって企業はその商品・サービスを購入し、市場で販売するだろう。

ざっと、想像しただけでも以下のような商品・サービスが民間企業主体で開発されていくと考えられる。

自動車・バイクの自動運転システム
認知症老人徘徊時の捜索システム
日常生活必需品の配達システム
安否確認サービス
金銭管理サービス
家事代行サービス
民間の介護保険・認知症保険・家族介護支援保険
ロボットを利用したリハビリテーション機器
在宅看護・介護支援システム
見守り家電システム
要介護者対応の健康増進施設
高齢者の旅行・趣味支援会社
アルツハイマー病予防薬
企業内デイサービス

地域包括ケアシステムは、日本の民間企業の商品・サービス開発の変革も求めている。

地域包括ケアシステムを支える商品・サービスの開発に医療・介護・健康産業の従事者が携わることは、今後、常識となっていくだろう。

医療介護連携・医工連携・産学連携などはもはや常識であり、それを支える人材は社会における至宝の存在となる時代となる。

地域包括ケアシステムは、ありとあらゆる分野のイノベーションを引き起こすプラットフォームである。

医師・看護師・介護職・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・薬剤師等が、民間サービスや商品の開発に携わることが期待される。

 

 

 

2015年度 介護報酬改定 通所系サービスのフルモデルチェンジ

2015年度介護報酬改定における目玉項目として通所リハビリテーションにおける「生活行為向上リハビリテーション実施加算」と「社会参加支援加算」が挙げられる。

生活行為向上リハビリテーション実施加算
1.利用開始日から起算して3月以内の期間に行われた場合 2,000単位/月
2.利用開始日から起算して3月超6月以内の期間に行われた場合 1,000単位/月

算定要件
1.指定通所リハビリテーション事業所が、生活行為の内容の充実を図るための目標及び当該目標を踏まえたリハビリテーションの実施内容等をリハビリテーション実施計画にあらかじめ定めて、利用者に対してリハビリテーションを計画的に行い、指定通所リハビリテーションの利用者の有する能力の向上を支援した場合には加算する。

次に揚げる基準のいずれにも適合すること。
(1)生活行為の内容の充実を図るための専門的な知識若しくは経験を有する作業療法士又は生活行為の内容の充実を図るための研修を修了した理学療法士若しくは言語聴覚士が配置されていること。
(2)生活行為の内容の充実を図るための目標及び当該目標を踏まえたリハビリテーションの実施頻度、実施場所及び実施時間等が記載されたリハビリテーション実施計画をあらかじめ定めて、リハビリテーションを提供すること。
(3)当該計画で定めた指定通所介護リハビリテーションの実施期間中に指定通所リハビリテーションの提供を終了した日前1月以内に、リハビリテーション会議を開催し、リハビリテーションの目標の達成状況及び実施結果を報告すること。
(4)通所リハビリテーション費におけるリハビリテーションマネジメント加算(Ⅱ)を算定していること。
ただし、短期集中個別リハビリテーション実施加算又は認知症短期集中リハビリテーション実施加算を算定している場合は、算定しない。

1.生活行為向上リハビリテーション実施加算の実施後に継続利用する場合の減算
生活行為向上リハビリテーション実施加算の実施後の翌月から6月間に限り1日につき所定単位数の100分の15に相当する単位数を所定単位数から減算する。

社会参加支援加算
社会参加を維持できるサービス等へ移行する体制の評価
社会参加支援加算(新規) 12単位/日

算定要件
指定通所リハビリテーション事業所において、評価対象期間の満了日に属する年度の次の年度内に限り1日につき12単位を所定の単位数に加算する。
次に揚げる基準のいずれにも適合すること。
(1)評価対象期間において指定通所リハビリテーションの提供を終了した者(生活行為向上リハビリテーション実施加算を算定した者を除く。)のうち、指定通所介護、指定認知症対応型通所介護、通所事業その他社会参加に資する取組を実施した者の占める割合が100分の5を超えていること。

(2)評価対象期間中に指定通所リハビリテーションの提供を終了した日から起算して14日以降44日以内に、指定通所リハビリテーション事業所の従業者が、通所リハビリテーションの提供を終了した者に対して、その居宅を訪問すること又は介護支援専門員から居宅サービス計画に関する情報提供を受けることにより、指定通所介護、指定認知症対応型通所介護、通所事業その他社会参加に資する取組の実施状況が、居宅訪問等をした日から起算して、3月以上継続する見込みであることを確認し、記録していること。

○ 12月を当該指定通所リハビリテーション事業所の利用者の平均利用月数で除して得た数が100分の25以上であること。

この二つの加算の意味するところは何か?
生活行為向上リハビリテーション実施加算は「生活行為を向上させた上で通所リハビリテーションの利用を終了することが目的」である。

よって当該加算終了においても、通所リハビリテーションを利用している場合は、6ヶ月間に渡り、15%の減算となる。

また、社会参加支援加算の要件に「指定通所リハビリテーションの提供を終了した者(生活行為向上リハビリテーション実施加算を算定した者を除く。)のうち、指定通所介護やその他社会参加に資する取組を実施した者の占める割合が100分の5を超えていること。」と記載されている。

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この二つの加算の意味を考えると以下のように考えられる。

1.通所リハビリテーションは生活期リハビリテーションにおいては、通過型のリハビリテーションインフラであると定義している

2.通所リハビリテーション終了後は、通所介護や地域の支援事業等を利用する

3.通所介護が社会参加インフラとしての位置づけが明確になった

通所リハビリテーションは医療モデルリハビリテーションとICFモデルリハビリテーションモデル/通所介護は完全ICFリハビリテーションモデルの様相を呈してきた

まるで、回復期リハビリテーション病棟と地域包括ケア病棟のような棲み分けのようである。

通所リハビリテーションは医療モデルの要素を取り入れながらも、社会参加に資する生活を念頭にリハビリテーションを展開する

通所介護はその社会参加を継続的に支援する

こういった取り組みは、新しい介護保険における新しいリハビリテーションモデルとして推進されていく。

この社会参加に関しては、まだまだ定義も曖昧であり、実例も少ない。

社会参加のインフラもサービスも不十分な領域である。

今後、通所リハビリテーションと通所介護は最大級に注目される分野に変革したと言える。

単独型訪問リハビリは必要か?制度化をめぐる現状と展望

訪問リハビリステーションの創設は、現場の療法士や一部の業界関係者から期待されているテーマのひとつである。

しかし、2027年度の介護保険改定においても大きな議題には上がっておらず、国政レベルでの具体的な動きは見られていないのが現状だ。

過去に、復興特区や一部地域で単独型訪問リハビリテーション事業所の運営が行われているものの、全国的な制度化が実現するかどうかは全く未知数である。

現状では、訪問リハビリテーションは訪問看護ステーションに併設される形で提供されることが一般的である。

訪問看護師、療法士、ケアマネージャーが日常的に情報共有し、迅速な意思疎通を図ることができるため、地域包括ケアシステムのなかで有機的な連携が取りやすい構造となっている。

療法士が単独で開業できる仕組みは、職能を守り、より専門的なサービスを追求できる可能性を秘めている。

しかし、独立事業所として訪問リハビリステーションを設置した場合、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所との連携は事業所間の関係となり、縦割り組織の弊害が生まれやすい懸念もある。

むしろ、同一事業所内に看護師・療法士・介護職が在籍している環境のほうが、ケアマネージャー等の外部関係者との調整もスムーズであり、現場レベルでの問題解決が迅速に行えるメリットがある。

どの制度にも必ず利点と欠点は存在する。

しかし、重要なのは個別最適や業界都合にとらわれず、地域全体・利用者全体にとって最適となる視点を常に忘れないことである。

制度議論はその視点で進められるべきだろう。

療法士の専門性発揮と職域拡大は重要である一方で、医療・介護の現場では多職種連携が不可欠である。

訪問リハビリステーションが制度化される場合、個別事業所としての独立性と、地域包括ケアにおける統合性のバランスが課題となるだろう。

制度設計は現場の声を反映しつつ、縦割りを生まない柔軟な連携体制をどう構築できるかが鍵となる。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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