2025年に後期高齢者数が爆発的に増加する。ということは、現時点での介護関連事業の参入はキビシイに決まっている。

「高齢者が増えているはずなのに利用者がなぜ増えない?」
「儲かると聞いていたので参入したのに利益が出ないじゃないか?」
「介護事業の需要は増加しているはずなのに、なんで利用者紹介が少ないのだ?」

介護事業の経営者や管理者が、よく話す愚痴である。

2025年に後期高齢者が、爆発的に増加する2025年問題。

2025

この問題を乗り越えるために、国は様々な施策を講じている。

当然、地域包括ケアシステムの構築には、介護関連事業が欠かせない。

そのため、介護関連事業への参入件数は増加の一途を辿っており、通所介護・訪問看護・サービス付き高齢者向け住宅が過剰供給された地域が増えてきている。

多くの介護関連事業者は、「高齢者が増えるから必ず儲かる」という本音で介護関連事業に参入している。

しかし、世の中の多くの介護関連事業所の経営の実態は相当厳しい。

2016年1月から8月までに倒産した介護事業者が62件に上り、過去最多のペースとなっている(東京商工リサーチ)

介護関連事業の経営が厳しくなるのは当然である。

なぜならば、今はまだ2025年ではないからである。

急激に後期高齢者が増加する2025年より、手前の時期に相当数の企業や個人が介護関連事業に参入しているため、業界はレッドオーシャンになっているのだ。

すなわち、2025年までのレッドオーシャン時代に、シェアを取った介護関連事業者が2025年にブルーオーシャンの状態になると言える。

将来の圧倒的シェア獲得によるブルーオーシャン実現のために、今はレッドオーシャンでガチンコ対決をしているのが介護関連事業所の実情である。

通所介護・訪問看護・サービス付き高齢者向け住宅は明らかに過剰供給である。

だから、経営能力が乏しいところは、稼働率が上がらない。

2025年の後期高齢者数のファーストピークまでに、如何ににシェアと取るか。

これが、介護関連事業者の生き残る唯一の戦略である。

 

社会保障費圧縮は、インフォーマルサービス市場の活性化を生む

社会保障費圧縮に関する政策は、大きく日本のヘルスケア市場の在り方を変えていく。

高齢者が増える日本においては、財政面の問題から、「高齢者一人当たりが受ける医療・介護サービスの提供量」を、漸増的に低下させていくことが今後の基本政策となる。

よって、今後は、必要な医療・介護サービスを受けることができない要介護者が増大する可能性がある。

この問題を解決する一つの方法が「インフォーマルサービスの活用」である。

しかし、日本国民は、「医療・介護サービスは国が提供してくれる安価なサービスである」という意識を持っており、インフォーマルサービスの活用は一般的なことではない。

介護保険サービスを計画・実行する介護支援専門員にも、インフォーマルサービスの導入が役割として求められているが、積極的にインフォーマルサービスを活用するケアプランが立案されることは皆無である。

国民や医療・介護関係者の意識を変えていくために、政府は、自助・互助・共助・公助の概念を地域包括ケアシステムを導入し、自助の重要性を啓発している。

また、自分自身で健康を管理し、あるいは疾病を治療するセルフメディケーションに関する政策も導入されている※1。

※1
セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について
健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行う個人が、平成29年1月1日以降に、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入した際に、その購入費用について所得控除を受けることができる

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このような状況を受けて、様々なインフォーマルサービスが生まれている。

従来のインフォーマルサービスは、家族、友人、地域住民、ボランティアなどによる、制度に基づかない非公式な支援という意味合いが強かったが、これからは民間企業の創意工夫によるインフォーマルサービスが日本社会では一般的になる。

フィットネスクラブによる高齢者向けプログラム
靴屋によるインソールや下肢装具サービス
ITを活用した見守りサービス
ITを活用した介護予防プログラム
セラピストや運動指導員による訪問フィットネス指導
趣味活動を支援するホビークラブ
栄養指導と調理指導を同時に行う料理教室
在宅の大工・清掃・家事を行う家事代行サービス
などなど・・・
様々なサービスが、医療保険・介護保険がカバーできない領域で開発・発展していくと推測できる。

課題は、介護支援専門員、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの医療・介護関係者がインフォーマルサービスに関して興味が薄いことである。

利用者の健康と生活を守るために必要なサービスを提案できる能力が、社会保障費圧縮の時代の新たな医療・介護従事者の形でもある。

医療機能の変化は医療・介護職にワークシフトを突きつける

医療・介護の在宅シフトが加速している。

診療報酬・介護報酬改定により、在宅医療・介護の流れが構築されているが、最も効果的な政策は、「病床を調整する」ことである。

現在、地域医療構想に関して、各都道府県で検討されており、2016年度末までには各都道府県より、将来的な病床の整理に関する具体的な数値が発表される。

それに先駆けて、国は将来的な医療・介護の必要病床数を何度も提示している。

2016年6月15日に開催された「第五回 医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」では、新たな病床の在り方に関する報告が行われた(下図)。
sinkoku   第五回 医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会 資料

注目するべきは、以下の点である。
1)高度急性期・急性期機能の削減が著しい
2)回復期機能の増加が著しい ※地域包括ケア病棟を相当数含む。
3)慢性期機能の削減が著しい
4)介護施設・高齢者住宅での医療機能の増加が著しい

今回の報告と昨今の診療報酬改定・介護報酬改定の流れと合わせると
1.高度急性期・急性期・慢性期は医療必要度の高い人への対応
2.回復期機能は回復期リハビリテーション病棟を強化するのではなく、地域包括ケア病棟による多様な疾患・症状を持つ人への対応
3.介護施設や高齢者住宅にて重度者への医療の提供
という意図を読み取ることができる。

将来的な高齢者の減少と若年層の減少を考えると、日本国にこれほど病床がいらないことは理解できる。

問題は、在宅医療、在宅介護、予防医療、終末期医療に関するハード面とソフト面が整っていないことである。

病床機能の転換は、医療・介護業界で働く人のソフト面の転換も必要としている。

地域医療構想や政府の政策を読み取り、医療機関や介護事業所は、マネジメントや人材育成の強化に乗り出さなければ、これから急変する医療・介護情勢の変化についていけなくなるだろう。

 

セラピストの職域拡大の鍵は、「企業との連携」にある

理学療法士等のセラピストの過剰供給が顕在化している。

既存の医療・介護分野の事業モデルでは、毎年、1万人以上のペースで増え続ける理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の雇用を継続的に維持することは困難である。

65歳以上の高齢者の数は、2042年でピークを迎え、その後急速に減少していくと予想されている。

また、2040年以降の日本国全体の人口減少も著しくなる。

つまり、これからの未来では理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の雇用の場はジリ貧となる。

したがって、現状の医療・介護分野の事業モデルだけでなく、セラピストが活躍できる「場」を作って行かなければ、セラピストの雇用の絶対数は減少する。

そのため、現在、セラピストの各種職能団体より、「新たなセラピストの活動の場」が提案されている。

しかし、現実的には、「新たなセラピストの活動の場」を現場の「イチ理学療法士」・「イチ作業療法士」・「イチ言語聴覚士」が開拓することは極めて難しい。

新しい職域を開拓するためには、優秀なマーケティング能力が必要である。

しかし、マーケティングに関してセラピストは学ぶ機会は皆無であり、そもそもマーケティングの意味さえもわからない人がほとんどである。

 

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そのような状況で、「新たなセラピストの活躍の場」を作るには、どのようにすれば良いか?

それは、「企業と連携してセラピストの能力を社会に活かす」ということである。

企業は、資金力・販促ルート・既存顧客・人脈などを持っている。

その企業にセラピストの能力を活用してもらい新たなサービスや商品を作り出すことが、最も効率の良い方法である。

また、セラピストが新しい取り組みをした場合、様々なところから「イチャモン」がつく。

そのような「イチャモン」が発生しても、企業の場合は顧問弁護士などを通じて法的な立場から対応をしてもらえるというメリットがある。

セラピストの能力が活かせる業界との接点を持つためには、企業展示会、異業種交流イベント、ヘルスケア関連の学会などに参加すると良い。

セラピストが企業と連携をする。

そんな時代が10年後には常識になる前に、今から行動することをオススメする。

 

リハビリテーションの視点は、医療・介護事業のマネジメントをより良好なものに変えることができる

理学療法士や作業療法士という仕事は、医療の世界では後発組である。

現在、医師は31万人、看護師は准看護師も含めると142万人である。

医師法は1906年に、保健師助産師看護師法は1948年に制定されており、医療業界における数の力と歴史的な背景は他の職種を圧倒している。

したがって、今までの医療における制度設計や伝統的なしきたりは、医師と看護師の影響を強く受けていると言っても過言ではない。

事実、医師と看護師の業務範囲は大きく、その権限も強い。

診療報酬における施設基準要件や加算要件にも、医師と看護師の配置が圧倒的に他の職種より多い。

よって、医療における様々なマネジメントは、医師や看護師の考えや思想が反映されているものが多い。

医療におけるマネジメントに理学療法士・作業療法士の考えや思想が反映されにくい状況は今でも続いている。

筆者は2014年から、独立系の医療・介護コンサルタントとして活動している。

独立する以前も、大阪府内にある医療法人で8年間トップマネジメントを経験した。

これらの経験から言えることは、「理学療法やリハビリテーションの視点は、医療・介護事業のマネジメントをより良好なものに変えることができる」というものである。

地域包括ケアシステムというのは、いわゆるリハビリテーションの考え方と同義語である。

WHO(世界保健機関)は1981年にリハビリテーションを以下のように定義している。

リハビリテーションは、能力低下やその状態を改善し、障害者の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を含んでいる。
リハビリテーションは障害者が環境に適応するための訓練を行うばかりでなく、障害者の社会的統合を促す全体として環境や社会に手を加えることも目的とする。
そして、障害者自身・家族・そして彼らの住んでいる地域社会が、リハビリテーションに関するサービスの計画と実行に関わり合わなければならない。

まさに、地域包括ケアシステムの考えと同じであり、地域包括ケアシステムの起源はリハビリテーションであると言っても良い。

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直近の診療報酬改定・介護報酬改定は、「地域包括ケアシステム」を強く推進しており、リハビリテーションの概念を医療・介護に文化的なレベルまで浸透させようとしているものである。

疾病構造や社会保障システムの変化は、医療・介護機関のリハビリテーションの実践を要求するようになった。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が経営や運営にかかわる意味はここにある。

経営や運営にリハビリテーションの視点を導入していくことが、診療報酬、介護報酬上の恩恵を受けることができ、さらに利用者・患者満足度も高い状況を作り出すことができる。

今こそ、経営・運営に理学療法士・作業療法士・言語聴覚士がかかわるタイミングである。