理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の間違った専門性の解釈は、リハビリテーションの効果を減弱させる

リハビリテーション関連職種やリハビリテーション医療を行う医療機関・介護事業所の増加により理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が一緒に働く機会が増えている。

筆者のクライアント先のほとんどで医療機関や介護事業所でも、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が一緒に働いている。

小生が理学療法士になった2000年初頭では、三職種が一緒に働いている職場は非常に珍しく、多くの職場では理学療法士のみが働いているというのが一般的であった。

そのため、昔と比較して、理学療法だけでなく、作業療法、言語聴覚療法も提供できるようになったため、医療機関や介護事業所のリハビリテーションの機能は上がっていると考えられる。

しかしながら、大きな問題が顕在化しつつある。
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それは、「理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の間違った専門性の解釈」である。

一人の患者に理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が担当する場合、セラピスト間で患者に関する情報を共有することが一般的である。

しかし、多くの医療機関や介護事業所では、「各職種の専門性に関する情報」を共有することが多い。

例えば、嚥下障害が大きな問題である患者に関する、申し送りを行った場合に以下のような申し送り内容になることはないだろうか?

理学療法士:座位保持が延長しており、覚醒状態も改善しています
作業療法士:上肢を用いて、スプーンで口に食物を運ぶことができるようになってきました
言語聴覚士:食事中、誤嚥の回数が減ってきており、食事時間も短縮しています

このような申し送り内容は、意味はないとは言わないが、リハビリテーションの効果を高めるのは難しい。

なぜならば、各申し送り内容は「嚥下障害」にフォーカスを当てたものではなく、療法士自身の「専門性」にフォーカスを当てているものだからだ。

「嚥下障害」がなぜ起きるのか?ということに対して理解がないため各職種は自身がわかる範囲のこと(自身の専門性)について述べるしかできない結果、「嚥下障害」の改善に役に立つ情報を提供することができないと言える。

嚥下を阻害する座位アライメントの変化や今後の改善の見通し
食事動作時の体幹・頚部アライメントの変化や上肢機能と嚥下の関係
誤嚥の回数が低下した機序の分析と座位・食事動作の関連

などについて各職種が述べることができれば、「嚥下障害」に対する各職種の介入が円滑に進みやすくなる。

理学療法士だから基本動作
作業療法士だから応用動作
言語聴覚士だから摂食嚥下

という枠組みを超えて、基本動作・応用動作・摂食嚥下に共通する普遍的な生理学・解剖学・運動学を治療に応用できるセラピスは、真の意味で専門性を発揮していると言える。

 

 

 

「誰でもできる仕事では賃金は上がらない」という極めてシンプルな市場原理が、医師、療法士・看護師・介護士の働き方を変えていく

医療保険・介護保険を取り扱う業界で働いている人たちの給料の財源は、社会保障費から捻出されている。

ご存知の通り、日本の債務超過は1000兆を超えており、従来のような手厚い社会保障を提供することは困難となっている。

そのため、近年の医療・介護の政策は「選択と集中」が推進され、より重症な人、より介護が必要な人、支援が困難な人に社会保障費が回されるようになっている。

逆説的に考えると、より重症な人、より介護が必要な人、支援が困難な人へ対応できる場合は、比較的、金額の高い社会保障費、すなわち診療報酬・介護報酬を得ることができると言える。

近年、進められている「選択と集中」の代表例は以下のようなものである。

急性期病院・療養型病院の重症化
在宅における終末期医療の推進
通所リハビリテーション・訪問リハビリテーションの心身機能・活動・参加の推進
回復期リハビリテーション病棟の在院日数短縮と効果的なFIM獲得
精神病院の在宅復帰促進
通所介護における認知症・重症利用者・リハビリテーションの促進
地域包括ケア病棟における地域連携の実践

これらの内容は、20年前の医療・介護業界では全く求められていなかった。

また、各項目を達成するためには非常に難易度の高い技術が医療・介護従事者には求められる。

したがって、医療技術に長けた医療従事者、介護技術に長けた介護従事者の確保は、今日の医療機関や介護事業所にとっては大きな課題である。

市場原理から考えると、特定の市場で必要とされる人材には高賃金が払われやすい。

つまり、今の選択と集中の政策により作り出される市場で、必要とされる人材になれば高賃金という優遇を得られる可能性は高い。

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しかし、多くの医療・介護従事者はマーケット感覚などなく、ただ、目の前の臨床やサービスをこなしている。

マーケット感覚の乏しい医療・介護従事者は、「医療・介護従事者であればだれでもできる仕事」を一生懸命にこなしている可能性が高い。

「誰にでもできる仕事」が不要だとは言わない。

組織においては、「誰にでもできる仕事」を一生懸命してくれる人は必要である。

優秀な人や管理職が脚光を浴びることができるのは、その裏で支える人たちの存在があるからである。

ただ、「心底、賃金を上げたいと考えている人」は今の自分が「誰にでもできる仕事」をしているかどうかについて、真剣に考えたほうがいい。

医療・介護従事者で国家資格を持っているとはいえ、医療・介護技術のコモディティー化が進んでいる。

市場の状況を冷静に分析する力。

この能力がこれからの医療・介護従事者には必要である時代になっている。

 

「長時間労働の是正」が医療・介護現場のマネジメントに与える影響

2010年代になってから、「ワークライフバランス」が推進され長期間労働は「悪」であるという意識が日本国民の中に生まれている。

また、安倍政権は「働き方改革」の一環として「長時間労働の是正」を掲げており、今後、長時間労働の規制が法律面において強化される可能性は高い。

長時間労働の問題の本質はどこにあるのだろうか?

長時間労働が「悪」とされるのは、「日本人の動労生産性の低さ」が原因とされる。

労働生産性とは「就業者一人当たりが働いて生み出す付加価値の割合であり、国の経済活動の効率性を示すデータの一つ」である。

ここで言う「付加価値」とは、「売上高からその売上を上げるために外部から調達した商品やサービスの金額を差し引いたもの」である。

例えば、電子部品を作るために材料を自社で調達し、最終的な組み立てを外注し、包装を自社で行って出荷した場合、売上から材料代金と外注費を引いたものが「付加価値」となる。

しかし、リハビリテーション業務や看護業務に関しては他の産業の業務と異なり、材料費の割合が少なく、経費のほとんどが人件費となるため付加価値の計算は難しい。

つまり、リハビリテーションや看護業務の生産性の高さとは、「短時間当たりの作業量の多さ」と言い換えることができる。

したがって、「短時間当たりの作業量の多さ」を改善することが本質的な問題である。

「短時間当たりの作業量を多くできない」から「ダラダラと長時間労働をしている」という理屈が働く現場にあると言える。

しかし、「長時間労働をやめても短時間当たりの作業を多くできない」なら、最悪のことになる。

逆説的に考えると、「短時間当たりの作業を多くできないことを、長時間労働でカバーしている」という前向きな対応とも言える。

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長時間労働をなくすことはあくまで手段である。

本質的な目的は「労働生産性を上げること」である。

そして、もう一点考えなければならないのは、労働者一人当たりの業務過多である。

業務過多の状態の労働者に対して、長時間労働を是正することはある意味「パワーハラスメント」とも言える。

「業務過多問題」を「長時間労働問題」とすり替えている医療機関・介護事業所は最悪の極みである。

医療・介護現場では、決められてた人員数で決められた作業を行わなくてはならない。

よって、経営者や管理者は、「労働生産性」・「労働時間」・「作業量」を管理した上で、長時間労働の是非について検討しなければならない。

長時間労働を減らせ!では、何も解決しない。

 

 

安倍政権が進める働き方改革「非正規雇用の待遇改善」の恐ろしさを医療・介護現場は気づいているか??

現在、政府は目玉政策として、「1億総活躍社会の実現」を進めている。

1億総活躍社会の基本政策は、「一人一人の事情に応じて多様な働き方が可能な社会への変革に取り組む」ことである。

この基本政策を実現するために以下の3つの政策が検討されている
1)非正規社員の待遇改善
2)長時間労働の是正
3)高齢者の就業促進

これら3つの政策は、日本にある全企業の労務・人事に関するマネジメントに大きな影響を与える。

医療・介護の現場においても、例外ではなく、労務・人事管理のマネジメントの変革が求められる。

今回は、非正規社員の待遇改善政策が医療・介護現場に与える影響について考えてみたい。

非正規社員の待遇改善とは、簡単に言うと「正社員と変わらない給与を支給する」ことである。

いわゆる「同一労働同一賃金」という考え方である。

「同一労働同一賃金」という考えは、雇用が保障される正規と雇用が保証されていない非正規との間には大きな賃金格差があるため、社会保障の観点から、非正規社員の賃金を是正するという理念から生まれたものである。

しかし、正規社員の給与形態を維持したまま、非正社員との賃金格差を是正することは容易ではない。

日本の伝統的な給与体系は、年功序列制度を用いている。

勤続年数が長くなるほど、賃金が増加する仕組みである。

しかし、非正規社員の場合は、職種ごとに一定の時給や月給が定められているため、勤続年数が長い正規社員とは、かなりの賃金差が生まれることになる。

日本の伝統的な給与体系は、景気が良かった時代の名残でもある。

長期間にわたり会社に貢献することが、労働者の美徳であるとの考えは根強い。

また、日本では60歳から65歳の間で退職するという「定年退職制度」が用いられている。

ある意味これは、強制解雇であるため定年までの雇用と賃金増加を保証する必要がある。

以上のような理由から、日本の企業は年功序列制度を変更することが難しい。

また、別の問題として、正規社員と非正規社員の組織への帰属意識や理念実践の差が挙げられる。

一般的に正規社員は非正規社員と比較して労働時間は長く、上司や顧客とコミュニケーションを取る機会も多い。

そのため、組織人としての行動や理念の実践において、非正規社員より正規社員の方がはるかに期待できる。

正規社員は「自身のやりたいこと」や「専門職としての能力発揮」などを求めて働いているケースが多いが、非正規社員は、「金銭的報酬」を目的に働ている人が多い。

企業の立場に立つと、組織への帰属意識や理念実践に差がある正規社員と非正規社員の賃金を同一にするということには、相当な違和感があるだろう。

つまり、非正規社員の待遇改善を実現するためには、単に非正規社員の給与を上げるのではなく、「給与体系」や「人材育成」に関して改革が求められる。

 

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医療・介護の現場には、相当数の非正規社員がいる。

特に、最近はワークライフバランスが推進されているため、短時間勤務の医療・介護従事者も増加している。

そのため、この非正規社員の待遇改善は大きな問題である。

しかしながら、なんの手立てもせずに、非正規社員の待遇を改善すれば、相当な人件費の増加となり、経営的には大打撃である。

非正規社員の待遇改善を実現するためには、以下の二つの対策を医療・介護事業所は実践しなければならない。

1.正規社員の給与体系を年功序列から実力重視に切り替え、正規社員、非正規社員ともに徹底的な人事考課を行う。

2.非正規社員に正規社員と同等の組織の帰属意識や理念の実践について教育し、実行させる。

この2点を実現できなければ、非正規社員の賃金を上げたとしても経営的には何の意味のないものになる。

医療・介護現場は、「マネジメント下手」である。

よって、非正規社員の待遇改善は極めて大きな課題である。

 

地域包括ケアシステムの中核であるリハビリテーションの社会化は民間サービスから発展!?

2017年4月より、要支援者の通所介護・訪問介護は「介護予防・日常生活支援総合事業」に移行することが決定している。

先進的な自治体は、様々な仕組みを構築し、介護保険に頼らない高齢者の自立支援に資する活動を始めている。

自治会レベルで体操教室を自主運営している地域
ボランティアや定額時給支給により集った市民による生活援助を行っている地域
社会福祉法人が運営する小規模デイサービスに要支援者が通所する地域
商店街やスーパーなどのスペースを利用して介護予防サービスを提供する地域
などリハビリテーションが生活に近い場面で提供される事例が増えている

しかし、各自治体は、通所介護・訪問介護は「介護予防・日常生活支援総合事業」の移行に、頭を悩ませている。

2016年9月の時点で大阪府下で通所介護・訪問介護を「介護予防・日常生活支援総合事業」に完全移行している自治体は、箕面市・茨木市・大東市のみである。

特に大都市では、様々な障壁が多い。

移行が難しい理由としては
地域資源が乏しい
行政と住民のネットワークが脆弱である
行政にケア・リハビリテーションに関するノウハウがない
財源が乏しい
などが考えられる。

しかし、財務省は要介護2以下が対象のサービスを、「介護予防・日常生活支援総合事業」に移行させ、訪問介護の生活援助や福祉用具の貸与、住宅改修の給付については自己負担を原則とする仕組みに切り替えることを提言している。

また、要支援者への訪問介護とデイサービスも、原則として利用者の自己負担にすべきだとも意見している。

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これが実現するかどうかは定かではないが、医療保険・介護保険に頼らないリハビリテーション関連のインフラが社会に増えていくことは、間違いないだろう。

介護予防
疾病予防
高齢者就業
栄養指導
生活習慣指導
など、リハビリテーションに関するサービスが民間が開発され、行政が委託・注文する形がこれからの新しいケア・リハビリテーションの形になって行くと推測される。

医療保険・介護保険に依存しない健康づくり・生きがいづくりのインフラも思想も不足している日本

これからの将来を担う医療・介護従事者や行政は重大な責任を負っている。