独立してよいタイミング

40歳近くになってくると自身のアイデンティティが確立し、仕事において自分の夢や希望を実現する働き方を希望するようになる。

40歳前後というのは仕事の経験や人脈も蓄積し、独立することも可能となる年齢である。

全ての行動に責任を持ち、仕事や人生を自分自身の判断でハンドリングしていく働き方は、環境変化が激しいこれからの時代にふさわしい選択でもある。

独立にはリスクもあるが、相当な魅力があることも確かである。

独立をするために必要な要件は、先述したようにアイデンティティの確立、経験や人脈の蓄積であるが、もう一つ大切なものがある。

それは、会社の看板を外れた時の自分のブランド力である。

自分のブランド力を確認する方法は次のような方法がある。

専門学校から学生への講義依頼
行政からの介護予防に関する講演依頼
上司や上席者から依頼された対外的な仕事
などの自分に対して依頼されたものが、自分と言う個人に来たものなのか?それとも会社という看板に対するものなのかを判断する方法である。

もし、会社と言う看板に来たのではなく、自分という個人に依頼されたのもであればブランド力は着実に高まっていると言えるだろう。

多くの人は会社のブランドにぶらさった状態で仕事をしている。

しかし、社会環境が不安定な時代においては、会社のブランドに依存するのではなく、個人のブランドを高めておくことが労働市場を勝ち抜く上では重要である。

独立をするタイミングは、個人のブランド力が高まっていることを実感できるタイミングであると言えるだろう。

独立を考えている人は、今一度、自分のブランド力を確認することをお勧めする。

戦略なきセラピストのキャリアデザインは成功率が低い

PT・OT・STは他の医療職と比較して、自己研鑽に非常に熱心な職種である。

筆者はセミナー事業をしているので、このことを良く実感する。

また、大手出版会社の調査によるとPT・OT・STの一人当たりの書籍購入は他の職種を大きく上回るそうだ。

しかし、自己研鑽のための論文執筆、学会発表、セミナー参加は手段であり、目的ではない。

目的は、「なりたい自分になること」「社会的価値の創出」「組織への貢献」「対外的評価の向上」などであり、自己研鑽はそのための手段にしか過ぎない

手段を目的に活かしていくためには、キャリア戦略が必要である。

キャリア戦略とは

目的-現状=戦略

と言える。

 

つまり、目的と現状のギャップを埋める方法を考えることがキャリア戦略である。

優れた戦略をとるためには次のようなことに留意する必要がある。

人生の目的を明確に定める
自分のやるべき仕事の範囲を明確に定める
どの業界で働いていくかを決定する
目的とする業界で働いていくためにどのような能力が必要であるかを定める

例えば、以下のようなものが戦略として優れていると言える。

人生の目的:在宅リハビリテーション分野の第一人者になる
仕事の範囲:学術と臨床
どの業界:在宅ターミナル患者
どのような能力:フィジカルアセスメント・内科系疾患・呼吸循環機能・摂食嚥下・ポジショニング

やみくもに、論文執筆・学会発表・セミナー参加をするのではなく、キャリア戦略を立案することが大切である。

そのためには、業界の動向、自分の価値観、キャリアの種類、能力開発に必要な手段などに関する情報収集を行う必要がある。

そして、さらに大切なことは「自分自身の仕事や人生をどのようにしたいのか?」ということを考える時間を確保することである。

つまり、キャリア戦略を立案・実行するにも知識や技術が必要であるということだ。

しかし、ほとんどのセラピストはキャリア戦略のための知識や技術を学んでいない。

キャリア戦略なき自己研鑽は、仕事や人生の投資にならずに、不良債権となる。

自己研鑽に熱心なセラピストほど今すぐキャリア戦略を再考しなければならない。

 

 

 

年功序列制度は悪いことなのか?

成果主義や目標管理制度が浸透しつつある日本において、年功序列制度は「悪」として考えられている。

年功序列制度とは
勤続年数、年齢などに応じて役職や賃金を上昇させる人事制度・慣習のシステム
である。

日本経済が上昇の一途を辿っていた1965年から1990年代において、企業における年功序列制度は一般化し、日本の社会における一種の文化となった。

その後、年功序列制度は実力のない人が高い賃金を得られる、実力があっても若い人が評価されない、企業にとって優秀な人が評価しにくいなどの理由から、徐々に衰退の一途を辿っている。

しかし、年功序列制度は人材育成の本質を実践する制度として、近年見直されている。

「年齢を重ねた人が高い給与をもらう」と言うのが今までの年功序列制度の解釈である。

しかし、次のような解釈がこれからの年功序列制度の在り方である。

「年齢を重ねるごとに、知識や経験が豊富になり、それにより企業価値を高めることが出来るようなった人が高い給与をもらう」

年功とは

年と共に生じる功

である。

年功序列制度が問題になる企業の問題の本質は、人材育成が出来ていないことである。

人間は年を重ねれば知識や経験が増えるのが普通である。

そんな普通のことが実現できない企業の人材育成の在り方が、年功序列制度における本質的な問題である。

皆さんの組織に40代・50代で大した企業への貢献もしていないのに高い給与をもらっている人いないだろうか?

その人の給与を下げる方法は、企業への貢献を中心にした人事考課制度を導入することである。

人材育成や人事考課を適切に行えば、必然的に「年と共に生じる功」が実現し、年功序列となる。

皆さんの組織の年功序列制度は、組織への貢献がない人も高い給与がもらえる制度か?それとも、「年と共に生じる功」を実現する制度か?

今一度、自社の年功序列の在り方を考えていただきたい。

 

 

多くの医療機関や介護事業所はサービスの模倣に飛びついて失敗する

経営戦略における模倣にはサービスレベルの模倣と仕組みレベルの模倣が存在する。

サービスレベルの模倣はインターネットの発達により、その期間が著しく短縮されており、サービスの模倣だけでは、競争戦略における持続的な優位性を生みにくい。

したがって、現代の経営においては、仕組みレベルの模倣が極めて重要である。

医療・介護業界でも、仕組みの模倣の重要性が見直されている。

一事例を示そう。

2000年より国は高齢者の退院後の在宅生活を支えるために、リハビリテーションを専門的に提供する「回復期リハビリテーション病棟」を設立した。

その後、当該病棟は、収益性の高さもあって全国に瞬く間に広がり、現在では当該病のベッドが8万床までになっている。

しかし、現在、当該病棟の運営状態は負け組と勝ち組に分かれるという二極化が進んでいる。

病棟の運営状態に最も影響を与えるのは病棟稼働率である。

病棟稼働率を高いレベルで維持できなければ、売上総利益は低下する。

病棟稼働率を上げる方法は、医療経営の専門誌などで解説をされているが、多くの医療機関は稼働率を向上に難渋している。

これこそ、まさに仕組みの模倣の難しさを示している。

回復期リハビリテーション病棟というサービスは模倣することは可能だが、経営の最重要指標である病棟稼働率を上げる仕組みの模倣は極めて難しいと言える。

ビジネスにおける仕組みを分析するには「P―VAR」が優れている。
※参考図書 井上 達彦:模倣の経営学.日経ビジネス人文庫

Position:競合ポジション・顧客セグメント

Value:価値提案

Activity:鍵となる主要活動

Resource:経営資源

事例で挙げた回復期リハビリテーション病棟の稼働率に関して、成功している医療機関が私のクライアントにいる。

その医療機関に関して、「P―VAR」を用いた分析を行うと次のような結果になった。

P:顧客は、リハビリテーションを必要とする心身機能が低下した高齢者である。回復期リハビリテーション病棟激戦地域に存在し、競合病院は半径5km以内に3つ存在する。

V:在宅復帰後の生活を見据えた医療
介護サービス
質の高い心身機能改善のリハビリテーションサービス

A:エビデンスに基づくリハビリテーションの提供
地域の介護事業所との質の高い連携

R:リハビリテーション医療を徹底的に教育された医師・看護師・セラピスト
地域の医療機関や介護事業所への医療・介護・福祉に関する教育活動

この医療機関は病院密集地域にあり、患者獲得の競争は熾烈な状況である。

しかし、回復期リハビリテーション病棟の稼働率は90%を常に超えている。

在宅復帰後を見据えたきめ細かい支援や質の高いリハビリテーションを提供する病院として地域からの評判がよく、紹介患者が絶えない状況である。

このような素晴らしい実績は、職員に対するリハビリテーションの教育や地域への関わりに起因している。

これらの活動を支えるResource(経営資源)の開発手法は、他の医療機関が模倣することが困難なものばかりである。

当該医療機関の教育者の確保、質の高い人材の採用、離職率低下の取り組みなどはすべて企業秘密であり、決して表にでることはない(図1)。

図1 外から見えるのは表面的な製品やサービスだけであり、それを支える仕組みは見えない

しかし、この医療機関も最初から、質の高い経営・手法を実践できたのではなく、10年程度の歳月の醸成により、他医療機関が模倣困難な仕組みを作り上げたのである。

多くの企業が、独自の仕組みを作ることが出来ずに、市場から淘汰されていくのが現実である。

模倣の対象となる情報があっても、それを元に企業の独自の仕組みを繰り上げることは、相当困難である。

あなたの組織はサービスの模倣ばかりしていないか?

サービスのみの模倣は、ルールを知らずにスポーツをするようなもので、現場レベルの混乱を助長するだけである。

技術を高めて、患者様から信頼されるセラピストになりたいです!という言葉の軽さはセラピストをダメにする

どんな理学療法士、作業療法士、言語聴覚士になりたい?

と質問すると圧倒的に多い回答は

「技術を高めて、患者様から信頼されるセラピストになりたいです!」

である。

しかし、この言葉の重みを知っている人はほとんどいない。

まず、「技術を高めることで患者様から信頼される」と言うことの目的は何かはっきりしないことが多い。

信頼をされるとどうなるのか?

信頼をされることで何を得たいのか?

が全く見えない。

信頼をされることで得られる対価を定めないと、技術を高め続けるモチベーションは得られない。

信頼は何かの手段であって、目的ではない。

信頼をされるだけでモチベーションが続くという人はいない。

例えば、沢山の患者から信頼されて、仕事が忙しくなるだけの状況にあなたは耐えられるか?

もう一つ、最大の問題がある。

どの範囲の患者から信頼を得たいのか?である。

自分の担当している患者のみに、接遇、チーム医療、リハビリテーションを熱心に行えば一定レベルの信頼は得られるだろう。

しかし、社会全般の患者から信頼されるためには、それ相応の仕組みが必要である。

ここで、信頼と信用について明確に分けて考えてみる。

「信用」
何らかの実績や成果物という業績を残した結果、組織や社会がその業績を評価し、「信用」が生まれる

「信頼」
過去の業績やその人の言動からその人の未来の行動を期待する行為や感情

過去を「信用」し、その「信用」から未来を「信頼」する。

したがって、社会全般の患者から信頼をされるためには、彼らがアクセスすることが出来る業績が必要である。

業績を確認することで、信用が生まれ、その結果、信頼へ発展する。

また、患者には主治医である医師やケアプラン立案の担当者である介護支援専門員などの代理人がいる。

したがって、代理人である彼らの存在も無視できない。

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士として患者、医師、介護支援専門員より信頼を勝ち取るためには、彼らがアクセスすることが可能な業績を発信してくことが重要となる。

学会発表、論文発表、セミナー講師を積極的に行うだけでなく、SNSやプレスリリースなどの情報発信も極めて重要である。

技術を高めて、臨床を頑張っていれば、患者より信頼される というのは、幻想と言っても過言ではない。

「信用を残し、信頼を得る」という仕組みを構築できないセラピストには、真の意味で患者からの信頼を得ることはできない。

技術を高めて、患者から信頼されるセラピストになる。

この言葉の意味は相当重い。