最近、次期診療報酬および介護報酬の減額に関する報道が、新聞やインターネットメディアを中心に多く見受けられるようになった。
これは、財務省から厚生労働省への圧力であると同時に、国民および医療・介護関係者の反応を見極める意図も含まれていると考えられる。
こうした報道に対し、メディアやSNS上では「このままでは介護事業が立ち行かない」「人材の離職が加速する」「国は現場の声を無視しているのか」といった危機感を訴える意見が多数寄せられている。
現場の実情を知る者にとっては当然の反応であり、慢性的な人手不足や事業運営の厳しさは看過できない現実である。
しかし、視点を変えれば、これらの動きは業界全体の持続可能性を見直す機会とも捉えられる。
医療・介護分野は、公的保険制度によって一定の収益が保証されているという点で、他業種と比較しても安定した市場である。
この「守られた環境」に依存し続け、報酬の引き上げばかりを求める姿勢は、やがて業界の保護産業化を招き、現場の創意工夫や進化を阻害しかねない。
むしろ今こそが、業界全体が進化を遂げるための転機である。
制度や報酬体系に依存せず、自らの価値を再定義し、利用者・患者から選ばれる存在となる努力が求められている。
たとえば、ICTの導入による業務効率化、多職種連携によるサービス品質の向上、人材育成の再構築といった取り組みは、事業の持続性を高めるうえで欠かせない。
報酬の増減に一喜一憂せず、自らの強みと独自性を打ち出すことこそが、今後の競争優位を築く鍵となる。
危機の中にこそ、変革のチャンスがある。
制度変更の行方に関わらず、本質的に問われているのは、変化に対応し、地域社会から真に信頼される事業所、人材となれるかどうかである。
ピンチはチャンスである。
この構造変化の波を飛躍の起点とし、医療・介護の未来を自らの手で切り拓く覚悟が求められている。
筆者
高木綾一
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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