医療・介護従事者が生き残るためのキャリア戦略 〜市場価値と社内価値、どちらを高めるべきか〜

医療や介護の情勢は、いまなお急速に変化を続けている。

とりわけ、高齢者人口がピークを迎えるとされる2040年頃までは、医療・介護従事者の人材確保が国家的な課題となる。

政府は規制緩和を進め、人員の量産体制を整えているが、それによって確保される人材は、最低限の生活が維持できる水準の給与で働くことを前提としている。

しかし、物価高騰や消費増税が進むなかで、その給与水準では生活がますます困難になることは避けられない。

家族を養い、住居を構え、車を持ち、親の介護費用や子の教育資金を賄うには到底十分とは言えない状況である。

ゆえに、収入を増やすための能動的な努力が不可欠となる。

給与を上げるためには、まず「社会全体で評価される能力を磨くべきか」それとも「自分が今働いている会社の中で評価される能力を磨くべきか」を決める必要がある。

これはすなわち、セルフマーケティングそのものである。

社会が求める能力を追求する際には、国内にとどまらず、世界の医療・介護事情や社会動向にも目を向ける必要がある。

医療DX(デジタルトランスフォーメーション)や地域包括ケアシステムの進展など、政策の方向性を読み取り、自らのスキルを適応させていくべきである。

これには時として周囲の理解を得られず、孤独に陥る覚悟も必要である。

一方、会社が求める能力を磨く場合は、よりミクロな視点が求められる。

経営者のビジョン、会社の将来性、部署間のパワーバランスを見極めたうえで、必要とされるスキルセットを整理し、磨くことが重要である。

その過程では、自らがその会社で働き続けるという強い覚悟も求められる。

今日では医師、弁護士、税理といったプロフェッショナルでさえ、収入の増加に苦しんでいる時代である。

これらの職業ですら国は守ってくれない。

医療・介護従事者もまた、もはや自身を市場という荒波に投じる覚悟が必要である。

それは単なる技術習得ではなく、マインドセットの問題である。

いま必要なのは「意思」である。

意思の「意」とは「想うこと」、すなわち「志を想い続けること」である。

志を持たぬ者には、金銭的な明るい未来は訪れないと断言できる。

医療・介護従事者にも、まさにワークシフトが求められている。

自らの働き方を見直し、新たな価値を創造する姿勢が、これからの時代を生き抜く鍵となるのである。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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