入院医療に課せられた試練 インターナル・マーケティング

2016年度診療報酬改定の影響がじわじわと出てきている。

施設基準の維持や入院患者の確保が厳しい医療機関が現れてきており、厚労省の思惑通り、各医療機関の再編成や淘汰が起こっている。

特に、急性期病院と慢性期病院では経営的なダメージが大きくなっており、ダメージコントロールが益々重要となっている。

急性期病院のダメージコントロール項目
1)重症度、医療・看護必要度の患者割合25%以上
2)ICUの看護必要度厳格化への対応
3)総合入院体制加算の精神科要件への対応
4)ADL維持向上等体制加算の人員要件への対応
5)DPC/PDPSの診断群分類点数の変更への対応

慢性期病院のダメージコントロール項目
1)医療区分の厳格化(酸素療法・血糖検査・うつ症状の厳格化)
2)療養病棟入院基本料2に医療区分2.3が50%以上の要件追加

急性期病院・慢性期病院は「より重症な患者により高密度な医療を提供する機能」が求められており、入院医療の必要性が低い軽症患者や素泊まり希望の患者に医療を提供する医療機関は、診療報酬上、評価されない仕組みになっている。

したがって、医療機関が生き残るためには「より重症な患者により高密度な医療を提供する機能」を高めていく施策が必要となっている。

施策を設定するためには、マーケティング戦略の視点が重要である。

 

マーケティング

マーケティングとは
消費者の求めている商品・サービスを調査し、供給する商品や販売活動の方法などを決定することで、生産者から消費者への流通を円滑化する活動(三省堂 大辞林)
である。

一言でいえば、「価値を提供し対価を得る全てのプロセス」である。

一般的に、行われている広告・宣伝のような顧客向けのマーケティングは、エクスターナル・マーケティングと言われる。

現在の医療機関に求められているのは、エクスターナル・マーケティングではなく、インターナル・マーケティングである。

インターナルマーケティングは
「企業等が自らの商品・サービス価値を社内に浸透させる啓蒙活動であり、社内で商品・サービスへの価値観を共有化し、従業員の意識や行動の方向性を一致させる試み」
である。

自分たちの入院機能を高めるための理念・知識・技術を社内で共有し、行動の方向性を一致させなければ、今日の医療制度の下では生き残ることはできない。

入院医療を中心としている医療機関に必要なインターナル・マーケティングとしては、次のものがあげられる。

1)退院支援の強化
退院支援により軽症患者の在宅復帰が可能となり、重症度、医療・看護必要度の患者割合が向上しやすくなる。また、退院支援加算取得により収益の向上も見込まれる。

2)重症患者の受け入れルートや体制の確保
重症度、医療・看護必要度や医療区分2.3の割合を向上させるために、重症患者の受け入れルートや体制を確保する。救急機能の強化、手術部門の強化、在宅からの緊急受け入れ強化などを行うことで、医療必要度の高い患者が集まりやすい。

3)病床機能の転換
自院の地域性に適した病床へ転換することで、病床稼働率を安定的に維持することができる。地域の7:1急性期病棟が過剰、高齢者人口が減っている、近隣の病院が高度急性期へ転換しており、自院の急性期機能の役割が薄れているなどの場合は、10:1病棟、地域包括ケア病棟への転換も視野に入れるべきである。

4)認知症ケアの対応
認知症を有する患者が爆発的に増える中、急性期病院の認知症対応が求められている。入院中に、認知症が発症もしくは悪化し、治療が難渋、あるいは、ADLが低下し、結果、在院日数が増加することが多々みられる。また、急性期病院、療養病院ともに認知症ケアへの体制を強化し、認知症ケア加算を取得することが病院機能の向上に寄与する。

今までの医療・介護では、広告・宣伝などのエクスターナル・マーケティングに力を入れてきた。

確かに、エクスターナルマーケティングでも、患者が集まることから、自院のインターナルマーケティングに力を入れる医療機関は少なかった。

しかし、近年の診療報酬改定や介護報酬改定は、明らかに「サービスの質」を求める傾向があり、サービスの質の向上の有無が収益に直結する時代になったといえる。

インターナル・マーケティングは市場の雌雄を決する重要事項になっている。