平成26年度の診療報酬改定で、各病棟機能に在宅復帰要件が追加された。
急性期病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟などで要件が強化され、医療と介護の在宅シフトが本格的に進んだタイミングだった。
その一方で、2025年現在でも在宅インフラが十分に整っている地域は限られている。
大手医療法人では、病棟や介護施設の整備と運営が優先され、在宅部門に本格的に経営資源を投入する段階には至っていない。
収益の柱である入院・施設部門の経営が重視されており、在宅医療は後回しにされるケースが多いのが現状となっている。
また、単独型の訪問看護ステーションや在宅診療所は増加しているが、小規模事業所が多く、人材不足や経営基盤の脆弱さから事業拡大には課題が残る。
訪問看護ステーションにおいては、常勤スタッフが2人以下の事業所が約7割を占めており、24時間対応や急変時の体制構築が難しい。
地域によるサービス提供の偏在も依然として大きな課題となっている。
都市部では在宅医療の体制が徐々に整いつつあるものの、過疎地域や中山間地では事業所の数が限られており、十分なサービスを提供することが難しい状況が続いている。
また、医師の不足も深刻な問題である。
在宅医療に専従する医師は限られ、多くの医師が通常診療と並行して在宅医療に携わっている。
そのため、患者数の多さや急変時の対応が医師に集中し、負担が大きくなっているのが現状だ。
こうした背景から、在宅医療への医師の参入は依然としてハードルが高い。
こうした状況を打開するには、看護師やセラピストが現場での状況を判断し、必要に応じて医師に診察を依頼する仕組みが不可欠となる。
このような役割分担はすでに欧米の在宅医療では一般的になっており、日本においても看護師やセラピストがより高度な医学的知識を身につける必要がある。
さらに、在宅医療現場では情報共有の遅れも課題となっている。
現場では未だに電話やFAXが中心となっており、電子カルテやクラウドシステムの導入が進んでいない。
多職種間でリアルタイムに情報を共有できる体制を構築しなければ、在宅医療の質を維持することは難しい。
一方で、高齢化の進展に伴い、在宅療養のニーズは着実に増加している。
高齢者人口は年々増え続けており、単身世帯の増加も顕著である。
在宅医療を必要とする人々が増える中で、供給体制の整備が追いつかない状況が続いている。
支える側のインフラ整備が追いつかない中で、需要と供給のギャップが拡大している。
また、在宅医療では異なる事業者の医師、看護師、セラピストが連携する場面が多い。
それぞれが異なる医療観や介護観を持ちながらも、共通の目標である患者のQOL向上に向かう必要がある。
地域ごとに標準化された医療・介護知識や理念を共有し、各事業所が自らの方針を開示していくことが重要となる。
これからの在宅医療には、「権限移譲」「情報共有」「情報開示」という新たな視点が必要になる。
これらを実現するには、新しいマネジメントのあり方と、それを担う人材の育成が欠かせない。
時代の変化を乗り越えるために、人と組織の成長が鍵を握っている。
筆者
高木綾一
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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