介護保険分野に勤めるセラピストは心身機能・活動・参加のすべての分野に精通しなければならない

2018年度介護報酬改定の中でも最大の注目ポイントは「介護度改善に対するインセンティブ報酬」であろう。

首相官邸主導で行われた「未来投資会議」にて、安倍晋三首相が「要介護者の自立・回復を達成した事業所を評価する」旨の発言をしたことにより、要介護者の自立・回復が2018年度介護報酬改定の大きな焦点となった。

これまでリハビリテーションに関する政策は、急性期や回復期を中心に行われてきた。

人員要件や報酬単価は急性期や回復期は生活期と比較して遥かに充実している。

しかし、風向きが変わったのは通所リハビリテーション・訪問リハビリテーションに対して活動と参加の取り組みを評価する報酬が認められた2015年度介護報酬改定である。

「心身機能だけでなく、活動と参加の獲得が重要である」と言うメッセージが強く発せられた2015年度介護報酬改定であっが、2018年度介護報酬改定では「心身機能・基本動作・応用動作の改善が重要である」というメッセージが放たれることにになりそうだ。

活動と参加に関しては、生活における重要項目であることは間違いない。

そのため、2015年度改定の活動と参加への評価は、違和感なく業界に受け入れられている。

しかし、生活期において「心身機能・基本動作・応用動作の回復を求める」ことは、介護保険領域で働いているセラピストの中には、驚いている人も多いのが現状である。

要介護度の改善の必要性は、社会保障費の圧縮が主たる理由である(図1)。

日本経済新聞 2017年9月7日 朝刊

しかし、生活期における要介護度の改善は別の理由からも必要である。

その理由は、入院医療の在宅復帰や在院日数の短縮により、回復の伸びしろのある方が多く在宅で生活をしている状況が加速しているからだ。

つまり、「在宅での回復=在宅回復期」が、急性期・回復後の利用者が増えていく時代には必要と言える。

そのため、今後、介護保険リハビリテーションにおける心身機能の改善は大きなテーマになる。

介護保険分野に勤めるセラピストは心身機能・活動・参加とすべての分野に精通しなければならない時代になった。

2018年はリハビリテーションの主流が入院医療から在宅医療へ転換する重要なターニングポイントになるのかもしれない。

 

 

 

加算ありきの介護保険事業所の経営は二流である

2018年度介護報酬改定に関する議論が活況を迎えている。

2018年度は介護報酬改定だけでなく、第七期介護保険事業計画も同時に履行される年であり、介護保険に関する大きな制度変更が予想される。

その中でも、自立支援に対するインセンティブ報酬がとりわけ注目されている。

簡単に説明すると自立支援に関する指標が改善した事業所に対し、介護報酬を増加させるという仕組みである。

現行の介護報酬の体系は、要介護度が高くなれば報酬が増える仕組みになっているため、要介護度を改善させるメリットが事業所にはない。

このことに関して財務省や各種委員会より、現行制度の問題点として指摘されており、2018年度介護報酬改定で何らかの対策が実施されることになっている。

診療報酬と比較して、介護報酬ではサービスの質に対する評価は乏しく、今後は質の評価がより厳しくなっていくと予想される。

これまでの介護報酬におけるサービスの質の評価は下図のようになっている。

アウトカム評価に関しては近年、加算と言う形で評価されることが増えている。

経営を安定させるためには加算を取得することは大切であるが、加算の取得の本質は決して経営の安定ではない。

加算算定の本質は「介護保険事業所のアイデンティティ」の表明である。

なぜ介護保険事業をしているのか?
社会の中でどのような存在でありたいのか?

それを追求した形が、アウトカムであり、加算である。

自立支援のインセンティブ報酬に関する内容は、まだ、明確になっていないがおそらく、設定された指標を達成することにより加算を算定する形になるだろう。

しかし、加算ありきで物事を進めるのは、経営としては二流である。

自社のアイデンティティを考えた時に必要な加算であるかどうか?

加算のための加算ではなく、自社のアイデンティティを示すための加算を目指せば自ずと組織力は向上する。

加算のための加算は、「利益だけを考えた行動」という考えが透けて見えることから、従業員のモチベーションを著しく低下させる。

あなたの事業所の加算は、何のため?

 

 

 

老人保健施設は正念場が続く

近年の介護報酬改定では、老人保健施設に対する多機能化を求める改定が行われており老人保健施設はその対応に追われている。

看取り
認知症
中重度者対応
在宅復帰

これらの様々な役割が期待されているが、組織力が乏しい老人保健施設は社内を改革することが出来ず旧態依然としたサービスの提供にとどまっている。

2018年度介護報酬改定ではどのような変化が老人保健施設に生じるのだろうか?

2018年度介護報酬改定に関して全国老人保健施設協会より次のような要望が出ている。
※詳細はここをクリックしてください

1 在宅支援機能の評価
在宅復帰や在宅復帰後の支援に関する評価の拡充

2 医療提供の質の評価
所定疾患施設療養費の対象の拡充(蜂窩織炎・感染性胃腸炎を追加)
薬剤の減薬に対する評価

3 ケアの質の評価
質の高いケアの実践や人材配置を評価

4 チーム・リハビリテーション
多職種によるチームリハビリテーションの評価

また、2017年8月4日に行われた社会保障審議会介護給付分科会では、老人保健施設の課題として次のようなものが議論されている(下図)。

全国老人保健施設協会と介護給付分科会の議論より、概ねの老人保健施設の方向性が見えてくる。

老人保健施設の在宅復帰および在宅支援の役割はより強化されていく可能性が高い。

現在、4割程度が在宅復帰型へ移行しているが、今後はさらに在宅復帰型への移行が推進されるだろう。

老人保健施設における医療行為や薬剤への評価が追加されることになれば、医療行為のハンドリングが老健単体できるようになり、入院医療と遜色のない対応が可能となる。

その上で、比較的早い回転で入所・退所を行うことが出来れば多くの利用者に対して短期集中リハビリテーション加算を算定することができ、地域包括ケア病棟と同様の機能を老人保健施設が持つことが可能となる。

さらに、チームによるリハビリテーションやケアが評価される事態になれば、老人保健施設としての強みが増すだろう。

老人保健施設では、入院医療機関より理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が少ないことから、チームによるリハビリテーションやケアが重要である。

しかし、現実的には看護・介護・リハビリテーションの各部門は縦割りで働いており、チームケアやリハビリテーションが難しい状況である。

しかし、報酬において評価されることなれば、チームケア・リハビリテーションへのインセンティブが働くことになり、老人保健施設としての機能は向上するだろう。

ただし、介護報酬により老人保健施設の評価が強化されただけで、老人保健施設のサービスの質が急に改善するものでもない。

愚直に人材育成、採用強化、新規入所者獲得のマーケティングなどをしっかりと行っている老人保健施設のみが、介護報酬改定の恩恵を受けるだろう。

2018年度介護報酬改定は、生き残れる老人保健施設を峻別する重大な契機となる可能性がある。

軽度者へのリハビリテーションの改革は二段階の大改革を経て完了する!!

軽度者に対するリハビリテーションには、とつてもない逆風が吹く。

現在も社会保障費圧縮の一環として、軽度者への医療の在り方は大きく見直されている。

とりわけ、軽度者に対するリハビリテーションは、今後、大改革が予定されている。

大改革は二段階のステップを経て行われる。

第一段階は、要介護被保険者の維持期リハビリテーションの介護保険リハビリテーションへの全面移行である

2018年度診療報酬・介護報酬同時改定にて、維持期リハビリテーションは終了し、算定上限日数を超えた要介護被保険者はすべて、介護保険リハビリテーションへ移行されることが規定路線となっている。

近年の診療報酬改定では、要介護被保険者の一単位当たりの点数は激減しており、採算ベースには程遠い診療点数が設定されてきた。

現在でも、要介護被保険者へのリハビリテーションの制度は死に体であるが、いよいよ、2018年度の改定で終止符が打たれることになる。

大改革の第二弾は、2024年の診療報酬・介護報酬同時改定で行われるのではないかと筆者は予想する。

2024年度の同時改定では、要介護1・2の介護保険リハビリテーションが終了し、全面的に総合事業もしくは民間サービスへの移行が図られると考えられる。

特に、通所介護を利用している要介護1・2の人は、全て総合事業に移行する可能性が高い。

そうなると、現在、リハビリテーション特化型の通所介護は、利用者のほとんどが総合事業へ移行し、経営環境が大変厳しくなると考えられる。

通所リハビリテーションに関しては、心身機能・活動・参加への獲得を目指す一定期間に限り、要介護1・2の方が利用できる制度になるのではないかと推測される。

2024年は、2025年問題に突入する直前の年であり、社会的な機運や世論としても軽度者の社会保障費抑制政策は国民に理解される状況であると考えらえる。

また、混合介護やリハビリテーションサービスの自費に関しては2024年までに一定のルールも完成し、自助サービスの活発化するだろう。

軽度者に対するリハビリテーションの制度は、これから、本丸の改革が始まる。

その時、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士はどのように働き、市場で生き残っていくのか?

今より、真剣に考えるべきである。

 

診療報酬改定・介護報酬改定は表面的なアウトカムを示しているが、それを実行するための仕組みは誰も教えてくれない

2018年度診療報酬改定・介護報酬改定が迫ってきた。

日々、中央社会保険医療協議会と介護保険部会より様々な情報が出てきている。

保険者機能の強化
自立支援を評価した介護サービス
急性期病棟のさらなる削減
地域包括ケア病棟や在宅復帰強化型老健の多機能化促進
通所リハビリテーション・訪問リハビリテーション・通所介護の機能分化促進
など非常にドラスティックな施策が予想される。

筆者はリハビリテーション部門のコンサルティングをしていることから、次のような質問を受けることが多い。

どのような経営をしたら生き残れますか?
通所リハビリはどうしたら良いですか?
回復期リハビリテーション病棟はもうだめでしょうか?
訪問リハビリテーションと訪問看護ステーションのどちらから訪問リハビリを行えば良いでしょうか?

これらの質問の答えは簡単である。

「診療報酬改定・介護報酬改定が求めているアウトカムを出すことができれば必ず生き残れる」という答えに尽きる。

ただ、正直これでは答えになっていないと思う読者も多いだろう。

この質問の本質は「どうやってアウトカムを出せばいいのか」という方法論についてほとんどの医療機関や事業所は持ち合わせていないということである。

つまり、求められるアウトカムは理解できるが、そのアウトカムを出す方法については知らないということである。

経営状態の良好、不良の差は「アウトカムを出す方法」について知っており、それを実行ができているかどうか?依存していると言える。

しかしながら、残念なことに多くの経営者は管理者は、求められるアウトカムについては必死で調べて、興味を示すが、アウトカムを出す方法に関しては熱心に考えることは少ない。

また、このアウトカムを出す方法は参考書や他の医療機関などから学ぶことが難しい。

なぜならば、全く見えないからである(下図)。

表現を変えるならば、「企業秘密」である。

2018年度診療報酬改定・介護報酬改定は、ここ10年では最も大きな改定内容となる。

その改定を乗り切るためには、まさに企業秘密と言える事業実行のノウハウを構築する必要がある。

ノウハウには、人材育成、マーケティング、財務会計、法務、テクノロジーマネジメント、経営戦略などが含まれる。

皆さんの会社には、他社が知ることが不可能な企業秘密があるだろうか。

他社が知ることができない企業秘密を構築することが経営者や管理者の本質的な仕事である。

診療報酬改定・介護報酬改定は、あくまでも表面的なアウトカムを示しているだけである。