イノベーションを用いて医療・介護従事者の過剰供給を抑制せよ

日本には超えなければならない二つの時期がある。

一つは団塊世代が後期高齢者になる2025年
もう一つは団塊ジュニア世代が後期高齢者になる2040年

この両世代は人口ボリュームが多く、上記した期間に、多疾病罹患者や看取りが必要となる方が、急増する見込みである。

そのため、現在、地域包括ケアシステムや地域医療構想などの国策を進め、急性期と慢性期における対応を強化している。

さらに、もう一つ大きな課題がある。
人口減少社会の加速である。人口減少社会が加速すると、労働者人口も減少し、日本のGDPに大きな影響を与える。

団塊世代・団塊世代急増問題✖労働者人口減少はどのような問題を引き起こすか?

それは、医療・介護職の産業への労働力シフトの加速による他産業の生産性低下である。
医師、薬剤師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、介護福祉士、社会福祉士などの需要が喚起されると、市場原理が働き、供給も喚起される、そのため、他産業への労働力が低下して、日本のGDPも低下してしまう。

医療・介護分野は雇用創出という効果は絶大であるが、日本のGDPに大きなインパクトを与えることはできない。

では、これらの問題にどのように立ち向かえばよいのか?

やるべきことはたくさん存在する。それは、医療・介護サービスの効果と効率を高めること。

マクロ的には、地域医療構想や地域包括ケアシステムの推進、ICT活用による情報共有、ロボットテクノロジーの普及、自立支援の国民的教育などがある。

ミクロ的には、看護・介護・リハビリテーション・薬剤のハイブリット型人材の育成、ICT活用による見守りサービス、行政や地域主導の介護予防、民間サービスの拡大などがある。

医療・介護従事者を増やせば良いという一方向性の政策では、日本の未来は暗い。

日本という国のあり方を常に考えた行政や民間サービスの発展や開発が必要である。

 

組織は目的を達成するために存在する 

組織は目的を達成するために存在する。
目的がなく集まっている集団は単なる群集である。
群集には共通の目的がないので、各人が自己の目的のために行動する。
したがって、永遠に組織の目的が達成されることはない。

今の医療・介護業界を取り巻く環境は年々厳しさを増している。社会保障費が増大し、人口が減少が著しい2050年までは、医療・介護業界に求められる社会的使命は質と量ともに増していくばかりである。
社会から求められる使命に応えることができなければ、組織は社会に潰され、淘汰されていく。

在宅医療の推進、認知症への対応、急性期病院の機能強化、リハビリテーションの社会化、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の多様な職域での活躍、要介護者の生活の質の向上など多くの社会的な課題を解決することが、組織には求められている。

しかし、今の医療・介護従事者に社会的課題の解決や社会的使命を意識して働いている人がどれほどいるだろうか?

自身の給料や自己満足の充足感のみを得るために働いている人が多くはないか?
今の時代、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、薬剤師などの医療・介護関係職種は国の規制緩和により量産される時代である。
量産により、養成校偏差値の低下、教育の質の低下、卒業生の能力の標準偏差増大等が生じることは容易に想像できる。

能力が低い、あるいは、社会的使命を理解していない医療・介護関係職種が増えれば増えるほど、社会問題は解決されずに社会保障費だけが増大していくという負のスパイラルが繰り返される。

組織は目的を達成するために存在する。
あらゆる社内外の活動はそのことを達成するために存在する。
今一度、この原点に立ち返り、組織を運営しなければ、今から10年以内にその組織は淘汰される可能性が高い。

経営・運営の基本はトップダウン その先にボトムアップがある

経営・運営は責任ある立場の人の意志によって行われる。
その意志とは理念・ビジョン・志である。
その理念・ビジョン・志を組織というインターフェースを通じて社会において実現することが経営であり、運営である。

従業員満足や従業員の働きやすさが最近の経営論や労働法制では注目されている。
確かに、それらの要素は重要であり、経営や運営において軽視することはできない。

しかし、ここに大きな落とし穴がある。
従業員満足や働きやすさを実現させるために従業員からの意見や要求を集めるボトムアップを行うことで、様々な意見や価値観が顕在化し、その後の経営や運営が難しくなるという負のスパイラルに陥る組織が多い。

本来、組織とは目的を持った集団である。
目的を達成するために集められた人で構成するのが組織である。
従業員も目的を達成するために自らの意思で集っているのが組織である。
つまり、経営者、運営者、従業員は全員同じ目的を持っているのが組織である。

同じ目的を持っている組織のボトムアップは負のスパイラルに落ち込むことはない。
そのような組織のボトムアップでは目的を達成するために必要な意見や提案が下から上がってくる可能性が高い。

しかし、同じ目的を持っていない従業員で構成されている組織でボトムアップを行うとどうなろうだろうか?
組織の目的など気にせずに、自分のやりたいことや価値観について言及する可能性が高い。あるいは、不満を持っている従業員は組織を転覆させてやろうと思う人もいるかも知れない。

理念やビジョンは組織にとって、最重要の経営資源である。
この経営資源を生かすも殺すも、経営者、管理者からの情熱的なトップダウンである。
情熱的なトップダウンに共感してくれる仲間を一人も多く採用し、育てていくことこそ、組織の本質である。
トップダウン経営か?ボトムアップ経営か?という質問は愚問である。
なぜならば、「トップダウン&ボトムアップ」でなければ、健全に経営や運営はできないからだ。

介護報酬、診療報酬改定という時代の変化が定期的に訪れる医療・介護業界において、ボトムアップのみの経営や運営は成り立たない。

今こそ、「トップダウン&ボトムアップ」を意識する時である。

なんちゃって医療機関・介護事業所のベンチマークをクリアせよ

7:1急性期病床の削減や地域医療構想の具現化に向けた制度設計が進んでいる。入院医療から脱却し、医療の外来シフト・在宅シフトを実現することは、財務省と厚生労働省の一丁目一番地の政策である。すなわち、改革の対象は、7:1急性期病床を維持したい急性病院や今後の方向性を決めかねている中小病院・診療所・介護事業所である。

もう少し、わかりやすい表現を使うと、「なんちゃって急性期」となんちゃって「地域医療をしている医療機関や介護事業所」が改革の対象と言える。

数年に一回行われる診療報酬改定・介護報酬改定は、「なんちゃって」の定義の更新作業であると行っても過言ではない。現在、「なんちゃって」の定義に該当する可能性が高いものとして以下のものが考えられる

7:1病床なのに重症患者を診ていない
7:1病床なのに病床稼働率が高くない
7:1病床なのに在院日数が20日を超える人がぞろぞろいる
7:1病床なのに専門特化した医療分野が乏しい
回復期リハビリ病床なのに、6単位以上のリハビリをしていない
回復期リハビリ病床なのに、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がバランスよく配置されていない
回復期リハビリ病床なのに、家屋調査をしていない
回復期リハビリ病床なのに、廃用症候群の患者ばかり
地域包括ケア病床なのに地域との医療・介護連携が不十分である
地域包括ケア病床なのに若年の元気な方が入院している
老人保健施設なのに在宅復帰の取り組みをしていない
老人保健施設なのにリハビリテーションに力を入れていない
通所リハビリテーションなのにリハマネ加算を算定していない
リハビリ特化型デイサービスなのに、筋トレ特化型デイサービスになっている
訪問看護ステーションなのに重症患者・24時間対応ができない
診療所なのに、walk in 患者対象の外来に執着し、地域密着医療を行っていない
診療所なのに、在宅医療や介護事業に興味を持たない
医療法人が在宅医療・老人保健施設・通所リハビリ・通所介護を副業感覚でやっている
・・・・・・・・・その他、沢山のなんちゃって。

これらのなんちゃってをどのようにして、解決していくのか。
それを考えることこそが、医療・介護経営の醍醐味であり最大の壁である。
すでに、国からメッセージは出ている。

危険信号が灯っている医療機関・介護事業所は今すぐに行動をするべきだ。

 

在宅医療診療報酬の新たな潮流は訪問リハビリテーション報酬へ影響する!?

2016年度診療報酬改定に向けて、様々な改定項目の検討が進んでいる。その中でも、在宅医療の報酬体系はとりわけ注目される分野である。現在のところ、在宅医療は定期的な訪問回数や患者の居住形態などが診療報酬に影響するシステムになっている。一定回数訪問の包括算定や、往診回数に応じた出来高算定、同一居住患者の有無などが診療報酬に影響する。

つまり、患者の医療必要度やADLの状況は診療報酬に影響しない。これは訪問診療、訪問看護、訪問リハビリテーションでも、同様である。(※訪問看護には特定の疾患に関する加算は存在するが、ほとんどの疾患に関して重症度は診療報酬や介護報酬には影響しない)

現在、急性期病床の削減や在院日数の減少などが進められており、医療・介護の在宅シフトが急ピッチに進められている。特に、重症患者の在宅シフトが近年進められており、在宅で生活している患者、利用者の重症度の標準偏差は大きくなってきている。血圧測定、問診、薬の調整だけで済む症例もいれば、人工呼吸器の管理、胃瘻、疼痛管理、人工肛門等の処置・対応が必要な症例もいる。

このようなことから、中央社会保険医療協議会にて次期診療位報酬改定では「患者の疾患・状態に応じた評価」の検討が開始されることになった。つまり、今後、訪問診療、看護、リハビリテーションの診療報酬において、軽症患者の評価が下がり、重症患者の評価が上がる可能性が高まったと言える。

ただし、重症の定義をどのように定めるかについては、難しい。同じ疾患名であっても、医療処置の内容やADLの状況が大きく変わる。したがって、比較的、疾患名と医療行為の内容にブレ幅が少ない疾患の評価が高くなる可能性がある。例えば、末期の悪性腫瘍・進行性核上性麻痺、頚髄損傷、人工呼吸器装着などである。

現状、訪問看護からのリハビリテーションや訪問リハビリテーション事業所からの訪問リハビリテーションでは、時間あたりの診療報酬となっている。今後、訪問診療・訪問看護に重症患者の評価がより導入され、大きな問題に発展しなければ、訪問リハビリテーションの重症対応が評価される可能性が高い。