そもそも、通所リハビリテーションは理学療法・作業療法を提供する施設であると定義づけられている

2015年度介護報酬改定では、通所リハビリテーションにおける心身機能・活動・参加のアプローチが注目された。

また、2016年度診療報酬改定では、要介護保険被保険者の維持期リハビリテーションの通所リハビリテーションへの強い誘導策が導入された。

2018年度診療報酬・介護報酬のダブル改定では、通所リハビリテーションと通所介護の役割や機能が明確化され、通所リハビリテーションの在り方は大きく変化が求められる。

しかし、介護保険法により「通所リハビリテーション」とは、居宅要介護者(主治の医師がその治療の必要の程度につき厚生労働省令で定める基準に適合していると認めたものに限る。)について、介護老人保健施設、病院、診療所その他の厚生労働省令で定める施設に通わせ、当該施設において、その心身の機能の維持回復を図り、日常生活の自立を助けるために行われる理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーションを行うこと、と定められている。

通所リハビリテーションは、理学療法、作業療法を提供する施設であると明確に定義されているのである。

理学療法は基本的動作能力の改善
作業療法は応用的動作能力の改善
を医学的・科学的に行うものである。

よって、介護保険法により、通所リハビリテーションは、基本的動作能力や応用的動作能力を医学的・科学的に改善する施設であると定義されていると言える。

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しかし、実際の通所リハビリテーションでは
1)セラピストの数が足りず十分な個別リハビリテーションが提供できない
2)動作分析に基づかない運動療法が漫然と繰り返されている
3)アルバイトのセラピストを中心に個別リハビリテーションや自主トレーニングの指導を行っているため、施設としての理念や方向性を共有できない
4)通所リハビリテーションを副業的な立ち位置で経営している医療機関が多く、打算的な経営をしている
などの問題が横行している。

よって、介護保険法が定義する通所リハビリテーションの姿には到底なっていない。

通所リハビリテーションは、今後、急増していく要介護被保険者に対する本格的なリハビリテーション施設としての役割が期待される。

したがって、今後の通所リハビリテーションでは、介護保険法の定義に原点回帰が必要であり、基本動作が診れる理学療法士、応用的動作が診れる作業療法士が活躍が重要である。

なんとなく、活動を促す
なんとなく、参加を促す
のではなく
機能をあげて活動と参加を改善させる
活動と参加を通じて機能を改善させる

こんな視点をもつ理学療法士・作業療法士がいる通所リハビリテーションは国が求める心身機能・活動・参加にバランスよく働きかけることができる施設になるだろう。

大阪府保健医療計画が示す都心の療法士事情

現在、大阪府にて制定されている大阪府保健医療計画には各保健医療従事者の状況について分析された内容が記載されている。

大阪府保健医療計画(平成25年から平成28年)
http://www.pref.osaka.lg.jp/iryo/keikaku/keikaku2013to2017.html

この計画において理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の需要と供給に関する記述があり、「需給と供給のバランスが満たされている状況にある」と明記されている。

理学療法士の過剰供給については、筆者のブログでも述べたことがあるが、行政が作成している文章にも、需給バランスが満たされているとの記述があることは業界としては知るべき事柄である。
過去記事はこちら→2015年9月17日 日本経済新聞報道の「理学療法士の供給過剰問題」の本質を考える

資質の向上大阪府保健医療計画(平成25年から平成28年)より抜粋

大阪府保健医療計画にも記載されているように、需給バランスが満たされた以上、資質の向上が重要となってくる。

医療保険・介護保険サービスの質を上げる意味でも、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の競争社会においても、質の向上がより着目されてくる。

また、都心と地方では、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の需給バランスは異なる。

しかし、都心の需給バランスの変化は地方の需給状態にも影響を与える。

都心においてセラピストが過剰供給となれば、地方への移動するセラピストも多くなり、やがて全国的に需給バランスが満たされることになる。

需給バランスが満たされることは、日本国の保健衛生にとって良いことであるが、一方でセラピストの労働市場の激化にも繋がる。

いずれにしても、セラピストの資質の向上が今後の鍵となる。

 

急性期病棟×地域包括ケア病棟=地域密着型在宅復帰支援強化病院

 

2014年度診療報酬改定では、地域包括ケア病棟が新設された。

疾患の条件なく急性期病棟や在宅からの患者を受け入れ、在宅復帰を目指すという回復期リハビリテーション病棟とは異なる機能を有する病棟である。

2016年度診療報酬改定では、地域包括ケア病棟において手術が出来高算定可能となり、その病棟運営のハードルが緩和された。

国は、地域包括ケア病棟を推進し、急性期の在院日数短縮、過剰医療の抑制、在宅患者の後方支援を促進したいと考えている。

ここに来て、急性期病棟(特に7:1・10:1)と地域包括ケア病棟の両方の病棟を運営する病院が増えている。

特に平均在院日数に関しては7:1病棟には18日、10:1病棟には21日という条件があり、多くの病院が退院調整には神経を尖らせている。

地域包括ケア病棟は最大60日まで入院基本料を算定することができる。

よって、入院時に入院が長期間となることが予測される症例では、優先的に地域包括ケア病棟にて入院治療を行うことで、急性期病棟の在院日数短縮を図ることができる。

また、2016年度改定で、地域包括ケア病棟にて手術が出来高算定になったことから、地域包括ケア病棟での対応可能な患者や疾患の幅も 広がった。

そのため、急性期病棟にはより医療必要度が高い患者を集めることが出来やすくなった。

さらに、もう一つ急性期病棟と地域包括ケア病棟の両方を持つメリットがある。

回復期リハビリテーション病棟は在宅からの患者の受け入れができない。

したがって、在宅から直接患者を受け入れることができる地域包括ケア病棟は、廃用症候群や疾患の急性増悪により機能が低下した患者を受け入れ、在宅復帰に向けたリハビリテーションが提供できるといった今までにない機能を持つ病棟である。

すなわち、これからの時代において、急性期病棟と地域包括ケア病棟を持つ保険医療機関は、地域の事業所や家族とより密接し、在宅復帰支援を行う機能が求められ、地域包括ケアシステムにおける重大な役割を担う可能性が高い。

 

心身機能を軽視して、偏重的に活動・参加を訴えるセラピストが増えたという事実

2015年度介護報酬改定では、リハビリテーション分野において「心身機能」・「活動」・「参加」の重要性が明示され、通所リハビリテーション・訪問リハビリテーションでは「活動」と「参加」に資する取り組みを評価する介護報酬項目が整備された。

活動・参加の概念は、リハビリテーション本来の意義を問いただすものであり、これからの高齢化社会においては益々重要となる。

しかし、筆者はこの一年間感じてきた違和感がある。

心身機能の評価や介入が未熟なセラピストに限り、「活動」「参加」が重要だと異常に訴える事例が散見することである。

自身の理学療法・作業療法・言語聴覚療法が未熟なことで、患者や利用者の基本動作能力・応用的動作能力・言語聴覚機能が回復しないことに気づいていないセラピストは残念ながら存在する。

そういったセラピストが、十分に患者や利用者の心身機能のポテンシャルを引き出してない中で、「活動」と「参加」に傾注することは、患者や利用者にとって迷惑千万な話ではないか?

セラピストと患者・利用者の間には「情報の非対称性」が存在する。

情報の非対称性とは
保有する情報に差がある時に生まれる不均等な情報構造
の事を言う

つまり、患者や利用者はセラピストより心身機能・活動・参加に関する情報を有していないため、セラピストの言いなりになる傾向がある。

セラピストが、「あなたの心身機能はもうプラトーなので、自宅では歩行器を使って歩きましょう」と説明すると、「心身機能がプラトー」であると判断する情報を患者や利用者は有していないため、セラピストの説明に従う可能性が高い。

しかし、心身機能の評価や介入に長けたセラピストがその患者や利用者を診れば、「十分に自立歩行を目指せる」と評価する可能性もある。

「活動」・「参加」はリハビリテーション上の目標であり、人が自分らしく生きていくために必要な概念である。しかし、心身機能の向上の追求なしに、「活動」「参加」という表面的な概念だけを妄信的に追いかけていくことは、リハビリテーションの概念にも反する。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、他職種と比較して、医学的側面から心身機能を評価できるアドバンテージを有しており、そのアドバンテージを活かして、「活動」・「参加」を客観的に冷静に評価・介入することが最大の強みである。

心身機能の評価・介入を軽視した「活動」・「参加」への妄信的な取り組みは、視野の狭い「活動」・「参加」偏重主義者であり、決して、患者や利用者のQOLの向上には寄与しないだろう。

心身機能・活動・参加
この概念の全ての要素を限りなく追求する事で本来のリハビリテーションが達成できる。
当然、心身機能だけを追求し、活動・参加を無視することはあってはならない。

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リハビリテーションサービスのインフラが整ってきている時代だからこそ
心身機能が評価できて
活動も評価できて
さらに、参加も評価できる
が当たり前にできるセラピストが真に活躍する時代が近づいているのではないだろうか?

 

成熟社会では、よりレベル高い理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のリハビリテーションサービスが求められる

リハビリテーションとは、全人間的復権である。
その人がその人らしく生きていくことを支えていく概念がリハビリテーションであり、その実現を支援するサービスがリハビリテーションサービスである。

日本は世界に類を見ない先進国であり、物質的な繁栄が著明である。
40年~50年程前の日本は物質的にもまだ、恵まれておらず、国民は国の経済的繁栄こそが幸せであると考え、懸命に働き、今の日本を作った。
先人たちの尋常ではない努力で、日本は小さい島国ながらも世界第三位の経済大国となり、国民の生活レベルも極め高い国となった。
国民の衣食住がこれだけ充実している国は実は世界では少数派である。
このような先進国では経済的な発展や物質的な繁栄が当たり前のように感じ、人が幸せを感じる尺度は変化する。

このような社会を成熟社会と呼ぶ。

成熟社会では
人間関係を良好に保ちたい
心が通う仲間が欲しい
自分自身の存在を認めてもらいたい
自分のやりたいことをやってみたい
という人間にとって高次元な欲求が高まってくる。

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現在の日本は超高齢化社会となっており、高齢者の医療福祉政策が急ピッチで進んでいる。
医療・看護・介護・リハビリテーションと様々な分野で対策が打ち立てられている。
特に、リハビリテーションは全人間的復権の概念であることから、あらゆる分野で必要とされるものである。

リハビリテーションが一般的な社会インフラになる前の日本では、リハビリテーションとは機能障害やADLの回復を目指すものであった。
当然、機能障害やADLの回復は全人間的復権に必要なものであるため、それらは依然として重要である。

それに加え、成熟社会では、承認欲求や自己実現などの支援も求められる。

時代が変われば、求められる全人間的復権の内容も変わる。

今の時代は理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は機能障害やADLの回復を促せる知識や技術に加え、より高次元の患者、利用者の欲求や想いを支える技能が求められる時代になっている。

こういった背景とともに生まれてきた概念である地域包括ケアや地域リハビリテーションは、より質の高い理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の能力を求めている。