2040年以降に大量に余る医療・介護従事者とシニアビジネス企業

2040年代中盤に高齢者の数は減少に転ずる。
今後、日本は大きな局面を迎える。
2040年まで高齢者が増え続け、かつ、医療・介護従事者やシニアビジネス企業の市場が拡大する局面 と 2040年以降高齢者が減少し、医療・介護従事者やシニアビジネス企業の市場が狭小する局面である。

今後、十数年間は医療・介護従事者は2040年までの局面を乗り切るために、量産されていく。
資格制度の規制緩和、養成校や大学の設立や学部変更など2040年までを乗り越える施策が展開される。しかし、2040年以降に関する施策はなんら立案されていない。

現実的に大都市を除く、地方都市では1割~3割の急性期病床の削減や特別養護老人ホーム等の新設も停止している。つまり、今後は2040年以降の情勢に合わせた医療・介護政策の出口戦略も密かに始まっている。

状況はめまぐるしく変化する。一年ごとで、規制緩和、制度改訂が行われ、不要と判断されたビジネスの淘汰が始まる。現在、参入障壁が低いヘルスケアビジネスもどんどん新しい企業が参入し、そして、どんどん淘汰されていく。ヘルスケアビジネスが、安定した市場であると勘違いしている企業が参入しているのが現状である。市場があっても、生き残れるかは別問題である。多くの企業は2040年以降、狭小するシニアビジネス市場を冷静に把握できていない。

現状の市場モデルでは医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、歯科衛生士・・・などの医療・介護従事者が確実に余る時代が迫っている。2040年に確実に引退し、悠々自適に生活できる資産家以外はこの問題を真剣に考えなければならない。

今後は、2040年までを乗り越える地域包括ケアシステムの構築と2040年以降の市場拡大を得るための職域拡大という状況に我々は対峙しなければならない。

生活期リハビリテーションの市場化が始まった

2015年度介護報酬改定では、今後の生活期のリハビリテーションの方向性が明示された。
2018年度診療報酬・介護報酬同時改定においては、急性期・回復期の短縮に伴い、生活期リハビリテーションのさらなる見直しが行われるだろう。

生活期とは文字通り、医療依存度の高い状況が終了し、その人それぞれの生活空間で再び生活を行う時期であり、急性期と回復期と比べると圧倒的に期間は長い。
長期間にわたり、QOLを維持・向上させるためには生活そのものへの評価が重要となる。
2015年度介護報酬改定では通所リハビリテーション・訪問リハビリテーション・通所介護において、生活機能を高める取り組みが評価された。
高齢者の生活を評価し支援するためには、当然「生活の構成要素」を把握する必要がある。
高齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り方検討会 報告書(平成27年3月)では、高齢者のニーズ把握表が提案された(下図)。

これらの内容は従来のリハビリテーション医療では、網羅できていない部分も多い。従来のリハビリテーション医療ではADLの自立や在宅復帰を目的としたサービスが行われてきており、卒前・卒後教育でもそれらは重要視されてきた。
しかし、急性期・回復期の短縮・軽度高齢者の増加・介護予防対象者の増加などにより、従来のリハビリテーション医療モデルは限界に来ている。

このような背景を受けて、多くの民間企業が高齢者の生活機能支援をビジネス化している。
学習塾・大手清掃会社・フィットネスクラブ・旅行業界・・・などが市場への参入を図っている。
しかし、高齢者への対応においては、当然、心身機能のリスク管理も重要である。
したがって、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・介護福祉士が、生活機能支援ビジネスに対して企画・運営面から協力できる時代になったと言える。

生活機能支援ビジネスに取り組む民間企業を医療・介護従事者の敵とみなすか・味方とみなすか。その発想の違いは、今後の新しいリハビリテーション医療に大きく影響するだろう。ニーズ把握表高齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り方検討会 報告書(平成27年3月)

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地域包括ケアシステムの本質

地域包括ケアとは何か?

住み慣れたところで、その人らしく生きていける社会システムを構築すること

これが一般的に理解されている内容である。

しかし、この本質は非常に複雑である。

地域包括ケアには、地域という言葉が含まれている。

だが、全国津々浦々、地域の事情は大きく異なる。

大病院がひしめく地域、在宅診療が少ない地域、医師会が先進的な取り組みをしている地域、力のある民間医療法人がある地域、極端に高齢者が多い地域、高齢者の少ない地域、訪問看護やデイサービスなどの事業所が過剰な地域など・・・・・。

つまり、地域という性質の標準偏差が大きく、一概に「地域包括ケアシステム」と言っても、地域が抱える課題が異なる。

すなわち、地域包括ケアシステムは「地域課題解決システム」と言い換えることができる。

地域課題解決システムが日本において導入できる要因は何か?

介護保険の保険者は市区町村(市町村・特別区)である。

また、国民健康保険(国保)は、2018年度に市町村から都道府県に運営を移管される。

すなわち、保険の主たる運営者が地方自治体であることから、その財源の使い道を地域課題解決に活用することが可能となっている。

言い換えれば、地方自治体の医療・介護行政に対するリーダーシップが非常に必要とされる時代になっており、地方自治体の担当者のプレッシャーは相当なものと推察される。

さらに、医療機関・介護事業所・民間産業は地域課題が解決できなければ地域から必要とれなくなり、経営はジリ貧になっていく。

地域包括ケアシステムとは地域課題解決システムであり、地域課題が行政や医療・介護事業所のマーケティングの対象である。

行政や医療機関、介護事業所は今まで本気でマーケティングをしてこなかった。

粗悪なサービスをしていても、それなりに患者、利用者が確保できた。

しかし、これからは患者や利用者だけでなく、地域課題解決に目を向けなければ事業所としての存在意義が問われることになる。

 

 

 

 

多くの看護師・療法士とって病院・診療所・介護施設の経営は他人事である

帝国データバンクによると、医療機関や介護事業所の倒産件数は増加している。

特に、介護事業所と診療所の倒産件数の増加が目立つ。

年々、事業所や診療所が増加しているため、競争が激しくなり倒産するケースが増えている。

言い換えると、「少し競合が増えるだけで倒産するような診療所や介護事業所が増えている」と言える。

2010年ぐらいまでの倒産の原因は、多角経営の失敗、設備投資の失敗であったが、近年は経営環境の悪化に対応できなかったための業績不振である。

安倍政権になって、多少、金融機関の締め付けが緩くなり、資金繰りが改善したため、倒産件数はやや減少傾向となった。

しかし、2018年診療報酬・介護報酬のダブル改定で大幅に減収する医療機関や介護事業所が増えると予想され、倒産件数が急増するのではないかと予想されている。

医療機関や介護事業所の生業を支えているのは間違いなく現場で働く職員である。

その職員の経営参画の意識なしに今後の医療機関・介護事業所は生き残ることは不可能である。

当然、経営者や事務長クラスが経営への意識が低ければ、倒産まっしぐらである。

「従業員への経営参画意識の向上」が2018年に向かって大きな課題である。

基本的には「看護師・療法士とって病院・診療所・介護施設の経営は他人事」である。

医療関連資格を取った時点で、専門家として働いていることから、あくまでも「自分の専門性を発揮するが仕事」と考えている看護師・療法士が多い。

経営体力があるうちに、経営指標や統計を公表し、現状把握に対する問題意識を常日頃から現場に伝達する必要がある。

そして、改善策を立てて、実行していく。

改善策をより効果的なものにするためには、職員に経営参画意識を浸透させ、モチベーションを高められるようにしなければならない。

そのためには、組織風土醸成、採用者の厳選、経営幹部のリーダーシップ、中間管理職のフォロアーシップ、研修によるスキルアップなどが日頃から実行されていなければならない。

これらのことは当たり前な事であるが、多くの人は他人事だと思っている。

他人事ではなく、自分事である。

倒産するような組織で働いていること自体が、自分の成長を阻んでいるからである。

 

なんちゃって医療・介護事業所は本気で淘汰される

地域医療構想が2015年度より本格的に検討される。

地域医療構想とは地域ごとの医療需要に的確に応えるため、病院や有床診療所に対して病床機能の現状(高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4区分)を都道府県に報告させ、その後に報告された医療機能が満たされているかどうかを判断し、医療機能が満たされていない場合は、病床の変更や返上を国より命ずる制度である。

公的病院は都道府県知事の命令により強制的にこの指示に従わなければならない。

都道府県知事の命令により民間病院が病床の変更や返上に応じなかった場合は、医療機関名が公表されるというペナルティーが課せられる。

現在、厚労省では各医療機能の医療資源に費やした費用の標準化を図っており、標準化された費用に満たない医療機関は「各下げ」を命令されるスキームが検討されている。

介護報酬改定でも、通所リハビリテーション、小規模デイサービス、特別養護老人ホームの淘汰が本格的に始まった。

2015年度介護報酬改定では、基本報酬を下げ、加算部分で評価するという手法が全面的に導入された。

今まで、地域連携、重症利用者、リハビリテーションに対して質の低いサービスで対応していた事業所は、一気に経営が悪化する状況となった。

診療所や訪問看護ステーションも安心できない。

地域包括診療料や機能強化型訪問看護ステーションなど明らかに専門職スタッフの人員増を促進する施策が導入されている。

国はやる気のない「なんちゃって急性期」「なんちゃって回復期」「なんちゃってリハビリ特化型通所介護」「なんちゃって通所リハビリテーション」を本気で潰そうとしている。

このことに気づいてない経営者は経営者としての資質はないし、危機感を感じていない医師、看護師、セラピスト、介護士等も明るい未来はない。

自分が勤めているところが「なんちゃって・・・」ではないか、今一度、確認をして欲しい。