生活期リハビリテーションの市場化が始まった

2015年度介護報酬改定では、今後の生活期のリハビリテーションの方向性が明示された。
2018年度診療報酬・介護報酬同時改定においては、急性期・回復期の短縮に伴い、生活期リハビリテーションのさらなる見直しが行われるだろう。

生活期とは文字通り、医療依存度の高い状況が終了し、その人それぞれの生活空間で再び生活を行う時期であり、急性期と回復期と比べると圧倒的に期間は長い。
長期間にわたり、QOLを維持・向上させるためには生活そのものへの評価が重要となる。
2015年度介護報酬改定では通所リハビリテーション・訪問リハビリテーション・通所介護において、生活機能を高める取り組みが評価された。
高齢者の生活を評価し支援するためには、当然「生活の構成要素」を把握する必要がある。
高齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り方検討会 報告書(平成27年3月)では、高齢者のニーズ把握表が提案された(下図)。

これらの内容は従来のリハビリテーション医療では、網羅できていない部分も多い。従来のリハビリテーション医療ではADLの自立や在宅復帰を目的としたサービスが行われてきており、卒前・卒後教育でもそれらは重要視されてきた。
しかし、急性期・回復期の短縮・軽度高齢者の増加・介護予防対象者の増加などにより、従来のリハビリテーション医療モデルは限界に来ている。

このような背景を受けて、多くの民間企業が高齢者の生活機能支援をビジネス化している。
学習塾・大手清掃会社・フィットネスクラブ・旅行業界・・・などが市場への参入を図っている。
しかし、高齢者への対応においては、当然、心身機能のリスク管理も重要である。
したがって、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・介護福祉士が、生活機能支援ビジネスに対して企画・運営面から協力できる時代になったと言える。

生活機能支援ビジネスに取り組む民間企業を医療・介護従事者の敵とみなすか・味方とみなすか。その発想の違いは、今後の新しいリハビリテーション医療に大きく影響するだろう。ニーズ把握表高齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り方検討会 報告書(平成27年3月)

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地域包括ケアシステムの本質

地域包括ケアとは何か?

住み慣れたところで、その人らしく生きていける社会システムを構築すること

これが一般的に理解されている内容である。

しかし、この本質は非常に複雑である。

地域包括ケアには、地域という言葉が含まれている。

だが、全国津々浦々、地域の事情は大きく異なる。

大病院がひしめく地域、在宅診療が少ない地域、医師会が先進的な取り組みをしている地域、力のある民間医療法人がある地域、極端に高齢者が多い地域、高齢者の少ない地域、訪問看護やデイサービスなどの事業所が過剰な地域など・・・・・。

つまり、地域という性質の標準偏差が大きく、一概に「地域包括ケアシステム」と言っても、地域が抱える課題が異なる。

すなわち、地域包括ケアシステムは「地域課題解決システム」と言い換えることができる。

地域課題解決システムが日本において導入できる要因は何か?

介護保険の保険者は市区町村(市町村・特別区)である。

また、国民健康保険(国保)は、2018年度に市町村から都道府県に運営を移管される。

すなわち、保険の主たる運営者が地方自治体であることから、その財源の使い道を地域課題解決に活用することが可能となっている。

言い換えれば、地方自治体の医療・介護行政に対するリーダーシップが非常に必要とされる時代になっており、地方自治体の担当者のプレッシャーは相当なものと推察される。

さらに、医療機関・介護事業所・民間産業は地域課題が解決できなければ地域から必要とれなくなり、経営はジリ貧になっていく。

地域包括ケアシステムとは地域課題解決システムであり、地域課題が行政や医療・介護事業所のマーケティングの対象である。

行政や医療機関、介護事業所は今まで本気でマーケティングをしてこなかった。

粗悪なサービスをしていても、それなりに患者、利用者が確保できた。

しかし、これからは患者や利用者だけでなく、地域課題解決に目を向けなければ事業所としての存在意義が問われることになる。

 

 

 

 

多くの看護師・療法士とって病院・診療所・介護施設の経営は他人事である

帝国データバンクによると、医療機関や介護事業所の倒産件数は増加している。

特に、介護事業所と診療所の倒産件数の増加が目立つ。

年々、事業所や診療所が増加しているため、競争が激しくなり倒産するケースが増えている。

言い換えると、「少し競合が増えるだけで倒産するような診療所や介護事業所が増えている」と言える。

2010年ぐらいまでの倒産の原因は、多角経営の失敗、設備投資の失敗であったが、近年は経営環境の悪化に対応できなかったための業績不振である。

安倍政権になって、多少、金融機関の締め付けが緩くなり、資金繰りが改善したため、倒産件数はやや減少傾向となった。

しかし、2018年診療報酬・介護報酬のダブル改定で大幅に減収する医療機関や介護事業所が増えると予想され、倒産件数が急増するのではないかと予想されている。

医療機関や介護事業所の生業を支えているのは間違いなく現場で働く職員である。

その職員の経営参画の意識なしに今後の医療機関・介護事業所は生き残ることは不可能である。

当然、経営者や事務長クラスが経営への意識が低ければ、倒産まっしぐらである。

「従業員への経営参画意識の向上」が2018年に向かって大きな課題である。

基本的には「看護師・療法士とって病院・診療所・介護施設の経営は他人事」である。

医療関連資格を取った時点で、専門家として働いていることから、あくまでも「自分の専門性を発揮するが仕事」と考えている看護師・療法士が多い。

経営体力があるうちに、経営指標や統計を公表し、現状把握に対する問題意識を常日頃から現場に伝達する必要がある。

そして、改善策を立てて、実行していく。

改善策をより効果的なものにするためには、職員に経営参画意識を浸透させ、モチベーションを高められるようにしなければならない。

そのためには、組織風土醸成、採用者の厳選、経営幹部のリーダーシップ、中間管理職のフォロアーシップ、研修によるスキルアップなどが日頃から実行されていなければならない。

これらのことは当たり前な事であるが、多くの人は他人事だと思っている。

他人事ではなく、自分事である。

倒産するような組織で働いていること自体が、自分の成長を阻んでいるからである。

 

なんちゃって医療・介護事業所は本気で淘汰される

地域医療構想が2015年度より本格的に検討される。

地域医療構想とは地域ごとの医療需要に的確に応えるため、病院や有床診療所に対して病床機能の現状(高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4区分)を都道府県に報告させ、その後に報告された医療機能が満たされているかどうかを判断し、医療機能が満たされていない場合は、病床の変更や返上を国より命ずる制度である。

公的病院は都道府県知事の命令により強制的にこの指示に従わなければならない。

都道府県知事の命令により民間病院が病床の変更や返上に応じなかった場合は、医療機関名が公表されるというペナルティーが課せられる。

現在、厚労省では各医療機能の医療資源に費やした費用の標準化を図っており、標準化された費用に満たない医療機関は「各下げ」を命令されるスキームが検討されている。

介護報酬改定でも、通所リハビリテーション、小規模デイサービス、特別養護老人ホームの淘汰が本格的に始まった。

2015年度介護報酬改定では、基本報酬を下げ、加算部分で評価するという手法が全面的に導入された。

今まで、地域連携、重症利用者、リハビリテーションに対して質の低いサービスで対応していた事業所は、一気に経営が悪化する状況となった。

診療所や訪問看護ステーションも安心できない。

地域包括診療料や機能強化型訪問看護ステーションなど明らかに専門職スタッフの人員増を促進する施策が導入されている。

国はやる気のない「なんちゃって急性期」「なんちゃって回復期」「なんちゃってリハビリ特化型通所介護」「なんちゃって通所リハビリテーション」を本気で潰そうとしている。

このことに気づいてない経営者は経営者としての資質はないし、危機感を感じていない医師、看護師、セラピスト、介護士等も明るい未来はない。

自分が勤めているところが「なんちゃって・・・」ではないか、今一度、確認をして欲しい。

大塚家具と通所リハビリテーション

2015年介護報酬改定の目玉の一つとして通所リハビリテーションにおける「リハビリテーションマネジメント加算Ⅱ」と「生活行為向上リハビリテーション実施加算」が挙げられる。

これらの加算の単位と主な要件は、以下の通りである。

リハビリテーションマネジメント加算(Ⅱ)
・開始日から6月以内 1,020単位/月
・開始日から6月超    700単位/月

主な要件
(1)リハビリテーション会議を開催し、利用者の状況等に関する情報を、会議の構成員である医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、居宅介護支援専門員、居宅サービス計画に位置づけられた指定居宅サービス等の担当者、その他関係者と共有し、当該リハビリテーション会議の内容を記載すること。

(2)通所リハビリテーション計画について、医師が利用者又はその家族に対して説明し、利用者の同意を得ること。

(3)通所リハビリテーション計画の作成に当たって、当該計画の同意を得た日の属する月から起算して6ヶ月以内の場合にあっては1ヶ月に1回以上、6月を超えた場合にあっては3月に1回以上、リハビリテーション会議を開催し、利用者の状態の変化に応じ、通所リハビリテーション計画を見なおしていること。

生活行為向上リハビリテーション実施加算
利用開始日から起算して3月以内の期間に行われた場合 2,000単位/月
利用開始日から起算して3月超6月以内の期間に行われた場合 1,000単位/月

主な要件
通所リハビリテーション費におけるリハビリテーションマネジメント加算(Ⅱ)を算定していること。ただし、短期集中個別リハビリテーション実施加算又は認知症短期集中リハビリテーション実施加算を算定している場合は、算定しない。

生活行為向上リハビリテーション実施加算の実施後に継続利用する場合の減算
生活行為向上リハビリテーション実施加算の実施後の翌月から6月間に限り1日につき所定単位数の100分の15に相当する単位数を所定単位数から減算する。

二つの単位数は非常に高く設定されており、厚生労働省の強い政策的誘導を感じる。

今後の通所リハビリテーションのあるべき姿を、加算によって表現したと言える。

全国の通所リハビリテーション事業所は現在、この二つの加算をどのように取るべきかについて非常に頭を悩ませている。

筆者のところにも多くの相談が寄せられているが、次のような相談内容が多い。

1.医師のカンファレンスの参加、利用者、家族へのリハビリテーション計画の説明が困難
2.結局、医師の代わりにセラピストが多くのことを仕切ることになり、業務負担が増加する
3.書類上の帳尻を合わせて、おけば加算が取れると上司やオーナーが言っている
4.利用者の多くがレスパイト目的での利用であるため、生活行為向上リハビリテーションに該当する方が少ない
5.今まで、利用者と接したことがない医師が、リハビリテーションに関する主治医になれるとは思えない
と様々である。

これらの問題はなぜ生じるのか?

それはまさに、新しいビジネスモデルの転換に関して組織のケイパビリティーが著しく不足しているからである。

ケイパビリティとは、企業が全体として持つ組織的な能力を示す。

環境変化が著しいヘルスケア産業では、競争戦略による差別化が最大の課題である。

ケイパビリティを高めることで、戦略の実現性で他社に差をつける、地域や市場における持続的な競争優位を確立することができる。

おそらく、2018年度診療報酬・介護報酬ダブル改訂においては、通所リハビリテーションは二段階に分けられる。

リハビリテーションマネジメントや生活行為向上リハビリテーションを提供できるリハビリテーション施設としての通所リハビリテーション

食事、入浴、レクレーションと質の悪い個別リハビリテーションを提供する送迎付きの入浴施設的通所リハビリテーション

に分別される。

当然、後者は経営的には厳しくなる。

そして、通所介護と通所リハビリテーションの統合の議論も本格化してくる。

時代背景に合わせたビジネスモデルを導入する時は、権力闘争、組織間対立、コンプライアンス低下が起こる。

大塚家具のように成功体験があるビジネスモデルがあると、さらにビジネスモデルの新生には大きなエネルギーが必要となる。

大塚家具の問題は、単なる親子の問題ではない。

企業統治や組織のケイパビリティーに関して、手を抜いていたからあのような騒動に発展したのである。

一部上場の大企業ですら、ビジネスモデルの転換には苦労する。

ましてや、家業経営体質やワンマンオーナーの通所リハビリテーションは、ほぼガバナンスは正常に作用していないと考えても良い。

通所リハビリテーションの事業モデルの転換には2018年までの3年間の猶予が与えられた。

病院、診療所、老人保健施設の副業的な収入源として運営してた事業所には修羅場の3年間である。

医師がリハビリテーション会議に参加しない、利用者のリハビリテーション中の話しかけで同意を得たことにする、リハビリテーション会議をセラピストだけで行う、対象とする利用者をいつまでも変えられない・・・・・などのことをやっている通所リハビリテーション事業所は、2018年に、通所リハビリテーション業界から退場を命じられるだろう。