2019年12月16日付介護保険制度の見 直しに関する意見(素案)について

令和元年 12 月 16 日に開催された社会保障審議介護保険部会(第 88 回)の資料が発表された(下図)。

ワークシフトのブログではしばらく今回の資料を分析してみる。

冒頭の「はじめに」に今後の医療介護政策のヒントが散りばめられている。

上段 文書中の文書
下段 高木綾一の分析・解釈

介護保険制度を利用する人は制度創設時の3倍に増加
→利用者が増加の一途をたどっており給付抑制をしなければならない未来が近い

2040年に団塊ジュニア世代が65歳以上となり高齢者人口がピークとなる
→2040年以降の高齢者人口減少社会には地域包括ケアシステムとは異なる別の対応が必要である。また、高齢者マーケットが縮小するため医療従事者の雇用問題が顕在化する。

2040年に85歳以上人口が急速に増加する
→85歳以上の増加はこれまでことなるケアやリハビリテーションの展開が必要となる。特に、看取り、重度者ケア、認知症、孤独死防止など課題レベルの高い対応が必要となる。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士には右肩下がりのADLに対するサービスが求められるようになる。

介護保険利用者数の増減は地域格差が強い
→地域別介護保険制度の運用が検討される可能性が高い。また、都会では混合介護の解禁に伴いサービスを提供する業者が急増すると考えられる。リハビリテーションにも多様な混合サービスが導入される。

介護の担い手の減少が著しい
→過剰供給の理学療法士・作業療法士・准看護師の介護福祉士等への資格移管が行われる可能性が高い。介護福祉士の給与が理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の給与を上回る未来が近い。

介護保険制度の新しい取り組み(介護予防・健康増進・共生社会等)
→既存介護保険制度は改革され、要介護度3以上が介護保険対象となることや、総合事業がリハビリテーション専門職の働く場所となる。また、一般高齢者に対する健康増進の仕組み作りが加速し、理学療法協会等の職能団体の対応が加速する。民間の健康増進施設が今よりも市場が広がっていく。
2019年12月16日社会保障審議介護保険部会(第 88 回)の資料

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
あずま整形外科リハビリテーションクリニック
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

訪問リハビリテーションの事業戦略の分水嶺

2018年度介護報酬改定でも、訪問リハビリテーション事業所の機能強化が行われた。

医師の利用者に対する関与を高めるために
1)医師の診療を原則必須とする
2)リハマネ加算の算定に医師の詳細な指示が必要となった
3)訪問リハビリ計画書に医師の今後の継続利用に関する意見の記載が必要となった
など制度が導入された。

これらの内容から将来の訪問リハビリテーションの在り方が予測できる。

訪問リハビリテーションは漫然と継続するものではなく、一定のルールに則り利用期間が決定される可能性が高いという予測である。

リハビリテーション分野では既に疾患別リハビリテーションのこの考え方は導入さている。

訪問リハビリテーションにおいて一定期間で終了するルールが適応されるのは、要支援1.2および要介護1.2の軽度者の可能性が高い。

現状では、要介護者の訪問リハビリテーション終了が評価される社会参加支援加算が存在しているが、近い将来、この加算は施設基準の要件となるかもしれない。

しかし、現状、多くの訪問リハビリテーション事業所では卒業に関する取り組みは熱心になされていない。

なぜならば、現行制度では卒業者が出なくてもペナルティーは一切ないからである。

したがって、訪問リハビリテーション事業所には卒業者を出すと言うインセンティブが作用しない。

よって、経営判断としての分水嶺がここで生まれる。

卒業者を出さなければ、稼働率は高いから売上は高くできるという選択

卒業者を出す取り組みをしなければ、卒業が施設基準要件になった場合対応できないから卒業者を出す取り組みを行うという選択

この上記二つの選択が経営者や運営者には委ねられている。

今を考えるか、将来を考えるか?

あなたの事業所はどっちだろうか?

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
あずま整形外科リハビリテーションクリニック
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

整形外科外来リハビリテーションの役割は寝たきり予備群を救うことである

2019年より外来リハビリテーションでは要介護認定者が算定上限日数を超えてリハビリテーションを受けることが禁止され、算定上限日数を超えた場合は、原則、介護保険リハビリテーションに移行することになった。

そのため、外来リハビリテーションを生業の中心としている整形外科クリニックでは、ビジネスモデルの転換が必要とされている。

患者層の若返り
通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションの新設
フィットネスクラブなどの運動サービスの提供
など様々な取り組みを行う整形外科クリニックが増えてきた。

しかし、本来の整形外科クリニックの役割を見失ってはいけない。

来院してくる高齢者の寝たきりの伏線となる関節痛や活動性の低下を防ぐことは整形外科クリニックの重要な役割である。

整形外科クリニックに来院してくる患者の多くが、変形性膝関節症、肩関節周囲炎を罹患している(下図)。


(無断転載禁止)

変形性膝関節症が悪化すると、立ち上がり、歩行能力が低下し、屋外の移動が減少してくる。

また、肩関節周囲炎が悪化すると、掃除、洗濯、調理などが出来なくなり、訪問介護サービスなどを利用するようになる。

すなわち、整形外科疾患は大きく活動性の低下につながる。

活動性の低下は、社会参加への頻度も低下させ、引きこもりや寝たきりを誘因する。

そのため、整形外科クリニックで外来リハビリテーションを担当するセラピストは変形性膝関節症と肩関節周囲炎に対するリハビリテーション技術を高めなければ高齢者の寝たきりを予防することはできないと言っても過言ではない。

整形外科クリニックのは様々なビジネスモデルを模索するだけでなく、本来の役割である「患者様の運動器疾患を治して早く動けるように支援すること」をまずは実現するべきである。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
あずま整形外科リハビリテーションクリニック
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認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
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関西医療大学保健医療学部 客員准教授

イラスト提供
福山真樹

理学療法士×イラストレーター
医療・介護等の現場を、医療職種の胸の内まで分かりやすくイラストで伝える。
臨床で勤務する理学療法士だからこそ描ける作品を医療関係者等へ提供し、書籍・学会・福祉機器紹介PV等、様々な場面で用いられている。
問い合わせ先
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通所リハビリテーションに医師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士がいる意味

2015年度介護報酬改定では、通所リハビリテーションにリハビリテーションマネジメント加算Ⅱや生活行為向上リハビリテーション実施加算が導入された。

この二つの加算は、リハビリテーションの進捗をマネジメントし、具体的な生活行為を獲得することを推進しているものである。

この二つの加算の算定率が向上すれば、通所リハビリテーションの収入は大幅に増加するが、算定要件を満たすための労力は大きい。

当該加算を算定するためには、 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のリハビリテーションの評価・計画立案・実践の能力 医師のリハビリテーションへの関わり が重要である。

言い換えると、通所リハビリテーションにおいて、この二つの要素がうまく機能していなかったと言える。

これら二つの要素は、回復期リハビリテーション病棟と同様の仕組みである。

「多職種が共同によりリハビリテーションプログラムが立案され、医師が責任をもってリハビリテーションを遂行する」という回復期リハビリテーション病棟ではスタンダードな内容が、通所リハビリテーションに導入されたと言える。 117889 通所リハビリテーションでは、回復期リハビリテーション病棟と同様のマネジメントができる人材の育成が急務となっている。

2015年度介護報酬改定は、通所リハビリテーションにおける医師やセラピストに今まで以上の役割を求めてきた。

このことから、厚生労働省の通所リハビリテーションと通所介護の機能的な差別化を明確にしたいという思惑が感じ取れる。

通所介護の機能訓練指導員による機能訓練と通所リハビリテーションの医療専門職が行うリハビリテーションに違いはあるのか?

この命題に答えを出すことが、今の通所リハビリテーションと通所介護には求められている。

2018年度介護報酬改定では、通所リハビリテーションと通所介護の役割がさらに明確化される。

療専門職を配置している通所リハビリテーションは、自らの価値を社会にアピールできるかという真価が問われている。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

回復期は成熟期へ、通所リハビリ・訪問リハビリは成長期へ

サービスはずっと売れ続けることは難しい。

サービスには人の一生のように寿命がある。 それを、製品ライフサイクルと呼ぶ(下図)。 1076812

リハビリテーション業界では 回復期は成熟期、通所リハビリ・訪問リハビリは成長期と言える。

回復期は整備目標をこえ,診療報酬上の評価も厳しくなっている。

そのため、競争が激化し、シェアーを奪いづらくなっている。

しかし、通所リハビリ・訪問リハビリは普及段階であり、これから急速に市場が拡大していくと考えられる。

当然、市場が拡大していくためライバル事業者も増えてくる。

そのため、いずれはシェアーの確保も厳しくなるため、成長期であってもマーケティングの努力を怠ってはいけない。

成長期では、競合に対して自社サービスの特徴をアピールするマーケティングコミュニケーション戦略を展開することが大切である。

つまり、徹底して自社サービスのブランド力を高めていくことが重要となる。

これにより、いち早く市場シェアの獲得を目指すのだ。

現在、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の80%以上は医療機関に勤めているが、2025年以降には60%程度になると考えられる。

セラピストはリハビリテーション業界の変化を察知し、働き方や自己研鑽の在り方を考えていかなければならない時代になったと言えるだろう。

執筆者 高木綾一 セミナー講師 株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士 認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士 修士(学術)
関西医療大学保健医療学部 助教
関西学院大学大学院 経営戦略研究科