2024年度介護報酬改定に通所リハビリは対応できるだろうか?

2024年度は診療報酬・介護報酬の同時改定が行われる。

今回は、介護報酬改定の中でも通所リハビリの改定内容を予想してみたい。

居宅サービスの中でも、通所リハビリの収支差率は低い。
※収支差率・・利益がどれだけ出ているかを測る指標

令和元年のデータでは
訪問介護 2.6%
訪問看護 4.4%
訪問リハ 2.4%
通所リハ 1.8%
となっており、通所リハビリが特に厳しい経営状態であることが伺える。

介護保険制度開始以来、通所リハビリの「通所介護化」は一般化しており、通所リハビリと通所介護の区別がつかない人も多いのではないだろうか。

そのため、厚生労働省は通所介護とは異なる機能を持つ通所リハビリを実現するために、近年、様々な加算が新設している。

しかし、設定された加算に対応できない通所リハビリが多いため、通所リハビリの収支差率が低下していると考えられる。

このような背景を受けて、2021年度介護報酬改定の議論では厚生労働省は通所リハを「月単位の包括基本報酬」に移行することを提案した(図1)。


図1 月単位の包括基本報酬(案)

加算算定を極めて積極的に行う【強化型】
加算算定を相当程度行う【加算型】
加算算定をしない【通常型】
の3類型を設け、強化型>加算型>通常型の順で基本報酬に差をつけることが検討されている。

これは、現在、介護老人保健施設に導入されている5区分の基本報酬制度と考え方は全く同じである。

介護老人保健施設の5類型の機能分化は非常にうまくいっており、厚生労働省もこの成功体験より通所リハビリにも積極的に機能分化を推進すると考えられる。

通所リハビリの機能分化の類型は加算算定の有無が大きく影響すると考えられる。

リハビリテーションマネジメント加算
移行支援加算
生活行為リハビリテーション実施加算
短期集中リハビリテーション加算
入浴介助加算2
科学的介護推進体制加算
などの算定は上位区分に必須となるだろう。

また、これ以外にADL維持向上・病院との連携・セラピストの配置数なども上位区分の評価となる可能性がある。

このように機能分化の類型が定められることにより、通所リハビリは間違いなく二極化すると考えられる。

二極化することで通所リハビリ事業の撤退を考える事業所も出てくると考えられる。

2024年度介護報酬改定では通所リハビリに修羅場が訪れることだろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

組織の作り方の基本はビジョンを組織に宿らせることである

筆者が医療機関や介護事業所に対してコンサルティングをしていると、経営者や管理者より
「うちの職員はレベルが低いから、質の高いサービスはできませんよ」
「従業員が退職したら困るので、業務に関して強く指導することが出来ない」
などの意見をよく聞くことが多い。

このような発言の背景にあるものは何であるだろうか?

組織の作り方は二つある。

組織の能力から会社のサービスを規定する方法

会社のビジョンから組織を規定する方法
である。

先ほどの事例の会社は「組織の能力から会社のサービスを規定する方法」を選択していることになる。

しかし、この方法ではいつまでたっても会社のビジョンを達成することは出来ない。

それではなぜ、「組織の能力から会社のサービスを規定する方法」を選択してしまうのか?

それは、「今さえよければよい運営」を選択している他ならない。

「毎日がただ平穏無事に終わる」
「離職されたら現場が大変なので辞めないように低負荷の業務を与える」
「新しいことに挑戦すると失敗するかもしれないので、挑戦的なことはしない」
「職員が仲良しこよしで、ぬるま湯の家族的な運営」
「今さえよければよい運営」の代表事例である。

「今さえよければよい運営」は早晩、運営危機をもたらす。

なぜならば、事業を取り囲む外部環境の変化に「今さえよければよい運営」は全く適応できないからである。

例えば、診療報酬改定や介護報酬改定、人口動態の変化などに適応するためには、常に未来予測をした事業運営が必要となる。

そのためには、「会社のあるべき姿=ビジョン」を常に掲げ、「会社のビジョンから組織を規定する方法」の実践を模索する組織でなくてはならない。

あくまでも、「組織は会社の戦略目的を達成するための手段」である。

しかしながら、「組織の能力から会社のサービスを規定する方法」を選択している会社では、組織は存在することが目的になっている。

組織の存在が目的化すると、事業の本質は見えてこない。

また、「会社のビジョンから組織を規定する方法」では、組織に対するアプローチは常に行われる。

その代表格が「人材育成」である。

すなわち「人材育成」も会社の戦略目的を達成するための手段である。

皆さんの会社の人材育成は会社の戦略目的を達成するために存在しているだろうか?

人材育成を通じて会社のビジョンを組織に宿らせることが出来ているだろうか?

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
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認定理学療法士(管理・運営)
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修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

 

PT・OTの過剰供給が進む時代ではプロティアン・キャリアが益々重要となる

「プロティアン・キャリア」
環境の変化に応じて自分自身も変化させていく、柔軟なキャリア形成を示す。

「プロティアン(Protean)」はギリシア神話に出てくる、思いのままに姿を変えられる神プロテウスを指し、「変幻自在な」「多方面の」と訳される。

アメリカの心理学者ダグラス・ホールによって提唱されたキャリア理論である。

「変幻自在なキャリア」と言われても、ピンとこない人も多いだろう。

簡単に、プロティアンキャリアを説明すれば、「キャリア形成を企業に依存させずに、キャリア形成を自分事と捉え、自らキャリアを育てていくこと」と言える。

日本における戦後から続くキャリア形成の特徴は、「個人のキャリア形成を企業に依存させること」である。

これは一つの企業に長期間勤めることを前提にしていたため、企業側から提供される仕事の役割や人事配置などの重要性が高いため生じた現象である。

しかし、2000年以降の経済情勢、自然災害、新興感染症、国際情勢、少子高齢化などにより企業寿命が短命化しており、終身雇用が約束される状況ではなくなっている。

そのため、「一つの企業に長期間勤める」という前提が完全に崩れている。

さらに、日本人の長寿化も進んでおり、人生を80年以上全うする人も増えている。

そのため、定年退職後の人生が20年以上もあるため、定年後のキャリア形成の重要性が高まっている。

以上のようなことから、キャリア形成を企業に依存させずに、キャリア形成を自分事と捉え、自らキャリアを育てていくプロティアンキャリアが注目されている。

理学療法士・作業療法士の業界においてもプロティアンキャリアの重要性は益々高まっている。

診療報酬・介護報酬による急激な政策誘導
ロボットテクノロジーやAIなどの技術浸透
新型コロナウイルスなどの新興感染症
理学療法士・作業療法士の過剰供給
などにより理学療法士・作業療法士の雇用環境や市場における競争環境は2000年当初より厳しくなっている。

そのため、環境変化に強い生き方・働き方が理学療法士・作業療法士に求められている。

決して、勘違いしてはならないのは、「転職を繰り返すこと」がプロティアンキャリアではないと言うことである。

プロティアンキャリアを実践するカギは、「環境適応のための準備行動」である。

具体的な準備行動として
①専門性かつ多分野にまたがる知識・技術を習得しておくこと
②ネットワークの質と量を高めるためオンライン・オフライン問わず人脈を広げる
③お金に関する知識(資産把握・資産形成等)を学ぶこと
が挙げられる。

プロティアンキャリアを難しく考える必要なく、「今までやってきたことがない分野」に挑戦をしていくことがプロティアンキャリアの第一歩である。

理学療法士・作業療法士の皆さんの中には、数年以上同じ環境で、毎日同じような病態や状態の利用者さんにリハビリテーションを提供したり、同じような仲間と過ごしている人がいるのではないだろうか?

長年、同じ組織・環境で仕事していると新しい知識や技術を学ぶ機会が少なくなりやすい。

新しい知識や技術が蓄積されなければ、新しい分野への転身や非定型的な状況への対処が難しくなる。

そのため、環境変化への対応が難しくなり、結果的に「今と同じ状況」にいることを選択することになる。

「今と同じ状況」にいるのみを選択肢にしてしまうと、「組織の評価」に一喜一憂することになり、自分の仕事や人生を自分でハンドリングすることが難しくなる。

理学療法士・作業療法士がキャリア形成を自分事として捉え、今の環境や立場にこだわることなく、自分自身の成長や環境変化への適応を目的としたキャリアの視点を持つことが、今後の理学療法士・作業療法士の過剰供給時代を乗り切る秘訣である。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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人材マネジメントにおける適材適所を考える

医療機関や介護事業所で人材マネジメントを担当している方は人事を行う上で「適材適所」というキーワードで悩んだことはないだろうか?

適材適所とは
その人の能力・性質によくあてはまる地位や任務を与えること
である。

この適材適所を考える上で重要となる理論が、特性因子理論である。

特性因子理論はいわゆるマッチング理論と呼ばれており、その人の特性と仕事の特徴が合致することを重視している。

特性因子理論は
人はそれぞれ異なる
興味や
能力や
価値観を
一貫性をもって有していることを前提にした理論である。

個人と仕事の特徴が合致しなければ、個人は仕事に対して不適応を起こし、パフォーマンスの低下を起こす。

医療機関や介護事業所でも次のような人は多い。

事務作業は正確に行えるが、患者や家族とのコミュケーションに問題がある。
専門性の高い業務が極端に苦手である。
職人肌であるが周囲との協調性に欠ける。

現場業務では高いパフォーマンスを発揮していたが、管理職になった途端にパフォーマンスが低下する。

このような問題は、人材不足によって個人の特性を無視した人事配置や人事異動が行われやすい職場で起こりやすい。

医療機関や介護事業所などで慢性的に人手不足が生じている組織では、人手不足が生じた時に、人の仕事に対する向き不向きなどを配慮しない強引な人事配置が行われることが多い。

①管理業務に不向きなセラピストを役職に配置する
②学生指導に不向きなセラピストに実習指導者を割り当てる
③コミュケーションが不得意なセラピストに外部とのやり取りが多い訪問リハ業務を担当させる
などはよくみられる光景である。

これらは適材適所ではなく、単なる自転車操業的な人員調整である。

このように人の特性を無視した人事配置や人事異動は「生産性の低下」という非常に深刻な問題を組織にもたらす。

「生産性の低下」とは時間当たりに生み出すことができる仕事の量や質が低下することである。

「生産性の低下」を認める職員がいた場合、「適材適所な人事配置が出来ていない」ことを疑うべきである。

適材適所の人事配置を実現するためには次のような方法が有効である。

①1 on 1 ミーティングを実施する
上司と部下が1対1で行うミーティングを行う。このミーティングは、業務命令や指導を行うのではなく、部下が現在の仕事をどのように感じているか?という興味、関心、価値観を確認することである。これにより今の業務に対する適性やモチベーションなどを評価することができる。

②従業員のパフォーマンス評価
人材配置後は定期的に従業員のパフォーマンスを確認し、パフォーマンスの低下を認めた場合、パフォーマンス低下の原因の考察と人材の再配置を検討する。生産性が低下した人材配置が継続する組織では、人材配置後のパフォーマンスの評価を疎かにしていることが多い。

また、個人としても適材適所の人材配置を得るためには努力が必要である。

「自分に向いている仕事はこれである!」と決めつけると仕事に対する視野や可能性を自ら閉ざしてしまうことになる。

むしろ、多くの仕事を経験することで自分の興味・関心・価値観が広がっていき、仕事に対して複数の選択肢を持つことが可能となる。

複数の選択肢を持つことが出来れば、人事配置における適材適所の可能性を高めることにもつながる。

投稿者
高木綾一

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中年セラピストのキャリアを深刻化させるキャリアプラトー問題

「キャリア・プラトー」
組織内で昇進・昇格の可能性がなくなる、又は、本人がキャリアが停滞したと感じ、仕事に対するモチベーションが低下や今後の人生の展望が描くなくなることを言う。

キャリアデザインは20代から30代のセラピストに必要だと考えられがちであるが、キャリアプラトー問題に直面する40代以降の中年セラピストにとってもキャリアデザインは必要である。

中年セラピストのキャリアプラトーには次のような事例が多い。

①若い頃は知識や技術が乏しいため、自己研鑽や仕事に向き合えば、自己の成長を感じる。しかし、中年になると一定の知識や技術があるため、新たな学びや経験に対する動機づけが乏しくなってくる。

②長く勤めている医療機関や介護事業所であれば何らかの役職が与えられる。しかし、役職は無尽蔵にあるわけではないため、昇進や昇格と言う機会が中年では少なくなり、後は、ひたすら定年まで働くだけの状態となり、仕事における目標を失う。

キャリアプラトーに対する対策として以下のようなものがある。

コミュケーション
①組織や上司と自身のキャリアの方向性、今後の希望、自身の仕事における価値観などについて常にコミュケーションを取っておく。そのことにより、組織や上司より自身にマッチした仕事が提供される可能性を高めておく。

危機感
②危機感は人間の行動を生じさせる重要な因子である。そのため、今後の仕事や自身の人生におけるリスク分析を行い、リスク回避のためにどのような行動が必要であるかを明確にしておく。

アンラーニング
③アンラーニングを進める。アンラーニングとは「学習棄却ともよばれ、持てる知識・スキルのレパートリーのうち有効でなくなったものを捨て、代わりに新しい知識・スキルを取り込むこと」である。情報化が進んでいる社会では5年前の知識や経験は役に立たないことが多く、知識や経験のアップデートが必須である。

現在、40代、50代のセラピストはセラピスト不足時代に就職しており、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の資格さえ持っていれば、就職にも困らずに、比較的安定した給与をもらえた世代である。

つまり、強い競争社会にいなかった世代であるため、キャリアについて考える必要性が低かったとも言える世代である。

それゆえに、キャリアプラトーを解決するための信念や知識に乏しいと言えるだろう。

中年セラピストこそキャリアデザインが必要である理由はそこにある。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
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