とんでもない変化が、いま進行中だ。
超高齢社会が加速し、医療・介護・年金といった社会保障費は膨張を続けている。
国の財政は厳しさを増し、国債発行残高は過去最大規模となっている。
いわば「次世代から借りている」形で成り立つ財政運営が限界に近づきつつあるのが現実だ。
それでも日本は長年、「医療フリーアクセス」を維持してきた。
誰もが、好きな時に好きな医療機関を選び、受診できる仕組みだ。
それは日本人の安心の象徴でもあった。
しかし、平成26年・28年の診療報酬改定をきっかけに、地域包括診療料、地域包括ケア病棟、病床機能報告制度などが導入され、「自由にどこでも受診できる」という感覚は徐々に薄れつつある。
さらに、2024年度の診療報酬・介護報酬同時改定では、地域医療機関や薬局に対し「地域の患者を囲い込み、継続的に支える体制を強化せよ」というメッセージが色濃く打ち出された。
これは裏を返せば「受診行動の自由」はこれまでより制限される方向に進んでいるということだ。
一方、介護分野は早い段階から「混合介護」を認め、自費サービスを組み合わせた多様なサービス展開を可能にしてきた。
国はこの分野で民間企業の参入障壁を低く設定し、大手企業が次々に介護・予防・医療周辺分野に参入する流れがますます加速している。
現場では、かつて「地域包括ケア」という言葉が登場した頃以上に、医療と介護のボーダーレス化が進んでいる。
医療・介護業界は、もはや穏やかな安定業界ではない。
熾烈な競争が進み、生き残りをかけた再編が始まっている。
それでもなお、多くの医療・介護従事者はこの変化を肌で感じていないか、見て見ぬふりをしている。
海外からの医療機関・資本参入、海外への医療・介護サービス輸出、AIやロボット技術の進化、外国人労働者の本格参入、そして都道府県レベルでの医療・介護パフォーマンス管理強化……。
適応できない者はどうなるか。
江戸時代から明治時代にかけて、「籠屋」という職業は時代の変化の中で消えた。
文明開化と共に、人力ではなく馬車や鉄道へとシフトしていったからだ。
今、私たちが直面しているのはまさにその規模の変化だ。
筆者
高木綾一
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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