現在、政府は目玉政策として、「1億総活躍社会の実現」を進めている。
1億総活躍社会の基本政策は、「一人一人の事情に応じて多様な働き方が可能な社会への変革に取り組む」ことである。
この基本政策を実現するために以下の3つの政策が検討されている
1)非正規社員の待遇改善
2)長時間労働の是正
3)高齢者の就業促進
これら3つの政策は、日本にある全企業の労務・人事に関するマネジメントに大きな影響を与える。
医療・介護の現場においても、例外ではなく、労務・人事管理のマネジメントの変革が求められる。
今回は、非正規社員の待遇改善政策が医療・介護現場に与える影響について考えてみたい。
非正規社員の待遇改善とは、簡単に言うと「正社員と変わらない給与を支給する」ことである。
いわゆる「同一労働同一賃金」という考え方である。
「同一労働同一賃金」という考えは、雇用が保障される正規と雇用が保証されていない非正規との間には大きな賃金格差があるため、社会保障の観点から、非正規社員の賃金を是正するという理念から生まれたものである。
しかし、正規社員の給与形態を維持したまま、非正社員との賃金格差を是正することは容易ではない。
日本の伝統的な給与体系は、年功序列制度を用いている。
勤続年数が長くなるほど、賃金が増加する仕組みである。
しかし、非正規社員の場合は、職種ごとに一定の時給や月給が定められているため、勤続年数が長い正規社員とは、かなりの賃金差が生まれることになる。
日本の伝統的な給与体系は、景気が良かった時代の名残でもある。
長期間にわたり会社に貢献することが、労働者の美徳であるとの考えは根強い。
また、日本では60歳から65歳の間で退職するという「定年退職制度」が用いられている。
ある意味これは、強制解雇であるため定年までの雇用と賃金増加を保証する必要がある。
以上のような理由から、日本の企業は年功序列制度を変更することが難しい。
また、別の問題として、正規社員と非正規社員の組織への帰属意識や理念実践の差が挙げられる。
一般的に正規社員は非正規社員と比較して労働時間は長く、上司や顧客とコミュニケーションを取る機会も多い。
そのため、組織人としての行動や理念の実践において、非正規社員より正規社員の方がはるかに期待できる。
正規社員は「自身のやりたいこと」や「専門職としての能力発揮」などを求めて働いているケースが多いが、非正規社員は、「金銭的報酬」を目的に働ている人が多い。
企業の立場に立つと、組織への帰属意識や理念実践に差がある正規社員と非正規社員の賃金を同一にするということには、相当な違和感があるだろう。
つまり、非正規社員の待遇改善を実現するためには、単に非正規社員の給与を上げるのではなく、「給与体系」や「人材育成」に関して改革が求められる。
医療・介護の現場には、相当数の非正規社員がいる。
特に、最近はワークライフバランスが推進されているため、短時間勤務の医療・介護従事者も増加している。
そのため、この非正規社員の待遇改善は大きな問題である。
しかしながら、なんの手立てもせずに、非正規社員の待遇を改善すれば、相当な人件費の増加となり、経営的には大打撃である。
非正規社員の待遇改善を実現するためには、以下の二つの対策を医療・介護事業所は実践しなければならない。
1.正規社員の給与体系を年功序列から実力重視に切り替え、正規社員、非正規社員ともに徹底的な人事考課を行う。
2.非正規社員に正規社員と同等の組織の帰属意識や理念の実践について教育し、実行させる。
この2点を実現できなければ、非正規社員の賃金を上げたとしても経営的には何の意味のないものになる。
医療・介護現場は、「マネジメント下手」である。
よって、非正規社員の待遇改善は極めて大きな課題である。