入院前から「かかりつけ診療所・病院」が決定していることが当たり前の時代へ

2016年度診療報酬改定では、外来医療の「主治医機能強化」と「大病院の外来縮小」が進められた。

厚生労働省は「外来医療を200未満の病院と診療所へシフトさせ、大病院は急性期医療や高度先進医療に特化させたい」という考えを持っている。

日本の急性期医療は、諸外国と比べて在院日数が長く、急性期医療としての仕組みが整っていないことが長年指摘されている。

また、日本人は小さな規模の医療機関より大きな規模の医療機関を好む傾向があり、大学病院などの医療機関にも外来患者が大勢押し寄せているのが現状である。

さらに、時代は地域包括ケアシステムへ移行しており、地域密着型の医療機関の役割は益々重要となっている。

地域医療・介護・リハビリテーションの拠点として、地域に根差した診療所・病院の在り方が必要とされている。

大病院から外来患者を診療所にシフトさせることは、急性期医療の充実や地域包括ケアシステムの推進という一挙両得の効果が期待され、近年の診療報酬改定の強化ポイントである。

2016年度改定では、大病院(500床以上)の外来縮小では「紹介状なしの受診の場合、初診時は5,000円以上、再診時は2,500円以上を徴収する」制度が導入された。

従来より、大病院には、「紹介率50%未満かつ逆紹介50%未満」の場合は、初診料と外来診療の引き下げというペナルティーが導入されていたが、外来患者抑制の効果が乏しいために、2016年度改定では、患者負担の増加の措置が取られた。

一方で、診療所や200床未満の医療機関では、「主治医機能の強化」が行われた。

「主治医機能の強化」では、以下の施策が導入された。
1)2014年度に導入された地域包括診療料の診療所の常勤医師要件の緩和(3名→2名)
2)認知症診療の推進を目的に「認知症地域包括診療料」が導入された(下図)。

在宅患者が増えていくこれからの時代を考えると、各患者の地域における医療・介護・リハビリテーションの拠点を早期に確保する必要がある。

病院を退院後に速やかに、地域の医療・介護・リハビリテーションにつなげるためには、入院・退院前に各患者の主治医やかかりつけ診療所・病院が決定していることが望ましい。

外来患者が大病院から地域の診療所・200床未満の病院へシフトすることは、シームレスな地域連携をするうえで重要なことである。

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通所リハビリテーションへの移行を妨げている理由が、本当の理由ではない件

2016年4月27日に開催された中央社会保険医療協議会にて、「平成26年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成27年度調査)の 本報告案について」が報告された。

その中で、「通所リハビリテーションを開設する意向がない理由」に関して報告がなされた。

ddd2016年4月27日 中央社会保険医療協議会 資料

人員を確保することができない
場所の確保が必要である
送迎体制を整えるのが困難
など・・・・たくさんの理由が列挙されている。

しかし、これらの理由は本当に「理由」であるか?

ここに記載されいている内容はすべて、通所リハビリを開設するために必要な手段である。

手段は目的を達成するために必要なものであり、多くの手段はマネジメントの手法により解決できる。

人員を確保できなければ、人材獲得のマーケティングを行えば良いし、
場所を確保できなければ、必死で不動産に関する情報を集めればよい。

病院や診療所の院長、経営幹部と話をしていると、そもそも通所リハビリがどのようなものであるかを理解していないことが圧倒的に多い。

通所リハビリは儲かる→だったら、やってみよう→え、開設するのは意外に大変じゃん→しかも、運営には結構手間と費用が掛かるんだね→通所リハビリの開設はやめておこう

という展開に陥る病院や診療所が非常に多い。

通所リハビリの運営がうまくいっているところは、通所リハビリの社会的意義や地域リハビリテーションへの情熱や理念が明確にしている。

理念を実現するために必要な手段には、全力を尽くすことができる組織だからこそ、様々な問題を解決することができる。

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誤解を恐れずに言うと、通所リハビリ、通所介護、訪問リハビリは、あくまで外来診療、入院診療の本体事業とは別の副業事業として考えている医療機関が多いのではないだろうか?

「外来医師の負担が大きくなる」という理由が挙げられているが、この理由は理由になっていない。

通所リハビリを開設する理念があるなら、人材の問題は解決しなければならない。

副業の感覚で捉えているから、人材を増やさずに儲けたいという気持ちが芽生えるのだ。

副業感覚で通所リハビリをとらえている以上
通所リハビリが開設できない
通所リハビリの運営がうまくいっていない
という状況は打開できない。

 

重症患者・利用者向けのリハビリテーション技術の普及が必要な件

地域包括ケアシステムの中心をなす考え方は、「在宅シフト」である。

現在、急性期病床、回復期病床、療養病床のすべてから、患者の在宅シフトが進んでいる。

入院医療から在宅医療へのシフトは、軽症患者から重症患者まで含まれる。

従来なら入院医療で対応していた患者が、在宅医療を受けながら在宅で生活することが一般的になっている。

2015年度介護報酬改定においても、「中重度者」への在宅サービスの評価が行われた。

特に、在宅や施設における看取りは強く推進されており、死亡前4日以上30日以下の加算が80単位から144単位まで引き上げられており、在宅での終末期対応が強く求められている。

団塊ジュニアが死亡する2050年前後までは、医療の在宅シフトが加速し、重症患者が在宅で生活することが当たり前になる。

そのような状況においては、「ADLやIADLを改善するリハビリテーション」だけでな「全身状態や終末期QOLを改善させるリハビリテーション」が益々重要となってくる。

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しかし、現在の学校教育、臨床教育、卒後教育では「重症患者向けリハビリテーション技術」は十分に網羅されていない。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が持っている知識と経験をより、重症患者向けリハビリテーションサービスへ転換させていけば、リハビリテーション専門職の必要性も高まり、過剰供給も緩和される。

褥瘡・シーティング・認知症・呼吸循環・疼痛・可動域制限・誤嚥性肺炎・トランスファーなどまだまだ、セラピストには未開拓な分野がある。

未開拓な分野は、ピンチであり、チャンスである。

在宅シフトという市場の流れを十分に捉えた上で、セラピストは技術取得に臨む必要がある。

必要なリハビリテーション技術は医療機関・介護事業所ごとに違うのに、リハビリテーション技術に偏向的なセラピストが多い件

筋力強化練習・関節可動域練習・基本動作練習・応用的動作練習・感覚入力練習・物理療法などの標準的なリハビリテーション技術は、どのような分野でも求められる。

よって、セラピストはこれらの標準的なリハビリテーション技術を優先的に学び、技術取得を行わなければならない。

しかし、近年のリハビリテーション提供体制の変革により、リハビリテーション機能が分化しており、分化された分野では、求められるリハビリテーション技術がそれぞれ異なる。

それぞれの分野では先述した標準的なリハビリテーション技術に加え、下記のようなリハビリテーション技術が求められている。

急性期:早期離床・リスク管理・早期歩行・早期摂食嚥下
回復期:在宅復帰等の環境適応・住宅改修・装具療法・摂食嚥下・患者教育
生活期:(軽症):介護予防・引きこもり防止・活動と参加の促進
生活期(重症):トランスファー・認知症・終末期・褥瘡・栄養・呼吸

しかし、筆者が多くの医療機関や介護事業所をコンサルティングをしていると、勤めている医療機関や介護事業所の機能とは親和性の低いリハビリテーション技術を学んでいるセラピストが多いことに驚く。

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もちろん、セラピスト本人にも責任はあるが、組織によるリハビリテーション技術のマネジメントが行われていないことも問題である。

重症患者が多い訪問看護ステーションに勤務しているセラピストが、最新の急性期リハビリテーション技術を学んだとする。

しかし、現場では、摂食・嚥下、呼吸リハビリ、トランスファーなどの技術が求められている。

このような必要とされる技術と実際にセラピストが学んでいる技術のミスマッチは、よく散見される。

本来はマネジメントによりこのようなミスマッチが起こらないようにしなければならない。

また、セラピストは、自分の興味本位ではなく、自分が勤めている分野のマーケット本位で必要とされる技術を学ぶことが、キャリアを構築する上では重要である。

勤め先で必要とされる技術を磨けば、多くの患者や利用者のQOLが向上し、セラピストとしての評価も高まる。

また、事業所としても高いリハビリテーションを提供することができれば、周囲の評判が上がり、事業所の収益増化にも寄与する。

今の時代のセラピストは、リハビリテーション技術を学べる機会は多い。

インターネットを用いた学習やセミナーを受講する機会にかなり恵まれている。

しかし、そこに投資できる時間とお金は有限である。

したがって、冷静に、投資先を考え、学習に見合った効果を考えなければならない。

リハビリテーション技術に偏向的になっているセラピストは、大切な時間とお金を損失している可能性が高い。

整形外科クリニックが院内でリハビリテーションだけを提供していればよい時代は終わった

整形外科クリニックの勝ち組と負け組の二極化が止まらない。

2000年前後から2010年ぐらいまでは、リハビリテーションの施設基準を取得し、理学療法士によるリハビリテーションを提供することが整形外科クリニックの差別化戦略として有効であった。

しかし、このブログを作成している2016年では、リハビリテーションを提供している整形外科クリニックは山とあり、リハビリテーションの提供の有無が整形外科クリニックの差別化に繋がらない状況である。

筆者がコンサルティングをしていると、「どこもかしこもリハビリテーションをしているから、これからの時代はなかなか患者が集まらなくなった」とか、「これからの整形外科クリニックはじり貧ですね」などの声が、院長、経営幹部から聞こえてくる。

果たしてそうだろうか?

今の時代においても、患者が沢山集まり、収益が増加している整形外科クリニックは沢山存在する。

結局のところ、勝ち組の整形外科クリニックが存在する以上、「時代の流れ」は全く関係がない。

整形外科クリニックは時代の流れに身を任せるのではなく、新しい市場やニーズに対してマーケティングができなければ、経営の再構築は難しい。

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整形外科クリニックを取り囲む状況は急速に変化している。

環境変化の事例としては
1)医療の在宅シフトが急速に進んでおり、在宅患者のフォローが求められている
2)デイサービスが急増し、運動器疾患を持つ方のリハビリテーションサービスが行われている
3)整骨院が急増し、運動器疾患の初診患者が整骨院に流れている
4)予防に対する意識が高まっており、医療と運動を組み合わせた民間サービスが増えている
5)維持期患者の介護保険リハビリテーションへの移行が進んでいる
などが上げられる。

これらの環境変化に対して、なんらかの行動を起こさなければ間違いなく「ジリ貧」になっていく。

また、当然、整形外科クリニックの専門性も重要である。

画像診断、日帰り手術、病院との連携など医療の本質の部分の強化を忘れてはならない。

さらに、見込み患者や既存患者へのマーケティング活動も怠ってはならない。

地域へのアピール
Webを通じた情報発信
新規患者の導線確保
などのマーケティング活動が安定的な患者増加には欠かせない。

院内で理学療法士によるリハビリテーションだけを提供していれば、整形外科クリニックとして安定的な経営ができる時代は終焉した。

リハビリテーションを活用した新たな価値の提供が、これからの整形外科クリニックには必須である。