医療・介護人材に求められるマーケット感覚 — 環境依存と自己中心からの脱却

他人や社会から期待されることばかりに基準を合わせて仕事をすると、やがて「環境の奴隷」となる

環境の奴隷を続けていると、自ら考える力が徐々に麻痺し、次第に「環境に従うことこそ自分の意思である」と錯覚してしまうのである。

環境の奴隷は、自らの心に制御をかけ、指示されたことだけを淡々とこなすようになる。

当然ながら、そこには主体性がなく、工夫や改善への関心も薄れる。

その結果、与えられた作業はこなせても、作業以上の価値を提供することはできない。

一方で、医療・介護業界には、環境の奴隷とは逆に「アーティスト化」した個人事業主も存在する。

彼らは自分の興味関心にのみ従い、組織やチームの中で協調することを苦手とする。

好きなことに没頭する姿勢は悪くないが、誰からも必要とされないことに価値は生まれない。

自身のやりたいことだけに関心を持つ者は、現代医療に求められるチーム医療、地域包括ケア、医介連携などに関心を示さず、対応できる能力も備えていないのが現実である。

ゆえに、好きなことが他者や社会から必要とされるものであるかを見極める「マーケット感覚」がなければ、変革期を迎えている医療・介護の世界において価値を生み出すことは難しい。

環境の奴隷とアーティスト化した個人事業主は、医療・介護業界において蔓延しているが、どちらも時代に適応できない存在である。

これからの医療・介護分野で人材として価値を提供できるかどうかは、このマーケット感覚を持つか否かにかかっていると言ってよい。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。

キャリアデザインとは過去の自分を見つめ直すこと

キャリアカウンセリングにおいては、「キャリアデザイン」に関する相談が非常に多い。

その際、クライアントからよく聞かれる言葉が「これから何をしていけば良いかわからない」である。

これは、漠然とした未来への不安を表している。

しかし、本来キャリアデザインの本質は未来を漠然と考えることではない。

キャリアデザインとは、「過去の自分を見つめ直し、肯定的な要素をもとに将来の自分を描き出す作業」である。

したがって、まずは過去の棚卸が必要となる。

これまで自分が大切にしてきたこと、一生懸命取り組んだこと、心から嬉しかったことや悲しかったこと、達成感を味わえた瞬間などを振り返り、そこから自分自身の価値観を抽出するのである。

自分が何を大切にしてきたかを知ることは、自分がこれから何を目指すべきかを知るヒントになる。

さらに、医療や介護の現場で培ってきた知識、技術、経験もまた、自分の武器であり、次なる挑戦へのテコとなる。

つまり、未来に挑戦するための材料は、決して遠い場所にあるのではなく、自分自身の過去の中に豊かに存在しているのである。

挑戦とは、無謀な旅立ちではない。

過去というエンジンを積み込み、情熱という燃料を注ぎ込んで進む旅路である。

そのような姿勢を持つ人材が医療・介護業界に増えていけば、いきいきと前向きに働く職員が増え、この業界は必ず変わる。

未来を切り拓く力は、自分の中に既に眠っているのである。

今後の医療職、介護職の給料って??

医療職や介護職の給料は、国が定める診療報酬や介護報酬によって上限が決まっている。

医療保険や介護保険制度の枠組みの中でサービスを提供する限り、公定価格を超える人件費を得ることはできない。

しかしながら、現在は国の財政が逼迫しており、有資格者の数は年々増加している。

すなわち、財源は限られる一方で、給与を必要とする人数は増加している状況である。

加えて、物価は上昇し、消費税は10%となり、電気代や生活コストも高騰している。

この状況は非常に危機的であり、医療・介護業界においても従来通りの働き方だけでは生活水準を維持することが困難になりつつある。

しかし、公定価格以上の報酬を得ている人材が存在することも事実である。

そのような人々に共通しているのは、「資格以上の価値を提供している」という点である。

資格の持つ価値を当然のものとし、さらにその上に新たな専門性や付加価値を積み重ねているのである。

今後、収入を高めるためには、医療職・介護職が自身の専門性を活かし、制度の枠を超えた価値を創出することが必要不可欠である。

社会や組織が期待するものと、自分が提供できるものが交わる場所にこそ大きな可能性が眠っている。

その可能性を現実のものにできるかどうかは、自らの行動次第である。

時代の変化に対応し、仕事の質を高め、積極的にワークシフトを起こしていく姿勢が、これからの時代には求められるのである。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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