医療・介護職の収入問題と主体性の関係性

医療・介護の現場において、セラピスト、介護職、事務職の給与水準は依然として低いままである。

実際、手取りで15万円から30万円程度の職員が多数を占めているのが現状である。

では、給与は誰が上げてくれるのか。
国であろうか。
院長であろうか。
施設長であろうか。
行政であろうか。

確かに制度的な支援や経営者の意識改革も必要ではある。

しかし、本質的に自らの収入を高められるのは、他の誰でもなく「自分自身」である。

思い出してほしい。

小学校や中学校の頃、野球やサッカー、武道などのスポーツでレギュラーメンバーに選ばれるために、どれほど努力を重ねたか。

何の準備も努力もせずに選ばれた者は、特別な才能を持つか、親の影響力を使えるごく一部の者だけであった。

多くの者は、チームが必要とするポジションを見極め、その役割に求められる技術、体力、精神力を磨いてレギュラーの座を勝ち取ったはずである。

にもかかわらず、なぜ介護福祉士やヘルパー、理学療法士、作業療法士になった途端、「給料が上がらない」と嘆くのか。

給料とは「上がるもの」ではなく、「上げるもの」である。

自らの専門性を磨き、現場での信頼を築き、職場やチームにとって不可欠な存在となる。

そのような積み重ねこそが、自身の価値を高め、収入向上へとつながるのである。

現状を嘆くより、未来を創る行動を選ぶべきである。

給料は、待っていても上がらない。

自分の手で上げるものなのだ。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。

在宅医療・介護の質を高めるために求められるハイブリッド型専門職の重要性

2024年度の診療報酬・介護報酬のダブル改定を経て、医療・介護の政策トレンドは、より一層「在宅復帰支援」および「在宅生活継続支援」へと大きく舵を切ったといえる。

在宅生活の継続を困難にする要因は依然として明確であり、それは病状の急変やADLの低下による家族の介護負担の増加に起因する。

すなわち、在宅復帰後のフェーズにおいては、病状の安定化およびADLの維持・向上に対して、切れ目のない支援と専門的な介入が求められている。

回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟においては、医師、看護師、セラピスト、薬剤師、管理栄養士、臨床心理士など多職種が一つのエリアに集い、物理的にも心理的にも距離の近い環境で業務を遂行している。

このような環境下では、情報の即時共有が可能であり、チーム内での知識・経験のナレッジシェアも容易であることから、患者ごとの個別ケアやリハビリテーションプログラムの質は総じて高くなりやすい。

一方、在宅医療・介護の現場においては、以下のような構造的な問題が依然として存在している。

  1. 各職種が物理的に離れており、リアルタイムの情報共有が困難である点

  2. 他事業所の主治医や看護師、セラピストなどが連携しながら一人の利用者に関わるため、責任と情報の分散が生じる点

  3. 各事業所がケアやリハビリテーションに対して共通の理念や価値観を持たない場合が多く、方針が統一されにくい点

  4. そもそも急性期や回復期から十分な情報が引き継がれにくく、支援のスタート時点で不確実性が高い点

これらはすべて、質の高い個別ケアやリハビリテーションの提供を阻害する要因である。

現在、国は「地域包括ケアシステム」の進化形として、医療機関をあくまでバックアップとし、大多数の国民が住み慣れた地域・自宅で生活し続けるための仕組みづくりを急速に進めている。

しかし、在宅生活を支える在宅医療・介護のインフラに関しては、ハード面(設備や制度)に加え、ソフト面(人材や連携体制)の整備が追いついていない現状がある。

病院や施設においてもチーム医療・介護の実現には課題が多いが、在宅においては物理的・心理的な距離の広がりがこれに拍車をかけており、チーム医療・介護の実践はより一層困難となっている。

この複雑な課題に対する一つの有効なアプローチがある。

それは、「専門性を確立した上で、他職種や他領域の知識・技術を部分的にでも理解し、実践に活かせるハイブリッド型人材の育成」である。

すなわち、自己の専門性を軸にしつつ、関連領域の知識を横断的に習得することで、チーム内での連携コスト(時間的・心理的)を削減し、組織的・地域的な連携の円滑化が図れるのである。

ここで重要なのは、「まずは専門性を確立すること」が前提であるという点である。

自身の専門分野が曖昧なまま周辺知識を広げても、それらを有機的に統合することは難しく、結果としてサービスの質が上がらないリスクが高い。

たとえば、脳卒中リハビリテーションに長けたリハビリ職種が薬剤に関する基本的な知識を有していれば、向精神薬による副作用(動悸、高揚感など)と脳卒中の症状との鑑別において、早期に異常に気づき、リスクマネジメントにつなげることが可能となる。

このように、ポジティブに診療報酬・介護報酬改定を捉えるのであれば、医療・介護従事者のキャリアにはこれまで以上に多様な可能性が開かれている時代に入ったと言える。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。

これからの医療・介護従事者に必要な社会課題解決の視点

現在の医療・介護従事者の業務内容は、依然として法律によって定められた資格ごとの業務範囲に基づいている。

たとえば、整形外科医は整形外科領域の診断と治療、作業療法士は作業療法の提供、看護師は看護ケアの実施、薬剤師は調剤や服薬管理を担うといった具合である。

医療・介護現場においては、組織運営や業務設計もこの資格制度に強く影響されており、各職種が定められた範囲を超えて活動することは、制度上も文化的にも想定されてこなかった。

しかし近年では、職種間の連携や業務の再設計に対する社会的な期待が高まっており、旧来の枠組みだけでは対応しきれない課題が顕在化している。

先日、神奈川県で開催されたあるリハビリテーション学会に参加したところ、企業展示や演題発表の内容が以前とは大きく変化していた。

10年前には見られなかった新しい概念を持つ医療機器や福祉機器が多数展示されており、発表内容も従来の治療技術や症例報告に加えて、地域包括ケア、職種連携、教育改革、リスキリング、福祉用具の活用、介護ロボットの導入など、より現場の課題や制度設計に踏み込んだ内容が増えていた。

一方で、脳科学や神経生理学、細胞レベルの病態理解など、医学モデルとしての深い探究も依然として重要なテーマとして位置づけられており、テクノロジーと基礎科学の両輪で研究が進んでいることがうかがえる。

重要なのは、いかなる学術研究や技術開発であっても、それが社会課題の解決や国民の生活の質向上につながっているかどうかである。

学術発表や研究活動が専門家の自己満足にとどまるものであれば、それは社会の期待には応えられない。

「社会課題の解決に貢献すること」が、これからの時代の医療・介護従事者に求められる共通の使命であるという考え方は、すでに2025年以降の働き方のスタンダードとなりつつある。

果たして現在の医療・介護従事者は、こうした視点を持って日々の業務に取り組んでいるだろうか。

たとえば、高齢者が何度も自宅で転倒や肺炎を繰り返し、そのたびに入退院を余儀なくされているような事例があるとする。

その際、入院中に抗生剤の投与や基本的なリハビリテーションを行うといった「部分最適」の対応だけで、本質的な解決につながるのだろうか。

その人の生活環境、家族背景、地域資源、経済的状況、さらには予防的な介入の在り方など、より広範な視点で問題をとらえる必要がある。

今後の医療・介護従事者に求められるのは、「制度の枠内で与えられた業務をこなす専門職」ではなく、「社会課題を見立て、解決に向けて行動する専門職」である。

これがこれからのキーワードであり、時代の求めるプロフェッショナル像である。

筆者
高木綾一

理学療法士
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医療・介護業界に迫る“淘汰の時代” ー 今求められる覚悟と行動

とんでもない変化が、いま進行中だ。

超高齢社会が加速し、医療・介護・年金といった社会保障費は膨張を続けている。

国の財政は厳しさを増し、国債発行残高は過去最大規模となっている。

いわば「次世代から借りている」形で成り立つ財政運営が限界に近づきつつあるのが現実だ。

それでも日本は長年、「医療フリーアクセス」を維持してきた。

誰もが、好きな時に好きな医療機関を選び、受診できる仕組みだ。

それは日本人の安心の象徴でもあった。

しかし、平成26年・28年の診療報酬改定をきっかけに、地域包括診療料、地域包括ケア病棟、病床機能報告制度などが導入され、「自由にどこでも受診できる」という感覚は徐々に薄れつつある。

さらに、2024年度の診療報酬・介護報酬同時改定では、地域医療機関や薬局に対し「地域の患者を囲い込み、継続的に支える体制を強化せよ」というメッセージが色濃く打ち出された。

これは裏を返せば「受診行動の自由」はこれまでより制限される方向に進んでいるということだ。

一方、介護分野は早い段階から「混合介護」を認め、自費サービスを組み合わせた多様なサービス展開を可能にしてきた。

国はこの分野で民間企業の参入障壁を低く設定し、大手企業が次々に介護・予防・医療周辺分野に参入する流れがますます加速している。

現場では、かつて「地域包括ケア」という言葉が登場した頃以上に、医療と介護のボーダーレス化が進んでいる。

医療・介護業界は、もはや穏やかな安定業界ではない。

熾烈な競争が進み、生き残りをかけた再編が始まっている。

それでもなお、多くの医療・介護従事者はこの変化を肌で感じていないか、見て見ぬふりをしている。

海外からの医療機関・資本参入、海外への医療・介護サービス輸出、AIやロボット技術の進化、外国人労働者の本格参入、そして都道府県レベルでの医療・介護パフォーマンス管理強化……。

適応できない者はどうなるか。

江戸時代から明治時代にかけて、「籠屋」という職業は時代の変化の中で消えた。

文明開化と共に、人力ではなく馬車や鉄道へとシフトしていったからだ。

今、私たちが直面しているのはまさにその規模の変化だ。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
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医療・介護業界における環境変化を踏まえた“働き方の選択と決断”の重要性

近年、医療・介護業界において働き方の選択肢が増えてきている。

国内においては、医療機関や介護施設の機能分担が進み、各施設に求められる役割や能力もより明確となってきた。

これまで以上に企業努力を重ねなければ、競争激化する国内市場において生き残ることは難しい状況である。

高齢者人口が増加している一方で、医療・介護事業所の数も右肩上がりに増えており、差別化を図れない事業所はレッドオーシャンの中で熾烈な争いに巻き込まれることを覚悟しなければならない。

一方で、日本の医療や介護サービスを海外に輸出する動きも始まっている。

これは国益の観点からも重要なことである。

しかし、現状の医療・介護従事者がその流れに乗ることは簡単ではない。

語学力の不足はもちろんのこと、保守的な国内市場の中で育った人材が、海外事業に参画するには高いハードルが存在する。

医療や介護の知識・技術に加え、語学力やビジネススキルを含めた総合力を磨くことが不可欠である。

地域包括ケアシステムは、すでに多くの地域で完成形に近づきつつあり、各職種の役割や成功モデルも明確化されてきている。

もはや構築の段階は過ぎ、いかに地域ごとに持続させ、発展させていくかが問われる時代となった。

同時に、少子高齢化の加速、労働人口の減少、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展といった社会背景は、医療・介護従事者に対して新たな働き方を選び取る力を強く求めている。

専門性の追求に加え、複数の役割を担う柔軟性、多様なスキルを組み合わせて発揮する力が不可欠となっている。

現状を見極め、ただ「判断」するだけでは不十分である。

情報を集めて比較検討し、無難な結論にとどまることは、むしろ危険である。

今は、自らの人生とキャリアをどのように築くのかを「決断」し、行動に移せるか否かが問われる時代である。

思考停止に陥ることなく、自ら選び、自ら動く者だけが未来を切り拓くことができる。

読者諸氏は、すでに決断しているだろうか。

それとも、未だ判断の域にとどまっているだろうか。

あるいは、現状に甘んじ、立ち止まってはいないだろうか。

変化は待ってはくれない。

時代は、決断し、挑戦し続ける者にのみ味方するのである。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
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