理学療法士の専門性を探る

理学療法士という仕事がこれからも日本で必要とされ、安定的な雇用や経済力を保持していくためには、理学療法士の能力が、永続的に社会に貢献するものでなければならない。

そのためは、まず、理学療法の持つ専門性を明確にすることが大切である。

専門性を明確にすることにより、理学療法士の社会貢献の可能性を探ることができる。

では、理学療法の専門性にはどのようなものがあるだろうか? 理学療法について国は法的に以下のように定義している。

『「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えること』となっている。

つまり、 1)基本的動作能力 2)治療体操 3)運動 4)電気刺激 5)マッサージ 6)温熱 などの能力を理学療法士は有していると定義している。

これらの理学療法の専門性をもう少し詳しく説明すると以下のようになる。

1)基本的動作能力 姿勢調整能力の評価と治療 寝返り・起き上がり・座位・立ち上がり・立位・歩行という起居移動能力の評価と治療

2)治療体操 治療に資する多関節を連動させた運動の評価と介入

3)運動 治療に資する関節運動の評価と介入

4)電気治療 電気刺激による疼痛緩和及び神経筋機能の改善

5)マッサージ 徒手療法による疼痛緩和及び神経筋機能の改善

6)温熱 温熱刺激による疼痛緩和及び神経筋機能の改善 258512 これらの1)~6)の要素をさらに分解すると、数多くの専門性が存在することがわかる。

例えば、治療体操を行うためには以下のような知識が必要となる。

1)動作分析
2)アライメント
3)バイオメカニクス
4)神経・筋に関する生理学
5)運動学
6)各疾患

すなわち、一つの専門性を構成する要素も極めて多様と言える。

理学療法を構成する要素の多様性を知るためには、日本理学療法士協会が定めている認定理学療法士の項目が参考になる。

認定理学療法士の項目は、以下のように分類されている。

ひとを対象とした領域
動物・培養細胞を対象とした基礎領域
脳卒中
神経筋障害
脊髄障害
発達障害
運動器
切断
徒手理学療法
スポーツ
循環
呼吸
代謝
地域理学療法
健康増進・参加
介護予防
補装具
物理療法
褥瘡・創傷ケア
疼痛管理
臨床教育
管理・運営
学校教育

理学療法士にはこれらの専門性を学ぶ機会があり、実際にこれらの能力を社会に提供し、大活躍している理学療法士がいることも事実である。

理学療法士の社会貢献の可能性を探るためには、まず、足元の理学療法の専門性を十分に把握することが重要である。

ぜならば、理学療法の専門性の先に、社会への貢献があるからだ。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)(脳卒中)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 助教

PT・OT・STの新人が知っておきたいキャリアデザイン戦略

PT・OT・STの新人にとって、キャリアデザイン戦略を知ることは重要である。

キャリアデザイン戦略を知っていれば自身の選択する進路やその進路でどのような方向に努力をすればよいかをイメージすることができる。

キャリアデザインにおいて重要なことは、「自らの自己概念を表現できる仕事のフィールドで働くことができる現実的な進路」を見つけることである。

自己概念の重要性は スーパー理論「自己概念」 を確認して欲しい。 キャリアデザイン戦略は、垂直展開キャリアと水平展開キャリアに分けられる(下図)。

キャリアデザイン戦略
(無断転載禁止)

キャリア垂直展開
PT・OT・STとしての専門性を追求し、理学療法学・作業療法学・言語聴覚学の医学的根拠に基づく、知識・技術を習得するプロセス
Ex 脳卒中リハビリテーション専門家・EBMに詳しいセラピスト・循環器疾患の専門家

キャリア水平展開
PT・OT・STとしての知識や技術が活かせるフィールドで働くための必要な知識や経験を習得するプロセス
Ex セラピストの視点をもつ施設管理者・セラピスト育成事業・海外でのリハビリテーション事業

垂直展開の特徴
キャリア垂直展開を追求すればするほど、特定のフィールドの専門家になることができる。

したがって、その特定のフィールドでは、著名人となり評価も高まる。

しかし、特定のフィールドでは専門家としてのライバルも多いため、徹底した専門性の追求をしなければ、他の専門家より評価を上回ることが難しい。

つまり、キャリア垂直展開は相当な覚悟で臨む必要性がある。

水平展開の特徴
キャリア水平展開を追求すればするほど、セラピストの視点を用いて様々な事業を行うことができる。

しかし、セラピストとして未熟であれば、セラピストの視点のクオリティが低くなり、事業に反映させることができなくなる。

よって、水平展開をするためにはある程度のセラピストとしての知識と技術が必要となってくる。

最も高い評価を受けるスーパーキャリア
一方、社会で最も評価の高い働き方は「スーパーキャリア」「スーパー総合職」と呼ばれるものである。

このフィールドで働ける人材は、特定の分野でも専門性が高く、かつ、その専門性を他の事業に反映することができる強者である。

専門性をより社会で活用していくための、マーケティングやブランディングが必要であり、相当な努力が必要である。

Ex 脳卒中リハビリテーションを極めた専門家が、脳卒中リハビリテーションの教育事業や医療機関の脳卒中リハビリテーションのコンサルティングなどを行った場合である。

投稿者
高木綾一

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PT・OT・STのキャリアデザインに活用できるホランド理論「キャリア・クラスター」

ホランド理論では次の6つの性格的特徴(パーソナリティー)が存在し、各特徴に適した仕事選びが重要である言われている。

6つの特徴
現実的 (Realistic)

研究的 (Investigative)
芸術的 (Artistic)
社会的 (Social)
企業的 (Enterprising)
慣習的 (Conventional)

これらの6つの特徴と仕事の適応を考えたモデルを「キャリア・クラスター」という。

世の中の多くの職業を分類し、それぞれに適したパーソナリティーを定めたものである。 パーソナリティとキャリア・クラスターは以下のように定められる。 キャリアクラスター

キャリア・クラスターをセラピストの仕事内容に変えてみると以下のようなものになる。キャリアクラスター セラピスト用

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士という同一の資格を有して、働いていたとしても、それぞれのパーソナリティーは違うことから、各人に適した仕事が存在すると言える。

自分自身の性格特性を分析することは、キャリア選択においては極めて重要である。

あなたのパーソナリティーを判断するには
過去の自分自身の行動や興味・関心を振り返ってみる
信頼できる友人にあなたのことを説明してもらう
職場での人事面談での指導内容を振り返る
などの方法がある。

投稿者
高木綾一

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リハビリテーションの未来は明るいという根拠のないリップサービスはキャリアデザインには何の役にも立たない

2019年3月17日に開催された千葉県理学療法学会の特別講演に講師としてご招待をいただきました。

私が話したテーマは「これからの理学療法士のキャリア・デザイン」でした。

会場には300名を超す参加者の方がおられ、キャリア・デザインに関する関心の高さを感じました。

この特別講演で伝えたかったことは、日頃、キャリアコンサルタントとして活動している中で一番感じるキャリア・デザインの問題点である「キャリア・デザインに対するモチベーションの継続」でした(下図 当日資料スライド)。

キャリア・デザインに目覚めて行動を開始するが、徐々にその行動量が低下して、結局、今までと同じ生活・仕事のリズムに戻る方が90%以上であるという印象です。

すなわち、10%、10人に1人しか、キャリア・デザインを完遂することができないことになります。

それでは、なぜ、キャリア・デザインを継続的に行うことが難しいか?

これは、結局のところ危機感が乏しいからだと感じています。

経営と同じで、危機感を感じていない人にどれだけアドバイスやハウツーをお伝えしても、実践することはありません。

危機感が乏しいと、現状維持で良いという価値観が生まれやすい。

そのため、キャリア・デザインが尻つぼみになる。

このままではご飯を食べていけない、このままでは役割がなくなる・・・という危機感を心底感じなければ、人間の持つ生存本能が惹起されなくなる。

私は、危機を煽ることはしませんが、危機を正確に理解することは推奨しています。

危機を正確に理解すれば必ず、打開策が見えてくるからです。

リハビリテーションの未来は明るいという根拠のないリップサービスはキャリアデザインには何の役にも立ちません。

今一度、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が直面している危機を学ばれてはいかがでしょうか?

投稿者
高木綾一

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求められるセラピストの技能は時代とともに変化し、今後は低ADL者対応スキルが必須となる

地域包括ケアシステムは、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の社会的な役割を大きく変容させている。

地域包括ケアシステムでは、医療や介護の分業制が徹底されており、経済的効率の高いシステムの構築が進んでいる。

病院、施設より在宅で医療や介護を提供する方が経済的効率が良いため、在宅復帰支援と在宅療養支援は医療介護政策の柱である。

在宅生活を継続するといずれ人間は、低ADLになる。

しかし、低ADLな人であっても介護保険制度の様々なサービスにより、長期間に渡り、在宅生活が可能となっている。

そのため、訪問リハビリ、訪問看護、通所リハビリ、通所介護に勤める理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、低ADL向けのサービスコンテンツが必要となっている。

しかし、低ADL向けのサービスコンテンツが乏しい理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は非常に多い。

下図のように車椅子シーティングの知識や技術が乏しければ、的外れなリハビリテーションの提供を行うことになる。


(無断転載禁止)

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、養成校や実習を通じてADLの予後が良い症例を前提に知識や技術を学んでいる。

簡単に言うとADLが低下した人を前提とした知識や技術が極端に乏しいと言える。

しかし、在宅療養をしている人は将来必ず低ADLになる。

その時に、何も提供できないと信頼を一気に失うだろう。

医療や介護の環境変化に合わせて知識や技術を帰ることができるセラピストしか市場は評価してくれない。

地域包括ケアシステムの中で、生き残るためには知識や技術の幅を増やすことが大切である。

投稿者
高木綾一

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イラスト提供
福山真樹

理学療法士×イラストレーター
医療・介護等の現場を、医療職種の胸の内まで分かりやすくイラストで伝える。
臨床で勤務する理学療法士だからこそ描ける作品を医療関係者等へ提供し、書籍・学会・福祉機器紹介PV等、様々な場面で用いられている。
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