2021年度介護報酬改定を振り返る 通所リハビリ編

2021年度介護報酬改定では通所リハビリに新たな方向性を示された。

今回のブログではリハビリテーションマネジメント加算Ⅰの基本報酬への包括化および生活行為向上リハビリテーション実施加算について解説をしたい。

【リハビリテーションマネジメント加算Ⅰの基本報酬への包括化】

通所リハビリはあらゆる時間区分において基本報酬が増加したが、これはリハビリテーションマネジメント加算Ⅰが廃止され、基本報酬に包括化されたことによるものである。

リハビリテーションマネジメント加算の算定率は90%を超えていたことから、加算区分としての意味をなさなくなったため、基本報酬に含まれた。

リハビリテーションマネジメント加算Ⅰの要件は次のようなものであった。

  • リハビリテーション計画を定期的に評価し、適宜計画を見直していること
  • 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が、ケアマネジャーを通じて、ご利用者が利用する他の介護サービスの職員に対して、リハの観点から日常生活の留意点、介護のアドバイス等の情報を伝達すること
  • 新規にリハ計画を作成したご利用者に、医師または医師から指示を受けた理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が、1ヵ月以内に自宅等を訪問し、検査等を実施すること
  • 医師から理学療法士、作業療法士、言語聴覚士に対して、リハの目的とリハ実施に伴う指示があること(開始前・リハ中の注意点、リハ中止の基準、ご利用者にかかる負荷)
  • リハ実施に伴う指示内容がわかるように記録すること

つまりこれらの内容は通所リハビリの業務として標準化されたものとなった。

リハビリテーションマネジメント加算Ⅰの包括化の意味は、通所リハビリの本来の意味をより明確にしたと言え、医師や理学療法士等のリハビリ職種がより協業し、リハビリの質を上げることが必須となったと言える。

通所リハビリは歴史的に老健や診療所のサテライトビジネスとして運営されてきた経緯もあり、経営者や医師の関りが乏しい傾向がある。

そのため、国が求める通所リハビリの機能が向上しない状況が続いていたが2021年度改定により今後は、リハビリ職種にお任せする運営スタイルは通用しなくなった。

【生活行為リハビリテーション実施加算の要件緩和】

生活行為リハビリテーション実施加算は要件が見直された。

この加算は算定率がなんと1%台という極めて危機的な状況にあるものだった。

その理由は、6か月間の算定期間を経過した場合、基本報酬が15%減算されるという条件があったために、ほとんどの事業所が同加算の算定に消極的であったと言える。

今回はこの基本報酬15%減算の条件が撤廃された。

この加算は、ADLレベルや活動参加レベルが疾病や急性増悪等により低下し場合に早期の集中的なリハビリテーションを提供する目的で設置されたものである。

また、この加算は急性期や回復期の退院患者の受け皿となり在宅回復期を実現する切り札と言えるものであった。

しかし、あまりの算定率の低さから、大幅な要件の緩和が行われた。

この変更により算定率は大幅に向上するはずであるが、もし、算定率が上がらない場合、通所リハビリはみずから在宅回復期としての役割を放棄していると判断される。

その場合、2024年度介護報酬改定で同加算は消滅してしまう可能性が高い。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

介護保険施設/有料老人ホーム/サービス付き高齢者向け住宅の経営のキーポイント 入居者の入院率の抑制

老人保健施設、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住は全国的に整備されつつあり、近年では稼働率が低下し入居者の確保が厳しい施設が増えている。

人口密集地では競合する施設が多く、人口過疎地では高齢者人口の減少が生じている。

そのため、施設系事業所の入居者確保はより厳しさを増すことは必至である。

入居者確保がより難しくなるため、施設はいかに稼働率を落とさないかの取り組みが必要となる。

その一つが「入居者の入院率の抑制」である。

入居者が入院をしてしまうと空床となる。

たとえ、入院後に施設に戻ってくることがわかっていても、入院の期間中は介護報酬や入居費用を請求することはできない。

それでは、施設の入居者が入院する理由はどのようなものがあるのだろうか?

主に以下のようなものが入院の理由である。

・誤嚥性肺炎
・多剤性の副作用
・脱水
・尿路感染症
・転倒・転落による外傷

これらの予防には医師、看護師、セラピスト、栄養士、看護職の連携が必要となる。

例えば、誤嚥性肺炎の予防においては各職種に次のような役割が求められる。

医師:疾患による誤嚥のリスクや薬剤性の誤嚥の評価
看護師:口腔ケアや誤嚥の評価や支援
栄養士:栄養状態の評価や食事形態の改善
介護職:ポジショニングや食事介助の支援
セラピスト:嚥下機能や呼吸機能の維持・向上

つまり、各職種が利用者支援において共通した目的を達成するためにケアやリハビリテーションを提供することが誤嚥性肺炎等を予防し、その結果、入院を防ぐことになる。

また、各職種が目的をもってケアやリハビリテーションに取り組むことは、従業員のモチベーションアップや施設のブランディングにも好影響を与える。

また、2021年度介護報酬改定では科学的介護推進体制加算が新設され、介護保険のサービスにもアウトカム報酬制度が導入された。

ケアやリハビリテーションの質を高めることは介護報酬でも高く評価される方向にある。

つまり、入院の抑制を図るためのケアやリハビリテーションの取り組みは、稼働率の低下だけでなく、介護報酬としても評価される時代になったのである。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

PT・OT・ST管理職あるある 一生懸命仕事をするけど、部下が成長しない件

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の管理職は総じてまじめな人が多い。

そのため、管理職を拝命すると一生懸命に組織のために働く。

毎日、忙しく仕事をしている管理職が大多数である。

しかし、そこに落とし穴がある。

「忙しくする」ことが管理職の仕事ではないということである。

管理職の仕事は「他人を通じて成果を出す」ことである。

つまり、「自分が動いて成果を出す」ことは管理職として不適格と言える。

「自分が動いて成果を出す」ことはたやすい。

しかし、この働き方は長続きしない。

なぜならば、「自分が動く」ことはいつか疲弊するため、持続可能な働き方ではないからである。

管理職の仕事は「組織や事業所の理念、ビジョン、課題を的確に把握し、経営目標の達成のために自分の部下に仕事を与え、その仕事を遂行させること」である。

しかし、部下とのコミュニケーションがうまくできない管理職は、部下に仕事を与えることが苦手なため、すべての仕事を自分で引き受ける。

そのため、周りから仕事をしているようには見えるが、部下の成長が見られないという現象を引き起こす。

部下が成長しないものだから、より仕事を与えにくくなり、さらに管理職が仕事を引き受けることになる。

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士で管理職を拝命する人は、平素からまじめに業務を行っている人が多い。

そのため、自分を忙しくすることがある意味、得意な人が多い。

しかし、この特性が管理職として不適切な行動を生んでしまう原因でもある。

管理職の方は、まず、自分が仕事をするのではなく、部下に仕事を与えることを第一に考えて管理職の責務を全うしてほしい。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

上司が仕事に対して他人事である件

皆さんの職場にはいないだろうか?

何を考えているかわからない上司
相談ごとに対して曖昧な返事しかしない上司
何も決められない上司
部下を叱ることも褒めることもできない上司

このような上司の下では組織の発展は難しい。

なぜならば、組織の方向性を示すこともなければ、組織を牽引する行動もしない上司はリーダーの役割を全く果たしていないからだ。

このような上司は、組織内で起こる事柄は自分にとっては他人事であり、自分事として捉えていない傾向が強い。

そのため、表面的には管理職として組織の仕事をしているが、その仕事は自分には関係のない事柄なので、責任を取ることや、高い熱量をもって仕事に取り組むことはない。

このような上司の下では組織の課題が解決しない、決定したことが進まない、真面目に働いている人が評価されないなどの状況が生じ、部下に強いストレスが生じる。

では、このような上司に対して組織はどのように向き合えばよいのだろうか?

組織に対して当事者意識のなく、他人事な人は、自分自身の価値観やアイデンティティと仕事内容の不一致が生じていると言える。

このような人に、「当事者意識を持ってください」と言っても意味はなく、その人がどのような価値観やアイデンティティを感じながら仕事をしているのかを聞き出すことが重要である。

その上で、組織は現在の仕事内容がその人の考える価値観やアイデンティティと一部でも一致するのか否かを考える。

もし、一致する部分があれば、現在の仕事内容とその人の価値観やアイデンティティを満たすものであり、それはその人にとって自分事であることを伝えることが重要である。

つまり、組織側のキャリアデザインの支援が必要ということである。

管理職研修の重要性はよく言われるが、管理職のキャリアデザインについての取り組みは乏しい組織が多い。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

 

 

新型コロナウイルスが医療機関・介護事業所に与えた悪影響

2020年2月より始まった日本にほける新型コロナウイルスの蔓延は日本社会に大きな悪影響を与えている。

医療や介護の現場においても負の影響が連日報道されている。

報道されている内容はほとんど新型コロナウイルス感染患者に対する医療や介護サービスの対応への負担や病床ひっ迫などである。

しかし、現実的には新型コロナウイルスによる医療機関や介護事業所への負の影響は様々な形で表れている。

ここでは新型コロナウイルスがもたらした負の影響をいくつか紹介したい。

1)入院中の患者の様子がわからないため、家族が在宅復帰後のイメージを掴みずらい
多くの医療機関では患者が外部の人と接触することが禁じられ、面会謝絶の状態が長期間に渡り続いている。
そのため、家族が患者の状態を知ることができない。
これにより、
どれぐらいのADLの状態なのか?
どれぐらい意思疎通ができるのか?
患者の希望はどのようなものなのか?
などが把握できないまま、在宅復帰の準備が進められ、家族が困惑すると言う事例が多く認められる。
自宅に帰った時に病院スタッフから聞いていた患者の状態と異なることが多すぎて数日で在宅療養生活を諦めた事例も散見する。

2)外出自粛を過度に行ったため、内科疾患の悪化や廃用症候群が進んだ患者が増えた
高齢者の外出自粛は感染拡大の予防効果があるとは思われるが、患者の内科系疾患が増悪した事例が多く報告されている。
・デイサービスの利用をやめたことにより、認知症や歩行困難が悪化した
・病院への定期受診を延期したため、薬がなくなってしまい糖尿病が悪化した
・楽しみにしていた友達との買い物を行わなくなったため、うつ症状が進んだ
これらの事例は氷山の一角であり、外出自粛は健康面、経済面など多岐にわたる分野に大きな負の影響を与えた。

3)患者や家族から心無い言葉を言われスタッフが傷ついた
新型コロナウイルスに対する関心が高まると、高齢者や患者から医療従事者に対して差別的な発言が生じるようになった。
・訪問リハビリのスタッフに対して「他の家からウイルスをもってこないでくださいよ」と言われた
・コロナ患者を診ている医療従事者としてその人に「できるだけ近寄らないください」と言われた。
・SNSに「あの理学療法士、作業療法士はコロナにかかっているらしい」と書き込まれた

4)ワクチンを打っていない人に対する差別的な発言
新型コロナウイルスワクチンは法定接種ではなく、任意接種である。それにもかかわらず、ワクチンを打っていない人に対して差別的な言葉を投げかける人がいる。
・医療従事者なのにワクチンを打っていないのは非常識な人間だ
・ワクチンを打たないならうちの家に来ないでほしい
多くの人がワクチンを打っているため集団心理が働き、ワクチンを打っていない人を排他的に扱うことにより生じる現象である。

5)外出自粛のため外来や通所系サービスの利用者が減ることで経営者の心無い言動が増えた
新型コロナウイルスにより外来系医療機関、通所系介護事業所は利用者減少の影響を受けて経営的に厳しい状況になった。経営者は厳しい状況になると経営を守ることが第一となるため、その人の人間性が現れやすい。そのため、経営者より心無い言動が見られた。
・話し合いなどなしに突然のシフト調整・雇用調整が行われ、給料が一方的に減らされた
・パフォーマンスの低い職員を対象として肩たたきが行われた
・日頃、経営者はマーケティングに力を入れていないくせに、利用者が減ったの現場のサービスの質が悪いからだとわめかれた
・経費削減として本人の意思とは無関係に契約外の様々な仕事をさせようとする

新型コロナウイルスに対する政府の対応には賛否両論はある。

しかし、それとは別に新型コロナウイルスに対して人々が冷静に対応できたかどうかには疑問がある。

新型コロナウイルスが間接的に生み出す社会への悪影響を緩和する知恵を国民は生み出さなければならない。

また、差別やパワハラは新型コロナウイルスが生み出したものではなく、人間が生み出したものである。

差別やパワハラ防止への取り組みも一層必要であることが改めて浮き彫りになった。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授