地域連携室や相談員は組織の技術力・対応力を知っていますか?

急性期病院の在院日数短縮
回復期リハ病棟や地域包括ケア病棟の地域連携の強化
在宅療養が対象の中重度者の増加
により、医療や介護の現場に求められる対応力は以前より増している。

認知症
がん
呼吸・循環障害
栄養障害
低ADL
糖尿病
などへの対応が必要な患者・利用者は急激に増加している。

多くの医療機関や介護事業所では、入院やサービス利用の窓口を相談員や地域連携室のスタッフが担当している。

しかし、相談員や地域連携室のスタッフが、自社の技術力や対応力を知らない場合、大きなラトラブルに発展することが多い。

例えば、急性期後の脳卒中患者で、合併症として呼吸器疾患を持っている患者の入院相談があった場合、呼吸器疾患への対応が看護部門やリハビリテーション部門で十分にできない場合は受け入れは難しいだろう。

しかし、入院の受け入れ相談を担当した相談員が、看護部門やリハビリテーション部門の技術力や対応力を知らなければ、安易に入院を受け入れてしまう可能性が高い。

その結果、十分な呼吸ケアが受けられずに不利益を被るのは患者である。

また、入院期間が延長することにより医療費も消費することになる。

相談員や地域連携室のスタッフは、医療や介護の具体的な中身について知らない人も多い。

この場合、対応できない患者・利用者を受け入れてしまうことが度々散見される。

また、看護部門やリハビリテーション部門も自部門がどのような患者や利用者なら対応できるか、否かを組織のあらゆる部門に明示する必要があるだろう。

家電量販店に行って、売り場担当の人が、売り込みをしてきたが、商品の性能には詳しくなかったら、皆さんはどう思うだろうか?

このような事例は皆さんの事業所では行っていないだろうか?

 

 

リハビリテーション部門の課題
非常勤セラピストをどのように活用するか?

団塊の世代が後期高齢者になる2025年に近づくにつれて、医療・介護の需要は急激に増加している。

特に、介護の需要は著しく増加すると見込まれ、現状においても介護事業所におけるセラピストの人材不足は顕著である。

そのため、介護事業所は正規社員に加え、非正規社員である非常勤セラピストを雇用し、人材不足を補っている。

また、非常勤セラピストとして働くことのニーズも非常に高い。

セラピストの平均的な年収はこの10年間において400万円を超えず、今後も政府の社会保障費の圧縮により給与が上がる見込みは低い。

そのため、年収の増加を図るため、常勤で働いている医療機関等とは別の介護事業所等に公休日を利用して非常勤セラピストとして働くことが一般的なことになっている。

一見すると介護事業所とセラピストのニーズが適合しているように感じられるが、介護事業所の現場では次のような問題が生じている。

1.理念や経営方針の共有が出来ていないため、利用者や従業員と非常勤セラピストがトラブルを起こすことが多い

2.非常勤セラピストのリハビリテーションの知識や技術の幅があり、標準化されたリハビリテーションを提供することが出来ない

3.人事考課等の評価制度がないことが多く、非常勤セラピストの評価が困難である

このような問題は利用者に提供するリハビリテーションの質の低下につながり、ひいては利用者や介護支援専門員の評判を落とし、介護事業所の経営に影響を与えかねない。

したがって、非常勤セラピストの人的資源管理は介護事業所にとっては非常に大きな問題であると言える。

非常勤セラピストが介護事業所に貢献し、職場においてに活き活きと活躍できるようにするためには次のような施策が必要であると考えられる。

1) 非常勤セラピストに対して事業所の理念やそれに基づく行動規範を解説する研修等を設ける。

2) 介護事業所にとって必要なリハビリテーションの知識や技術を明示し、非常勤セラピストが持つリハビリテーションの知識や技術との差異を確認する。差異が認められれば研修の場を設け、リハビリテーション技術の研鑽を行ってもらう。

3) 上記1)と2)の施策を行ったうえで、人事考課を行い人事考課の結果を時給等の処遇に反映させていく。

介護保険法で定められた介護事業所の理念は質の高い介護サービスの提供である。

労働不足を補う非常勤セラピストの採用がその理念を阻害するものであってはならない。

非常勤セラピストに対して理念や行動規範に関する研修を行うことは、仕事上における明確な行動目標を提示することになる。

非常勤セラピストの勤務時間は常勤セラピストと比較して短いことから、行動規範の暗黙知に関わる部分を学ぶことが難しい。

したがって、研修を通じて理念を実現するための行動を明示することは、形式知として行動規範を学ぶことになり、その結果、行動規範の実践の可能性が高まる。

また、人的資源管理は理念に基づくものでなければならない。

理念の実践より労働力不足を補うことが優先されている実情を正すことが、非常勤セラピストに対する人的資源管理の正常化の一歩であると考える。

介護事業所にとって必要となるリハビリテーション技術は異なる。

例えば、重症利用者が顧客の中心である訪問看護ステーションの場合では、呼吸、循環、車椅子に関するリハビリテーションの知識や技術が求められる。

採用前の非常勤セラピストに対して、どのようなリハビリテーションの知識や技術が自社にとって必要であることを明示することで次のような効果が得られると考えらえる。

① 必要とされたリハビリテーションの知識や技術が、非常勤セラピストが興味を持つものであった場合、内発的動機付けを向上させる可能性がある。

② 必要とされたリハビリテーションの知識や技術に対して、全く興味がない、取り組むことにモチベーションが上がらないという場合に関しては、採用を見送ることが出来る。

また、必要とされたリハビリテーションの知識や技術に差異があった場合、研修を通じてその差異を埋めることを介護事業所が支援することにより、非常勤セラピスト自身が「自分にもこのリハビリテーションが提供できるのではないか」と言う「自己効力感」を持つことが可能となる。

自己効力感が上がれば、知識や技術取得のための行動力が上がり、さらに学びを深めていくという好循環も期待できる。

理念に基づく行動規範や必要とするリハビリテーションの知識や技術の実践を支援することは本人の内発的な動機付けを刺激することになる。

このような支援を行った上で、人事考課による時給等の処遇の向上を行うことが重要と考える。なぜならば、内発的動機付けと外発的動機付けの両方を誘発する施策が本人のモチベーションを向上させる可能性が高いからである。

筆者が関わっている現場において、非常勤セラピストは、「年収増加のためだけの一時的な仕事」と考えている傾向が強い。

したがって、給与という外発的動機付けが優位になっており、内発的動機付けに乏しい。

介護事業所は介護保険という公的保険を財源にした事業である。

したがって、企業倫理として質の高いサービスの提供を強く意識しなければならない。

したがって、内発的動機付けと外発的動機付けを用いることによる非常勤セラピストの活躍推進は極めて重要である。

「女性PT・OT・STの活躍推進」は組織にとって大きな課題である

理学療法士の40%、作業療法士の64%、言語聴覚士の77%は女性であり、勤務するセラピストの殆どが女性であるというリハビリテーション部門も珍しくない。

したがって、女性セラピストの労働力確保と質の向上は経営や運営における重要な要素である。

他の産業と同様に、女性セラピストは出産、育児というライフイベントにより、一時的にセラピストとしての仕事を制限されることが多い。

一般的にリハビリテーション部門では、産休制度、育休制度、短時間勤務制度は整備されており、多くの女性セラピストが利用している。

しかし、それらの制度を利用した後に、キャリアを構築することが困難となり、正規社員から非正規社員に移行、あるいは退職するという、いわゆるマミートラックの状況に陥る女性セラピストが多い。

産休制度、育休制度を利用後、女性セラピストがマミートラックに陥りやすい原因として、医療・介護分野の特性とセラピストとしての専門職の特性が関係していると考えられる。

医療・介護分野は2年から3年に一回の頻度で制度改定があり、リハビリテーションに関する業務内容が数年単位で変化していく。

そのため、育休制度などを利用し長期間にわたり職場を離れてしまうと復帰後の仕事内容が大きく変化し、仕事の難易度が上がっていることが多い。

このような背景から、上司の配慮により仕事内容の難易度を低下させることがあるが、その結果、責任ややり甲斐のある仕事への関りが少なくなってしまう。

また、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の仕事は、知識や経験の差が大きく職業能力に影響する。

近年、リハビリテーション医学は短期間で発展を遂げていることから、長期間にわたり仕事から離れてしまうと、セラピストとしての知識や技術の陳腐化が生じやすい。

そのため、職場復帰後に、質の高いリハビリテーションができないことに焦りや不安を感じた人は、難易度の高い患者を担当することを避ける傾向があり、結果、専門職として知識や技術が伸び悩むことになってしまう。

産休制度や育休制度を利用した女性セラピストが復職後においてもリハビリテーション部門に貢献し、かつ、本人が遣り甲斐をもって仕事を継続するためには次のような施策が必要であると考えられる。

1)女性セラピスト向けにキャリアデザインに関する研修を行い、ライフイベントなどによって生じるキャリ構築におけるリスクやその対応策について学習をしてもらい、将来のキャリアの見通しを立ててもらう。

2)産休制度・育休制度利用中においてもEラーニングなどを用いて医療・介護制度やリハビリテーション医療に関する知識や技術について学習する機会を設ける。

3)職場復帰後に医療・介護制度やリハビリテーション医療に関するリカレント教育を行う期間を設ける。

4)復職後、キャリアに悩む女性セラピストの相談窓口(先輩女性セラピストやキャリアコンサルタントによる相談)を設ける。

女性セラピストへのライフイベント前の研修や相談窓口の設置は、キャリア構築における不安を軽減させ、将来のキャリア構築の見通しを立てることに寄与する可能性がある。

このことにより、自身のキャリア構築に関する魅力や達成の期待が増すと考えられ、期待理論によるモチベーションの向上が期待される。

また、研修によりキャリア・アンカーが明確になれば、自身のキャリア構築における目標設定が明確になるため、目標設定理論によるモチベーションの向上も期待できる。

また、産休制度・育休制度利用期間中や復職後における医療・介護制度やリハビリテーション医療に関する学習の機会の提供は、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士という専門職の学習意欲を刺激し、内発的動機づけを高める可能性がある。

さらに、キャリアに関する相談において、助言者と良い関係が構築することができれば、助言者が女性セラピストのロールモデルやメンターとしての機能する可能性もある。

一方で筆者がコンサルティングにかかわる現場では、復職後の女性セラピストの中には「できるだけ難しくない症例を担当したい」、「仕事内容を簡易にしてほしい」と主張することも散見される。

このような主張は、先述したように医療・介護制度やリハビリテーション医療の急速な変化により生じた不安に基づいていると考えられるが、同時に専門職としてのプライドや倫理観の低下が影響している可能性も完全には否定することはできない。

なぜならば、近年、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の数は急増とそれに伴う教育の質が低下していることや、働いている理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の質の低下が報告されているからである。

したがって、女性セラピスト自身が「復職後や育児中だから、簡単な症例を担当したい」と思うのではなく、「復職後や育児中であっても専門職として難しい症例も担当したい」と考える高い職業倫理の醸成も、女性が活躍するために必要である。

復職後の女性が専門職として活き活きと働くためには、組織によるキャリア構築に関する支援と女性セラピストの専門職としての職業倫理の醸成の両立が必要であると考えられる。

加算ありきの介護保険事業所の経営は二流である

2018年度介護報酬改定に関する議論が活況を迎えている。

2018年度は介護報酬改定だけでなく、第七期介護保険事業計画も同時に履行される年であり、介護保険に関する大きな制度変更が予想される。

その中でも、自立支援に対するインセンティブ報酬がとりわけ注目されている。

簡単に説明すると自立支援に関する指標が改善した事業所に対し、介護報酬を増加させるという仕組みである。

現行の介護報酬の体系は、要介護度が高くなれば報酬が増える仕組みになっているため、要介護度を改善させるメリットが事業所にはない。

このことに関して財務省や各種委員会より、現行制度の問題点として指摘されており、2018年度介護報酬改定で何らかの対策が実施されることになっている。

診療報酬と比較して、介護報酬ではサービスの質に対する評価は乏しく、今後は質の評価がより厳しくなっていくと予想される。

これまでの介護報酬におけるサービスの質の評価は下図のようになっている。

アウトカム評価に関しては近年、加算と言う形で評価されることが増えている。

経営を安定させるためには加算を取得することは大切であるが、加算の取得の本質は決して経営の安定ではない。

加算算定の本質は「介護保険事業所のアイデンティティ」の表明である。

なぜ介護保険事業をしているのか?
社会の中でどのような存在でありたいのか?

それを追求した形が、アウトカムであり、加算である。

自立支援のインセンティブ報酬に関する内容は、まだ、明確になっていないがおそらく、設定された指標を達成することにより加算を算定する形になるだろう。

しかし、加算ありきで物事を進めるのは、経営としては二流である。

自社のアイデンティティを考えた時に必要な加算であるかどうか?

加算のための加算ではなく、自社のアイデンティティを示すための加算を目指せば自ずと組織力は向上する。

加算のための加算は、「利益だけを考えた行動」という考えが透けて見えることから、従業員のモチベーションを著しく低下させる。

あなたの事業所の加算は、何のため?

 

 

 

多くの医療機関や介護事業所はサービスの模倣に飛びついて失敗する

経営戦略における模倣にはサービスレベルの模倣と仕組みレベルの模倣が存在する。

サービスレベルの模倣はインターネットの発達により、その期間が著しく短縮されており、サービスの模倣だけでは、競争戦略における持続的な優位性を生みにくい。

したがって、現代の経営においては、仕組みレベルの模倣が極めて重要である。

医療・介護業界でも、仕組みの模倣の重要性が見直されている。

一事例を示そう。

2000年より国は高齢者の退院後の在宅生活を支えるために、リハビリテーションを専門的に提供する「回復期リハビリテーション病棟」を設立した。

その後、当該病棟は、収益性の高さもあって全国に瞬く間に広がり、現在では当該病のベッドが8万床までになっている。

しかし、現在、当該病棟の運営状態は負け組と勝ち組に分かれるという二極化が進んでいる。

病棟の運営状態に最も影響を与えるのは病棟稼働率である。

病棟稼働率を高いレベルで維持できなければ、売上総利益は低下する。

病棟稼働率を上げる方法は、医療経営の専門誌などで解説をされているが、多くの医療機関は稼働率を向上に難渋している。

これこそ、まさに仕組みの模倣の難しさを示している。

回復期リハビリテーション病棟というサービスは模倣することは可能だが、経営の最重要指標である病棟稼働率を上げる仕組みの模倣は極めて難しいと言える。

ビジネスにおける仕組みを分析するには「P―VAR」が優れている。
※参考図書 井上 達彦:模倣の経営学.日経ビジネス人文庫

Position:競合ポジション・顧客セグメント

Value:価値提案

Activity:鍵となる主要活動

Resource:経営資源

事例で挙げた回復期リハビリテーション病棟の稼働率に関して、成功している医療機関が私のクライアントにいる。

その医療機関に関して、「P―VAR」を用いた分析を行うと次のような結果になった。

P:顧客は、リハビリテーションを必要とする心身機能が低下した高齢者である。回復期リハビリテーション病棟激戦地域に存在し、競合病院は半径5km以内に3つ存在する。

V:在宅復帰後の生活を見据えた医療
介護サービス
質の高い心身機能改善のリハビリテーションサービス

A:エビデンスに基づくリハビリテーションの提供
地域の介護事業所との質の高い連携

R:リハビリテーション医療を徹底的に教育された医師・看護師・セラピスト
地域の医療機関や介護事業所への医療・介護・福祉に関する教育活動

この医療機関は病院密集地域にあり、患者獲得の競争は熾烈な状況である。

しかし、回復期リハビリテーション病棟の稼働率は90%を常に超えている。

在宅復帰後を見据えたきめ細かい支援や質の高いリハビリテーションを提供する病院として地域からの評判がよく、紹介患者が絶えない状況である。

このような素晴らしい実績は、職員に対するリハビリテーションの教育や地域への関わりに起因している。

これらの活動を支えるResource(経営資源)の開発手法は、他の医療機関が模倣することが困難なものばかりである。

当該医療機関の教育者の確保、質の高い人材の採用、離職率低下の取り組みなどはすべて企業秘密であり、決して表にでることはない(図1)。

図1 外から見えるのは表面的な製品やサービスだけであり、それを支える仕組みは見えない

しかし、この医療機関も最初から、質の高い経営・手法を実践できたのではなく、10年程度の歳月の醸成により、他医療機関が模倣困難な仕組みを作り上げたのである。

多くの企業が、独自の仕組みを作ることが出来ずに、市場から淘汰されていくのが現実である。

模倣の対象となる情報があっても、それを元に企業の独自の仕組みを繰り上げることは、相当困難である。

あなたの組織はサービスの模倣ばかりしていないか?

サービスのみの模倣は、ルールを知らずにスポーツをするようなもので、現場レベルの混乱を助長するだけである。