「長時間労働の是正」が医療・介護現場のマネジメントに与える影響

2010年代になってから、「ワークライフバランス」が推進され長期間労働は「悪」であるという意識が日本国民の中に生まれている。

また、安倍政権は「働き方改革」の一環として「長時間労働の是正」を掲げており、今後、長時間労働の規制が法律面において強化される可能性は高い。

長時間労働の問題の本質はどこにあるのだろうか?

長時間労働が「悪」とされるのは、「日本人の動労生産性の低さ」が原因とされる。

労働生産性とは「就業者一人当たりが働いて生み出す付加価値の割合であり、国の経済活動の効率性を示すデータの一つ」である。

ここで言う「付加価値」とは、「売上高からその売上を上げるために外部から調達した商品やサービスの金額を差し引いたもの」である。

例えば、電子部品を作るために材料を自社で調達し、最終的な組み立てを外注し、包装を自社で行って出荷した場合、売上から材料代金と外注費を引いたものが「付加価値」となる。

しかし、リハビリテーション業務や看護業務に関しては他の産業の業務と異なり、材料費の割合が少なく、経費のほとんどが人件費となるため付加価値の計算は難しい。

つまり、リハビリテーションや看護業務の生産性の高さとは、「短時間当たりの作業量の多さ」と言い換えることができる。

したがって、「短時間当たりの作業量の多さ」を改善することが本質的な問題である。

「短時間当たりの作業量を多くできない」から「ダラダラと長時間労働をしている」という理屈が働く現場にあると言える。

しかし、「長時間労働をやめても短時間当たりの作業を多くできない」なら、最悪のことになる。

逆説的に考えると、「短時間当たりの作業を多くできないことを、長時間労働でカバーしている」という前向きな対応とも言える。

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長時間労働をなくすことはあくまで手段である。

本質的な目的は「労働生産性を上げること」である。

そして、もう一点考えなければならないのは、労働者一人当たりの業務過多である。

業務過多の状態の労働者に対して、長時間労働を是正することはある意味「パワーハラスメント」とも言える。

「業務過多問題」を「長時間労働問題」とすり替えている医療機関・介護事業所は最悪の極みである。

医療・介護現場では、決められてた人員数で決められた作業を行わなくてはならない。

よって、経営者や管理者は、「労働生産性」・「労働時間」・「作業量」を管理した上で、長時間労働の是非について検討しなければならない。

長時間労働を減らせ!では、何も解決しない。

 

 

安倍政権が進める働き方改革「非正規雇用の待遇改善」の恐ろしさを医療・介護現場は気づいているか??

現在、政府は目玉政策として、「1億総活躍社会の実現」を進めている。

1億総活躍社会の基本政策は、「一人一人の事情に応じて多様な働き方が可能な社会への変革に取り組む」ことである。

この基本政策を実現するために以下の3つの政策が検討されている
1)非正規社員の待遇改善
2)長時間労働の是正
3)高齢者の就業促進

これら3つの政策は、日本にある全企業の労務・人事に関するマネジメントに大きな影響を与える。

医療・介護の現場においても、例外ではなく、労務・人事管理のマネジメントの変革が求められる。

今回は、非正規社員の待遇改善政策が医療・介護現場に与える影響について考えてみたい。

非正規社員の待遇改善とは、簡単に言うと「正社員と変わらない給与を支給する」ことである。

いわゆる「同一労働同一賃金」という考え方である。

「同一労働同一賃金」という考えは、雇用が保障される正規と雇用が保証されていない非正規との間には大きな賃金格差があるため、社会保障の観点から、非正規社員の賃金を是正するという理念から生まれたものである。

しかし、正規社員の給与形態を維持したまま、非正社員との賃金格差を是正することは容易ではない。

日本の伝統的な給与体系は、年功序列制度を用いている。

勤続年数が長くなるほど、賃金が増加する仕組みである。

しかし、非正規社員の場合は、職種ごとに一定の時給や月給が定められているため、勤続年数が長い正規社員とは、かなりの賃金差が生まれることになる。

日本の伝統的な給与体系は、景気が良かった時代の名残でもある。

長期間にわたり会社に貢献することが、労働者の美徳であるとの考えは根強い。

また、日本では60歳から65歳の間で退職するという「定年退職制度」が用いられている。

ある意味これは、強制解雇であるため定年までの雇用と賃金増加を保証する必要がある。

以上のような理由から、日本の企業は年功序列制度を変更することが難しい。

また、別の問題として、正規社員と非正規社員の組織への帰属意識や理念実践の差が挙げられる。

一般的に正規社員は非正規社員と比較して労働時間は長く、上司や顧客とコミュニケーションを取る機会も多い。

そのため、組織人としての行動や理念の実践において、非正規社員より正規社員の方がはるかに期待できる。

正規社員は「自身のやりたいこと」や「専門職としての能力発揮」などを求めて働いているケースが多いが、非正規社員は、「金銭的報酬」を目的に働ている人が多い。

企業の立場に立つと、組織への帰属意識や理念実践に差がある正規社員と非正規社員の賃金を同一にするということには、相当な違和感があるだろう。

つまり、非正規社員の待遇改善を実現するためには、単に非正規社員の給与を上げるのではなく、「給与体系」や「人材育成」に関して改革が求められる。

 

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医療・介護の現場には、相当数の非正規社員がいる。

特に、最近はワークライフバランスが推進されているため、短時間勤務の医療・介護従事者も増加している。

そのため、この非正規社員の待遇改善は大きな問題である。

しかしながら、なんの手立てもせずに、非正規社員の待遇を改善すれば、相当な人件費の増加となり、経営的には大打撃である。

非正規社員の待遇改善を実現するためには、以下の二つの対策を医療・介護事業所は実践しなければならない。

1.正規社員の給与体系を年功序列から実力重視に切り替え、正規社員、非正規社員ともに徹底的な人事考課を行う。

2.非正規社員に正規社員と同等の組織の帰属意識や理念の実践について教育し、実行させる。

この2点を実現できなければ、非正規社員の賃金を上げたとしても経営的には何の意味のないものになる。

医療・介護現場は、「マネジメント下手」である。

よって、非正規社員の待遇改善は極めて大きな課題である。

 

2025年に後期高齢者数が爆発的に増加する。ということは、現時点での介護関連事業の参入はキビシイに決まっている。

「高齢者が増えているはずなのに利用者がなぜ増えない?」
「儲かると聞いていたので参入したのに利益が出ないじゃないか?」
「介護事業の需要は増加しているはずなのに、なんで利用者紹介が少ないのだ?」

介護事業の経営者や管理者が、よく話す愚痴である。

2025年に後期高齢者が、爆発的に増加する2025年問題。

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この問題を乗り越えるために、国は様々な施策を講じている。

当然、地域包括ケアシステムの構築には、介護関連事業が欠かせない。

そのため、介護関連事業への参入件数は増加の一途を辿っており、通所介護・訪問看護・サービス付き高齢者向け住宅が過剰供給された地域が増えてきている。

多くの介護関連事業者は、「高齢者が増えるから必ず儲かる」という本音で介護関連事業に参入している。

しかし、世の中の多くの介護関連事業所の経営の実態は相当厳しい。

2016年1月から8月までに倒産した介護事業者が62件に上り、過去最多のペースとなっている(東京商工リサーチ)

介護関連事業の経営が厳しくなるのは当然である。

なぜならば、今はまだ2025年ではないからである。

急激に後期高齢者が増加する2025年より、手前の時期に相当数の企業や個人が介護関連事業に参入しているため、業界はレッドオーシャンになっているのだ。

すなわち、2025年までのレッドオーシャン時代に、シェアを取った介護関連事業者が2025年にブルーオーシャンの状態になると言える。

将来の圧倒的シェア獲得によるブルーオーシャン実現のために、今はレッドオーシャンでガチンコ対決をしているのが介護関連事業所の実情である。

通所介護・訪問看護・サービス付き高齢者向け住宅は明らかに過剰供給である。

だから、経営能力が乏しいところは、稼働率が上がらない。

2025年の後期高齢者数のファーストピークまでに、如何ににシェアと取るか。

これが、介護関連事業者の生き残る唯一の戦略である。

 

リハビリテーションの視点は、医療・介護事業のマネジメントをより良好なものに変えることができる

理学療法士や作業療法士という仕事は、医療の世界では後発組である。

現在、医師は31万人、看護師は准看護師も含めると142万人である。

医師法は1906年に、保健師助産師看護師法は1948年に制定されており、医療業界における数の力と歴史的な背景は他の職種を圧倒している。

したがって、今までの医療における制度設計や伝統的なしきたりは、医師と看護師の影響を強く受けていると言っても過言ではない。

事実、医師と看護師の業務範囲は大きく、その権限も強い。

診療報酬における施設基準要件や加算要件にも、医師と看護師の配置が圧倒的に他の職種より多い。

よって、医療における様々なマネジメントは、医師や看護師の考えや思想が反映されているものが多い。

医療におけるマネジメントに理学療法士・作業療法士の考えや思想が反映されにくい状況は今でも続いている。

筆者は2014年から、独立系の医療・介護コンサルタントとして活動している。

独立する以前も、大阪府内にある医療法人で8年間トップマネジメントを経験した。

これらの経験から言えることは、「理学療法やリハビリテーションの視点は、医療・介護事業のマネジメントをより良好なものに変えることができる」というものである。

地域包括ケアシステムというのは、いわゆるリハビリテーションの考え方と同義語である。

WHO(世界保健機関)は1981年にリハビリテーションを以下のように定義している。

リハビリテーションは、能力低下やその状態を改善し、障害者の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を含んでいる。
リハビリテーションは障害者が環境に適応するための訓練を行うばかりでなく、障害者の社会的統合を促す全体として環境や社会に手を加えることも目的とする。
そして、障害者自身・家族・そして彼らの住んでいる地域社会が、リハビリテーションに関するサービスの計画と実行に関わり合わなければならない。

まさに、地域包括ケアシステムの考えと同じであり、地域包括ケアシステムの起源はリハビリテーションであると言っても良い。

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直近の診療報酬改定・介護報酬改定は、「地域包括ケアシステム」を強く推進しており、リハビリテーションの概念を医療・介護に文化的なレベルまで浸透させようとしているものである。

疾病構造や社会保障システムの変化は、医療・介護機関のリハビリテーションの実践を要求するようになった。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が経営や運営にかかわる意味はここにある。

経営や運営にリハビリテーションの視点を導入していくことが、診療報酬、介護報酬上の恩恵を受けることができ、さらに利用者・患者満足度も高い状況を作り出すことができる。

今こそ、経営・運営に理学療法士・作業療法士・言語聴覚士がかかわるタイミングである。

 

合議制という名のくだらない会議が医療機関・介護事業所を崩壊させる

現場の意見を吸い上げたい
現場から病院を変えてほしい
現場の声を経営に活かしたい
現場が経営感覚を持ってほしい
などの理由から、物事を決めるプロセスに「合議制」を取り入れる医療機関や介護事業所が多い。

合議制とは、「みんなで話し合って、運営の方針を決めよう」というものである。

しかし、私は断言する。

「合議制を取り入れている医療機関・介護事業所でろくなところはない」

合議制は一見、民主主義・平和主義的であり、なんとなく雰囲気が良い。

しかし
1.意思決定のスピードが遅い
2.責任の所在が曖昧
3.経営の論理を無視した結論が出やすい
という最悪な特徴を有している。

また、「経営責任者や管理職が自らの職責を丸投げする手段」として、「合議制」は都合が良い。

「自分自身が仕事をしたくないから、現場の職員に仕事を振りたい。本音を言うと、嫌われるから、合議制を導入して、みんなで決めてもらおう。」という魂胆である。

よく、「現場に経営感覚を持ってほしいから合議制としている」という経営者がいるが、はっきり言って現場が経営感覚など持てるわけがない。

経営感覚をもつ動機や志、そして経営責任としての処遇がない人たちに、どうやって経営感覚ももってもらうのだ!!

だいたい、「経営感覚を社員に持たせる」こと自体が、ブラック企業の所業である。

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社員が経営感覚を持たなくても、うまく運営できるようにカジ取りしていくのが、経営者や管理職の役割である。

最大の矛盾は、合議制であるからこそ、責任が分散して、誰も責任ある行動をとることができないということである。

病棟の稼働率が低下した
リハビリテーションの患者が減った
外来の新患が減った
ケアマネからの紹介が減った
人件費が増加している
残業代が増えている
離職者が増えている

こんな状況になった時にだけ、「合議制でみんなで対策を考えよう」という経営者や管理者はさらに最低である。

大体、こんな状況にならないようにするのが、経営者や管理者の仕事ではないか?

合議制に騙されてはならない!!