通所リハ・訪問リハで「医師の詳細な指示があればADLは上がる」は本当か?

2018年度介護報酬改定では通所リハビリ・訪問リハビリの運用面での改定が多く行われる。

急性期・回復期後の利用者が今後急増することを踏まえて通所リハビリ・訪問リハビリの機能強化は必須となっている。

しかし、通所リハビリ・訪問リハビリの質の強化は、急性期や回復期と比較してスローペースだったこともあり、通所リハビリ・訪問リハビリにおける運用面の厳格化は遅れている。

そのため、2018年度の改定では運用面の改定が多く行われる予定である。

その一つに、「医師の詳細な指示」を評価するというものがある。

これは、医師が毎回のリハビリテーションに対して、中止基準、リハビリテーション中の留意事項、運動負荷などの詳細な指示を出すことを報酬上、評価するというものだ。

根拠は、「医師が詳細な指示を出すと利用者のADLが向上すること」である(下図 介護給付費分科会 第150回(H29.11.8))。
しかし、これは本当か?

医師が詳細な指示を出すだけで、ADLが変化するのか?

ADLの変化には様々な交絡要因があることが知られている。

利用者のモチベーション
セラピストの技術
運動継続の支援
利用者の生活環境
利用者の症状の安定
など・・・・これらの要因の総合的な影響がADLの変化として現れてくる。

もし、医師が詳細な指示を出せば、利用者のADLが変化します!という論文投稿しても、リジェクトされるのが関の山である。

厚生労働省はしばしば、このように短絡的なデータを用いて政策を進めようとする。

では、なぜ、この資料では医師の詳細な指示を出した方がADLが変化したのであろうか?

「医師が詳細な指示を出す」ことの背景を考えるとこの答えは出てくる。

リハビリテーションに対する事業所の取り組み姿勢
医師やセラピストの倫理観
リハビリテーションサービスの質へのマネジメント
などが長けていれば、自ずと、医師のリハビリテーションへの関与は増えてくる。

つまり、組織としてリハビリテーションのマネジメントが出来ていないのに、「医師の詳細な指示」さえ、出していれば利用者のADLが上がることは到底あり得ないと考える。

この本質を理解できなければ、「医師の詳細な指示」という書類のチェック欄を作成し、そこに「テキトー」にチェックをいれる行為が横行するだろう。

診療報酬・介護報酬改定はその本質を捉えることに意味がある。

施設基準や加算要件の表面的な理解は、組織運営を悪化させていくだけである。

カリスマ的セラピストが支えているリハビリ部門は短命である

カリスマ的リーダーとは
超人的な能力でフォロアーから絶大な信頼を得て、フォロアーの信念や行動に大きな変化をもたらすようなリーダーのことである。

能力に長け、優秀なカリスマ的リーダーがリハビリ部門を管理していることは珍しいことではない。

そのような組織では、そのリーダーから様々なことを学びたいとの思いで全国各地からセラピストが就職をしてくる。

カリスマ的リーダーは
ビジョンを提示し
従業員の行動を示し
自ら先頭に立ってリスクを取る
という魅力的な要素を持つことから多くの従業員から支持される。

しかし、カリスマ的リーダーの組織は、一点大きな欠点を持つ。

それは、「組織運営に関してリーダーへの依存度が高い」ということである。

つまり「属人化」が組織内で生じてしまうと言える。

「属人化」とは、「特定の業務に関してある人しかやり方がわからないという状況」のことである。

属人化には以下のようなデメリットがある。

担当者が不在では業務が止まってしまう。
担当者の仕事の質を周囲の人が評価できない。
担当者が退職すると、その業務を引き継げる人がいない。

つまり、属人化は組織力を低下させると言える。

カリスマ的リーダーがいるリハビリ部門は要注意である。

リーダーが何らかの形で不在になると、業務は止まり、従業員の退職が相次ぐ可能性がある。

優秀なカリスマ的リーダーほど、外部からのスカウトが多い。

そのため、カリスマ的リーダーが管理している組織は短命であることが多い。

このような危機を回避するためには、業務を標準化し、マルチプレイヤーを組織内に育成していくことが重要である。

 

 

 

 

医療機関や介護事業所の財務分析では固定資産回転率と売上高人件費率を見よう!

医療機関や介護事業所の経営環境はますます厳しくなってる。

自社の取り組みが利益に還元できているか?という視点は極めて重要であり、医療・介護従事者にも財務分析の視点が必要な時代となっている

筆者は医療機関や介護事業所の財務分析において、次の二つの項目が重要と考えている。

固定資産が有効活用されているかどうかを判断する指標である固定資産回転率【売上高÷固定資産(当期・前期末平均)】を利用することで、新設した高齢者向け住宅や在宅医療センターなどの固定資産の売上への貢献や有効活用の度合いについて検討することが出来る。

医療施設の運営責任者は、施設の資産価値を全く理解していないため、資産価値に見合った売上に関しての意識は極めて低いと推測される。

そのため、固定資産回転率を用いた経営管理は、各施設の管理者の売上向上に対する意識付けには有効であると考えられる。

また、会社の売上に対する人件費の割合のことを示す売上高人件費率も経営改善活動のための有効な指標になると考える。

医療・介護業界は労働集約型産業であり、経営資源としての人材への依存度の高い産業構造になっている。

そのため、人材の生産性は極めて重要な経営管理項目である。

例えば、医局、看護部、リハビリテーション部、検査部の売上高人件費率などを算出し、各部門の経営への貢献を明示し、貢献度の高い組織に対して賞与を支給するなどのインセンティブは有効な経営の手法になると考えられる。

医療の専門職は、「患者を助ける・救う」という理念を振りかざし、経営的な観点を軽視する傾向がある。

そのため、売上高人件費率などの指標を用いて、医療機関の経営に対する倫理観を醸成するが重要であると考える。

診療報酬・介護報酬改定をいくら勉強しても実践しなければ何の意味もない

2018年度診療報酬・介護報酬改定が近づいている。

私自身も様々な団体にお声がけを頂き、全国各地で次期同時改定に関しての講演を行う機会が増えている。

診療報酬・介護報酬改定のセミナーは非常に人気があり、大変多くの方が参加され、また、非常に熱心に受講している。

診療報酬・介護報酬改定セミナーへの参加理由は、経営や運営の改善、事業所の売上向上、自部門の経営方針の検討のため等である。

つまり、目的は「診療報酬・介護報酬改定という情報を知ること」ではなく、「経営や運営における具体的な変革や改善」であると言える。

しかし、私の経験上、「診療報酬・介護報酬改定の情報を得ても、具体的な組織改革の行動を起こす人は非常に少ない」と感じている。

経営や運営を安定させるためには、「正しい情報の収集」と「適切な組織管理」のバランスが重要である(図1)。

図1 経営や運営のバランス機能

 

中国の格言に「知行合一」と言う言葉がある。

この言葉は
「知っているだけで実行しないのはまだ本当の知とはいえない。実践のうえで知と行とが一致することが重要であり、実践重視・体験重視の考え」
を意味するものである。

つまり、診療報酬・介護報酬改定の内容を知っただけで、実践に移さなければ、それは何も知らないことと同じである。

知行合一は、経営者や管理者にとって大きな示唆である。

医療機関や介護事業所の一流と二流の差は何か?

それは、決して医療職や介護職のマインドや技術の差ではない。

経営や運営の意思決定プロセスに全力を尽くせるか?否か?

これが一流と二流の差である。

二流経営者や管理者は
年次計画書、部門運営計画、行動目標、朝礼でのスローガンなどを重視し、計画や目標を実践するためのプロセスには力を入れない。

簡単に言うと「計画好きの実践嫌い」では二流に陥ると言える。

「診療報酬・介護報酬改定の内容を知る」だけでは、組織になんのインパクトを与えることはできない。

大きな制度変更が行われる2018年度同時改定が近づいている。

知識を実践に移せる医療機関・介護事業所だけが生き残る時代が到来している。

 

老人保健施設の在宅復帰機能は標準装備が求められる

2012年度介護報酬改定にて在宅復帰強化型老人保健施設の評価が行われたが、当時、老人保健施設は第二の特別養護老人ホームと言われており、一度入所すると長期間入所することが一般的であった。

そのため、老人保健施設におけるリハビリテーションサービスが重要視されることはなく、老人保健施設に勤める理学療法士・作業療法士・言語聴覚士も少なかった。

しかし、政府は地域包括ケアシステムの構築の鍵を握る在宅復帰を進めるため、あらゆる医療機関に在宅復帰の要件を設定し、老人保健施設もその対象となった。

2012年当時、在宅復帰を積極的に行っている老人保健施設は皆無であったが、平成28年10月には、在宅復帰に関する加算を算定している施設は老人保健施設全体の42.9%になっている(図1)。

図1 在宅復帰に関する加算を算定している老人保健施設の割合

老人保健施設の在宅復帰への取り組みは、まさにイノベーションである。

在宅復帰を進めるためには、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、相談員などの職員の増加(図2)だけでなく、カンファレンス、入所者のマーケティング、後方連携の強化、介護職のケアの質の向上などに取り組まなければならない。

図2 リハビリテーション専門職の数と在宅復帰率の関係

 筆者は老人保健施設の改革が難しい理由は、「多くの医療機関にとって、長年老人保健施設はおいしいセカンドビジネスであったため、経営者の経営努力が乏しくなる」ことが一因と考えている。

今まではセカンドビジネス感覚でもそれなりの報酬が得られたが、もはや老人保健施設の経営は一筋縄ではいかない状況である。

在宅復帰は当然のこと、今後は看取り、認知症、中重度者への対応も求められていく。

40%を超える老人保健施設が在宅復帰型へ移行していることを考えると、残り60%の老人保健施設の未来は決して明るくない。

2018年度介護報酬改定はすぐそこである。

あなたの勤める老人保健施設は今後どうしますか?