地域包括ケアシステムの本質

地域包括ケアとは何か?

住み慣れたところで、その人らしく生きていける社会システムを構築すること

これが一般的に理解されている内容である。

しかし、この本質は非常に複雑である。

地域包括ケアには、地域という言葉が含まれている。

だが、全国津々浦々、地域の事情は大きく異なる。

大病院がひしめく地域、在宅診療が少ない地域、医師会が先進的な取り組みをしている地域、力のある民間医療法人がある地域、極端に高齢者が多い地域、高齢者の少ない地域、訪問看護やデイサービスなどの事業所が過剰な地域など・・・・・。

つまり、地域という性質の標準偏差が大きく、一概に「地域包括ケアシステム」と言っても、地域が抱える課題が異なる。

すなわち、地域包括ケアシステムは「地域課題解決システム」と言い換えることができる。

地域課題解決システムが日本において導入できる要因は何か?

介護保険の保険者は市区町村(市町村・特別区)である。

また、国民健康保険(国保)は、2018年度に市町村から都道府県に運営を移管される。

すなわち、保険の主たる運営者が地方自治体であることから、その財源の使い道を地域課題解決に活用することが可能となっている。

言い換えれば、地方自治体の医療・介護行政に対するリーダーシップが非常に必要とされる時代になっており、地方自治体の担当者のプレッシャーは相当なものと推察される。

さらに、医療機関・介護事業所・民間産業は地域課題が解決できなければ地域から必要とれなくなり、経営はジリ貧になっていく。

地域包括ケアシステムとは地域課題解決システムであり、地域課題が行政や医療・介護事業所のマーケティングの対象である。

行政や医療機関、介護事業所は今まで本気でマーケティングをしてこなかった。

粗悪なサービスをしていても、それなりに患者、利用者が確保できた。

しかし、これからは患者や利用者だけでなく、地域課題解決に目を向けなければ事業所としての存在意義が問われることになる。

 

 

 

 

多くの看護師・療法士とって病院・診療所・介護施設の経営は他人事である

帝国データバンクによると、医療機関や介護事業所の倒産件数は増加している。

特に、介護事業所と診療所の倒産件数の増加が目立つ。

年々、事業所や診療所が増加しているため、競争が激しくなり倒産するケースが増えている。

言い換えると、「少し競合が増えるだけで倒産するような診療所や介護事業所が増えている」と言える。

2010年ぐらいまでの倒産の原因は、多角経営の失敗、設備投資の失敗であったが、近年は経営環境の悪化に対応できなかったための業績不振である。

安倍政権になって、多少、金融機関の締め付けが緩くなり、資金繰りが改善したため、倒産件数はやや減少傾向となった。

しかし、2018年診療報酬・介護報酬のダブル改定で大幅に減収する医療機関や介護事業所が増えると予想され、倒産件数が急増するのではないかと予想されている。

医療機関や介護事業所の生業を支えているのは間違いなく現場で働く職員である。

その職員の経営参画の意識なしに今後の医療機関・介護事業所は生き残ることは不可能である。

当然、経営者や事務長クラスが経営への意識が低ければ、倒産まっしぐらである。

「従業員への経営参画意識の向上」が2018年に向かって大きな課題である。

基本的には「看護師・療法士とって病院・診療所・介護施設の経営は他人事」である。

医療関連資格を取った時点で、専門家として働いていることから、あくまでも「自分の専門性を発揮するが仕事」と考えている看護師・療法士が多い。

経営体力があるうちに、経営指標や統計を公表し、現状把握に対する問題意識を常日頃から現場に伝達する必要がある。

そして、改善策を立てて、実行していく。

改善策をより効果的なものにするためには、職員に経営参画意識を浸透させ、モチベーションを高められるようにしなければならない。

そのためには、組織風土醸成、採用者の厳選、経営幹部のリーダーシップ、中間管理職のフォロアーシップ、研修によるスキルアップなどが日頃から実行されていなければならない。

これらのことは当たり前な事であるが、多くの人は他人事だと思っている。

他人事ではなく、自分事である。

倒産するような組織で働いていること自体が、自分の成長を阻んでいるからである。

 

医療・介護従事者は自助・互助サービスへの参入を急げ!

医療・介護に費やす国費が高騰していることは周知の事実である。

この問題に対する介入方法は多く提案されているが、とりわけ、今後は「自助」「互助」サービスの導入が加速していく。

国は以下の4つサービスカテゴリーを医療・介護領域に導入したい考えている。

(1)自助とは、他人の力によらず、当事者である自分(本人)の力だけで課題を解決すること。
(2)互助とは、当事者の周囲にいる近しい人が、自身の発意により手をさしのべること
      家族や友人、そしてご近所。これらの方たちが、自発的にかかわること
(3)共助とは、地域や市民レベルでの支え合いのこと
  協同組合などによる事業やボランティア活動などシステム化された支援活動のこと
(4)公助とは、行政による支援のこと
      公的なサービスにより、個人では解決できない生活諸問題に対処すること

現在は、ほとんどの医療介護従事者は共助と公助に携わっている。

つまり、公的医療・介護保険や財源が国から出ている事業に関わっているのが現状である。

政府は、財源が国からではなく、国民から得られる自助と互助の導入を推進している。

例えば、金融庁はこれまで、生命保険に限らず民間保険会社の現物給付は禁止してきが、高齢者向けの商品を充実させたいと要望する保険会社の意向を受け、「保険会社が直接提供しないなら」という条件付きで認める方針である。

つまり、保険請求の条件を満たせば、お金の代わりにサービスを受け取ることができる仕組みが導入されようとしている。

脳卒中になったら、介護保険だけでなく、民間の○○リハビリ保険を利用して、月20回のリハビリテーションサービスを受けることができる という保険商品が近々、登場する可能性が高い。

また、フィットネスクラブや学習塾が高齢者向けの介護予防や健康増進サービスにどんどん参画している。

このような状況で一番取り残されているのは、医療・介護産業で働く看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、介護福祉士などである。

サービスの担い手でありながら、このような時代の流れを知らないのは誠に嘆かわしい状況である。

他の業種に自助・互助のサービスが占有される前に、医療・介護産業従事者はいち早く行動を起こし、事業参入を行うべきである。

 

地域包括ケアの前に、事業所包括ケアである

多くの医療・介護事業所において「地域包括ケアに取り組まなければ、利用者が確保できない。他の事業所との連携が大切だ!」と叫ばれている。

医療・介護の連携が叫ばれて久しいが、その連携の実態はうまく進んでいない。

筆者は「そもそも医療・介護事業所内において包括ケアや連携ができていない」ことが、連携や地域包括ケアが進まない最大の原因であると考えている。

特に、現場を省みないトップダウン型の経営者は、現場のケアやリハビリテーションの全体最適には興味を示さないくせに、外部との連携が重要だ!と叫ぶ。

これ最悪。

事業所内の包括ケアが出来ている事業所しか、地域包括ケアの意味が理解できない。

書類や口頭での申し送りや、表面上の会話のオンパレードのカンファレンスやサービス担当者会議が包括ケアではない。

各専門職が利用者の目標達成に向けて、専門性をぶつけ合い、協議の結果出てきた知恵の活用が、包括ケアである。

このような取り組みをしているところは、非常に少ない。

全体の1割もないのでは。

殆どの事業所が地域包括ケアの意味をわかってないのが実情だろう。

自分の働いている事業所の包括ケアが出来ているか?

出来ていなければ、やるべきことは明確である。

自らが動いて、包括ケアのキーパーソンになれば良い。

 

マネジメントなき医療・介護専門家集団は烏合の衆

医療・介護職の多くは専門家である。

専門家は自身の分野には長けているが、他の分野には長けていない。

多くの医療・介護事業所は専門家を雇用し、専門家の専門家による専門家のための業務を容認している。

この現状を経営者は「権限移譲」という言葉で誤魔化している。

これは「権限移譲」ではなく、ただの「マネジメントの放棄」である。

マネジメントを放棄した組織の典型例は、組織内で何か問題があると「専門家である職員が悪い」という結論が導き出される組織である。

「専門家である職員が悪い」のではなく、「専門家である職員が悪いという結論が、安易に導き出される組織」が悪いのである。

くしくも、時代は地域医療連携、地域包括ケアシステム、ワークライフバランスの時代。

さまざまな組織の経営資源を統合し、有効活用しなければならない時代である。

専門家の能力をどのように組織の価値創造に寄与させるのか?

この命題に立ち向かえる医療・介護事業所だけが2025年以降も生き残ることができる。

医療・介護職や事業所は「情報共有が大切です」と述べることが多いが「理念の共有が大切です」と述べることは少ない。

情報は共有しても実は大して意味がない

その情報をどのように活用するのかについての行動指針となる理念がはるかに大切である。

会議の場で、情報を共有しても反対意見ばかりが飛び交う、否定的な反応が多い、建設的な意見がでないことは多くないだろうか?

これは、情報をどのように活用するかについての理念が理解されていないことが原因である。

規律や自律がなく、「ただ集まっただけの群衆」を烏合の衆と呼ぶ。

皆さんの事業所は理念を共有した組織か?はたまた、ただの烏合の衆か?

診療報酬改定・介護報酬改定・医療制度改革は烏合の衆の大掃除を狙っている。