通所リハビリテーションへの移行を妨げている理由が、本当の理由ではない件

2016年4月27日に開催された中央社会保険医療協議会にて、「平成26年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成27年度調査)の 本報告案について」が報告された。

その中で、「通所リハビリテーションを開設する意向がない理由」に関して報告がなされた。

ddd2016年4月27日 中央社会保険医療協議会 資料

人員を確保することができない
場所の確保が必要である
送迎体制を整えるのが困難
など・・・・たくさんの理由が列挙されている。

しかし、これらの理由は本当に「理由」であるか?

ここに記載されいている内容はすべて、通所リハビリを開設するために必要な手段である。

手段は目的を達成するために必要なものであり、多くの手段はマネジメントの手法により解決できる。

人員を確保できなければ、人材獲得のマーケティングを行えば良いし、
場所を確保できなければ、必死で不動産に関する情報を集めればよい。

病院や診療所の院長、経営幹部と話をしていると、そもそも通所リハビリがどのようなものであるかを理解していないことが圧倒的に多い。

通所リハビリは儲かる→だったら、やってみよう→え、開設するのは意外に大変じゃん→しかも、運営には結構手間と費用が掛かるんだね→通所リハビリの開設はやめておこう

という展開に陥る病院や診療所が非常に多い。

通所リハビリの運営がうまくいっているところは、通所リハビリの社会的意義や地域リハビリテーションへの情熱や理念が明確にしている。

理念を実現するために必要な手段には、全力を尽くすことができる組織だからこそ、様々な問題を解決することができる。

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誤解を恐れずに言うと、通所リハビリ、通所介護、訪問リハビリは、あくまで外来診療、入院診療の本体事業とは別の副業事業として考えている医療機関が多いのではないだろうか?

「外来医師の負担が大きくなる」という理由が挙げられているが、この理由は理由になっていない。

通所リハビリを開設する理念があるなら、人材の問題は解決しなければならない。

副業の感覚で捉えているから、人材を増やさずに儲けたいという気持ちが芽生えるのだ。

副業感覚で通所リハビリをとらえている以上
通所リハビリが開設できない
通所リハビリの運営がうまくいっていない
という状況は打開できない。

 

必要なリハビリテーション技術は医療機関・介護事業所ごとに違うのに、リハビリテーション技術に偏向的なセラピストが多い件

筋力強化練習・関節可動域練習・基本動作練習・応用的動作練習・感覚入力練習・物理療法などの標準的なリハビリテーション技術は、どのような分野でも求められる。

よって、セラピストはこれらの標準的なリハビリテーション技術を優先的に学び、技術取得を行わなければならない。

しかし、近年のリハビリテーション提供体制の変革により、リハビリテーション機能が分化しており、分化された分野では、求められるリハビリテーション技術がそれぞれ異なる。

それぞれの分野では先述した標準的なリハビリテーション技術に加え、下記のようなリハビリテーション技術が求められている。

急性期:早期離床・リスク管理・早期歩行・早期摂食嚥下
回復期:在宅復帰等の環境適応・住宅改修・装具療法・摂食嚥下・患者教育
生活期:(軽症):介護予防・引きこもり防止・活動と参加の促進
生活期(重症):トランスファー・認知症・終末期・褥瘡・栄養・呼吸

しかし、筆者が多くの医療機関や介護事業所をコンサルティングをしていると、勤めている医療機関や介護事業所の機能とは親和性の低いリハビリテーション技術を学んでいるセラピストが多いことに驚く。

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もちろん、セラピスト本人にも責任はあるが、組織によるリハビリテーション技術のマネジメントが行われていないことも問題である。

重症患者が多い訪問看護ステーションに勤務しているセラピストが、最新の急性期リハビリテーション技術を学んだとする。

しかし、現場では、摂食・嚥下、呼吸リハビリ、トランスファーなどの技術が求められている。

このような必要とされる技術と実際にセラピストが学んでいる技術のミスマッチは、よく散見される。

本来はマネジメントによりこのようなミスマッチが起こらないようにしなければならない。

また、セラピストは、自分の興味本位ではなく、自分が勤めている分野のマーケット本位で必要とされる技術を学ぶことが、キャリアを構築する上では重要である。

勤め先で必要とされる技術を磨けば、多くの患者や利用者のQOLが向上し、セラピストとしての評価も高まる。

また、事業所としても高いリハビリテーションを提供することができれば、周囲の評判が上がり、事業所の収益増化にも寄与する。

今の時代のセラピストは、リハビリテーション技術を学べる機会は多い。

インターネットを用いた学習やセミナーを受講する機会にかなり恵まれている。

しかし、そこに投資できる時間とお金は有限である。

したがって、冷静に、投資先を考え、学習に見合った効果を考えなければならない。

リハビリテーション技術に偏向的になっているセラピストは、大切な時間とお金を損失している可能性が高い。

整形外科クリニックが院内でリハビリテーションだけを提供していればよい時代は終わった

整形外科クリニックの勝ち組と負け組の二極化が止まらない。

2000年前後から2010年ぐらいまでは、リハビリテーションの施設基準を取得し、理学療法士によるリハビリテーションを提供することが整形外科クリニックの差別化戦略として有効であった。

しかし、このブログを作成している2016年では、リハビリテーションを提供している整形外科クリニックは山とあり、リハビリテーションの提供の有無が整形外科クリニックの差別化に繋がらない状況である。

筆者がコンサルティングをしていると、「どこもかしこもリハビリテーションをしているから、これからの時代はなかなか患者が集まらなくなった」とか、「これからの整形外科クリニックはじり貧ですね」などの声が、院長、経営幹部から聞こえてくる。

果たしてそうだろうか?

今の時代においても、患者が沢山集まり、収益が増加している整形外科クリニックは沢山存在する。

結局のところ、勝ち組の整形外科クリニックが存在する以上、「時代の流れ」は全く関係がない。

整形外科クリニックは時代の流れに身を任せるのではなく、新しい市場やニーズに対してマーケティングができなければ、経営の再構築は難しい。

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整形外科クリニックを取り囲む状況は急速に変化している。

環境変化の事例としては
1)医療の在宅シフトが急速に進んでおり、在宅患者のフォローが求められている
2)デイサービスが急増し、運動器疾患を持つ方のリハビリテーションサービスが行われている
3)整骨院が急増し、運動器疾患の初診患者が整骨院に流れている
4)予防に対する意識が高まっており、医療と運動を組み合わせた民間サービスが増えている
5)維持期患者の介護保険リハビリテーションへの移行が進んでいる
などが上げられる。

これらの環境変化に対して、なんらかの行動を起こさなければ間違いなく「ジリ貧」になっていく。

また、当然、整形外科クリニックの専門性も重要である。

画像診断、日帰り手術、病院との連携など医療の本質の部分の強化を忘れてはならない。

さらに、見込み患者や既存患者へのマーケティング活動も怠ってはならない。

地域へのアピール
Webを通じた情報発信
新規患者の導線確保
などのマーケティング活動が安定的な患者増加には欠かせない。

院内で理学療法士によるリハビリテーションだけを提供していれば、整形外科クリニックとして安定的な経営ができる時代は終焉した。

リハビリテーションを活用した新たな価値の提供が、これからの整形外科クリニックには必須である。

 

臨床に出た途端に検査測定の手を抜くセラピストが多すぎて呆れる件

臨床実習では、あれほど徒手筋力検査や腱反射検査、その他の多くの検査をしていた理学療法士・作業療法士、言語聴覚士は臨床現場に出た途端に、治療技術の提供を優先し検査を行わなくなる。

臨床現場のセラピストの申し送りを聞いていると
筋力低下があります
筋緊張亢進があります
痛みがあります
関節不安定性があります
ADLが低下しています
という説明が多い。

そこで、私から「どれぐらいの筋力低下ですか?」「どれぐらいの筋緊張亢進ですか」と確認すると、明確に答えられないセラピストが非常に多い。

答えられない理由を問いただすと、苦笑いで「検査測定をちゃんとしてません」との回答が来る。

セラピストは実習中にあれほど検査測定をして、患者の問題点の抽出をしているのに臨床に出た途端に、検査測定をしない人種になる。

ゴニオメーターも使わない、打腱器も持たない、画像も見ていない、MMTのやり方も忘れた、整形外科学的テストも知らない、ADLの数値化もまともに行えない、呼吸数も数えない、筋緊張検査も行わない・・・・・・こんなセラピストが山ほどいるのが現状である。

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さらに、タチの悪いのが、基本的な検査測定もしていないのに、最新の知見やエビデンスを上から目線で語るセラピストがいることである。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は医療的な知識を持ち合わせたリハビリテーションの専門家である。

その専門家が、既に明確になっている科学的事実から生まれた検査測定を行わずに、正しいかどうかわからない最新の科学の話をしてなんの意味があるのか?

また、既存の学問や検査を軽視しているセラピストでも、テキトーに理学療法、作業療法、言語聴覚療法を提供していれば特に評判が悪くならないセラピスト業界も、大問題である。

このような問題は、多くの医療・介護現場において、組織マネジメントが全く機能していないことが起因となっている。

セラピストは「二枚舌」が多い。

臨床実習生には、厳しく検査測定の実施を要求し、その検査結果の分析を執拗に迫る。

しかし、同職種や他職種には、検査測定などを要求することはなく、傷の舐め合いのような関係を作る。

学生には厳しく、セラピストにはモノを言えない「二枚舌」な人間が多い。

このような人間が仕事をしているリハビリテーションの現場では、検査測定を行わないことになんの疑問も生じない風土が蔓延る。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、国家より医療ライセンスを付与されている。

セラピストが医学という科学に基づいて、リハビリテーションを提供するプロであることを認識しなければ、この業界はさらに廃れていく。

たかが、検査測定と侮るなかれ。それは、科学的に裏付けられた重要なエビデンスである。

 

あなたは労働時間を提供しているのか?それとも労働価値を提供しているのか?

日本の労働者は、厳しい局面を迎えている。

ワークライフバランスを政府は進めているものの、下流老人、長時間労働、貧困ビジネス、過労死、サービス残業など労働者の環境は厳しい状況が続いている。

日本は和を大切にする国であるため、会社は労働者を守り、労働者は会社を守るという相互依存の関係が昔より続いていた。

しかし、長期にわたる不況や社会保障費による財政圧迫により、企業は労働者を守ることより、収益を上げることを優先させる傾向が強くなった。

2000年代に入ってから、この傾向は著明となり多くの企業が労働者の好待遇を止め、労働生産性の向上を図るという政策へ舵を切った。

経済情勢が悪くなると、企業は経営状態を維持、向上させるために短期間の利益確保、内部留保の確保に傾倒する。

そのため、従業員や現場への労働負荷が増える割には、賃金が上がりにくいという状況が生まれる。

つまり、日本の経済情勢が根本的に好転しない限り、今の労働者の状況は簡単には変化しない。

よって、労働者が与えられた仕事を沢山こなしたとしても、報われにくい社会になっていると言える。

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しかし、一方で多くの労働者は、企業に所属し、労働時間を提供することで賃金をもらっている。

労働者は「賃金をもらうこと」が第一の目的であるから、企業に「労働時間」を提供して働いている。

しかし、賃金を得るための方法は「労働時間の提供」だけなのか?

賃金を得る方法は労働時間の提供以外にも多々存在する。

しかし、多くの人は労働時間の提供しか行っていない。

まさに、現代に働く労働者の問題点はここにある。

賃金を得るもう一つの方法は、「労働価値」を提供することである。

すなわち、労働を通じて提供した価値の多寡により、賃金を得るということである。

このような考え方を持っている医療・介護職は非常に少ない。

9時から17時まで働いて、帰る。という働き方のスタイルでは到底、「労働価値」という考え方には及ばない。

この「労働価値」のメリットは、賃金が上昇する可能性を高くするだけでなく、自分自身の得意分野や好奇心の強い分野で仕事を行うことができることである。

「労働価値」で賃金を得る方法を獲得すれば、 労働環境が熾烈な企業で働く必要性がなくなる。

精神的にも会社に依存せず、自由になることができる。

また、賃金を支払ってくれる対象も、所属している企業から社会にある企業に変化する。

医療・介護職は、労働価値を提供するという概念に乏しい職業である。

なぜならば、医療保険・介護保険という公定価格に守られて、必要最低限の作業をしていれば賃金がもらえる環境が整っているからである。

しかし、そんな職場は間違いなく企業の論理に支配される。

「労働時間」の提供から、「労働価値」の提供へのWork Shiftが求められているが、そのことに気付いている人は少数派である。

働き方に対する個人の価値観が試されている時代に突入している。