2016年度診療報酬改定の動向 地域医療構想が大きな原則論を作り上げる

2016年度診療報酬改定の議論が本格化している。

2015年10月21日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、次期診療報酬改定に関して以下の方針が確認された。

改定の狙い
1)患者の状態に応じた評価
2)チーム医療の推進
3)勤務環境の改善
4)診療所などの主治医機能(かかりつけ医機能)の確保
5)退院支援
6)医療介護連携
7)医歯薬連携
8)大病院の専門的な外来機能の確保

充実すべき項目
1)緩和ケアを含む室の高いがん医療
2)「認知症施策推進総合戦略」を踏まえた認知症患者への適切な医療
3)難病患者への適切な医療
4)救急、小児、周産期医療

効率化・適正化項目
1)後発医薬品の使用促進・価格適正化
2)長期収載品の評価の仕組みの検討
3)残薬や多剤・重複投薬を減らすための取り組み
4)早期の在宅復帰の推進▽重症化予防の取り組み

2016年度改定は2018年度診療報酬・介護報酬のダブル改定に向けた布石であり、2018年度診療報酬改定に対応するためにも重要な改訂であると言える。この改定に乗り遅れた場合、2018年度改定では経営的な致命傷を負う可能性が高い。

特に、改定の狙いである1)~8)に対して既存の医療機関が取り組みを怠った場合、2018年度以降取り返しのつかない状態になる。
1)~8)の項目は2000年当初より進めてきた医療機関の機能分化・連携政策がブラッシュアップされている項目であり、これらの項目を基準として医療機関の淘汰が行われる。

1)患者の状態に応じた評価は、改定の一丁目一番地であり2025年問題や地域包括ケアを推進するために、厚生労働省も財務省も何がなんでも実現をしたい項目である。
各ステージで診るべき患者を明確し、圧倒的多数の患者を慢性期医療・在宅医療・在宅介護で対応したいという思惑があり、この考えを推進するために様々な原則や施策が検討されている。

現在の診療報酬改定の原則の一つとして急浮上しているのが地域医療構想である。
地域医療構想は二次医療域で将来必要となるベット数を定めて、それをもとに病床を削減、もしくは増加させるものである。ただし、日本の多くの地域は病床過剰と判断されており、基本的には削減が目的とされた政策である。
削減に向けた議論をするためには、各医療機能を定義する必要があり、そのひとつの基準として、患者一人あたりに必要とされる医療費が検討されている(図1)。
一人あたり医療費図1 医療機能ごとの境界を規定する医療費
※入院基本料とリハビリテーション料は除外されている
厚生労働省資料

つまり、高度急性期は一日3000点以上、急性期は600点以上、回復期は225点以上、在宅等は225点未満の医療費が必要な患者(入院基本料・リハビリテーション料は除く)を診るべきであるという定義である。

この定義に基づくと、急性期病床、療養病床、在宅医療に関して課題が浮き彫りになってくる。

日本は急性期病床が過剰であり、多くの急性期病床が高度な急性期患者に対応しておらず、回復期や慢性期に近い患者の対応を行っている現状がある。国による病床規制が明確に行われず、民間医療法人が多いことが、機能不全に陥った急性期病床を多く生み出したと言える。
今後、急性期機能を保持するためには、一日当り3000点、600点を生み出せるマーケティング活動、医療従事者確保、退院先確保、救急機能確保などが重要であり、これらの要素を満たせなければ、急性期機能を諦めることになる。

療養病床は2017年度末に、介護療養病床と看護職員、看護補助者25:1の医療療養病床が廃止される。つまり、今後は20:1の医療療養病床が標準的な施設基準となる。
医療療養病床が「医療療養」として意義をもつためには、「医療」で対応するべき患者を診ているかという視点が重要になってくる。
現在、医療区分に関する見直しが検討されており、2016年度改定では医療区分の厳格化が行われる予定である。より重症で医療必要度の高い患者すなわち、医療区分2.3の患者が入院していなければ、診療報酬上不利になる可能性が高い。とくに、一日あたりの医療費用が225点未満の患者が多く入院している療養病床は、在宅医療等と同じステージと見なされ、著しく入院基本料が減額されると予想される。

在宅医療に関しては、一日当り225点未満の医療費の患者が多い。しかしながら、在宅医療は軽症から重症な患者が幅広く存在しており、診療上、必要な手間や対応などが異なる(図2.図3)。これらの観点から、「患者の疾患・状態に応じた評価のあり方と、診療頻度に応じた評価のあり方を、どう 考えるか」について議論が行われている。次期改定では「継続的な医学管理が必要な処置」(人工呼吸器の使用、悪性腫瘍)、「長期に渡る療養が必要な疾病」(スモン、悪性腫瘍)などについて、診療報酬上、評価される可能性が高い。また、今後は訪問診療だけでなく、訪問看護、訪問リハビリテーションに関しても重度化評価が進んでいくと考えられる。

診療区分

図2 訪問診療対象者の医療区分
医療区分1が4割を占める
中央社会保険医療協議会 総会資料 平成27年5月27日
訪問診療 区分図 3 訪問診療の医療行為について
中央社会保険医療協議会 総会資料 平成27年5月27日

 

 

 

 

 

 

なんちゃって医療機関・介護事業所のベンチマークをクリアせよ

7:1急性期病床の削減や地域医療構想の具現化に向けた制度設計が進んでいる。入院医療から脱却し、医療の外来シフト・在宅シフトを実現することは、財務省と厚生労働省の一丁目一番地の政策である。すなわち、改革の対象は、7:1急性期病床を維持したい急性病院や今後の方向性を決めかねている中小病院・診療所・介護事業所である。

もう少し、わかりやすい表現を使うと、「なんちゃって急性期」となんちゃって「地域医療をしている医療機関や介護事業所」が改革の対象と言える。

数年に一回行われる診療報酬改定・介護報酬改定は、「なんちゃって」の定義の更新作業であると行っても過言ではない。現在、「なんちゃって」の定義に該当する可能性が高いものとして以下のものが考えられる

7:1病床なのに重症患者を診ていない
7:1病床なのに病床稼働率が高くない
7:1病床なのに在院日数が20日を超える人がぞろぞろいる
7:1病床なのに専門特化した医療分野が乏しい
回復期リハビリ病床なのに、6単位以上のリハビリをしていない
回復期リハビリ病床なのに、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がバランスよく配置されていない
回復期リハビリ病床なのに、家屋調査をしていない
回復期リハビリ病床なのに、廃用症候群の患者ばかり
地域包括ケア病床なのに地域との医療・介護連携が不十分である
地域包括ケア病床なのに若年の元気な方が入院している
老人保健施設なのに在宅復帰の取り組みをしていない
老人保健施設なのにリハビリテーションに力を入れていない
通所リハビリテーションなのにリハマネ加算を算定していない
リハビリ特化型デイサービスなのに、筋トレ特化型デイサービスになっている
訪問看護ステーションなのに重症患者・24時間対応ができない
診療所なのに、walk in 患者対象の外来に執着し、地域密着医療を行っていない
診療所なのに、在宅医療や介護事業に興味を持たない
医療法人が在宅医療・老人保健施設・通所リハビリ・通所介護を副業感覚でやっている
・・・・・・・・・その他、沢山のなんちゃって。

これらのなんちゃってをどのようにして、解決していくのか。
それを考えることこそが、医療・介護経営の醍醐味であり最大の壁である。
すでに、国からメッセージは出ている。

危険信号が灯っている医療機関・介護事業所は今すぐに行動をするべきだ。

 

医療機関・介護事業所の経営は目的ではなく、単なる手段である

多くの医療機関・介護事業所は経営が目的化してしまい利益獲得の成否の有無に一喜一憂している。
果たして、医療機関・介護事業所の経営は目的であるか?
否である。
医療機関・介護事業所の経営は目的ではなく、単なる手段である。
医療機関・介護事業所が存在する真の目的はミッションであり理念である。
そのミッションや理念を達成するために、医療機関・介護事業所が存在する。
従業員のモチベーションが低い、職場が楽しくない、利益優先主義の雰囲気が蔓延している医療機関や介護事業所は、経営が目的化して、自分たちの社会における役割を忘れている。

現在の日本は超先進国の代償の結果、数多くの社会課題を抱えている。
その社会課題を解決するために、国より様々な事業が許可されている。
医療機関や介護事業所は社会課題解決のために存在すると言っても全く過言ではない。
診療報酬改定や介護報酬改定の単価や収入増のテクニックに固執する経営者や管理者は、改訂項目の先にある真の社会課題に気づいていない。
経営を保証する利益と社会課題解決の視点をバランス良く持つことが、医療保険・介護保険ビジネスで成功する鉄則であるが、その視点を忘れている人が多い。

飽く無き利益追求は、人件費カット、過重労働、人材育成の軽視、労働環境の悪化、撤退を前提とした運営が行われやすい。医療・介護は人材が最大の経営資源であるため、利益追求による人材資源の劣化は、即、経営不振に繋がる。この単純な理論を理解できずにいる経営者や運営者は多い。

社会保障の財源はますます厳しくなるばかりである。このような時代だからこそ、常に、事業の根本的な目的を確認し、社会貢献をできる事業所作りを怠ってはならない。そして、それが利益の確保に繋がる。

 

在宅医療・介護事業におけるリーダーシップやマネジメントは病院や診療所よりはるかに難しい

日本の医療・介護分野の在宅シフトは待ったなしである。病床削減、在宅復帰要件の導入、地域包括ケアシステムの推進、訪問看護ステーションや看護小規模多機能型居宅介護などの在宅インフラの整備は急進的に進んでいる。
一方で、順調に進んでいないものがある。
それは、在宅医療や介護を営む事業所のリーダーシップやマネジメントのレベルアップである。

在宅医療や介護は、外部との連携によりサービスが展開されることが多い。したがって、病院や診療所より、ステークホルダーが多い事業である。そのため、多くのステークホルダーとの利害関係の調整が必要であるため、ハイレベルなリーダーシップやマネジメントが求められる。

また、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、介護福祉士、薬剤師、管理栄養士などは、病院や施設で働くことを前提とした教育カリキュラムを受けており、現在の労働者の中で在宅の実習などを経験している人は少数派である。

日本は欧米と異なり、医療機関に勤める医師、看護師、セラピストが多く、在宅分野が医療関係者のキャリアデザインの選択肢にすら入っていない状況が未だに続いている。

そして、在宅医療や介護保険ビジネスは比較的、利益率が高いことに加え、病院や診療所を経営するより、参入障壁が低いことから、理念と利益のバランスを求めない利益至上主義の民間事業者や医療関係者が多く参入しているのが実情である。

在宅医療や介護は
1)利害関係者が多い事業形態
2)従業員のキャリアデザインとして在宅分野が確立されていない
3)理念を無視した利益追求型の経営母体が多い
これらのことから、在宅医療や介護事業所の運営は一筋縄ではいかない。

そのため、国は近年の診療報酬改定や介護報酬改定で、在宅医療や介護の分野に「マネジメント」の概念を導入し、マネジメントの成否が事業所の収入に直結する仕組みを推進している。

通所・訪問リハビリにおける「リハビリテーションマネジメント加算」「リハビリテーション会議」
通所リハビリにおける「生活行為向上リハビリテーション実施加算」「社会参加支援加算」
通所介護における「3ヶ月に一回の在宅訪問」や「個別機能訓練加算Ⅱ」
訪問介護における「生活機能向上連携加算」
訪問看護における「退院時共同指導加算」
これらはすべて、事業所の前方連携・後方連携・水平連携を求めるものであり、リーダーシップやマネジメント能力がなくては、円滑に行うことが困難である。

しかし、発想を変えれば、リーダーシップやマネジメント機能を発揮することができれば、在宅医療や介護事業では、他の事業所より圧倒的な競争優位性を得られる時代になったと言える。

 

 

診療・介護報酬改定から数ヶ月経つと現場の盛り上がりは急激に低下する 

2015年4月に介護報酬改定が行われ、3月、4月、5月において、多くの介護事業所では、様々な議論が社内で行われたのではないだろうか。

特に、介護報酬改定は直接的に収益に影響するため、経営者、院長、事務長、部長クラスは多いに盛り上がり、様々な指示・命令を現場に下したのではないだろうか?

それを受けて、現場も多くの業務変更や書類変更に追われ、新しい加算取得や体制の構築に向けて一生懸命に取り組んでいるのではないだろうか?

しかし、どの事業所でも6月ぐらいから、社内の雰囲気がおかしくなる
当初は、一緒に取り組んでくれていた事務長や上司が「すーーーっと」と業務から消えていく
「権限委譲」「考えられる現場」などのスローガンを振りかざし、業務から遠ざかっていく

6月ぐらいになると実務的な対応が多くなり、現場の業務体制やプロセス作りが忙しくなる
そんな時こそ、現場はともに、悩み、考えてくれる上司を求めている
しかし、実務的なことになると非協力的な経営者や上司は多い

そして、秋ぐらいになると、「○○加算はとれているのか?」と突然、質問をしてくる
その加算が取得できていなければ、「ばかもん!なぜもっと早く相談をしてくれないのか!!」と叱責される。

経営環境が激変する時、経営者や上司は焦り出し急に様々な行動を行う
しかし、環境変化に対して自分が適応できないと悟った時、それを他人に丸投げして、推移を見守る

みなさんの事業所はどうだろうか?
そして、自分自身はどうだろうか?
他人に丸投げしているなら、いち早く、従業員に声をかけて、「出来ることはないか?」と従業員に寄り添っていただきたい

ワークシフトでは
定期的に医療・介護におけるマネジメントセミナーを開催しています
ご興味がある方は
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リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護経営コンサルタント
ワークシフトプロデューサー
高木綾一
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