医療・介護の在宅シフトは、医療・介護の人材育成、マネジメント重視シフトである

平成26年度診療報酬改定では、各病棟機能に在宅復帰要件が追加された。

特に急性期病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟に在宅復帰要件が追加され、医療・介護の在宅シフトの流れがさらに加速したと言える。

しかしながら、現在、在宅インフラが十分な地域は少ない。

大手医療法人においては、在宅部門は病棟や介護施設の整備が終了した後に着手される傾向が強い。

主たる収益源である病院や介護施設のマネジメントで手一杯であり、在宅部門は運営に力を入れることが難しい。

単独型の訪問看護ステーションや医療法人の在宅診療所も増加しているが、小資本や人員不足が原因で大きな拡大が図りにくい。

医師、看護師、セラピストの数が少ない中で、在宅医療をどのように行っていくか?

これは在宅医療の現場における大きな課題である。

特に医師が担当する患者数は多く、また、急変時には医師自らが訪問をする必要があることから医師の負担も大きい。

したがって、医師の在宅医療への参入障壁は決して低くないと言える。

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医師に負担が偏らないためには、医療現場では「看護師、セラピストの判断の上、医師に診察を打診する」というシステムが必要である。

欧米では、看護師・セラピストから医師への診察依頼はすでに一般的になっている。

そのため、看護師、セラピストはより深い医学的な知識が必要となっている。

また、スタッフ間の物理的距離が遠い在宅医療においては、情報の共有が難しい。

そのため、電子媒体や既存のクラウドシステムなどを用いた情報共有の仕組みが必要となっている。

さらに在宅医療ではそれぞれ別の事業体の医師、看護師、セラピストが関わることがある。

つまり、異なった医療知識、介護知識、理念などを有している者同士が患者のQOLの向上に関わるわけである。

したがって、一定地域における標準化された医療、介護知識、理念などを啓蒙する活動や、自身の事業所がどのような方針で在宅医療を行っているかについて情報開示が必要である。

在宅医療を推進するためには、権限移譲、情報共有、情報開示という今までにはない取り組みが必要である。

在宅医療の実現ためには、新しい形のマネジメントの実現が必要であり、マネジメントができる人材の育成の実現が必要である

このパラダイムシフトを乗り越えるには、人材育成とマネジメントが必要不可欠である。

 

 

医療・介護情勢を踏まえると「脱職人」も悪いことではない

従来の医療機関や事業所の開設基準は、施設基準に主眼が置かれており、品質基準を求めてこなかった。

そのため、多くの医療・介護事業者が現れ、今やデイサービスのように過剰供給となっているものまで出てきている。

医療においても急性期病棟や回復期リハビリテーション病棟は、レッドオーシャン状態で、熾烈な競争にさらされている。

各事業所が施設基準の維持に重きを置いた運営をしたため、品質の悪い人材や理念、サービスが横行した感が否めない。

その結果、医療や介護事業のレッドーシャン化が進み、生き残りが目的となった経営や運営が散見する。

施設基準はもちろん重要であるが、品質基準もそれ以上に重要である。

品質基準の維持向上には企業の理念や総合力が試される。

企業の理念や総合力の弱い施設では品質基準を満たしていくことは不可能である。

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医療・介護サービスは有資格者が行う。

今の医療・介護従事者は職人的思考を持つ者が多く、品質基準についての判断能力は乏しい。

職人は常に自分のために働いており、自分が納得するか、しないか?が、仕事において重要である。

しかし、マーケットは社会的な品質水準を医療・介護事業所に求めている。

よって、医療・介護事業所は外部環境に合わせた品質基準の順守が重要である。

医師は、看護師や療法士が医師に対して何を求めているか?
看護師は、医師や療法士が看護師に対して何を求めているか?
介護士は、看護師や療法士が介護士に対して何を求めているか?
薬剤師は、医師や看護師が薬剤師に対して何を求めているか?
そしてあらゆる職種は国は、自身に何を求めているか?

このような想像力を持たなければ、技術職はどんどん時代にマッチしていかなくなる。

脱職人も決して悪いことではない。

 

これからの医療・介護従事者に必要な社会課題解決の視点

現在の医療・介護従事者の仕事内容は、法律で定められた資格の業務範囲で定められる。

つまり、整形外科医師なら整形外科の診断と治療、作業療法士なら作業療法、看護師なら看護ケア、薬剤師なら調剤や薬の監査などである。

医療・介護従事者や組織も法律による縛りにより、資格が定めた範囲以外の業務は行うことを想定していない。

先般、神奈川県で開催されたとあるリハビリテーション学会に参加したところ、以前と比較して企業ブースや演題発表の内容が変質していた。

10年前にはなかったコンセプトの医療機器や福祉機器、演題発表が数多く存在していた。
特に演題内容は地域連携、看護連携、介護士連携、教育の在り方、職域拡大、摂食嚥下、福祉機器、ロボットなどが多かった。
しかし、一方で脳科学、細胞学、神経生理学などのより深い医学モデルの内容も盛んに発表されている。

学会発表や研究開発はすべて社会問題の解決、国民の幸せにつながらなければならない。
つまり、学会発表や研究開発の分野が幅広くなろうと、医学モデルの深いものになろうとも、それが社会課題の解決、国民の生活に役に立つのかどうか重要である。
医療従事者や研究者の自己満足での発表であればその発表は決して社会課題の解決には結びつかない。

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「社会課題を解決する」活動は2025年以降の仕事の在り方として常識になると言われている。

今の医療・介護従事者は社会問題の解決に向けた仕事しているのか?

例えば、何度も自宅で転倒や肺炎を再発し、入退院を繰り返す老人がいる。

これに対して入院中に抗生剤の投与と座位保持獲得のリハビリテーションという部分最適のみのアプローチがどれほど意味があるのだろうか?

このような事例に対してどう対応をするべきか?

社会課題を考える医療・介護従事者。

これが今後のキーワードだ。

 

リハビリテーションの視点で取り組める事業はまだまだある

リハビリテーションの対象者は障害や生活上の課題をもつ人である。

しかし、患者、利用者だけでなくその人の家族や関係者も問題を抱えている。

家族一人が病気や障害を有する状態になることは、家族内にあった既存のシステムが崩壊する。

既存システムの崩壊としては以下のものが挙げられる。
一家の大黒柱が病気になり収入が減った
遠方に住む両親が病気になりどうして良いかわからない
旦那が障害を有したことで妻の生活範囲が著しく狭くなった
若い夫婦の配偶者一人が病気になり、SEXができなくなった
祖父が病気になり面倒を見る人をなかなか決まらない
相続問題が発生した
身寄りがない
などの様々な問題が生じる。

リハビリテーション現場の周りには多くの問題があるが、それらの諸問題に対して既存の医療福祉システムは十分に機能していない。

また、それらを解決する民間サービスもまだまだ乏しい。

上記の問題に対して、何の手を打つこともなく経過し、深刻な事態に発展してから、周りのサポートが入ることが多い。

当然、深刻な状態になればなるほどの解決は非常に難しい。

また、現在の地域包括ケアシステムは高齢者が抱える問題には焦点を当てているものの、様々な社会課題に対して焦点を当てているわけではない。

リハビリテーションは心身機能・活動・参加に対して問題解決型のサービスを提供するものである。

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スポーツ選手・肉体労働者・健康増進・発達障害・福祉用具・靴・衣服・車いす・自動車・街づくりなどの分野でも当然、リハビリテーションは効果を発揮する。

そういう視点で考えれば、もっと多様な支援サービスが生み出されても良いと言える。

まだまだ、リハビリテーションの視点で取り組める事業はある。

決して、リハビリテーションのサービスの幅を縮めることなく、リハビリテーション関係者は市場を広げていくべきである。

現状、多くのセラピストは病院の治療ベッド半径50cmから離れることができてない。

そのような姿勢では、リハビリテーションの市場が広がっていくことはない。

障害を有する人、高齢者に限らず、様々な分野にリハビリテーションを活かしていく視点が、新たなリハビリテーション関連市場を切り開く。

医療介護施設の役割分担により連携が悪化する??

平成28年度診療報酬改定において総合入院体制加算の要件が強化された。

これは急性期機能の強化が図られたことを意味する。

国は「本物の急性期病院」を作りたいと考えている。

救急医療だけを専門に行い、地域の救急医療インフラの核となる病院を作りたい。

また、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟、老人保健施設にも施設基準要件が強化され、それぞれの施設の機能が強化されている。

でええ第256回中央社会保険医療協議会 総会  厚労省配布資料

 

しかし、機能が強化されることで部分最適のみが進み縦割り医療・介護サービスが増長する可能性がある。

逆説的になるが、「役割分担を進めるためには役割の隙間を埋める」 ことが重要であると言える。

役割の隙間を埋めるのは病院や施設間の話だけではない。
医師、看護師、薬剤師、療法士、介護士、事務職員、臨床検査、栄養士の間を埋める役割も重要である。

専門職養成だけが世の中の医療介護サービスの質を上げることはない。

専門職をどう活用するのかというマネジメントの視点がなければならない。

専門職であったり視野が狭い人が経営者や運営者であれば役割分担の間を埋めるマネジメントは正直難しい。

しかし、このことから目を背けていては、「真の医療介護施設の役割分担」はありえない。