在宅医療診療報酬の新たな潮流は訪問リハビリテーション報酬へ影響する!?

2016年度診療報酬改定に向けて、様々な改定項目の検討が進んでいる。その中でも、在宅医療の報酬体系はとりわけ注目される分野である。現在のところ、在宅医療は定期的な訪問回数や患者の居住形態などが診療報酬に影響するシステムになっている。一定回数訪問の包括算定や、往診回数に応じた出来高算定、同一居住患者の有無などが診療報酬に影響する。

つまり、患者の医療必要度やADLの状況は診療報酬に影響しない。これは訪問診療、訪問看護、訪問リハビリテーションでも、同様である。(※訪問看護には特定の疾患に関する加算は存在するが、ほとんどの疾患に関して重症度は診療報酬や介護報酬には影響しない)

現在、急性期病床の削減や在院日数の減少などが進められており、医療・介護の在宅シフトが急ピッチに進められている。特に、重症患者の在宅シフトが近年進められており、在宅で生活している患者、利用者の重症度の標準偏差は大きくなってきている。血圧測定、問診、薬の調整だけで済む症例もいれば、人工呼吸器の管理、胃瘻、疼痛管理、人工肛門等の処置・対応が必要な症例もいる。

このようなことから、中央社会保険医療協議会にて次期診療位報酬改定では「患者の疾患・状態に応じた評価」の検討が開始されることになった。つまり、今後、訪問診療、看護、リハビリテーションの診療報酬において、軽症患者の評価が下がり、重症患者の評価が上がる可能性が高まったと言える。

ただし、重症の定義をどのように定めるかについては、難しい。同じ疾患名であっても、医療処置の内容やADLの状況が大きく変わる。したがって、比較的、疾患名と医療行為の内容にブレ幅が少ない疾患の評価が高くなる可能性がある。例えば、末期の悪性腫瘍・進行性核上性麻痺、頚髄損傷、人工呼吸器装着などである。

現状、訪問看護からのリハビリテーションや訪問リハビリテーション事業所からの訪問リハビリテーションでは、時間あたりの診療報酬となっている。今後、訪問診療・訪問看護に重症患者の評価がより導入され、大きな問題に発展しなければ、訪問リハビリテーションの重症対応が評価される可能性が高い。

 

 

 

 

 

 

人口減少社会はピンチか。いや、チャンスでしょ。

日本の人口減少が止まらない(図1)。国土交通省の資料によると今から85年後の2100年には最悪3770万人になる可能性がある。これは、今より70%近くの人口が減少することになる。人口減少は、日本経済のみならず、私たちの働き方や価値観に影響を与える。

人口減少図1 国土交通省資料

人口減少は日本だけではなくヨーロッパの各国も、同様の問題を抱えている。
欧米諸国は人口減少対策として、子供が産みやすく育てやすい環境整備を行うことやや積極的に移民を受入れを行っている。

しかし、日本では出産・育児の環境整備は不十分であり、移民政策は行われていない。現在、中東の政情不安や治安悪化などにより多くの移民がヨーロッパ各国、とりわけドイツに入国している。ドイツも日本同様少子高齢化問題を抱えているが、その解決策として積極的に移民を受け入れている側面がある。

また、日本では戸籍制度が少子化の原因になっていると分析する専門家も多い。
戸籍制度では入籍をしなければ、結婚をしたことにならない。日本には、子供を産み、育てる条件として、入籍・結婚が必要であるという社会通念が存在する。しかし、ヨーロッパ各国では事実婚制度があり、入籍をしなくとも結婚したとみなされ、入籍しなくても社会的な制度を差別なく利用することができる。日本は戸籍制度のため、妊娠をしても入籍が高いハードルとなり、出産を諦めるケースも多い。

このように、日本は人口減少への対策が不十分であり、文化的にも政治政策的にも少子化になりやすい国であると言える。

日本は人口減少にともなう経済規模の低下が避けられない状況になる。現役労働者が減少し経済活動を行う人材が物理的に減少する。拍車をかけるように、これから日本人の寿命がさらに延長し、高齢化率が高まっていくと予想されている。
したがって、社会保障を受ける人が増え、社会保障を支える人が激減する状況となっていく。
この状況は、すでに日本の都心以外の地方でも生じており、地方には極端に高齢者が多く、労働者が少ない地域が存在する。それは、まさに50年後に生じる都心の姿でもある。

2025年問題は団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になるため、社会保障費が増加することを懸念するものである。しかし、さらに深刻な問題は団塊ジュニアが後期高齢者になる2050年に生じる。

団塊の世代と団塊ジュニアの世代には明らかな差がある。
1.団塊ジュニアは団塊の世代より人口が多いこと
2.より長寿になる可能性があること
3.さらに社会保障を支える人口が少なくなっていること
4.資産を持つ人間が団塊の世代より少ないことである。
一言で説明をすると、「長寿でありながらも貧困層が非常に多い」という特徴を有しているということになる。

このような状況が未来において生じることがわかっている以上、我々は難局を乗り越えるために具体的な行動を起こして行く必要がある。労働力を維持すること、貧困層の増加を防止すること、社会保障費を抑制するために効率良い医療・介護体制を構築することなどの目的を達成するために、具体的な行動が必要である。

少子化対策や移民政策に関しては、高度な政治判断が必要であり、我々国民は政治参加を通じて、この問題に関して真摯に向き合う必要がある。
ヘルスケアやリハビリテーションに携わる業界が、今までの発想を変え、人口減少社会の負の側面を好転させる事業を行っていくことがこれからはより重要である。
以下にいくつか事例を記載する。

1.高齢者が働く意欲を持ち、労働市場へ参加するための環境作り
高齢者の再就職支援、高齢者が安心して安全に働ける職場環境の整備や身体機能に合わせた仕事内容や作業の調整などを行う。仕事という役割を再獲得することで心身機能の低下を防止することにも繋がり、社会保障費の低減にも寄与する。

2.親の介護が原因となる介護離職を防止する
親が要介護状態になっても、介護者が仕事ができる事業。例えば、小規模多機能のような柔軟性の高いサービスや、有老人人ホームやサービス付き高齢者向け住宅のショートステイの活用、デイサービスの延長利用や企業内デイサービスなどが考えられる。

3.徹底した自立支援リハビリテーション
現在の介護保険制度では、介護保険更新時に20%から30%の人が要介護度が悪化している。つまり、日本の介護保険制度は、介護保険を利用している人の1/3が定常的に心身機能や生活機能が低下する制度であると言っても過言ではない。政府は介護保険にて自立支援サービスが乏しいという危機感から、2017年度までに要支援の人を介護保険から外してより、自治体の財源を用いてより自立支援を促す事業を行うことを決断した。今後はより、徹底した自立支援のあり方を、介護保険業界全体として真摯に考えていく必要がある。

これら以外にも沢山の人口減少社会を乗り切るための事業は多数存在する。医師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・介護福祉士は自らの専門性の本質を保ちながらも、人口減少社会に対する問題意識を持ち、具体的な行動を起こすことが必要ではないだろうか?

ピンチはチャンス
社会課題のあるところにビジネスチャンスあり

 

 

 

訪問看護ステーションVS在宅医療専門診療所

2016年4月の診療報酬改定まで、残り6ヶ月となった。2018年の診療報酬・介護報酬のダブル改定の前哨戦である2016年度診療報酬改定ではリハビリテーションの各算定項目や施設基準等には大幅な変更は少ないと言われているが、マーケティングの視点から分析するとリハビリテーションに関係する内容が目白押しである。

その中でも、次期改定では、注目するべき規制緩和が行われる。
2015年7月10日に日本経済新聞に下記の内容が報道された。
「厚生労働省は来年4月をめどに、医師が高齢者らの自宅を定期的に訪れて診察する「訪問診療」の専門診療所を認める方針だ。外来患者に対応する診察室や医療機器がなくても開設を認める。政府は高齢者が病院ではなく自宅で治療する地域包括ケアを推し進めている。訪問診療に専念する 医師を増やし、退院した患者の受け皿をつくる。」

つまり、在宅医療を専門的に行いたい医師にとって、診療所開設のハードルを下がったと言える。今までは、診療所は、建前上、外来を行っていることになっていたため、外来に対応できるハードを揃えなければならなかったが、その必要が無くなった。2016年4月以降、在宅医療を専門に行う診療所が増加すると予想される。

医療や地域包括ケアの質の向上を考えた場合、診療所が持つ機能として訪問看護と訪問リハビリテーションは必須となる。そのため、今後は看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が在宅医療専門診療所に勤務することが、ごく普通のことになっていくだろう。
現在、訪問看護と訪問リハビリは訪問看護ステーションからの提供が多いが、2016年以降在宅医療専門診療所が台頭した場合、訪問看護ステーションにとって、驚異となる可能性がある。しかしながら、在宅医療専門診療所と戦略的に提携関係を結ぶことができれば、双方の事業所や地域にとって大きな利益をもたらす可能性もある。

2016年度診療報酬改定でリハビリテーションの各診療点数には大きな変化がなくとも、ビジネスモデルや地域連携モデルには大きな影響が生じる。今回の改定は、マーケティングの感覚がなければ、経営環境の変化に対応できない可能性がある。

訪問看護ステーションとしての生き残り方
診療所としての生き残り方
看護師やセラピストとしての生き残り方
これらのヒントはすべて診療報酬改定・介護報酬改定の中に散りばめられている。

独居老人・老老夫婦増加✖貧困層増加=退院調整困難・在宅生活困難 

独居老人・老老夫婦は年々、着実に増加している(図1)。そのため、急性期病院・回復期リハビリテーション病院・老人保健施設から、自宅へ戻ることが困難なケースは年々増加している。

毎月15万円~20万円程度の費用を負担できる人は、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームに退院することができる。しかし、費用を負担できない人はやむなく自宅に帰らざるえない状況になっている。増加する独居老人と老老夫婦の世帯の中には、一定率で低所得者層が存在する。また、今後、高齢者の貧困層は激増すると予想されている。

現在、急性期病院・回復期リハビリテーション病院・老人保健施設の在宅復帰率の計算対象として、自宅だけではなく有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅が含まれている。しかし、自宅と有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅では、生活の状況は全く違う。

有料老人ホームなどの居住系住宅は、施設内にスタッフが常駐していることや、訪問介護ステーションなどが併設している。そのため、介護や生活支援のサービスを適宜受けることが可能である。しかし、自宅ではそのような環境がないために、生活を継続していくためには、家族や親類といった関係者の協力が不可欠となる。

本来、ご自宅で生活することはQOLの観点や本人の希望を考えると望ましい一面があるが、家族や親類の協力がなければ、ご自宅での生活が悲惨な状況となりかねない。

つまり、ご自宅で生活をすることになった場合、ADL動作や認知症などの心身機能が改善していたとしても、家族や親戚の協力が得られない場合、ご自宅への復帰や質の高い生活を送ることが困難となる可能性が高い。

現在、7:1急性病院、回復期リハビリテーション病棟、老人保健施設は、施設基準や加算取得のために在宅復帰の取り組みが求められている。医療モデルで考えた場合、在宅復帰のアプローチには病状の改善、ADL動作の改善、認知症の緩和などを目的とした治療や指導などが行われる。しかし、今後、独居老人、老老夫婦や貧困層の増加すると、心身機機能が改善しても、ご自宅に復帰できない事例が増加してく。

在宅復帰率は病院や老健にとって、施設基準を維持や地域貢献のために、死守すべき指数である。したがって、心身機能の改善への取り組みだけでなく、家族や親戚の協力体制やケアが継続的に提供できる連携体制の構築能力が、今後より必要となっていく。

急性期病院や老人保健施設から、自宅復帰が困難となり、在院、在所期間が延長している症例が増えていることや、ご自宅に帰ったものの、ケアが不十分となり、すぐに肺炎、転倒などを生じ、再入院になるケースが増えている。

在宅復帰の中でも、「自宅復帰は特別な意味を持つこと」、そして、「心身機能のリハビリテーションや医療的対応のみではご自宅に復帰するには不十分」であること認識し、患者、利用者を取り巻く環境をマネジメントする能力が必要であることを強く自覚した経営や運営が求められる。

koureiizinkou図1 厚生労働省「今後の高齢者人口の見通しについて」

医療機関・介護事業所の経営は目的ではなく、単なる手段である

多くの医療機関・介護事業所は経営が目的化してしまい利益獲得の成否の有無に一喜一憂している。
果たして、医療機関・介護事業所の経営は目的であるか?
否である。
医療機関・介護事業所の経営は目的ではなく、単なる手段である。
医療機関・介護事業所が存在する真の目的はミッションであり理念である。
そのミッションや理念を達成するために、医療機関・介護事業所が存在する。
従業員のモチベーションが低い、職場が楽しくない、利益優先主義の雰囲気が蔓延している医療機関や介護事業所は、経営が目的化して、自分たちの社会における役割を忘れている。

現在の日本は超先進国の代償の結果、数多くの社会課題を抱えている。
その社会課題を解決するために、国より様々な事業が許可されている。
医療機関や介護事業所は社会課題解決のために存在すると言っても全く過言ではない。
診療報酬改定や介護報酬改定の単価や収入増のテクニックに固執する経営者や管理者は、改訂項目の先にある真の社会課題に気づいていない。
経営を保証する利益と社会課題解決の視点をバランス良く持つことが、医療保険・介護保険ビジネスで成功する鉄則であるが、その視点を忘れている人が多い。

飽く無き利益追求は、人件費カット、過重労働、人材育成の軽視、労働環境の悪化、撤退を前提とした運営が行われやすい。医療・介護は人材が最大の経営資源であるため、利益追求による人材資源の劣化は、即、経営不振に繋がる。この単純な理論を理解できずにいる経営者や運営者は多い。

社会保障の財源はますます厳しくなるばかりである。このような時代だからこそ、常に、事業の根本的な目的を確認し、社会貢献をできる事業所作りを怠ってはならない。そして、それが利益の確保に繋がる。