2016年9月末までに医療機関からの訪問リハビリテーションの立ち上げが急増する!?

2016年度診療報酬個別改定が明らかになった。

リハビリテーション分野で注目されていた項目の一つに、維持期リハビリテーションがあげられる。

今回、介護保険被保険者の維持期リハビリテーションに関しては、極めて厳しい経済的誘導が行われた。

1)介護保険被保険者で月13単位の維持期リハビリテーションを受けた時点で、一回目のプライスダウン

2)当該医療機関で通所リハビリテーション・訪問リハビリテーションを行っていなければ、二回目のプライダウン

3)新設される目標設定等支援・管理料を算定しない場合、三回目のプライスダウン

厚生労働省は3段階のプライスダウンで、事実上、医療保険を用いた介護保険被保険者の維持期リハビリテーションを廃止する算段である。

また、目標設定等支援・管理料の減算が免除される経過措置期間が明らかになった。
2016年10月1日から目標設定等支援・管理料を過去に算定していなければ、上記した三回目のプライスダウンが発動されることになる。

すなわち、介護保険被保険者の維持期リハビリテーションを生業の一部としていた医療機関においては、2016年9月末までに、医療保険を用いた介護保険被保険者の維持期リハビリテーションを終了し、介護保険を用いた維持期リハビリテーションを提供するといった事業運営の変更が必要な状況となった。

しかし、通所リハビリテーションンは建物や所定の人員が必要となり、多額の経費が必要となることから多くの医療機関は、訪問リハビリテーション事業所の設立を目指すと考えられる。

2016年9月末までに訪問リハビリテーション事業所が急増する可能性が高まった。

地域によっては、訪問リハビリテーションのマーケットが大きく変化するだろう。

維持期リハビリテーション
2016年2月10日
中央社会保険医療協議会 総会 資料

診療報酬改定雑感:梯子は外されたら、ちゃんと次の梯子が掛けられる。むしろ、次の梯子を登れないことに問題がある。

2016年診療報酬改定の詳細が明らかになった。

多くの医療機関では、当面の期間、今から対応の準備に追われる。

そもそも診療報酬改定とは何を目的にしているのだろうか?

診療報酬改定は経済的な誘導を用いて、国の施策を実現していく手法であると言える。
したがって、時に、「国に梯子を準備され、梯子を上り切ったら、国に梯子を外される」と揶揄されることもしばしばである。

ある診療報酬改定の項目を経済的に誘導し、大勢の医療機関がその項目に取り組むことが実現すると、ある日突然、その項目が外され、医療機関は窮地に陥るというものである。

2000年に新設された回復期リハビリテーション病棟も多くの梯子が準備され、そして、外されていった。
休日リハビリテーション加算・充実加算・体制加算・施設基準の3段階など、様々な梯子が準備され、多くの医療機関がその梯子を登った。

今回、2016年度診療報酬改定でも多くの梯子が外される。

7:1病床の重症度比率と在宅復帰率の厳格化
10:1病床の急性期看護補助体制加算・看護職員夜間配置加算・看護必要度加算の重症度比率の厳格化
療養病棟入院基本料2の入院患者対象者の厳格化
回復期リハビリテーション病棟の一定期間のFIM利得によるアウトカム評価
外来リハビリテーションの介護保険被保険者の減算
などその他にも多くの「梯子外し」が存在している。

確かに、「梯子外し」には多くの医療関係者が違和感を感じる内容も多い。
現場の実情や経済性を考えていないと思われる内容も多々ある。

しかし、
国はただ理不尽なことをしているだけではない。

梯子を外せば、次の梯子を準備する。

多くの医療機関が診療報酬改定の度に経営危機に陥る原因は、次の梯子を登るだけのマーケティングや社内資源の開発を怠っていることである。

マーケティングなどのマネジメントが機能している医療機関が、国の方針が変わっても、常に高い利益率を保っている事例は沢山ある。

梯子が外されたら、次の梯子をすぐに登る。

このような経営姿勢がなければ多くの医療機関は苦境に立たせられる時代である。

組織の改革スピードと国の改革スピードのどちらが早いか。

そういう視点なくして、これからの時代は生き残れない。

 

成熟社会では、よりレベル高い理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のリハビリテーションサービスが求められる

リハビリテーションとは、全人間的復権である。
その人がその人らしく生きていくことを支えていく概念がリハビリテーションであり、その実現を支援するサービスがリハビリテーションサービスである。

日本は世界に類を見ない先進国であり、物質的な繁栄が著明である。
40年~50年程前の日本は物質的にもまだ、恵まれておらず、国民は国の経済的繁栄こそが幸せであると考え、懸命に働き、今の日本を作った。
先人たちの尋常ではない努力で、日本は小さい島国ながらも世界第三位の経済大国となり、国民の生活レベルも極め高い国となった。
国民の衣食住がこれだけ充実している国は実は世界では少数派である。
このような先進国では経済的な発展や物質的な繁栄が当たり前のように感じ、人が幸せを感じる尺度は変化する。

このような社会を成熟社会と呼ぶ。

成熟社会では
人間関係を良好に保ちたい
心が通う仲間が欲しい
自分自身の存在を認めてもらいたい
自分のやりたいことをやってみたい
という人間にとって高次元な欲求が高まってくる。

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現在の日本は超高齢化社会となっており、高齢者の医療福祉政策が急ピッチで進んでいる。
医療・看護・介護・リハビリテーションと様々な分野で対策が打ち立てられている。
特に、リハビリテーションは全人間的復権の概念であることから、あらゆる分野で必要とされるものである。

リハビリテーションが一般的な社会インフラになる前の日本では、リハビリテーションとは機能障害やADLの回復を目指すものであった。
当然、機能障害やADLの回復は全人間的復権に必要なものであるため、それらは依然として重要である。

それに加え、成熟社会では、承認欲求や自己実現などの支援も求められる。

時代が変われば、求められる全人間的復権の内容も変わる。

今の時代は理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は機能障害やADLの回復を促せる知識や技術に加え、より高次元の患者、利用者の欲求や想いを支える技能が求められる時代になっている。

こういった背景とともに生まれてきた概念である地域包括ケアや地域リハビリテーションは、より質の高い理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の能力を求めている。

イノベーションを用いて医療・介護従事者の過剰供給を抑制せよ

日本には超えなければならない二つの時期がある。

一つは団塊世代が後期高齢者になる2025年
もう一つは団塊ジュニア世代が後期高齢者になる2040年

この両世代は人口ボリュームが多く、上記した期間に、多疾病罹患者や看取りが必要となる方が、急増する見込みである。

そのため、現在、地域包括ケアシステムや地域医療構想などの国策を進め、急性期と慢性期における対応を強化している。

さらに、もう一つ大きな課題がある。
人口減少社会の加速である。人口減少社会が加速すると、労働者人口も減少し、日本のGDPに大きな影響を与える。

団塊世代・団塊世代急増問題✖労働者人口減少はどのような問題を引き起こすか?

それは、医療・介護職の産業への労働力シフトの加速による他産業の生産性低下である。
医師、薬剤師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、介護福祉士、社会福祉士などの需要が喚起されると、市場原理が働き、供給も喚起される、そのため、他産業への労働力が低下して、日本のGDPも低下してしまう。

医療・介護分野は雇用創出という効果は絶大であるが、日本のGDPに大きなインパクトを与えることはできない。

では、これらの問題にどのように立ち向かえばよいのか?

やるべきことはたくさん存在する。それは、医療・介護サービスの効果と効率を高めること。

マクロ的には、地域医療構想や地域包括ケアシステムの推進、ICT活用による情報共有、ロボットテクノロジーの普及、自立支援の国民的教育などがある。

ミクロ的には、看護・介護・リハビリテーション・薬剤のハイブリット型人材の育成、ICT活用による見守りサービス、行政や地域主導の介護予防、民間サービスの拡大などがある。

医療・介護従事者を増やせば良いという一方向性の政策では、日本の未来は暗い。

日本という国のあり方を常に考えた行政や民間サービスの発展や開発が必要である。

 

回復期リハビリテーション病棟9単位の厳格化が及ぼす影響はデ・カ・イ。

2015年12月2日に中央社会保障医療協議会(中医協)にてリハビリテーションの個別事項に関する協議が行われた。リハビリテーション分野に関して、厳しい意見が多く出たが、とりわけ「回復期リハビリテーション病棟の9単位取得悪用論」が注目された(図1)。

2015年12月2日中医協発表資料図1 2015年 中央社会保険医療協議会資料

一言で言うと、9単位の必要性が疑わしい症例に9単位のリハビリテーションを提供している、9単位と6単位以下のリハビリテーションを比較すると、ADLの変化があまり変わらない病棟も多い・・・。とのことである。よって、次期診療報酬改定では9単位を厳格化し、6単位を基本とするとの議論が進んでいる。

2006年に9単位が緩和された時、脳卒中患者への一日3時間のリハビリテーションが効果的であるとの論文やデータが提示された。回復期リハビリテーション病棟では、ADLの回復をいち早く促すことがリハビリテーション医療の役割であると定められた。
しかし、時は過ぎ、日本経済の低迷、社会保障費の増大、少子化の改善の見込みがない状況が継続し、財源確保の目処が立たなくなると、9単位取得に対する懐疑的な意見ができた。

今回の中医協の議論は、9単位を有効に活用するための制度設計を考えるのではなく、9単位の不要論や悪用論が目立つ。つまり、エビデンスが確保されている治療法であっても、財源の確保や医療の効率性が議論の優先順位として高くなると、その治療法は採用されることはないということである。

今後、回復期リハビリテーション病棟で9単位が認められず、6単位が上限になった場合、急性期や慢性期における取得単位数に大きな影響を及ぼすと考えられる。回復期リハビリテーション病棟は文字通り、最大限の機能回復を図るリハビリテーション医療を提供する病棟である。その病棟が最大6単位ということになると、他の病棟が6単位を標準的に算定できる可能性は低い。

実は、リハビリテーション提供単位の削減に関しては、密かに多くの制度設計がなされている。
急性期病棟にはADL維持向上体制加算というリハビリテーションが包括された加算
慢性期病棟には標準算定日数を超えた人が入院しているため、月13単位の対象者が多い
2014年度からは地域包括ケア病棟が新設され、2単位が標準となっている。

これらの背景を考えると急性期、慢性期において現状認められている6単位が、今後厳格化される可能性は極めて高い。診療報酬で単位数を限定しなくても、レセプトの査定で一律に厳格化するなどの動きが今後は考えられる。つまり、回復期リハビリテーショ病棟の9単位の厳格化は他の病棟におけるリハビリテーション医療の萎縮につながる可能性は高い。

回復期リハビリテーションの9単位をどのように運用していくのかについてリハビリテーション業界は真摯に議論し、9単位の制度を維持する方向性も探るべきである。それが、他の病棟におけるリハビリテーションの萎縮医療を防ぐことになる。