在宅医療・介護の質を高めるために求められるハイブリッド型専門職の重要性

2024年度の診療報酬・介護報酬のダブル改定を経て、医療・介護の政策トレンドは、より一層「在宅復帰支援」および「在宅生活継続支援」へと大きく舵を切ったといえる。

在宅生活の継続を困難にする要因は依然として明確であり、それは病状の急変やADLの低下による家族の介護負担の増加に起因する。

すなわち、在宅復帰後のフェーズにおいては、病状の安定化およびADLの維持・向上に対して、切れ目のない支援と専門的な介入が求められている。

回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟においては、医師、看護師、セラピスト、薬剤師、管理栄養士、臨床心理士など多職種が一つのエリアに集い、物理的にも心理的にも距離の近い環境で業務を遂行している。

このような環境下では、情報の即時共有が可能であり、チーム内での知識・経験のナレッジシェアも容易であることから、患者ごとの個別ケアやリハビリテーションプログラムの質は総じて高くなりやすい。

一方、在宅医療・介護の現場においては、以下のような構造的な問題が依然として存在している。

  1. 各職種が物理的に離れており、リアルタイムの情報共有が困難である点

  2. 他事業所の主治医や看護師、セラピストなどが連携しながら一人の利用者に関わるため、責任と情報の分散が生じる点

  3. 各事業所がケアやリハビリテーションに対して共通の理念や価値観を持たない場合が多く、方針が統一されにくい点

  4. そもそも急性期や回復期から十分な情報が引き継がれにくく、支援のスタート時点で不確実性が高い点

これらはすべて、質の高い個別ケアやリハビリテーションの提供を阻害する要因である。

現在、国は「地域包括ケアシステム」の進化形として、医療機関をあくまでバックアップとし、大多数の国民が住み慣れた地域・自宅で生活し続けるための仕組みづくりを急速に進めている。

しかし、在宅生活を支える在宅医療・介護のインフラに関しては、ハード面(設備や制度)に加え、ソフト面(人材や連携体制)の整備が追いついていない現状がある。

病院や施設においてもチーム医療・介護の実現には課題が多いが、在宅においては物理的・心理的な距離の広がりがこれに拍車をかけており、チーム医療・介護の実践はより一層困難となっている。

この複雑な課題に対する一つの有効なアプローチがある。

それは、「専門性を確立した上で、他職種や他領域の知識・技術を部分的にでも理解し、実践に活かせるハイブリッド型人材の育成」である。

すなわち、自己の専門性を軸にしつつ、関連領域の知識を横断的に習得することで、チーム内での連携コスト(時間的・心理的)を削減し、組織的・地域的な連携の円滑化が図れるのである。

ここで重要なのは、「まずは専門性を確立すること」が前提であるという点である。

自身の専門分野が曖昧なまま周辺知識を広げても、それらを有機的に統合することは難しく、結果としてサービスの質が上がらないリスクが高い。

たとえば、脳卒中リハビリテーションに長けたリハビリ職種が薬剤に関する基本的な知識を有していれば、向精神薬による副作用(動悸、高揚感など)と脳卒中の症状との鑑別において、早期に異常に気づき、リスクマネジメントにつなげることが可能となる。

このように、ポジティブに診療報酬・介護報酬改定を捉えるのであれば、医療・介護従事者のキャリアにはこれまで以上に多様な可能性が開かれている時代に入ったと言える。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。

医療・介護業界に迫る“淘汰の時代” ー 今求められる覚悟と行動

とんでもない変化が、いま進行中だ。

超高齢社会が加速し、医療・介護・年金といった社会保障費は膨張を続けている。

国の財政は厳しさを増し、国債発行残高は過去最大規模となっている。

いわば「次世代から借りている」形で成り立つ財政運営が限界に近づきつつあるのが現実だ。

それでも日本は長年、「医療フリーアクセス」を維持してきた。

誰もが、好きな時に好きな医療機関を選び、受診できる仕組みだ。

それは日本人の安心の象徴でもあった。

しかし、平成26年・28年の診療報酬改定をきっかけに、地域包括診療料、地域包括ケア病棟、病床機能報告制度などが導入され、「自由にどこでも受診できる」という感覚は徐々に薄れつつある。

さらに、2024年度の診療報酬・介護報酬同時改定では、地域医療機関や薬局に対し「地域の患者を囲い込み、継続的に支える体制を強化せよ」というメッセージが色濃く打ち出された。

これは裏を返せば「受診行動の自由」はこれまでより制限される方向に進んでいるということだ。

一方、介護分野は早い段階から「混合介護」を認め、自費サービスを組み合わせた多様なサービス展開を可能にしてきた。

国はこの分野で民間企業の参入障壁を低く設定し、大手企業が次々に介護・予防・医療周辺分野に参入する流れがますます加速している。

現場では、かつて「地域包括ケア」という言葉が登場した頃以上に、医療と介護のボーダーレス化が進んでいる。

医療・介護業界は、もはや穏やかな安定業界ではない。

熾烈な競争が進み、生き残りをかけた再編が始まっている。

それでもなお、多くの医療・介護従事者はこの変化を肌で感じていないか、見て見ぬふりをしている。

海外からの医療機関・資本参入、海外への医療・介護サービス輸出、AIやロボット技術の進化、外国人労働者の本格参入、そして都道府県レベルでの医療・介護パフォーマンス管理強化……。

適応できない者はどうなるか。

江戸時代から明治時代にかけて、「籠屋」という職業は時代の変化の中で消えた。

文明開化と共に、人力ではなく馬車や鉄道へとシフトしていったからだ。

今、私たちが直面しているのはまさにその規模の変化だ。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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地域包括医療病棟が果たす地域医療のハブ機能

令和6年度(2024年度)の診療報酬改定において、急性期医療の適切な体制整備を推進する観点から、総合入院体制加算の要件および評価が見直された。

これにより、急性期医療機能のさらなる強化とともに、真に急性期対応が必要な患者が確実に受け入れられる体制が構築されつつある。

国は「本物の急性期病院」を形成し、救急医療を専門に担い、地域医療の中核としての役割を果たすことを目指している。

その一方で、急性期病床の過剰な滞在を防ぐ仕組みも強化された。

急性期病床に本来必要ない患者が長期滞在することで、必要な患者の受け入れが妨げられることを防ぐためである。

その調整役として注目されているのが、地域包括ケア病棟および地域包括医療病棟である。

地域包括医療病棟は、地域における急性期医療から在宅医療への橋渡し機能を担う中間的な病棟として機能しており、急性期後だけでなく、在宅や施設からの緊急入院を含めた「地域の受け皿」としての役割が求められている。

さらに今回の改定では、地域包括医療病棟における「軽度者受け入れ」「365日リハビリ提供」「退院調整」の体制強化が明確に打ち出されている。

軽度者受け入れについては、急性期病棟からの転棟だけでなく、在宅・施設からの緊急入院を積極的に担い、地域の安心を支える役割が強化された。

365日リハビリ提供体制により、土日祝日を含め継続的にリハビリテーションを実施することで、患者の早期機能回復と退院促進を目指している。

また、多職種によるきめ細かな退院調整も評価の対象となっており、専従の退院支援担当者や社会福祉士を中心とした地域連携を通じて、在宅復帰・社会復帰に向けた支援が行われている。

特に病棟マネジメントにおいては
①入退院支援体制の整備
②多職種連携の質的向上
③休日を含めたリハビリ提供計画の最適化
④在宅復帰率や在宅支援の指標管理
⑤家族支援の体制整備
⑥退院後生活を見据えたリハビリ部門との継続的連携
が重要な管理項目として求められている。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
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国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

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地域包括ケア病棟と地域包括医療病棟の違いと今後の役割 〜リハビリ現場で求められる対応とは?

2014年度の診療報酬改定により、地域包括ケア病棟が新設された。

当時、この病棟は急性期治療後の患者や在宅からの直接受け入れを想定し、一定の在宅復帰率を満たす厳格な要件が設定されていた。

その結果、医師、看護師、リハビリ専門職、ソーシャルワーカーなど、多職種が連携し、短期間で在宅復帰を目指す体制を構築することが求められた。

リハビリテーション医療も出来高から包括評価へと移行し、部分最適ではなく全体最適の観点でチーム医療を行うことが重視されるようになった。

限られた単位数の中で最大限の効果を発揮するため、精度の高いアセスメントと単位配分の最適化が求められたのである。

地域包括ケア病棟の設立により、急性期病棟、回復期リハビリ病棟、療養病棟との棲み分けも進み、患者の状態や回復段階に応じて適切な医療提供が行われる体制が整備された。

この結果、医療資源の効率的な活用と患者の早期在宅復帰が促進された。

一部の地域包括ケア病棟においては、回復期リハビリテーション病棟を超えるアウトカムが報告され、これが制度全体の包括化をさらに促進する兆しとなった。

包括化が進めば、医療保険領域におけるセラピスト需要は減少し、余剰人材が介護保険領域へ流れるという見通しも当時から指摘されていた。

これらの動きは、病院組織内のマネジメントや人材戦略、さらにはセラピストのキャリア形成にも大きな影響を及ぼしたのである。

そして2024年度、地域包括医療病棟が新設された。

この病棟は、急性期を終えた高齢者や救急患者を受け入れ、短期的に治療継続および医療的調整を行うことに特化した病棟である。

生活再建支援を軸とする地域包括ケア病棟とは異なり、地域包括医療病棟は「治療継続型」として、より医療ニーズの高い患者を支える役割を担う。

今後、両者の棲み分けは一層明確となり、「生活再建型」の地域包括ケア病棟と「医療継続型」の地域包括医療病棟をいかに活用するかが、医療機関経営の大きな鍵となる。

今後は、地域全体の医療・介護資源をいかに有効活用できるかが重要であり、病棟単位での成果のみならず、地域連携や在宅支援体制の強化が課題となる。

特に、地域包括医療病棟の運用開始に伴い、病院は自院の役割を見直し、患者層に応じた受け入れ方針やチーム体制の再構築が求められる。

筆者
高木綾一

理学療法士
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単独型訪問リハビリは必要か?制度化をめぐる現状と展望

訪問リハビリステーションの創設は、現場の療法士や一部の業界関係者から期待されているテーマのひとつである。

しかし、2027年度の介護保険改定においても大きな議題には上がっておらず、国政レベルでの具体的な動きは見られていないのが現状だ。

過去に、復興特区や一部地域で単独型訪問リハビリテーション事業所の運営が行われているものの、全国的な制度化が実現するかどうかは全く未知数である。

現状では、訪問リハビリテーションは訪問看護ステーションに併設される形で提供されることが一般的である。

訪問看護師、療法士、ケアマネージャーが日常的に情報共有し、迅速な意思疎通を図ることができるため、地域包括ケアシステムのなかで有機的な連携が取りやすい構造となっている。

療法士が単独で開業できる仕組みは、職能を守り、より専門的なサービスを追求できる可能性を秘めている。

しかし、独立事業所として訪問リハビリステーションを設置した場合、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所との連携は事業所間の関係となり、縦割り組織の弊害が生まれやすい懸念もある。

むしろ、同一事業所内に看護師・療法士・介護職が在籍している環境のほうが、ケアマネージャー等の外部関係者との調整もスムーズであり、現場レベルでの問題解決が迅速に行えるメリットがある。

どの制度にも必ず利点と欠点は存在する。

しかし、重要なのは個別最適や業界都合にとらわれず、地域全体・利用者全体にとって最適となる視点を常に忘れないことである。

制度議論はその視点で進められるべきだろう。

療法士の専門性発揮と職域拡大は重要である一方で、医療・介護の現場では多職種連携が不可欠である。

訪問リハビリステーションが制度化される場合、個別事業所としての独立性と、地域包括ケアにおける統合性のバランスが課題となるだろう。

制度設計は現場の声を反映しつつ、縦割りを生まない柔軟な連携体制をどう構築できるかが鍵となる。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
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