医療・介護情勢を踏まえると「脱職人」も悪いことではない

従来の医療機関や事業所の開設基準は、施設基準に主眼が置かれており、品質基準を求めてこなかった。

そのため、多くの医療・介護事業者が現れ、今やデイサービスのように過剰供給となっているものまで出てきている。

医療においても急性期病棟や回復期リハビリテーション病棟は、レッドオーシャン状態で、熾烈な競争にさらされている。

各事業所が施設基準の維持に重きを置いた運営をしたため、品質の悪い人材や理念、サービスが横行した感が否めない。

その結果、医療や介護事業のレッドーシャン化が進み、生き残りが目的となった経営や運営が散見する。

施設基準はもちろん重要であるが、品質基準もそれ以上に重要である。

品質基準の維持向上には企業の理念や総合力が試される。

企業の理念や総合力の弱い施設では品質基準を満たしていくことは不可能である。

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医療・介護サービスは有資格者が行う。

今の医療・介護従事者は職人的思考を持つ者が多く、品質基準についての判断能力は乏しい。

職人は常に自分のために働いており、自分が納得するか、しないか?が、仕事において重要である。

しかし、マーケットは社会的な品質水準を医療・介護事業所に求めている。

よって、医療・介護事業所は外部環境に合わせた品質基準の順守が重要である。

医師は、看護師や療法士が医師に対して何を求めているか?
看護師は、医師や療法士が看護師に対して何を求めているか?
介護士は、看護師や療法士が介護士に対して何を求めているか?
薬剤師は、医師や看護師が薬剤師に対して何を求めているか?
そしてあらゆる職種は国は、自身に何を求めているか?

このような想像力を持たなければ、技術職はどんどん時代にマッチしていかなくなる。

脱職人も決して悪いことではない。

 

医療・介護従事者はマーケットに身を投じろ

医療や介護の情勢は刻々と変わる。

高齢者が増加する2030年までは医療・介護従事者は規制緩和により量産化される。

必要な数の医療・介護従事者は、最低限の生活が出来る水準の給与を得ながら労働力として、国によって確保されていく。

しかし、物価高、消費増税などの影響から生活が徐々に厳しくなるのは明白である。

家族を養う、家を買う、車を買う、親の介護費用、子供の教育費用の捻出等を考えると到底、国の設定する給与水準ではやっていけない。

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そのため、給料を上げるという行為を能動的に行う必要性が高まっている。

給料を上げるためにまず優先的に決定をしなければならないことがある。

それは社会が求める能力を高めるか?
自身の所属する会社が求める能力を高めるか?
について選択しなければならないということである。

要するに、セルフマーケティングである。

社会や会社が求める能力はどちらも10年後の状況を十分に予想し、その上で自身の能力を磨いていく必要がる。

社会が求める能力はマクロ的に考える必要がある。

時には国外のみならず、国外の医療・介護や社会情勢にも目を向ける必要もある。

また、医療・介護制度の未来を予測した活動が必要であるため常に周りからは好奇の目にさらされるかもしれない。

会社が求める能力はミクロ的に考えなければならない。

オーナーや会社の考えや10年以上先の会社存続の可能性、各部署のパワーバランス、そして事業展開に求められる能力の棚卸をしなければならない。

この場合、自身の会社に今後も継続して勤務をするという覚悟が求められる。

今や医師、弁護士、聖職者の三大プロフェッショナルも給料の増加に苦慮する時代である。

三大プロフェッショナルでさえも国は守ってくれない。

医療・介護従事者はまさに自分自身をマーケットという渦中に身を投じる覚悟が必要である。

それは技術的なことではなく、マインドの問題である。

今、各医療従事者には意志が必要である。

意思の「意」の意味は想うことである。

即ち意思とは「志を想う」ことである。

志を想い続けない医療・介護従事者には金銭的には明るい未来は来ないと断言する。

まさにワークシフトが求められている。

 

2025年問題のカギを握るハイブリッド医療・介護従事者

2025年までの診療報酬・介護報酬改定のトレンドは間違いなく在宅復帰・在宅シフトである。

在宅復帰後の生活を困難にする要因は、病状の急変と急激なADLの低下に起因する家族介護負担増加である。

すなわち、在宅復帰後においては病状およびADLの維持・向上に関して全力の対応が必要である。

回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟では医師、看護師、セラピスト、薬剤師、管理栄養士、臨床心理士などの多職種が同一のエリアで仕事をしており、物理的にも心理的にも職員間の距離が近い。

そのため、情報の入手やナレッジの共有がしやすく、個別ケア、リハビリテーションのプログラムの立案が多くの情報や知識に基づき得られやすい。

そのため、精度の高い個別ケア、リハビリテーションが提供されやすい。

しかしながら、在宅医療や介護のサービスにおいては大きな問題が存在する。

1.リアルタイムの情報が得られにくい仕事環境である点
2.他事業所の主治医、看護師、セラピストが担当患者にかかわっている点
3.ケアやリハビリテーションに関して共通の理念を有していない事業所間においてサービスを行っている点
4.そもそも急性期、回復期リハ病棟から十分な情報が得られにくい点などがあり、個別ケア、リハビリテーションの立案が阻害されやすい

2025年に向けて大多数の患者は在宅で生活し、状況が悪化した場合のみ病院や診療所を利用する仕組みの構築が現在進行している。

しかし、在宅生活を支える在宅医療を取り巻く状況はハード面だけでなく、ソフト面の開発も遅れていると言わざる得ない。

病院や介護施設においてもチーム医療・介護は大きな課題であり、ましては物理的、心理的な距離も離れている在宅医療においてチーム医療・介護をするのはより一層難しい。

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この問題を解決する一つの方法がある。

それは「自分の専門性を確立した上で少しでも他職種、領域の知識・技術を有すること」である。

すなわち、ハイブリッド型医療・介護従事者の育成であり、投資である。

そうすることで、チーム医療やチーム介護に生じる時間的コスト・心理的コスト・経営努力などが削減でき、チーム医療・介護の発展に寄与する。

ここで一点重要なのは「専門性の確立が前提としたうえでのハイブリッド医療・介護人」であるという点である。

自身の専門性が確立していない場合に多領域の知識を有していても、自身の専門性と多領域の知識や技術を有機的に結合させることができず結局、十分なサービスのアウトプットができない可能性が高い。

脳卒中リハビリテーションを得意とするセラピストが薬剤の知識を活かすことができれば、脳卒中の症状と薬剤の副作用(たとえば向精神薬などの動悸や高揚感)などを判別するができ、リスク管理が可能となる。

ポジティブに診療報酬・介護報酬の改定を考えると、医療・介護従事者のキャリアには無限大の可能性がある時代になったとも言える。

 

 

 

 

 

多くの医療・介護従事者が知らないこと

とんでもないことが起こっている。

医療・介護・年金の社会保障費はとんでもない額に膨れており、国が国民から借りている「借金」が巨額化している。

それでも日本は、医療にフリーアクセスを認めてきた。

日本国民の国民性や選挙制度を考えると、医療のフリーアクセスを死守せざる得なかった歴史もある。

しかし、平成26年・平成28年度診療報酬改定により地域包括診療料、地域包括ケア病棟、そして病床機能報告制度などの新たな国策の導入によりフリーアクセス感が消えつつある。

直近の診療報酬改定は、「地域の医療機関や薬局は地域の患者を掴んで放すな!」というメッセージを含んでおり、患者の自由な受診行動を制限する流れが強化されている。

また、介護保険は元来、混合介護が認められている。

すなわち、自費を出せば追加の介護サービスを受けられる。

国は医療保険より先に、混合介護を早くから解禁しており、介護保険領域において民間企業のために、参入障壁を低くし、多様サービスを認めている。

その流れを受けて、現在、大手企業が続々と介護、医療、予防分野に参入している。

医療・介護業界は熾烈な競争が急激に進んでる。

しかし、どうも多くの医療・介護従事者はこの事態を理解できていない。

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海外からの医療の参入、海外への医療介護の輸出、ロボット技術、外国人労働者の参入・医療介護の都道府県自治体によパフォーマンス管理・・・・

まだまだ、生じる医療・介護の激震

これからの変化に適応しないとどうなるか。

江戸時代から明治時代にかけて、「籠屋」という職業は消えた。

この意味を、真に理解する日が近づいている。

 

 

 

 

 

医療介護施設の役割分担により連携が悪化する??

平成28年度診療報酬改定において総合入院体制加算の要件が強化された。

これは急性期機能の強化が図られたことを意味する。

国は「本物の急性期病院」を作りたいと考えている。

救急医療だけを専門に行い、地域の救急医療インフラの核となる病院を作りたい。

また、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟、老人保健施設にも施設基準要件が強化され、それぞれの施設の機能が強化されている。

でええ第256回中央社会保険医療協議会 総会  厚労省配布資料

 

しかし、機能が強化されることで部分最適のみが進み縦割り医療・介護サービスが増長する可能性がある。

逆説的になるが、「役割分担を進めるためには役割の隙間を埋める」 ことが重要であると言える。

役割の隙間を埋めるのは病院や施設間の話だけではない。
医師、看護師、薬剤師、療法士、介護士、事務職員、臨床検査、栄養士の間を埋める役割も重要である。

専門職養成だけが世の中の医療介護サービスの質を上げることはない。

専門職をどう活用するのかというマネジメントの視点がなければならない。

専門職であったり視野が狭い人が経営者や運営者であれば役割分担の間を埋めるマネジメントは正直難しい。

しかし、このことから目を背けていては、「真の医療介護施設の役割分担」はありえない。