リハビリテーションの社会化が始まっている

2025年に向けて地域包括ケアシステムの構築が加速している。病床削減、医療の機能分担、在宅限界点の向上、医療と介護の連携、チームアプローチ推進・・・・など医療と介護を取り囲む環境は激変している。あれも、これも地域包括ケアに向けた施策である。

今日の医療行政の変化は、2000年に導入された介護保険制度導入が起点となっている。介護保険制度は「介護の社会化」を目指したものであった。介護保険創設当時において、介護の社会化とは、「在宅にて家族が担ってきた介護」を、日本社会共通の問題と定義し、介護を提供する社会資源を、税金と保険料より拠出された財源によって、社会全体で担っていくものと説明された。今日では、制度上の多くの問題はあるものの、介護保険は広く一般国民に知られることになり、高齢化社会を支える重要なインフラになった。

そして、現在においては地域包括ケアシステムの構築のもと、「リハビリテーションの社会化」が進んでいる。2006年に医療保険における疾患別リハビリテーションと算定上限日数制限により、介護保険を用いたリハビリテーションが推進された。その後、2008年前後から、デイサービスや訪問看護におけるリハビリテーションサービスが盛んになり、在宅患者へのリハビリテーションのインフラが急速に整った。

また、2017年4月までに、全国にて要支援の高齢者に対する日常生活支援総合事業が開始される。日常生活支援総合事業は、行政から委託を受けた医療法人、社会福祉法人、民間企業、ボランティアが高齢者の状況に応じたリハビリテーションや生活支援を行うものである。

在宅医療に目を向けると、病院の在院日数短縮の影響により、より重症な患者が早期に在宅に復帰するケースが増えており、医師、看護師、セラピスト、そして、介護士、家族に対してもリハビリテーションの取り組みが重要となっている。

つまり、リハビリテーションが広く国民の間で知れ渡ることになり、今後はより一般的な社会的サービスとして発展していくことが予想される。まさに、「リハビリテーションの社会化」である。

「リハビリテーションの社会化」とは、従来、医療機関や介護施設でのみ行っていたリハビリテーションを社会共通の問題と定義し、リハビリテーションを提供する社会資源を、税金と保険料より拠出された財源によって、社会全体で担っていくものと言える。

リハビリテーションの社会化により、リハビリテーションに関するサービスがあらゆるところで市場かされていく。すなわち、セラピストが活躍する場が増えていくことを意味する。
しかし、現状は85%近くのセラピストが医療機関に勤務していることから、リハビリテーションの社会化の流れは決して円滑ではない。

リハビリテーションを社会に汎用的に活かしていくためには、セラピストの知識、技術はもちろんのこと、コミュニケーション能力、マーケティング能力といったビジネススキルも要求される。

リハビリテーションが特別ではなく、当たり前の社会を作るためにセラピストは邁進する必要がある。

 

 

2040年以降に大量に余る医療・介護従事者とシニアビジネス企業

2040年代中盤に高齢者の数は減少に転ずる。
今後、日本は大きな局面を迎える。
2040年まで高齢者が増え続け、かつ、医療・介護従事者やシニアビジネス企業の市場が拡大する局面 と 2040年以降高齢者が減少し、医療・介護従事者やシニアビジネス企業の市場が狭小する局面である。

今後、十数年間は医療・介護従事者は2040年までの局面を乗り切るために、量産されていく。
資格制度の規制緩和、養成校や大学の設立や学部変更など2040年までを乗り越える施策が展開される。しかし、2040年以降に関する施策はなんら立案されていない。

現実的に大都市を除く、地方都市では1割~3割の急性期病床の削減や特別養護老人ホーム等の新設も停止している。つまり、今後は2040年以降の情勢に合わせた医療・介護政策の出口戦略も密かに始まっている。

状況はめまぐるしく変化する。一年ごとで、規制緩和、制度改訂が行われ、不要と判断されたビジネスの淘汰が始まる。現在、参入障壁が低いヘルスケアビジネスもどんどん新しい企業が参入し、そして、どんどん淘汰されていく。ヘルスケアビジネスが、安定した市場であると勘違いしている企業が参入しているのが現状である。市場があっても、生き残れるかは別問題である。多くの企業は2040年以降、狭小するシニアビジネス市場を冷静に把握できていない。

現状の市場モデルでは医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、歯科衛生士・・・などの医療・介護従事者が確実に余る時代が迫っている。2040年に確実に引退し、悠々自適に生活できる資産家以外はこの問題を真剣に考えなければならない。

今後は、2040年までを乗り越える地域包括ケアシステムの構築と2040年以降の市場拡大を得るための職域拡大という状況に我々は対峙しなければならない。

地域包括ケア病棟の役割のミスマッチを解消せよ

2014年度診療報酬改定にて、地域包括ケア病棟が新設された。
地域包括ケア病棟の役割は①急性期からの受け入れ ②在宅復帰支援 ③緊急時の受け入れである(下図)。

10:1病棟、回復期リハビリテーション病棟ⅡorⅢ、療養型病棟などが経営的安定を図るために地域包括ケア病棟に変更するケースが多い。現在、地域包括ケア病棟は徐々に件数を増やしてきており、今後さらに存在感がます病棟である。
しかし、地域包括ケア病棟は厚労省が期待する役割を満たせていない現状がある。

多くの地域包括ケア病棟では
①地域からの緊急時の受け入れは少なく、自前の急性期病棟からの転棟患者が多い
②リハビリテーション2単位/日の提供で在宅復帰を達成するため、回復が見込める整形外科患者の入院が多い
という現状が散見される。

このような運用では、事実上、「整形外科リハビリテーション病棟」であり、決して地域との密な連携を期待されている地域包括ケア病棟になっていない。

2014年診療報酬改定後に経営的安定を図るために地域包括ケア病棟へ機能転換した病院は多いが、本来の地域包括ケアの仕組みを構築しないまま病棟運用をしている病院も多い。そのため、求められる機能とのミスマッチが生じている。

現在、地域包括ケア病棟の運用状態に関する調査が行われている。おそらく、上記した問題点が具体的なデータとして抽出され、2016年度診療報酬改定では地域包括ケア病棟の要件強化が図られるだろう。特に地域との連携実績、在宅医療への関与、軽症患者の要件強化などが検討される可能性が高い。
そのため、現在、地域包括ケア病棟を開設している病院、あるいはこれから開設する病院は、病棟運営だけでなく、地域包括ケアの意味を理解し、地域連携に努めるべきである。さもなければ、次期診療報酬改定で痛いしっぺ返しをいただくことになる。

地域包括ケア病棟の役割

平成26年度診療報酬改定資料 厚生労働省

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生活期リハビリテーションの市場化が始まった

2015年度介護報酬改定では、今後の生活期のリハビリテーションの方向性が明示された。
2018年度診療報酬・介護報酬同時改定においては、急性期・回復期の短縮に伴い、生活期リハビリテーションのさらなる見直しが行われるだろう。

生活期とは文字通り、医療依存度の高い状況が終了し、その人それぞれの生活空間で再び生活を行う時期であり、急性期と回復期と比べると圧倒的に期間は長い。
長期間にわたり、QOLを維持・向上させるためには生活そのものへの評価が重要となる。
2015年度介護報酬改定では通所リハビリテーション・訪問リハビリテーション・通所介護において、生活機能を高める取り組みが評価された。
高齢者の生活を評価し支援するためには、当然「生活の構成要素」を把握する必要がある。
高齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り方検討会 報告書(平成27年3月)では、高齢者のニーズ把握表が提案された(下図)。

これらの内容は従来のリハビリテーション医療では、網羅できていない部分も多い。従来のリハビリテーション医療ではADLの自立や在宅復帰を目的としたサービスが行われてきており、卒前・卒後教育でもそれらは重要視されてきた。
しかし、急性期・回復期の短縮・軽度高齢者の増加・介護予防対象者の増加などにより、従来のリハビリテーション医療モデルは限界に来ている。

このような背景を受けて、多くの民間企業が高齢者の生活機能支援をビジネス化している。
学習塾・大手清掃会社・フィットネスクラブ・旅行業界・・・などが市場への参入を図っている。
しかし、高齢者への対応においては、当然、心身機能のリスク管理も重要である。
したがって、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・介護福祉士が、生活機能支援ビジネスに対して企画・運営面から協力できる時代になったと言える。

生活機能支援ビジネスに取り組む民間企業を医療・介護従事者の敵とみなすか・味方とみなすか。その発想の違いは、今後の新しいリハビリテーション医療に大きく影響するだろう。ニーズ把握表高齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り方検討会 報告書(平成27年3月)

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リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護経営コンサルタント
ワークシフトプロデューサー
高木綾一
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2016年度診療報酬改定 外来リハビリテーションの行方

平成27年6月24日に中央社会保険医療協議会が開催された。
その中で、平成27年度に診療報酬関係の調査項目について検討が行われた
電子レセプトを用いて
1)廃用症候群へのリハビリテーションの実施状況
2)医療保険リハビリテーションから介護保険リハビリテーションへの流れ
3)外来リハビリテーションの状況
4)入退院時のリハビリテーション対象患者の状況
が調査されることが公表された。

このことから次期介護報酬改定では
廃用症候群の定義のさらなる厳格化
介護保険を有する患者に対する介護保険リハビリテーションへの誘導
外来リハビリテーションの機能分化
軽症患者へのリハビリテーションの制限
に対する議論が行われると予想される。

特に、外来リハビリテーションの機能分化は大きく求められるだろう。
医療保険で行うリハビリテーションにおいて、外来と入院では患者の状態は大きく異なる。
したがって、外来で対応する患者に関しては一定の基準が明確化されるのではないか。
外来で取り扱える患者が限定されると、必然的に介護保険への誘導が活発化する。

電子レセプトにより、あらゆるデータが丸裸にされているため、制度改革は以前より容易になっている。リハビリテーションを生業の中心としている診療所、病院は次期診療報酬改定を見据えた対応策を今から準備する必要がある。

 

無題平成26年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成27年度調査)の調査票案について(資料)